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第14話「泣き疲れて」 こんにちは。おいらは、飼い主も家も名前もとくに決めていない犬であります。川ぺりをうろついていると、いろんな人たちと出会います。 「おい、ご主人には会えたか?」・・ああ、また言われちゃった。言った男の人を見上げると、おいらはどうしてか、振っていた尻尾が下がってしまいました。怖そうな人ではないけれど、悲しい気持ちで体全体が覆われている感じ。それがおいらにもうつったみたい。 「最近、君みたいな犬が主人公の映画が流行っているらしいね。僕は絶対見ないよ。以前の僕ならば、誰よりも早く見に行って、感想をブログ仲間と分かち合っていただろうが。性格柄、理屈っぽく『この映画の悲しみの本質について』とか『今の時代における涙の大切さ』とか、そんなことを書くと、共感してくれる仲間がいたっけ。そういう相手を仲間だと本気で思っていた時があったっけ。」 「向こうの高架下で中学生たちがコソコソと見ているのは、たぶんエッチな本だろうな。今になってみると、「泣けるドラマ」を求めていた気持ちというのは、あの中学生たちと同じレベルだと思う。自分の欲望を満たしてスッキリするだけ、という点に於いて。 「もう泣きたくない。泣き疲れた。泣くのはいやだ。近所や親兄弟の何気ない言葉を思い出しては泣いた。妻とも気持ちがすれ違って、言い争う毎日だ。黙り込むと、別々の部屋にこもって泣き続ける。葬式のことなんて覚えちゃいない、ただ泣いて泣いて泣いて。幸せなはずだった9年半のことなんか、あゆかの冷たくなった頬の感触を思い出すと全部虚しい。何もしてやれなかった。『僕の宝物の子どもが死んでしまった!』って、あの夜の自分の叫び声が頭から離れない・・」 ・・どうやら彼の子どもが、病気で急に死んでしまった話みたいです。辛い目にあったんだね。 (2006.2月掲載) |
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