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第19話「女の孤食リレー」

こんにちは。おいらは、飼い主も家も名前もとくに決めていない犬であります。川ぺりをうろついていると、いろんな人たちと出会います。犬にとっては、勉強になることもあるし。
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 このごろ、暑いくらいになってきました。おいらが体をかくと冬毛がどんどん抜けて、ふわふわと飛んでゆきます。こんな陽気の日には、昼間は窓を開けて過ごす人も多くなるみたいです。
 だから、住宅地を歩いていると家の中がよく見えるんだ。

 それで気がついたのは、お昼ご飯を一人で食べるお母さんが多いということです。おいら知ってるよ、例えば、お父さんはお勤めに出ていて、子どもは学校や幼稚園に行っている家が多いからなんだよね。なにげなく歩いていると、そういう家からテレビの音が聞こえてきました。

「・・子どもの孤食が増加傾向です。ある調査によると、子どもたちの約3割が一人で食事をとっているという結果が出ました。」
 そういう話題を眺めながら、あるお母さんはレンジでチンしたスパゲティーを食べていました。おかずはありません。

「孤食が多い子どもで問題なのは、便秘がち・頭痛持ち・だるいなど、体調を崩しがちなケースが多いことです。」
 こんな話を聞きながら、コンビニのおにぎりをだるそうに食べているお母さんがいました。

「また、孤食は心の育ちの問題でもあります。テレビ相手、メールを打ちながらの食事ばかりでは、豊かな感情が育ちません。ある調査によると、孤食は学力への影響が大きく、また『切れやすい子』が多いとの分析もあります。」
 テレビの話に深く頷きながら、子どもの同級生のお母さんから来たメールに返事を打っているお母さんもいたよ。トーストをかじりながらね。
 
「・・孤食の問題は子どもだけにはとどまりません。老人の孤食も最近ではクローズアップされてきております。」
 ここのお母さんは、テレビなんか全然見ていないみたい。特売の1コ50円のコロッケをモソモソと食べています。

「一人暮らしだったり、家族は仕事などで出払い、相手はテレビだけ。献立を考えたり用意したりがおっくうになって品数が少なくなりがちです。食欲もわきにくい。」
 大きなお家の中、ここのお母さんは一人で何を食べているのかなあ? テーブルもテレビも大きすぎて、おいらにはおかずが見えません。良いにおいがしないから、きっと温めないままの残り物だろうな。
 
「老人の孤食では、食事をとる時間も不規則になりがちです。そのことにより、のみこみや歯の具合など、身体機能の低下も早まります。」

・・・どうやら、みんな同じ番組を見てたみたいです。なんだかおいらも勉強してしまった気持ちです。
 だけど、「孤食」ていうのは「一人で食べる」ということだよね? テレビを見ていたお母さんたちは、みんなみんな、それぞれの家で、ひとりでお昼ご飯を食べていたよ。それぞれのテレビで『孤食は問題です』ていう話題を眺めながらね。
 子どもや老人の孤食が問題だというなら、その中間にいるお母さんたちの孤食も問題なのかなあ?
 犬がひとりで食べていても誰も文句を言わないから、おいらは別にいいや。わんわん。またね。

(2006.4月掲載)