乳がん治療後の妊娠と出産(アウトライン)

 私が乳がんと診断された時に真っ先に頭に浮かんだのは「自分は果たしてこの先生きられるんだろうか?」ということと同時に「自分はこの先子供を産むことができるんだろうか?」ということでした。乳がん患者さんが増え続ける中で、20代〜30代の若い患者さんも増え続けています。そして、比較的若年齢の患者さんの中では、これからの治療や再発への不安と並んで、治療後に妊娠・出産ができるのかということが大きな関心となってくるように感じています。

 乳がんの治療後に妊娠・出産は可能なのか?という問いに対しては、これまでに多くの症例が「可能である」ということを示しています。有名人では、ジャズシンガーの綾戸智恵さんがあげられます。綾戸さんは20代のころアメリカで乳がんの手術を受け、その後現地の男性と結婚して妊娠します。先日テレビでお子さんが中学生になったと話されていたように思います。
 乳がん治療後の妊娠については、昔は反対だという考えの医師が多かったそうです。乳がんの術後補助療法で「内分泌療法(ホルモン療法)」がありますが、女性ホルモンであるエストロゲンの働きを抑えて乳がん細胞の増殖を抑えるものです。ホルモン療法中は月経が希薄になったり閉経状態になります。しかし、妊娠するためには月経があって、排卵が起こらなければならず、そのような体の状態になるためには体内で十分エストロゲンが働いていることが必要です。また、妊娠中は体内でのエストロゲンの分泌量が増加しますので、妊娠によって再発の危険性が増加するのではないかと考えられていたそうです。

 しかし、現在では乳がん治療後に妊娠・出産を認める医師が増えてきています(まだ考えにはばらつきがあるようですが)。治療後に妊娠・出産した患者さんとしていない患者さんの間で再発率に差が無いというデータがあり、現在では「妊娠そのものが乳がんの再発率を上昇させる」とはならなくなっているようです。よって、術後の治療が済み、再発の可能性が低いと判断された場合は妊娠を許可されるケースが増えてきています。
 乳がんの治療後に妊娠・出産を考える場合に大切となってくるのは、「再発させない治療法・治療に使う薬剤、治療期間など」と「妊娠希望・薬剤による影響、年齢など」をどのように考えるのかということのように思います。もちろん個々の患者さんにより乳がんの病状(しこりの大きさやリンパ節転移の有無、ホルモンレセプターの有無、がん細胞の悪性度など)は違ってきますので、治療方法も違ってきます。術前、術後の治療で一番大切なことは「がんを再発させないこと」ですが、治療後に妊娠を希望する場合、病状と再発リスクとの兼ね合いの中で、将来の妊娠を視野に入れた治療法を考慮することがあります。

 私が乳がんと診断された時に医師に言われた印象に残った言葉に「妊娠していなくてよかったですね。」というのがあるのです。そのころ私は結婚してから半年たっていなくて、「結婚しても最低2年は共働きして、子供は作らない」と決めていました。仕事もまだまだしたかったし、しばらくは夫婦2人だけでの時間を過ごしたいと思っていたのです。
 もし、乳がんがあることに気がつかないで妊娠してしまった場合、体内の女性ホルモンが劇的に変化することで、がんが急激に大きくなってしまう可能性があったと説明されたのです。しかし、同時に言われたのは、治療がきちんと済んで再発の可能性が低くなれば妊娠できます、がんがないことを確かめた上での妊娠なら心配いらない、という言葉でした。そして、私は将来妊娠希望である、ということを前提として治療を受けることになりました。
 私の場合、温存手術が可能でしたが、敢えて全摘手術にしました。その理由として、温存した場合には必ず放射線治療をしますが、将来妊娠希望ならばできるだけ外科手術だけで対応したいという主治医の考えがありました。今となれば、放射線治療をしても妊娠に影響しなかったのでは?と思いますが、手術を受けた当時ベストと思われた方法でした。全摘手術をしたことで、乳房の喪失感という面ではその後かなり精神的に影響がありましたが、やはり今となれば妊娠希望であることを前提とした治療だったと納得した部分も大きいです。

 もしこれから乳がんの治療を受けることになってしまった場合、子供を産みたいという希望があったら、主治医に相談して、そのことも含めた治療方針を立てることができるのではないでしょうか?多くの患者さんが治療を経てお子さんを設けているという事実が、決して将来を悲観しなくてもいいという希望を与えてくれると思います。

 同時に思うことが、これから子供が欲しいと思っていたら、乳房にもちょっとだけ関心を向けてほしいなということです。どうしても基礎体温や生理の周期などに関心がいきますし、それが妊娠には一番重要なことなのですが、それと同時に乳房も健康であることを確かめてほしいなと思っています。妊娠・授乳期には乳房は著しく変化します。その中に万が一乳がんが潜んでいても、なかなか発見が困難になってしまうのです。これから子育てという時期に乳がんとも戦わなくてはならなくなってしまう、そんな事態を防ぐためにも日ごろから乳房の自己検診をして、もし何かあれば早めに医師の診察を受けて、安心して妊娠・出産に臨んでほしいと思っています。

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