NHKは国民の高いモラルでしか支えられない?!
■■NHK予算案が3月15日の衆議院総務委員会で自民・公明両党の賛成多数で承認された。しかし、全会一致での承認が慣例となっていたNHK予算案に、野党各党がそろって反対する異例の結果となった。編集部ではこの審議の模様を15日午前のナマ中継と深夜2時13分にわたって丹念に視聴した。世論が強く指摘しているようにプロデューサーらが詐取した金額は巨額であり、それをチェックできなかった経営の体制の甘さ、朝日新聞報道に端を発した「言論独立性」の問題は看過できない問題である。橋本会長以下経営陣の意識改革と実行力が今、厳しく問われているのは当然のことである。しかし、受信料不払い問題はまた、極めて深刻な別の問題を孕んでいる。この不景気と混迷の中で、「1円でも払わなくて良いのであれば、誰だって払わない」のは普通の心理であろう。まして、隣人たちが未払いとなっている状況が許されれるのであれば、うちもそうしようというのは当たり前だ。NHK受信料制度に罰則規定がないことが、実は、言論の自由と民主主義を守る「根幹部分」だと信じ、永年、NHK職員は血の滲むような努力をしてきた。私は、受信料制度にあぐらをかいたことはない。「現今の社会制度のなかで、罰則規定を設けないのはおかしい。単なる視聴者のモラルだけでは支えられないのでは」という意見が自民党など与党筋からは、以前から寄せられていた。しかし、NHK職員は、確かにその方が楽かも知れないが、それでは国営放送になってしまう。どんなに苦しくても、視聴者の理解を頂きながら、自分たちの手で受信料を集金しよう。そう考え努力してきたのだ。民放関係者や新聞関係者、警察官などが不払いを続けてきたことを実は強く感じてもきた。でもいつかは支払って下さるものと信じ、努力してきた。しかし、マスコミの度重なる報道は国民の「不払いのための不払いの論理」をも増幅させてしまっているのだ。国会という不慣れな場所に呼び出され、NHK理事たちはコチコチになってしまっている。NHKの現状をリラックスして説明できていない。昨年放送した「NHKに言いたい」の番組もNHKとしては実に真摯な態度で人選をし、素直に国民の意見を求めたように私には思えた。が、あのVTRをその後何度見ても、NHKにとって暖かい意見はほとんどなかった。正確な現状が説明できないため、既に実施されていることでも、まるで実施されていないように視聴者の目に映った。また、NHK側から自信に満ちた、反論、説明もできなかった。私個人は隔靴掻痒の感募る思いだった。NHKの現場では改革は以前から進んでいる。システムも改善され、日々の業務は推進されている。「改革と実行」は何年も前からのテーマだった。視聴者の意向は昔から分厚い「モニター報告」となって現場に十分届いている。職員達はそれを番組づくりに反映させてきた。その証拠に、朝日新聞の社説でも繰り返し述べているように、今回の一連の騒動の中にあっても、NHKのテレビ・ラジオ・FM放送は高い品質を保って発信され続けている。微動だにしていないのだ。自民党の野田聖子議員らがいうようにNHK職員のモラルや倫理感が低下している事実は全くない。ただ、1万2000人のうち一人も過ちはないか、といえば、それは、「NHKマンも人の子」と言わざるを得ない。野党の不承認や予算審議の詳細報道は、本来のねらいとは逆に、国民の受信料不払いの倍々増に加速力を与えるだけだ。NHK内の改革は進んでいるが、緊張感は高まり、逆に世間への怯えからくるミスも出かねない状況にさえある。国民各層の先見性と高いモラルをお願いする次第である。(現役時代から視聴者の理解促進を訴え、今も講演などでふれあい活動を続ける 元NHKチーフアナウンサー越智和憲記)(新しい動き) 全国各放送局窓口に声援の声寄せられる NHKの危機救え この受信料制度を守ろう!と。■元チーフプロデューサーらによる一連の不祥事で視聴者の不信感が高まっているNHKで、受信料収入が支払い拒否などによって落ち込み、70億円強減る異例の事態となっている。このページでは、NHKが信頼を回復するためどんなことをすればいいか、あれこれデータを集め、ご一緒に考えてみたい。ただ、今言えることは、ニュースや番組制作現場にあっては、職員のみなさんは、これまで通り、立派なニュースや番組を提供することに全力であたって欲しいということだ。一握りの元職員の悪事と、経営の対応の遅れで、何かNHK全体が弱体化し、ふらついているような印象を与えていることを第一に憂慮する。そうであってはならない。これまで通り素晴らしい番組を自信をもって世に送り出すことに、当面全力をあげて欲しいと、NHKを愛する一OBは熱烈に思うのである。

■NHKトップ人事 1月25日(火)夜 NHK会長辞任。一連の人事断行。NHKの海老沢勝二会長(70)は25日、経営委員会の石原邦夫委員長(東京海上日動火災保険社長)に辞表を提出し、経営委員会も了承した。後任には、橋本元一技師長(専務理事)(61)が昇格した。この人事では同時に、笠井鉄夫副会長(63)と関根明義専務理事(放送総局長)(62)の2人も同時に辞任した。橋本元一新会長は、いわゆる昭和43年入局(NHKでは入社とは言わない)で、技術畑のプリンスと言われてきた。新副会長には、元NHK解説主幹で、今は、既に退職し、世田谷文化生活情報センター館長をつとめる永井多恵子氏(66)が就任した。技術畑出身の会長も初めてなら、女性副会長も初めてである。実は、様々な職種の集合体のようなNHKで優秀な人材も多く、それらの激しいエネルギーをまとめ、政治圧力をはねのけ、民放界との調整をはかりながら、経営を前進させるのは至難の業なのだ。海老沢前会長は、新聞報道などではほとんどふれられていないが、その経営力の高さは近年では希有であり、特殊法人が軒並み膨大な赤字を抱えるなかで、唯一黒字経営を続けて来ている、受信料を値上げしない中で、次々とニューメデイアを開発し、経営に取り込んできたのである。しかし、元デイレクターの不祥事に端を発した一連の報道がトップのダーテイーイメージをも増幅させ、本人もその周辺も全く予期しない展開となってしまったのである。経営の実力は未知数だが、新会長はマスクも清新で、永井副会長も生活者のレベルで観察する力と表現力で、世間に対し、NHKの窮状を訴えて欲しい。人事発表の場で、新副会長人事が発表されると、ひときわ高いどよめきが起こった。NHKはアナウンサー出身ということを余り強調しなかったが、翌日の新聞では「NHKアナウンサー」出身と大々的に報じた。編集子は、ずっと以前からこの方を観察しており、地方放送局長に抜擢されたときも、「当然」と感じたものだ。ともあれ、新鮮なイメージを内外に与えるトップ人事ができた。このトップ人事で視聴者の理解を得て、信頼回復に全力をあげて貰いたい。(越智和憲)