岡崎倫典の輝く大地
ライブレポート 9月23日 梅田 ヒートビート



 ちょっと今回は最悪のコンディションだった。何が最悪かというと、情報の流通が、である。
 昨年11月以来、岡崎倫典さんのライブが大阪では行われていない。いくらなんでも、もうそろそろあるだろうという思いで、SMC(所属事務所)のホームページを何度も何度も見に行くけれど、発表にならない。
 SMCのホームページにはコンサートスケジュールのようなオフィシャルな情報コーナーのほかに、各アーティストからのメッセージが掲載されていて、時々更新されているのだが・・・・ええ!!
 コンサートスケジュールのコーナーには掲載されていないライブ情報が載っている。いわく、「9月23日、梅田ヒートビートでお待ちしています」
 9月23日と言えば、2週間後である。職場にアルバイトに来ているギター少年のN君を誘う。ふたりともスケジュール的にはオッケー。
 SMCのHPではこれ以上のことがわからないので、ヒートビートのホームページを見る。それによると、押尾コータローと徳徳ブラザーズとのジョイントであった。おそらく、SMC主導の企画ではなく「依頼」による出演なのでSMCページには掲載されなかったのだろう。
 ジョイントするアーティストには予備知識はない。これまたインターネットで調べる。押尾さんのHPが見つかった。それによると、倫典さんにギターを学んだ、とのことであった。
 さて。二日前にもう一度ヒートビートのホームページを見て、愕然。なんと、「SOLDOUT」の文字が・・・・、嘘・・・・、当日券、アテにしていたのに。
 N君がヒートビートに問い合わせてくれたけれど、「開演直前までまってもらって、席が空いていたら入場してもらいます」とすげない返事。ようするに、当日突然都合が悪くなって来れない人がいれば、その分だけ当日券を売ります、ということのようであった。


 僕とN君は「当日券一番」の権利を得る為に、午後2時には現地入り。開場は3時30分。まだ誰も居ない。チケットを買った人全員が間違い無くやってこれるなどということはおそらく無いだろうから、多分大丈夫だ。念のために出たり入ったりしているスタッフに当日券についてたずねたが同じ答え。
 「開演直前まで待ってもらって、空いている席が無かったら・・・・」
 「立ち見ですか? 立ち見が出るんですね?」
 「いや、今回は立ち見は出さないでおきましょうと、ヒロさんが言ってました」
 ヒロさんって、誰だ? そんなこと客に言っても意味無いぞ。
 さて、開演の午後4時の直前。「当日券の発売が決まりました」との案内に安堵。結局10人あまりの当日券待ち組みは、全員入場となった。ロビーは既に「間もなく開演ですので席にお戻り下さい」のアナウンスを終えた後のようである。スタッフの1人が僕達をわざわざ先導してくれて、席まで案内してくれる。一番右の端っこであったが、なんと前から5列目。これじゃあ前売りで買った人の立場がない。整理番号順の入場で自由席だから、こんな前の席を空けたままにしている先の入場者が悪いんだけどね。
 チラシ類は、既に客席においてある。僕はそれらをよけて、さらに曲目をメモしようとペンとメモ帳を取り出していると、隣に座ったN君が「曲目書いた紙、入ってますよ」と。
 ええ? それはまた親切な。これで、ほとんどメモを取らずにレポートを書けるぞ。


 開場を待つ間に耳に飛び込んでくる会話や、配布された曲目を眺めているうちに、なんとなくこのライブの流れがわかってきた。
 ようするに、メインのアーティストは「押尾コータロー」である。実質的な企画者はどうやらFM802らしい。徳徳ブラザーズはいわゆる「オープニングアクト」、そして岡崎倫典は、押尾コータローの師匠として呼ばれてやってきた。そんな感じであろう。


★★徳徳ブラザーズのステージ★★

1.IN THE MOOD(?)
2.MY LIFE(ビリージョエル)
3.フォトグラフス(オリジナル)
4.イブの涙(オリジナル)
  アダムとイブのイブではなく、クリスマスイブのイブだそうです。
5.I wish SIR DUKE(スティービーワンダー)

 スチールギターとガットギターの二人組みで、「イブの涙」などでは雪の降る様をギターで表現するなどなかなか面白かった。が、あとの二人がすごすぎて、印象に余り残っていない。個人的には、カヴァー曲よりもオリジナルの方がのびのびとやっていてよかったな、という印象をうけた。オープニングなので、耳馴染みのある曲を選んだのかもしれないが。


★★押尾コータローのステージ★★

6.光のつばさ(オリジナル)
7.Dancin’コオロギ(オリジナル)
8.タイタニック(サウンドトラック風)
9.戦場のメリークリスマス(坂本龍一)
10.ボレロ(モーリス・ラベル)

 インストを文章で表現するのは僕には本当に困難なことなのだけれど、「光のつばさ」は、まさしくタイトルをイメージさせる曲調。倫典さんに学んだだけあって、所々似た雰囲気を紡ぎ出している。が、似ている、などという印象を抱いたのはそのときだけ。あっという間に押尾ワールドに引き込まれていく。
 とにかく、すごい。これがギターの演奏か!! ダイナミックでテクニカルでファンタジックでエキサイティング!! こりゃあ、ヒートビートが満員になるのも頷ける。
 僕はギターの奏法について、どんなネーミングがついているのか知らないので、説明がくどくなるかもしれないが、とにかく描写できるだけするしかない。
 ベース音と伴奏とメロディが1本のギターで同時に奏でられているなんてのは当たり前。その手の動きから全く目が離せない。フレットを押さえた左手よりもネックの先のほうで右手を動かしたり、コードを押さえてストロークしているのに和音と同時にメロディが出て来た(コードを押さえながら左手のどれかの指で弦をはじいてるのだろうか?)り、右手も左手もフレット上にあったり、ふたつの和音が同時に出ていたり・・・、掌や指の内側全体で何本もの弦を同時にバーンと叩くというのは、一般的にも珍しいことではないだろうが、その時に別の音が聞こえてくるのはなぜ? ギターのボディーを叩くのもリズムを取るためではなく、叩く場所や強度なども変えてパーカッションと化している。ギターを振って微妙な音の変化を出させたりもする。とにかく、凄い!
 それでいて、あんまりせわしく指を動かしているようでもないんだなあ。バンド演奏の合間によくエレキギターがソロで活躍するシーンがあるけれど、あれよりも遥かに余裕の指使いなのだ。(実際はとてつもない事をやっているんだろうけれど、多分僕の認識の範囲外なのだ。そして同時に、難易度の高い演奏をいかに弾きやすくするかの研究成果なんだろうなとも思う)
 そもそも! 「戦場のメリークリスマス」って、ピアノの連弾の曲だぜ。それをギター一本でやるって、どういうこと? オーケストラの演奏で耳馴染みのある「ボレロ」が、ギターだけできっちりその世界を表現しているんだぜ。もう神業としかいいようがない。
 ギターって、5本の指で弦を押さえ、5本の指で弦をはじくっていうイメージがあるが、この人の演奏は、10本の指で弦を押さえ、10本の指で弦をはじいてる。し・び・れ・る、とはまさにこのこと。


★★岡崎倫典のステージ★★(全曲オリジナル)

11.碧のファンタジー
12.ありがとうの言葉を添えて
13.トトラの島
14.あなたへの贈り物
15.メドレー(ムービング・スカンジナビア・春からの招待状・花田植え・スティルライフ)
16.大地の輝

 押尾さんのステージに圧倒され、その余韻が残ったままの状態で、倫典さんのステージが始まった。二人の作り出す世界の違いに最初戸惑い、すんなりと倫典さんのステージに僕は入っていくことは出来なかった。
 しかし、そこもほんの一時。ステージで、CDで、テレビやラジオで、聞き馴染んだ倫典ワールドが、いつのまにかしっくりと僕の中に染み込んでいく。透明で、暖かくて、優しくて、そして秘めた情熱のような激しさを包含したメロディー。
   全てオリジナルでやってのけるのもさすがベテランの貫禄。タイトルや曲に込められた情景が浮かんでくる。この情景というのが、聴く人それぞれのイメージで勝手に作り上げることが出来るのがインストのいいところだ。
 実は、ライブの後、インターネットで「岡崎倫典」を検索してみた。結構あるのだ。ライブレポートもあれば、ただ持っているアルバムのタイトルだけを列記したものもある。すごいのは、耳コピーしたタブ譜を掲載しているサイトまである。心底惚れこんでいるファンの多さを物語っていると思った。


★★岡崎&押尾セッション★★

17.August Stream(岡崎オリジナル)
18.小さな輝き(押尾オリジナル)
19.Europa Nocturne(岡崎オリジナル)
20.もうひとつの週末(岡崎オリジナル)


★★アンコール(岡崎&押尾セッション)★★

E.ファストラブ(岡崎オリジナル)

 「師匠と同じステージに立てるなんて感激です」と、押尾さん。「光栄です」と、倫典さん。そして、夢のセッションが行われた。
 この中でも「もうひとつの週末」は1人では出来ない楽曲だそうで、「ステージ初公開です」と、倫典さん。うーん、これは貴重な場面に居合わせたぞと思う。この会場に来ている人は、おそらく8割以上が押尾コータローが目的だろう。なぜなら、倫典ファンは今日のライブの情報に恵まれなかったからだ。そして、僕は「もうひとつの週末」を生で聴く機会に恵まれた数少ないファンなのである。
 さて、アンコールのファストラブは、倫典さんから「できるだろう」と、その場で渡された譜面を見ながら、押尾さんは演奏する。しかし、それでも本当に楽しそうでした。


★★雑感いろいろ★★

 さて、会場にSMC(ショウコミュージックカンパニー、倫典さんの所属事務所)の社長の姿が見えたので、「倫典さんのソロライブ、大阪ではないのですか?」と質問した。その返事は、「うーん、もう少し待ってくだされば、発表できます」とのこと。ほぼ決まっているが、まだ正式に発表は出来ない。そう解釈したが、これは間違い。MCで倫典さんの口から発表があった。「もう少し」とは、そういう意味であったか。
 というわけで、今後の日程。11月15日に京都の都雅都雅、16日に大阪バナナホール。このほかにも西日本を中心に、長崎や福井など、7〜8箇所の地名をきいたが忘れた。(ごめんなさい)このレポートを書いている段階(9/25)ではまだSMCのホームページでは発表になっていないようだ。
 押尾さんは「今後の予定無し」とステージでは言っていたが、配られたチラシの中に、11月18日に大阪・三国ヶ丘「FUZZ」でのライブの宣伝があった。
 そうそう、バタバタと入場して、手渡されたチケットもろくに見ていなかったけれど、終演後に見ると「企画・製作:ショウコミュージックカンパニー/GREENS」と印字されている。実質FM802主導のライブかもしれないけれど、他社との共同企画かもしれないけれど、一番前にSMCが出てきてるんなら、HPでの告知、ナンとかならなかったのかなあ? 関西の倫典ファンには少し辛い状態だったと思う。ライブ自体を知らなかった人も多いのでは?

 ま、それはともかく、最後にひとつ、倫典さんのMCより。
「ヒートビートは2回目で、以前はソロではなかったのだけれど、そのとき、こんなホールで満員のお客さんを目の前に、ソロでやってみたいと思った夢がかないました」
 だとすれば、たった2回のヒートビートの倫典さんのステージを、僕は両方とも観ていることになる。「ソロではなかった」ステージとは、間違い無く沢田聖子さんのライブであるから。ま、「意味の無い優越感」だけどね。
 

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