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雑感 その2〜子供を持つまでの間〜
ここに書いてあるのは、自分が子供を持つまでの複雑な葛藤、決してきれいな気持ちだけではありません。
乳がんの手術を終え「まずは一段落」と安堵したのもつかの間、ホルモン療法が始まり、それと同時に日常生活に戻るべく身体は回復していきました。傷が治って、一見して病人とは分からなくなったころから、「先の見えない将来」についての不安が次々と沸き起こってきます。身体のこと、再発への不安も大きい事ながら、同じくらいに自分の心の中を占めたのは「もう自分は子供が産めないのではないか」ということでした。
私が手術を受けたことを知っている人は誰も「子供を産んだ方がいいよ」というプレッシャーはかけてきません。元気になることがまず第一だと分かっているからです。夫もそのことはよく分かっていました。それに私自身、乳がんになる前は「急いで子供が欲しい」とは思っていなかったのです。「30代になるまで子供はいらない」と思っていたくらいなのです。それなのに…「自分の意志で子供を持たない」という選択と「子供を持てなくなるかもしれない」という事態は全然違うことでした。
ホルモン療法中は避妊しなくてはいけないですから、その期間は夫との時間を十分に楽しんだ時間となったと思います。仕事を続けてダブルインカムの暮らしをしたおかげで、国内・海外好きな旅行を楽しむことができました。また、友人達との自由な時間も多く持てたと思います。
しかし、20代後半から30代へという年齢の中で、周りで次々出産する人が出てくると、頭では分かっていてもどうしようもない焦りのような感情が出てきました。私が病気の時には心から心配してくれた人のことを今度は私が心からお祝いしなくては、と頭では分かっているものの「自分にそんな日がくるのだろうか」という思いに縛られてしまい、無理して作った笑顔を浮かべる自分に嫌悪の感情を繰り返しました。「自分はなんで自分のことばかり考えているのか、人のことを素直に喜べない自分は人間としてダメだ」と。
それでも、友人や知人に対しては、「自分の生活とは別の生き方」とどこかで理性がはたらいて割り切れているのでしょう。これが親戚ともなるとさらに葛藤は大きくなる一方でした。夫は子供が好きである→自分が病気だから子供が持てない(かも知れない)→治療が終わればって言ったって、治療が終わる保証があるのか?→夫は自分とさえ結婚しなければよかったのではないか→周りもこんな病気にかかってしまった自分と結婚した夫を不憫に思っているのではないか→自分は生きている価値があるのだろうか…
この思考回路に陥ってしまうと、どうしようもなく抜けることができない自分がいました。乳がんという病気そのものより、こちらの方が自分を支配していたような気がします。
術後2年ほど経った時、私は自分からこの思考回路からは抜け出せないと思い、夫のアドバイスもあって、ついにプロの手を借りることにしました。精神科を受診することにしたのです。乳がん発病からこれまでのことを全て精神科医に話しました。それに対して医師から返ってきたのは、「病気ということを受け入れるだけでも大変なことなのに、それ以上に感情面できれいに割り切って理想的な態度を取れるものではない。今は1つのことを乗り越える修行の時期で、そんな時は自分の感情のままにある意味自己中心的になってもよい時なんだよ」という言葉でした。それを聞いた私は、今まで病気のことも「手術してもらったことに感謝を」というだけで、「自分はかかりたくもないのにこんな病気になって乳房まで取ることになってしまった」と、素直に病気になってしまった自分を悔しがったことも悲しくなったこともない、もっと感情に素直にならないと乗り越えられない、と思ったのです。そして、これからは「こうあるべき」自分を演じようと思うのはやめよう、と思いました。
しかし、人間同士のかかわりで、単に感情を剥き出しにしては上手くいくものもいきません。人間関係の中で、複雑な感情とどう折り合いをつけていくか…そんなことを相談したのが「ひまわりクリニック」のM先生でした(ひまわりクリニック、についてはHP本文の「後日談」を参照にしてください)。自分の心を楽にする方法、それは「ちょっと立ち止まってみる」ことで案外簡単に実行できそうな気がしてきました。
病気になってしまったら、まずそのことを受け入れて消化するだけでも大変です。感情に素直になって、辛い時は辛いというのが一番心を楽にできる方法だと思います。自分の気持ちをありのままに聞いてもらえる人や場を見つけること、それ以上いい人になろうと思わないこと、辛い時は相手を傷つけないように現実逃避することだって自分を支えるには必要であると思います。いい人になるのは、辛い感情を全て消化してからで構わない、時間だけが解決してくれることがある、それが私が術後3年かけてなんとなく分かったことのように思います。
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