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第18話「製造責任以前の話」

 こんにちは。おいらは、飼い主も家も名前もとくに決めていない犬であります。川ぺりをうろついていると、いろんな人たちと出会います。犬にとっては、感心してしまうこともあるけれど。
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 川ぺりにある桜の並木には、今年もたくさんのお花見の人がやってきました。お酒を飲んだり、おいしいものを食べたり、歌を歌ったりと、みんな楽しそうです。もちろんおいらも楽しいよ、酔っぱらった人はみんな気前がいいからね。春になると、おいら太っちゃうんだ。

 お花見の宴会の輪をあっちこっちと渡り歩いていたら、こんな話が聞こえてきました。
 「また雪山遭難!あー!『もうすぐケータイの電池が切れそうです』が最後の連絡だったっていうじゃないですか! 携帯電話の電池開発責任者としてはこれほど辛いひとことはないですぅ! そりゃあ、手回しのコンパクトな充電器もある、捜索しやすい電波発信器の研究もあります。だけど基本は電池ですよ、デンチ!がんばるぞー!」
 大変だね、お花見しながらも仕事のことを考えているなんて。

 こんな話も聞こえました。
 「そうだよ、今度の子どもの虐待死事件、使われたモップというのは我が社の製品なんだよ! マスコミは単に『モップの金属製の柄』と言っているが、この前テレビにチラッと映っただろ? うちのモップだっただろ? 辛い、つらいよ! 掃除には使いやすく、けれども人を叩くようなことには絶対に使えないモップの柄を考えないことには、俺は、我が社は、立ちゆかないよお!」
 ・・すごいなあ、そんなことまで考えて物を作るなんて、責任感があるんだね。自分の仕事や製品に誇りを持っているって、こういうことなのかなあ。

 桜並木の外れに来たら、まだ宴会が始まっていないブルーのシートが広がっていました。『○○重工株式会社航空宇宙等事業本部総合防衛システム部』て、細かい文字の名札が囲いのひもに結びつけてあります。おいらちょっぴり知ってるよ、「防衛」ていうのは、「戦争が起きるのは他の国が悪いからだ」て信じてる人たちが「国を守るためにやむなく戦うのだ」と言い訳するのに使う漢字なんだよね?
 
 間もなくここに来て宴会を始める人たちは、さっきの電池開発の人や、モップ会社の人みたいに嘆くのかなあ? 
 『わああ、また戦争が始まった! いきなり我が社のミサイルが使われてしまって、いっぺんに500人以上死んでしまったんだよお!辛い、つらいよお!』てね。
 ・・・だけど、携帯電話の電池と、お掃除のモップと、ミサイル。同じに考えるおいらがバカなのかもね。わんわん。またね。

 

(2006.4月掲載)