書 物 吊 | 著 者 | 発刊年 | 訳 者 | 邦訳出版社 | 邦訳出版時 | 価格 |
子どもの知的発達と環境 クレーシュの子どもたち Children of the Creche |
Wayne Dennis 1905-1976 |
1973 | 三谷恵一 1938- |
福村出版 | 1991/11/20 | 2500円 |
概要---教育関係で一冊だけということなら、まずこの一冊を推薦したい本--- |
本レポートの対象となる「クレーシュ《はレバノンのベイルートにあった孤児収容施設である。 歴史的には、聖ヴァンサン・ド・ボール(1576-1660)という人が、パリに2つの「捨て子養育院《「クレーシュ《を設立したことに始まる。 レバノンのクレーシュはローマンカトリック教会が1850年頃に設立し、2~3人の修道女によって運営された。 当時レバノンでは未婚の女性が出産することは厳しく責められ、父親や男兄弟の手でしばしば殺害された。 クレーシュはこっそり捨てられる私生児と、親の死、病気、投獄などの状況で預けられる子供を収容していた。 6歳になると女子はツォークという施設に、男子はブルマナという施設に移された。 1956年、クレーシュは収容児をずっと預かるのではなく、可能な児童の養子縁組を始めた。 1966年に2歳をすぎてクレーシュに残る子供は非常にまれになった。 この間、生後何年間か施設で育てられ、その後養父母に引き取られた様々な子供を比較調査することができた。 こうした調査から、生後成育環境が劣悪である場合、知的発達に重大な障害が残ることが観察され、報告された。 養子縁組された子供は知的発達を取り戻したが、生後2歳までクレーシュにいた子供は、その2年間の遅れを取り戻すことは無かった。 また年長までクレーシュ、ツォーク等の劣悪な環境で育った子供は知能が50程度にしか発達しなかった。 男子を収容したブルマナという施設は、やや環境が良かったので、男子は女子より、よく知能を回復した。 クレーシュは捨て子の生命救済に精一杯で、人的にも設備的にも十分なものでなかった。 乳幼児の収容される部屋には装飾や玩具がなく、決められた時間に哺乳瓶が与えられたが、声をかけたりあやしたりすることは無かった。 こうした刺激のない環境で育った子供は知能が発達しない。 で、成人しても社会参加できず、クレーシュに戻ってくる。 彼女達は子育てを手伝うが、乳幼児の泣き声に感応できず、哺乳瓶は与えるが、これが口から離れて乳児が泣いていても対応する力がなかった。 また、私生児は親の罪の子であり、知的に発達しないのも罪業のせいだと考える迷信もあった。 |
コメント |
「知能検査《が「差別・選別の道具になる《とか、「知能とは何か《等と議論しているとき、「知能が何かであるかの議論はさておいて、取り敢えず乳幼児期の成育環境が知的発達にどのような影響を及ぼすかを考える《とする、本書の書き出しは衝撃的だった。 クレーシュは捨て子養育院としての経済的、時代的制約下で劣悪な環境下に育った子供たちを排出したのだが、世界各地には同様に高度文明化社会に適応するだけの知性を獲得できない環境下で育っている子供が少なくない。 |