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第6話「宣言しちゃえば?」

 こんにちは。おいらは、飼い主も家も名前もとくに決めていない犬であります。川ぺりをうろついていると、いろんな人たちのお話が聞こえてきます。
 犬にとっては、退屈な話もあるけれどね。
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 川ぺりを散歩する人は、夜が明ける前から暗くなる時間まで、絶えることがありません。今日は、夕方の買い物がてら散歩をするおばちゃん二人組をみつけたから、何かもらえることを期待して後をついて行くことに決めました。

「父さんがさ、明日ハイキングに行くぞ、っていきなり言うのよー。行き先は決めてるくせに、電車とかバスとか、行き方は自分じゃ調べもしない、いっつも私がしらべなくっちゃいけないんだから・・。もちろん、リュックだって、私が詰めなくちゃいけないし・・。山を歩くときって、私は風景とかお花とか、ゆっくり眺めながら歩きたい方なわけ。だけど父さんは、どんどんどんどん先へ歩いて行っちゃう。何が楽しくて歩いてるんだか、全然わかんないわ! それに、私が歩くの遅いってすぐ怒るし。ほーんと、父さんと出かけたってちっともおもしろくない。」

 これは失敗かもしれないな・・。「〜しなくちゃいけない」とか「〜してくれない」とか、こんな話をしている人って、自分の話に夢中で、まわりのことなんか気にも留めないんだよね。おいらは連れのおばさんに期待してみることにしました。

「旦那さんて、昔からそうなの?」
「えー?うーん、確か、結婚する前に一度、丹沢の山に登った気がするけれど・・。最初から今みたいだったかなぁ。そうだ、きっとそうよ。あの頃は私だってね、無口なあの人がめずらしく「山に行きたいな」なんて言うから、思い通りにしてあげたいって思って、一生懸命に慣れない時刻表を調べたわよ。山を歩く時も、必死について行ったの。ずんずん歩いていくから、もしかして今日は何か機嫌が悪いのかしらって、気をつかって。」

「じゃあ、始めから至れり尽くせりだったんだぁ。旦那さんはわかってないんじゃないの、あなたの不満を。今度ちょっと話してみたら?私は時刻表調べないわよ、って宣言しちゃえば?」

「そーんなの、無理。あの人、それなら別にいい!ってふてくされて、それでおしまい。そんな人と家で顔をつき合わせていたってつまらないもの、とりあえず調べて出かけることになるわよ。・・あー、もう帰って明日のお弁当の下ごしらえをしなくっちゃ。あの人、のり巻きじゃないとダメなのよねー。」

 明日がハイキングのおばさんは、どんどん帰ってしまいました。話を聞いていた方のおばさん、腕を上に伸ばしてウーンと伸びをすると、おいらを見て苦笑いして「あのひと、いつも不満ばっかり。」と呟きました。
 おばさんも、宣言しちゃえば?「あなたの愚痴は、もうたくさん!」てね。ついでにおいらに何か、くれてもいいよ。わんわん。またね。

 

(2005.10月掲載)