入国

 モスクワには空港が5つあると聞いている。私たちが到着したシェレメチボ第2空港は国際便が主に使用する空港である。10年前もほとんどこの空港を使った。シェレメチボ第1空港を使ったのはウズベキスタンへ行ったときだけ。シェレメチボ第2空港は飛行機横付けの空港である。飛行機を出たらそのまま一気にパスポートコントロールに直行できる。
 階段を降りたパスポートコントロールの前に300人ほど人がいる。
 ボーイング777はその程度乗れるから、多分一緒に来た人たちである。
 パスポートコントロールは10個ほどのブースがある。少なくとも5つ6つは開いているからそんなに時間はかからないだろうと思ったのだが、この列がなかなか進まない。
 1時間ほど並んでいたが、まだ前に人が溜まっている。
 その内に次の便がついたのか、新しい入国者が後ろに並びだした。
 私たちの後ろに並んだ人は日本人で、「前は中国人ですか」と尋ねる。
 「私たちは中国航空で来たから、中国人が多いと思います」
 「時間がかかるんですよね」 と、その人。
 『むむむむむ、チェックが厳しいのか』
 『今日はホテルに入るだけだから、まあ、良いか』
 と、のんびり構えていると、ガラスの外に「OBE」と書いた札を持って行ったり来たりしている女性が見える。
 手を振ると、『何をしているんだ』というような表情。
 『こちらへ来い』という仕草。
 近づくと、ロシア人用ゲートを指さす。
 こちらは既に皆通過しているから無人。
 担当官が何か言っている。

 私たちを呼んだ女性が担当官に大きな声で何か言っている。
 「私たちの客だ」というような言葉が聞こえる。

 シェレメチボのパスポートコントロールは係官のブースが背中合わせに並んでいる。
 ブースが並んでいる手前の床に赤い線が引いてあって、そこからは一人ずづブースの前で審査を受ける。
 普通家族は同じ列に並ぶから、同じブースで順に審査を受ける。
 先に審査を受けると、ブースを通過した所で後から通過してくる家族を待つことになる。
 今回は一寸事情が違って、
 ロシア人用のブースは、もう入国者がいないから、背中合わせのブースの両側で、妻と私が入国審査を受けることになった。

 案内した女性が「スパシーヴァ」と言っているから、無理を頼んだのかな?。

 こちらのパスポートコントロールは上半分がガラスで遮断されている。胸の高さに書類を渡す空間があって、そこからパスポートを差し出す。
 書類を受け取った係官がこちらを凝視する。

 10年前、私はこの瞬間が嫌いでなかった。
 係官は皆女性である。
 ロシア人女性は綺麗だと思う。
 特に制服を着たロシア人は綺麗に見える。
 じっと見つめていても文句を言われない。

 平成8年に出国したとき、このブースにコンピュータが登場した。
 それまでは手書きで書類を作っていた。
 前で見ていると係の女性がせっせと何か書き込んでいる。

 ビザのコピーを渡すと処理時間が短縮されると聞いた。

 ガラスの隙間からのぞき込んで、せっせと書類を書いている女性に尋ねたものである。
 「ビザのコピーを渡すと貴方の仕事は早くなるのですか」
 「あまり変わらないですよ」

 平成8年、コンピュータが登場してから、係官はコンピュータに打ち込むようになった。
 今回も係官は、そんな作業をしたが、あっけないほど簡単に終わってしまった。
 となると、今まで長時間、私たちの前で動かなかった集団は何なんだ。
 これは、出国の時に又考えることにする。

 
 
 まあ、こんな感じである。