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第13話 「積もれば山、ちりも小銭も(一票も)」

  こんにちは。おいらは、飼い主も家も名前もとくに決めていない犬であります。川ぺりや町ををうろついていると、いろんな話が聞こえてきます。
 犬にとっては、持ったことのない物の話もあるけれど。
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 この前、近くの商店街で大売り出しがありました。風船を配ったり、暖かいおみそ汁や焼き鳥の屋台が出たりして、ちょっとしたお祭りみたいなんだ。誰かがこぼしたおみそ汁や焼き鳥を食べてあげないと道路が汚れてしまうから、おいらは必ず行くことにしているんだ。

 その日、商店街の真ん中あたりで、赤ちゃんの大きな写真を掲げた人が10人くらい立っていました。「○○ちゃんの海外での臓器移植にあと三千万円必要です」「どうかご協力を!」などと書いてありました。写真の赤ちゃんのお父さんかな、若い男の人が特に真剣な顔で頭を下げてお願いしていました。おいら知ってるよ、「臓器移植」て、読めないけれど、重い病気を治す方法らしいんだ。だけどこの国ではできないから、外国で手術してもらうのに、お金がいっぱいかかるらしいんだよ。

 道行く人たちは、その人たちの所へ近づいては「がんばってね」「お大事にね」などと声をかけて、チャリン、チャリンと小銭を箱に入れていました。
 だけど、三千万円ていうのは「すごい金額」なんじゃないかなあ?「すごい金額」というのは紙のお札のことじゃないのかなあ? 1円、5円、10円玉なんかをいくら集めても、三千万円にはならないとおいらは思いました。

 だからさ、今日はびっくりしちゃったよ! たまたま散歩していて商店街を通りかかったのだけれど、この前のお父さんが立っていて、「こちらの商店街のほかにも、近隣の駅前やお祭りに出向いてご協力をお願いしました結果、目標の三千万円に達することが出来ました。これでアメリカで手術を受けさせることが出来ます、本当にありがとうございました!」て話しているんだよ!「よかったなあ」「成功するといいね」と、お父さんに話しかける人が絶えません。

 みんな知らない人同士のはずなのに、どうしてこんなにお金が集まるのだろう? 小銭って、たまに道路に落ちているし、たいしたものじゃないと思っていたけれど、すごい力があるんだね。

 ところでおいら、小銭と似ている物があるのを思い出したよ。
 ・・・なんだっけなあ、人間の大人が小銭みたいにちょっぴりずつ持っていて、集まると大きな力になる物。それをもらおうとして頭を下げてお願いする人がいる、価値ある物。見ず知らずの赤ちゃんの手術費用と違って、それぞれの人に直接関係あることに使われるのに、大事にしない人が多い「ある物」。
 まあどのみち、おいらは持ってないからいいや。わんわん。またね。

(2006.1月掲載)