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 第29話 「このごろ聞かないね」

  こんにちは。おいらは、飼い主も家も名前もとくに決めていない犬であります。川ぺりをうろついていると、いろんな人たちと出会います。犬にとっては、忘れやすいこともあるけれど。
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 夜に、お巡りさんをよく見るなあ。自動車がたくさん通る道路で車を止めては、運転している人に何か検査をしているのです。そのうち何人かは車を降りなくてはなりません。どういう人を探しているのか、おいらすぐわかったよ。だってその人たち、お酒くさいんだもの! お酒を飲んで運転している人はおまわりさんに怒られるのです。

 おいら知ってるよ、このごろ、お酒を飲んで運転してる人に怒るのが「はやり」なんだよ。電気屋さんのテレビで言っていました。どうしてかというと、ついこの前、飲酒運転の車が起こした事故で、かわいい人間の子どもが3人、死んでしまったからです。その子たちがとってもかわいいから「かわいそう」と、新聞やテレビが広めたから、世の中の目が厳しくなったのです。広めたからなんだよ。
 その「かわいそう」な事故の少し前、川ぺりの近所で同じような交通事故があって、おじいさんが死んだのです。だけど、そのことは新聞もテレビも「かわいそう」て思わなかったみたいで、誰も広めてくれませんでした。

 「はやり」というのは変わってゆくんだよ。少し前は、違うことが「はやり」でした。鉄道関係のことで、確か「オーバーラン」ていうのでした。駅に列車が到着するとき、決められた場所より少しずれて止まっただけで、大騒ぎしていたよね。大きな列車事故で人がたくさん死んだとき、ひとつ前の駅で「オーバーラン」していたと新聞やテレビが広めたからなんだよ。このごろ聞かないね。もう列車は全然「オーバーラン」しなくなったのかなあ?

 それからね、肉屋のおじさんが話していたよ。「吉○家が牛丼を再開始めたから、そのうちアメリカ産牛肉は危ないなんて誰も言わなくなるぜ。安ければみんな買うのさ」てね。「アメリカ産牛肉は危ない」という話も、新聞やテレビが広めた「はやり」なのかなあ?

 そのうち「飲酒運転はけしからん!」ていう話も、はやらなくなるよ、きっと。次にどこかで、かわいい子どもが死なない限りね。おいらばかだから、テレビに出たり、川ぺりの人が話題にしているのでなければ、忘れちゃうし。わんわん。またね。

(2006.10月掲載)