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第44話 「現実に即した○○」 こんにちは。おいらは、飼い主も家も名前もとくに決めていない犬であります。川ぺりをうろついていると、いろんなお話が聞こえてきます。犬にとっては、意味のわかりにくいこともあるけれど。 夜、おいらのねぐら近くの小さな保育園から、やっと最後の子どもが帰りました。保育園ていうのは、お父さんお母さんが働いている時間、子どもを預けるところです。それにしても、ずいぶん遅くまで開いているのだなあ。 「・・そういえば『赤ちゃんポスト』が認められたのよね。捨て子を助長するとか安易な妊娠が増えるという批判が多いけれど。まあ、子どもや家族に関する先進的なことに反対する人たちって、うちみたいな延長保育にもいい顔をしない種類の人なのよね。」 「そうそう。私たちが延長保育を始めたころは『子どもを遅くまで人に預けてまで働くなんて』という非難が今よりも多かったわね。でも、夕方までの預かりだけでは困る若い親たちの為に続けてきて、良かったよ。現実とそぐわない制度に縛られていたら何もできないのだから。現実に即した方法を考えて、先走っているようでも試してみないと。『赤ちゃんポスト』だって、へその緒をつけたままゴミのように捨てられる赤ちゃんが実際にいる、そういう子が一人でも救えるならと考えた医師の気持ち、よくわかるわ。」 へえー、『赤ちゃんポスト』ていう言葉、おいら初めて聞いたよ。べつに赤ちゃんを郵便で送るわけではないみたいです。せっかく生まれてきたのに、ゴミのように捨てられてしまう赤ちゃんがいるのだって。そんなことしたら、死んでしまうのにね・・。そういう赤ちゃんを少しでも助けるための方法のひとつがこの『赤ちゃんポスト』らしいよ。 そういえば、この町の海ぺりにある公園で、家のないおじさん達に暖かいご飯を配るグループがあるけれど、あれも「今、おなかが空いている人、お金がなくて困っている人のために!」と「現実に即して」考える人がやっているのだろうね。 ・・・そうか! おいら、最近よく聞くお話で、意味のわからないことがあったのです。国の偉い人たちが「独立した国家として行動するために、現実に即した方法に変えよう」と考えているというのです。偉い人たちが考えることだもの、今日死ぬかもしれない捨て子や家のないおじさん達の命より、ずーっと大切で急がなくちゃいけないことなのだろうね。 とにかく、ベテランの保育士さん達も共感できるに違いありません。何しろ、先走っているようでも試しに作って続けてきたもののために「憲法」だかを現実的に変えるというのだから。 (2007.6月掲載) |
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