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第8話「株とダンス」  

  こんにちは。おいらは、飼い主も家も名前もとくに決めていない犬であります。川ぺりをうろついていると、いろんな人たちのお話が聞こえてきます。
 犬にとっては、知らない世界の話もあるけれど。
        * * * * * * * * * * * *
 今日は雨降り、秋の雨の下をぬれて歩くのもつまらないから、おいらは近くのダンス教室の軒下で雨を見ています。ここにくると、きれいな音楽に合わせて、ずいぶん年をとった「先生」と生徒さんが不思議なダンスを踊っているから、おもしろいんだ。・・だけど今日は「先生」一人だし、ダンスもしていません。

 「さて、と、次はどこにしようかな。」 
先生は呟きながら、新聞を何種類も読んで、合間にはラジオを聴いています。
 「最近は堀○とか三○谷とか村○とか、金儲けの亡者そのものみたいな奴らが株式市場を騒がすもんだから、株を買ったこともない人間まで自分のことみたいに浮かれているっけなぁ。新しいやり方でメディアを買収するIT企業側につくか、既存のメディア側につくか、みたいに意見を二分してるなぁ。」

 ああ、聞いたことのある話だよ。「アイティー」とか「株のとりひき」とか、川ぺりを散歩する人も話しているよ。晴れた日に遠くに見える、都会の大きなビルなんかに関係ある話らしいんだ。
 「ああいうニュースを聞いて、株はもうかるぞ、なんてあわてて株取引を始めるような人間はね、目先の利益しか計算できないんだよねえ。だから一時的に株価が下がるとあわてて全部売っちゃってさ、損した損した、株なんて手を出すもんじゃない、なあんていっぱしの口をきくんだよなぁ。」

 先生はなんだかまるで、「株」のことをよく知ってるみたいです。気がつくと、窓越しにおいらに向かって話しているらしいので、おいらも先生の顔をじっと見ました。
「5,6年前にさ、ボクは将来を見込んで小さなIT企業の株を買ったんだよ。そしたらその会社、最近になって三○谷んとこに買収されたから、すごーく株価が上昇して、利益が出たよ、大成功!
 株の取引ってのは、そうやって長い目で見るものなのにねぇ?だいたい、一般の人間がさ、話題のIT長者たちと同じリズムでダンスをしようなんて思うから惑わされちゃうんだ。同じ「株式市場」っていう舞台だって、踊り方は自分流に決めなくちゃなぁ!」

 ふうん、「株」ていうのはダンスみたいにおもしろいものなのかなあ・・?と、おいらが犬の小さい頭で考えていると、先生はふいに音楽を流して踊り始めました。今読んでいた新聞をくしゃっと丸めて放り投げたり、床に散らした新聞に寝ころんで体に巻きつけたり、と思ったらビリビリっと破ってパッとまき散らしてみたり、かじってみたり!ワクワクして見ていたら、先生の動きが止まりました。おいらをじっと見てひとこと、
「そうだ!次はペット産業関係の株でも持ってみようかなぁ?資料を集めてみよう。」
先生のこれからのダンスも楽しみだな。わんわん。またね。

 

(2005.11月掲載)

  ※舞踏家の大野一雄さんについて書かれた本の中で、「舞台袖で株式市況を聴きながら新聞を読んでいるのに、時間になるとパッと切り替わって踊り始める、それぐらい踊りが日常と当たり前につながっている人だった」という話を読んだのです。そのことと、2005年当時に世間を騒がせていたIT起業家などの話をからめてみました。