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第9話「クロちゃんのお家」 こんにちは。おいらは、飼い主も家も名前もとくに決めていない犬であります。川ぺりをうろついていると、いろんな人たちのお話が聞こえてきます。 この丘のてっぺんにはクロちゃんが住んでいました。クロちゃんは、木々に囲まれた大きな茅葺き屋根の家で、おじさんとおばさんにかわいがられていたんだ。だけど年をとって、何年か前に死にました。おじさんたちは、庭の隅の大きな柿の木の下にクロちゃんを埋めました。 おいらは、おじさんは今日もあの柿を食べさせてくれるかな、て期待して坂を上って行きました。・・・だけど、道を間違えたのかな、ずいぶん上っていってもクロちゃんの家が見えません。今の季節なら、あの柿の木のてっぺんにいくつか残る丸い実が光っているから、すぐにわかるはずなのにね。丘の上には、おいらには見覚えのない、赤土がむき出しの空き地と、「売地・眺望良好、緑に囲まれた環境。好評分譲中!」という看板があるきりです。 おいらは困って、その辺のにおいをかいでいました。そしたら、通りかかった近所の人たちが立ち話を始めました。 おいらの頭には少し複雑な話みたいだな。とにかく、この変わり果てた空き地が、クロちゃんの家のあったところなんだね。もう、柿の木も、そしてその下に埋められていたクロちゃんの骨も、ゴミみたいに扱われてどこかへ持って行かれてしまったみたいです。 おじさんは悲しんでいるかなあ。・・いいや、おじさんは今頃、クロちゃんと天国でお散歩しているのだろうな、だから悲しいことなんてないんだね。わんわん。さよなら、またね。
(2005.11月掲載) |
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※「八百屋のおじさん」がくれた禅師丸柿、おじさんが飼っていたクロちゃんのことを書く作業中に、 |
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