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退職の理由
私が妊娠が確定した時に思ったことの1つが「これで、やっと会社を辞められる」ということでした。
入社してから6年余。学生のころ既にバブルははじけていたので、女子学生にとっては就職難の時代でした。そんな中で内定をいただいた時の信じられないような気持ちは今でも鮮明に覚えています。幸い希望の職種につくことができ、これでも一応総合職(研究職)としてやってきました。私の勤めていた会社は、女性が働きやすい会社として定評があり、総合職で同期入社したメンバーも半数が女性、育児休暇取得も「当たり前」となっている恵まれた職場でした。ここ数年、転職や大学院進学を理由に退職する人はいても「結婚・出産」で退職する女性社員はいませんでした。そんな中で私は「出産退職」の道を迷うことなく選んでしまったのです。
確信的に思うのは「乳がんを経験していなかったら辞めなかったのではないか」ということです。
私はこれまでに子育てと仕事を両立している友人や先輩を多く見ているし、自分の価値観の中に「母親は家にいて子育てに専念すべし」という観念はそれほどないのです。子育てに専念するもよし、母親が自分の行き方として仕事を持っていてもよしと思っていました。だから入社当初、仕事と育児を両立している女性が多いことに感動したし、自分もそうなるのだろうと思っていました。
現実的に考えると、私たち夫婦が働きながら子育てをするのは難しい面があります。「子供を保育園に預けながらフルタイムで働く」ことを実践している友人を見渡すと、「保育園以外のバックアップ体制(最も多いのは両親の手助け)がある」ということや「職場・自宅・保育園がお互い至近距離にある」という状況があります。ところが私たちは夫婦互いの勤務先が正反対方向にあり、双方の実家も近くはありません。自宅近くに保育園はありますが、職場までは距離があります。もし子供が急病などで「迎えにきてください」と言われても、迎えに行くのに1時間くらいかかってしまうのです。それらの状況を考えると、現実的には難しいことが予想されたのですが、それでもファミリー・サポートなどを利用しながらなんとか手立てを考えたのではないかと思います。
しかし、乳がん体験は、育児との両立以前に「自分の働き方に対するスタンス」をくつがえすものでした。手術後に職場復帰した時、私は早く今までの通り仕事をしていきたいと思っていました。職場の私の周辺も「病気のことはなかったことのようにして」というスタンスだったように思います。でも、現実の気持ちにはどんどんギャップができていきました。病気のことをなかったことのようにはできません。術後1年半でついに行き詰まってしまいました。
行き詰まった私は「ひまわりクリニック」のM先生に相談に行き、2ヶ月間休養を取りました。そして復帰後自分の中で仕事に対するスタンスを変えたのです。「病気のことをなかったかのようにはできないのだから、病気をした自分に正直に、負担にならない程度にやっていこう」と決めました。そして開き直って仕事へのペースを落とし、自分でできるだけのことを実践していきました。今までのパワーを10とすれば、8に落としたことになります。
幸いにも上司にも理解され、自分なりのペースで仕事をしていったのですが、それから1年後に現実を見ました。あくまでも企業は「営利目的」の場です。研究といっても原則は同じ。自分のペースが安易に通るところではありませんでした。私が知ったのは、同期の中では最低だという評価でした。昇格も著しく遅れることが予想されました。
予想していたことではあったけど、自分に突きつけられた現実は厳しいものでした。このままこの会社でやっていくのは難しいのではないかと思ったのです。正社員として勤めていたので、守られる部分も大きいし、メリットもありますが、要求されることも大きい。それに病気のことを分かった上での配慮があるのだから・・・でも会社の求める要求にはこれ以上応えられない。今の会社でなくても、収入は落ちても自分なりのペースを維持できる場所があったら・・・だんだんそう考えていきました。
私は休職した時の気持ちから、「家庭にいるよりは外に自分のやるべきことがあった方が性格にあっている」と思っていたので、すぐに退職する気持ちにはなりませんでした。しかし、いつまでも会社にとどまるよりは、別に探してから辞めた方がいい、今すぐにではなくでゆっくり探していこう。できれば夫の勤務先の近くに引越し、そこを拠点にしたほうがいい、と考えていったのです。
主治医の許可が下り、妊娠が分かったのはそう考えるようになってからしばらくたった時でした。これに子育てまで加わったら、パワーが8どころか5以下になってしまう。それは私にとっても辛い事実となります。それに「今の会社で働く」&「自分の身体」だけでキャパシティーがいっぱいだったところに「子育て」まで加えたらパンクしてしまう。自分にしかできないことは「自分の身体」と「子育て」だからいったん退職して子供を産んでから『自分のペース』を見つけるために再度動くことにしよう、と決めました。
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