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雑感 その1〜母乳育児と乳房外来のこと〜
赤ちゃんは本来、お母さんのおっぱいを飲んで大きくなりますが、病気などでそれが難しい場合母親としてはなんとも言えない辛い気持ちになるものです。
今では性能の優れた多くの育児用ミルクが出回っています。私が生まれた30年以上前は、母乳よりむしろミルクの方が栄養的に優れていると言われていたそうですが、改めて母乳育児の大切さが強調されるようになり、最近では特に母乳育児を推奨するようになってきています。産院も「完全母乳育児」の方針のところが多く、その結果完全母乳育児を実践している人が周囲に多くなっています。しかし、始めから「片方の乳房しかない」というハンディを背負っているとそのことがある種のプレッシャーとなってきました。
自治体の母親学級に出席した時にそのことを感じる一幕がありました。「母乳育児について」というプリントが配られた時からその予感はしていましたが、そのことを話し始めた助産師さんは、案の定母乳育児のメリットをいくつもあげ、完全母乳育児ができる体制の病院でないところでは産まない方がよい、というところまでの話になっていきました。確かに栄養的な面を考えれば母乳が一番なのは理論的には分かっていますが、まあそれは一般論だし、ここで反発しても仕方ないと思いながら私は耳を傾けていました。
「ところで、母乳育児を実践することでよいことがたくさんあるのですが、次のことは特に重要です」と助産師さんは声を張り上げました。「よく聞いてください。母乳を与えることによって乳がんの発生が減るのです。今日本女性には乳がんが急増しています。25人に1人です」
会場には25人くらいの妊婦さんがいたと思いますが、「まさかそのうちの1人が現実の乳がん患者だとは誰も気づいてないんだろうな〜」となんか乾いた笑いが私の心の中から起こってきたものです。確かに、乳がんになるリスクとして出産していない、もしくは高齢出産などがあげられており、乳腺に本来の機能である「母乳の分泌」をさせていないことが原因とも考えられていますが、母乳育児を実践する以前の年齢でかかってしまう若い患者さんも増えている、という事実を知っている人はやはりなかなかいないのだろう、と思いました。
産科に通うようになると、医師の診察の他に「助産師相談」があります。妊娠中やお産のことについて助産師さんが相談に乗ってくれるというものですが、ここでのメインに「乳房外来」があるのです。乳房外来では、母乳育児をしたい、乳房の手入れ、母乳が出るためのマッサージ、授乳中の乳腺炎などのトラブルなどについての相談に助産師さんが乗ってくれます。助産師さんは、妊娠・授乳期の乳房についてはエキスパートです。
きっとこの時の記憶があるから、後に乳房にしこりを発見した時に乳腺外科ではなく産婦人科に行ってしまうのではないか、なんだかそんな気がしてきました。「乳房外来」では乳がんについて話されることはほとんどありません。産婦人科医以上に、妊産婦さんの乳房をよく見ている助産師さんが、ちょっとだけでも乳がんについて触れてくれたら…乳がんはもはや年配の女性がかかる病気ではなく、確率的には低いけれど若い人にも無いわけではないこと、専門とするのは産婦人科ではなく外科であること、自己検診を習慣にしてほしいこと、何かあったら乳腺外科医に相談して欲しいこと、そんなこと話してくれるだけでも意識が違ってくるのではないかと思ったのでした。
私が通った産科では、母乳育児の大切さの話もありましたが、「何がなんでも母乳だけ」と自分を精神的に追い込まないことも必要です。という話でしたので、幾分はプレッシャーから解放されました。病院の助産師さんは、紹介状があるために始めから私が乳がん病歴があることを知っていて、「無理しないでいきましょう」というスタンスをとってくれました。また現実にはミルクとの混合の方が「何かあった時に母親が子供を預けることが可能になる」というメリットもあります。出産準備をすすめる段階でも、哺乳瓶や関連グッズをいろいろ揃えました。
ただ、乳房が1つしかないからと言って絶対に母乳が足りなくなるわけではないようです。これまでに術後に出産された人に話を聞くと、案外片方の乳房でも足りているというのです。母乳育児ができるかどうかは乳房の数ではなくて、体質の面が大きいのかもしれません。
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