犬にとっては・目次へ戻る

 

 

ののぱりこのホームページ・目次へ戻る

  犬にとってはタイトル
 

 第41話 「有意義な散歩?」

  こんにちは。おいらは、飼い主も家も名前もとくに決めていない犬であります。川ぺりをうろついていると、いろんな人たちと出会います。犬にとっては、勘違いしてしまうこともあるけれど。
        * * * * * * * * * * * *

 ぽかぽかと暖かい日、おいらはついつい眠ってしまいます。だけど今日はちょっと変な感じです。おいら、川ぺりで眠っているつもりなのに、聞こえてくる会話が川ぺりにそぐわない感じなんだ。

 例えばこんなお話です。
「この前は神戸に行ってきました。朝イチの新幹線で行って日帰りですよ。来週は茨城、その次は埼玉。スケジュールを組むのに一苦労ですよ、ハッハッハ。」
 お仕事で忙しそうな人だよね。川ぺりでお散歩する暇なんて、きっとこの人の人生にはあり得ないのだろうなあ・・。

 続けて聞こえてきたお話も、お仕事関係みたい。
「こちらが過去の記録を地図上に記したものです。去年は東京から広島までを進んだ計算になります。時間を正確に計って、自分の平均時速も把握してます。足回りは多少お金をかけた方が楽ですな。」
 この人は自動車の設計でもしているのかなあ? 時間とか時速とか足回りとか、効率よく移動する手段を計算するお仕事みたいだね。

 こんなお話も聞こえます。
「こちらのグラフは、開始前・終了後の体重・血圧・心拍数。さらに半年ごとの血液検査の中性脂肪値と悪玉コレステロールの値です。とった水分量と食べた弁当のカロリーも厳密に記録してあります。誰に強制されているわけでもないのですが、こういうデータをきっちり整理したくなる性分なんですよねえ・・。」
 この人はどんなお仕事なのかなあ。体重とか血液検査とか話しているところを見ると、お医者さんかもしれません。

「車が来ないか、歩道からはみ出ている人はいないか、遅れている人はいないかと気を配っていると、なかなか疲れます。でも、今ではすっかりそれが自分の仕事だと。『安心して参加できます』なんて声をかけられると充実した気持ちになりますねえ。」
 おいら、この人の仕事はわかるよ、きっとおまわりさんだね。

「○○さんたらひどいのよ。だって、会長・副会長・事務局長・それから古参の方たち、と順番が決まっているのにね、いきなり会長のそばに行って、いろいろおしゃべりを始めちゃって。序列や礼儀というのがわからないのかしら、あの年で! 会長と一緒に歩くなんて十年早いわよ!」
・・・このおばさんはきっと、会社で秘書をしているのだね。新しく入った人の常識のなさを怒っているみたいです。
 うーん、おいらはどこかの会社の中に迷い込んでしまったのかなあ?

 目を開けてみると、おいらがいるのはやっぱりいつもの川ぺりです。そして、すぐそばをたくさんの人がゾロゾロと歩いて行きます。みんな、お揃いのワッペンを腕の所につけています。
「・・第一回から今回二十回大会まで皆勤なんだが、惜しいことに第三回の時のワッペンを帰りのバスで落としたらしくて見つからないんだよ。それが本当に心残りでねえ。」
 そんなお話が聞こえてきて、おいらはやっとわかりました。このグループは「週末歩こう会」の人たちなのです。

 「歩こう会」ていうのは、ただ「みんなで一緒にお散歩をしましょう」という集まりだと思うのだけれど、お話を聞いていると、なんだか仕事みたいだね。毎週遠いところへ歩きに「出張」したり、歩いた距離を記録したり、血液検査の結果を気にしたり、人のことまで気にかけたり!
 そんなことで楽しいのかなあ? それとも、仕事のように決まり事や予定をつくらないと「何かをやった」ということが実感できないのかな?

 こんな人たちは、きっと足元のお花のことも、生まれたばかりのカルガモのひよこがすぐそこで泳いでいることも、気がつかないでセカセカと歩くばかりなのだろうね。おいらは誰かとお散歩するとしても、この人たちとは歩きたくないなあ。
 わんわん。またね。

(2007.4月掲載)