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 第30話 「子どもを好き嫌い普通」

  こんにちは。おいらは、飼い主も家も名前もとくに決めていない犬であります。川ぺりをうろついていると、いろんな人たちと出会います。犬にとっては、考えすぎてしまうこともあるけれど。
        * * * * * * * * * * * *

 夏の終わりに、世の中ではおめでたいことがあったのだよね。駅前に新聞の号外が落ちていて、そこには優しい顔の女の人が赤ちゃんを抱いている写真が、大きく載っていました。どこの家の子どもかは知らないけれど、みんながその子のことで喜んでいたんだ。
 子どもが生まれるというのはそんなに「いいこと」なのかな? 川ぺりを散歩する人たちの会話に出てくる「子ども」というのは、なんだか少し違う時もあるみたい。

 「あのねお母さん、さわちゃん、子どもが嫌いなんだって。」
 「えー、なんで?」
 「ギャーギャーうるさいし、言うこと聞かないし、世話見るの面倒だからだって。」
 「・・・で、あなたはどう思う?」
 「私そんなの考えたこともないけど。でも『子どもが嫌い』って言い放つさわちゃんが、どうしてか格好良く見えた。」
 「・・・あなた達だって小学生、まだ立派な子どもなのにね・・」
 小学生が言う「子ども」ていうのは、赤ちゃんのことなのかなあ? それじゃあきっと、さわちゃんていう子は号外に載ってた赤ちゃんも嫌いなのだろうね。

「彼が言うの、『僕は一人っ子だから、兄弟が多い人がうらやましい。結婚したら、子どもは3人欲しい』ってね。」
 「へえー。」
 「だけど、私ね、本当は子どもって興味ないの。欲しくない。彼と結婚してずっと一緒にいたい、でもそれには子どもを産んで育てなくちゃだめみたい。それがちょっと憂鬱。彼とずっと一緒にいられるなら、いいのかなあ。産んでしまえば、『こういうものかな』って、そこそこ幸せにやってゆけるのかなあ。」
 「子どもに興味がないこと、それとなく彼に話してみたら?」
 「まさか! 子どもが欲しいって言う人にそんなこと話したら、嫌われてしまうよ、彼と別れるなんて想像できないよ・・。」
 「・・・うん、それもそうだよね、女って立場弱いよね・・。」
 えー? 欲しくない赤ちゃんを産んで育てるなんて、器用だね。それに、彼は「子どもが欲しい」とは言っても「子どもが好き」と言ったわけではなさそうだから、産んでも一緒に世話してくれるか、おいら疑問だな。
 そういう、好きな人の思った通りにして自分を抑えるのを「愛」ていうのかなあ。おいら、犬のくせに考えすぎ?

 「私、どうして人間の子どもが苦手なのか、わかった。」
 「何?」
 「あのね、犬猫は毛だらけで、さわると気持ちいいけれど、人間の子どもって顔とか腕に毛がないでしょ? 頬に触れると手にじかに体温が来るのが、なんか気持ち悪い。汗かいてたりするし。そのくせ、大人を信頼して体ごと甘えてきたりするから困ってしまう。や、やめてーって感じ。」
 「ハハハ、うちの奥さんは子ども嫌いだもんねえ。」
 「ち、ちがう、別に嫌いとは言ってないでしょ! 苦手だっていうだけ! ニコニコと微笑んでいる子には手を振ってみたくなるし、ギャーギャー騒いでいればむかつく。そんなの普通でしょ? 好きでも嫌いでもない、ふ・つ・う! そう言うあんたは子ども好きなわけ?」
 「うーん、べつにー。」
 この人達はおいらを間にして座って、おいらの鼻面や背中をモシャモシャとなでながら話していました。子どもに関しては「すき、きらい、ふつう」のどれかを選ばないといけないのかな、面倒だね。

 なんだか、「子どもを好きか嫌いか」ていうことで密かに悩む女の人が多いみたいです。それと並行して「子どもを産むか産まないか」も悩まなくちゃいけないみたい。これって、この近所の女性だけのことなのかな?
 その点、男の人は自分では産まないから、「子どもを好きか嫌いか」なんて深く考えなくてもいいのかもしれないね。どおりで号外の赤ちゃんのことで「でかした!」とか「これで万々歳だ!」とか無邪気に言っているのは男の人が多かったものね。
 わんわん。またね。

(2006.10月掲載)