おまけ 〜新薬が開発されるまで物語(ストーリー)〜



もくじ

1.はじめに
2.創薬研究
3.開発研究
4.臨床試験
5.申請
6.発売 その後



1.はじめに

 私は一応薬屋に勤めておりますので、ここで、新しい薬がどうやって研究、開発されて世の中に出て行くのか、ちょっと書いてみたいと思います。では、始まり、始まり・・・

 薬には、「薬局で買える薬(一般用医薬品)」と「医師の処方箋が必要な薬(医療用医薬品)」があります。これから書くのは後者の薬です。処方箋が必要な薬は、効き目も強いですが、副作用や安全性の問題もあり、当然厳しい管理下におかれます。

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2.創薬研究

 薬の「種」を見つけてくる研究です。主に、製薬会社の研究所でやっています(大学と共同研究することもあります)。
 病気に関わる分子について調べ、「ここに作用するものを作ろう!」と決めます。そして、実験系を立てて、薬の種となる物質をかたっぱしから調べていくのです。これを「スクリーニング」といいます。
 スクリーニングには、多くの物質や、天然物(土壌の菌類などが作り出す物質やエキスなど)をかけていき、いくつかの候補物質が出てきます。
 それから、それらの物質を細胞にかけたりして、より作用が強い物質を探し、また活性の強い物質を合成します。ここまでの研究で、だいたい3年から5年くらいかかります。もちろん、物質が見つからなかったりして、ドロップアウトしてしまうことも多々あります。
 研究所には、さまざまな分野の人が集まっています。薬学はもちろんですが、化学や生物、農学や工学出身の方もいます。みんなが自分の専攻を生かした研究をしています。私は、この段階での実験を入社以来ずっとやっています。
 また、今は遺伝子解析が進んでいますので、遺伝子を調べて新しい薬のターゲットを見つけてくることも多くなりました(ゲノム創薬といいます)。

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3.開発研究

 薬の候補物質が絞られてくると、それが本当に効くのか、安全なものか、体内でどのように吸収されて、排出されるのか、徹底的に調べます。
 細胞では効いても、実際に体に入れて効かなくてはいけません。いきなり人間で試験をするわけにはいかないので、最初は動物を使います。これを「前臨床試験」といいます。  始めはマウスやラットですが、より人間に近いものということで、イヌやサルなどの大型動物も使います。これらの動物による試験で、効き目があり、安全であることが確かめられると、厚生労働省に申請して、いよいよ実際の患者さんへの試験が行われることになります。この段階でも3年くらいかかります。
 動物実験というと、どうしても「動物がかわいそう」という感情をもたれる方も多いでしょう。しかし、人間で実験するわけにはいかないので、どうしても必要なことです。今では、きちんとプログラムして、犠牲になる動物ができるだけ少なく、苦痛を与えないようにしています。年に1度は動物慰霊祭も行っています。

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4.臨床試験

 ここから、いよいよ人で作用があるかどうか試験をしていきます。これを、「臨床試験(治験)」といいます。この時には、薬の候補物質は1つに絞られています(治験薬といいます)。そして、研究所からは離れて、開発部の人が担当します。「臨床試験」はきちんと設備の整った病院で、協力してくれるドクターのもとに、患者さんに投与します。 臨床試験には、3段階あります。

フェーズ1
 まず、健康な人に投与して、その薬が安全であるか調べます。
フェーズ2
 次に、その薬のターゲットとなる病気の患者さん(少数)に投与して、効き目があるか調べます。
フェーズ3
 多くの患者さんに投与して、効き目があるか調べます。安全性、副作用とその頻度についても調べます。この時は、患者さんを2群に分けておき、片方には薬を、もう片方には効き目のない偽薬を投与し、差があるかどうか調べます(患者さんはどちらの薬を投与されているかは分りません)。

 臨床試験の際には、必ずドクターからの説明があって、同意した患者さんが治験薬を使った治療を受けることになります。また、既に外国ではスタンダードに使われている薬も、日本で使うためには臨床試験を経なくてはなりません。治験薬というと、どうしても抵抗感があり、なかなか患者さんが集まらないこともあります。しかし、逆に考えれば、最先端の治療法を試せるということでもあるので、チャレンジしてくださる患者さんが増えれば、それだけ早く世に出せるということになります。「ハーセプチン」も実際に乳がんの患者さんに投与して、有効性が確かめられてきました。最近では、規制が緩和され、新聞広告で治験に参加して欲しいと呼びかけることもできるようになりました(うつ病の薬などで、そのような広告、見たことはありませんか?)

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5.申請

  3段階の臨床試験が終わるまでには、5年以上かかることもあります。そして、薬の有効性、安全性が確かめられると、厚生労働省に認可してもらうために申請します。
日本では、諸外国に比べて、臨床試験の期間が長すぎる(データが集まらない)ので、臨床試験のある段階は外国で行い、そのデータで申請することもあります。
 臨床試験で、薬の有効性が確かめられなかったり、既に使われている薬と比べても差が見られない場合、申請を断念することもあります。
 申請してから、厚生労働省では、何年にも渡って審議します。もし治験のデータに不足があったりすると、さらにデータを追加するために治験をやり直すこともあります。そして、本当にこの薬が、有効で、安全性が高く、重篤な副作用がなく、これまでの薬に比べて優れていることが確かめられると、晴れて承認されるのです。この段階で、承認されず、最後にドロップアウトしてしまうこともあります。
普通審議には数年かかりますが、話題になった「バイアグラ」はまだ未承認なのに個人輸入などで入手する人が多く、また諸外国では有効性が確かめられているので、申請から承認まで1年かからない、スピード承認となりました。

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6.発売 その後

 最初の段階からここまで来るのには、15年から20年くらいかかってしまいます。何段階もの関門を潜り抜け、やっと発売されるのです。外国では、それぞれの段階にかかる時間が短いので、アメリカやヨーロッパで使われている薬が日本では使えないということがよくあります。
 発売されると、厚生労働省によって、値段(薬価)が付けられます。そしてドクターが処方するようになります。製薬会社では、営業を担当するMR(専門資格職です)が、ドクターのもとを回って、薬に対する情報を広め、使っていただけるようにします。
発売されても、その後本当にその薬が有効か、重篤な副作用は発生していないか、常に調べられます(市販後調査)。重大な副作用が発生して発売中止になった薬の事件もあります(抗がん剤のソリブジン事件というのがありました)。

 このようにして、多くの患者さんに使われている薬が世の中に出て行きます。そして、研究者は、これまでに有効な薬がなかった分野で効く薬や、より安全で効果の高い薬を追い求めて研究を続けています。しかし、薬害エイズ事件を始め、薬による悲しい事件が後を絶たないことも事実です。そんなことがなく、みんなに安全に薬を使っていただきたいと思います。乳がんの治療薬も、多くの薬が、研究、開発の途上にありますので、将来の見通しはますます明るくなることでしょう。

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