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第23回 「子供らの視線」 こんにちは。おいらは、飼い主も家も名前もとくに決めていない犬であります。川ぺりをうろついていると、いろんな人たちと出会います。犬にとっては、気の毒なこともあるけれど。 「俺は魚市場に勤めてるからさ、朝が早くて帰りは今頃、小学生が下校するのとだいたい重なる。それで近頃、子供たちの視線がどうも気になる。っていうか、知らない大人への不信感があふれてんだよ。あの目で見られるとドキッとする。市場の床に転がってるマグロの目と妙に似てんだ。 「最近は子供を狙った事件が多いから、『後ろから誰かついてくる時は、思い切って振り向きましょう。怖かったら、走って逃げましょう』なんて教えてるっていうじゃないか。そりゃ正しいけど、じゃあ俺って悪い奴なのかよ!って言いたいし・・。地道に生きてる独身男にゃつらい世の中だよ。子供がウロチョロしてる世の中は平和だなーなんて、その辺をのんびり眺めることもできなくなっちまって。子供にとっては、顔見知りの大人だって信用できないって話もあるし・・」 「いっそ早いとこ年を取って、子供のそばにいても怖がられないようなジイサンになりたいよ。いたずらを注意して『なんだよクソジジイ!』なんて言われたってかまわない。俺、ホントはけっこう子供好きだしさ。」 このお兄さんみたいに優しい人のことが、どうしてほかの人にはわからないのかなあ? きっと子供だけじゃなくて、その親とか地域の人も、マグロのような目になってきているのかもしれないね。おいらは犬の目をした、ただの犬だよ。わんわん。またね。
(2006.7月掲載) |
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