必然的日常



 遂げなくてはならない目的をもったサスケは、譲れないものを抱えてたりする。
 いかに自分を鍛えるか、そのことが頭の中の大半を占めていたりする。
 他の事に構っている場合ではないと思っていたりもする。
 ただやっぱり、勿論、好意をもっている相手のことなので。
 優しく応えてやりたい想いも持ってはいたりする。
 しかし、いくら誘いに乗りたいという思いがあったとして、
 だからといって、それをおおっぴらにできるほど素直でもなく、大人でもなく。
 そして、
 目的を忘れることもできず。
 結局は、冷たく突き放すことしかできなかったりするのが常だったので。

 
 そして今日も。
 好きな人の側にいたくて、そのチャンスをつかもうとして、
 カカシの口から解散が告げられた後サクラは即座に行動を起こした。
 
 好きな人の誘いに乗りたくて、でも自分にはしなくてはならないことがあって、
 声を掛けられるのをある意味恐れていたサスケも即座に行動を起こした。 


 今日は僅差でサスケに軍配が上がった。
 心の何処かで残念な気持ちを持ちつつ、サスケは後ろ髪を惹かれる思いでその場を後にする。
 大きな落胆を隠すことなく落ち込んだサクラも、声を掛けてくるナルトを後にその場を離れた。
 
 いつもの風景だった。
 彼等の担当上忍であるカカシが、
 まったくアイツ等は・・・
 などと呆れたような、それでいて優しい笑みを浮かべるほどに、いつもの風景ではあった。

 




 ちょっと通りかかっただけのメガネの少年が、この一部始終を見ていなければ。





 いつもの風景が、変わった。

 サスケがそれに気付いたのは、遅かった。
 いつも通りだと思っていた任務終了後。
 サクラが向かった先は、自分ではなかった。
 いつもいつも、逃げるようにその場を去っていた為、まったく気付かなかった。





 サクラの向かった先。
 

「おい、ウスラトンカチ。アイツ何モンだ。」
 サスケが凝視したその先にいたのは
 メガネをかけて、ニヤつきながら(←サスケの主観による描写)
 自分に向かってくるサクラに目を向けている男。

 

「知らねーってばよ。サクラちゃんに聞いても教えてくれないしよ・・・。
 はぁ・・・。もう1週間だってばよ・・・。」
 ナルトもどこか納得できない様子でサクラの行方を見つめている。
 サクラが男のもとに辿りつき、こちらを振り返って手を振った。
 そのサクラの笑顔に一瞬見惚れつつ、
 聞き捨てならないことを聞かされてサスケは珍しく慌てる。
「1週間!?」
「あれ、お前ってば知らなかったのか?
 あいつ1週間前から毎日サクラちゃんを迎えにきてるんだってばよ。」
 そこに彼等の上司、腐っても上忍のカカシがのん気な声を掛けてきた。
「あー・・・アレはお前等の先輩よ。」
「・・・先輩、だと?」
「そー。お前等より、いくつ上だったかなー。とにかく先輩。下忍だしな。」
「・・・その『先輩』が、サクラに何の用があるってんだ・・・。」
 カカシの説明ともつかない説明を聞きながら、サスケはその目付きを険しくする。
 いかに自分を鍛えるか、とか。
 他の事に構っている場合ではない、とか。
 あれだけ頭にこびり付いていた文句も、
 今や念頭からすっかり消えさっていたし。
 譲れないと思うものが、あっさりサクラに変わっていた。


「あの様子はどー見ても、サクラの方が彼に用があるって感じだと思うがなー。」
 カカシのそんな呟きも、既に頭に血が上ったサスケの耳には届かない。










「今日は、彼、居なくなってなかったね?」
「そうですね・・・。」
「良かったの?」
「・・・はい!今の私は、もっと自分を磨かなきゃ!
 サスケ君から追いかけてもらえる女の子にならなきゃダメなんです!」
 サスケ君は、追いかけたりしないだろーな・・・と内心冷静に思いつつ、
 それでもサクラはそれを夢見て自分を奮い立たせる。

 サスケが心の中で、とっくに自分を追いかけていることも知らずに。



「だから、カブトさん!今日もよろしくお願いしますね!」
「うーん。僕はいいんだけどね・・・。」
 カブトはチラリと背後に意識を飛ばしながら、サクラに目を向けた。
「カブトさん、薬草の知識すごく豊富で専門的なんだもん。
 私、今そういうことすごく勉強したいんです。」
 サクラの視線は、その思いの深さを語っている。
 

 カブトはなんとなく想像できた。
 それはきっと、少女自身と・・・
 あの、少年のために。


「そういうことなら、遠慮なく、しごいてあげようかな?」 
 カブトはメガネを指で押し上げて掛け直し、隣りを歩く少女に向かって笑いかけた。
 その後の少女の反応を確信しながら。

 そして少女は、確信通りに。
 カブトにニコリと笑顔を返し、よろしくお願いします!と声をあげる。





 笑顔で楽しそうに語り合いながら並んで歩く男と女。
 側から見れば、そう。
 イイ感じの2人だったりする。


 例えカブトが、「そう見えるように」振舞っていなくても。


 ・・・頭に血が上った状態でなら、それ以上の2人に見えたりもした。















 任務後、サスケがサクラと2人で歩いている様子を見かけるのは珍しい。


 大抵は、自己訓練に勤しむためにサスケがさっさと姿を消すからだ。
 サスケに想いを寄せるサクラにしてみれば、
 カカシが任務終了を告げてからいかに早くサスケに声を掛けるかが勝負になってく る。
 その勝負に勝ったとしても、やはり大抵はサスケ本人によってあっさり負かされるのだが。





 その珍しいことが、最近はしょっちゅう見かけられたりする。
 2人の間に何があったのか、周囲の人間達はざわめいていたりする。
 彼等の担当上忍であるカカシが、
 やれやれ・・・ 
 などと呆れたような、それでいて優しい笑みを浮かべる様子だけが、以前と変わらない。

 



 元凶を作ったメガネの少年は、
 あるべき鞘に収まったな、などと思いつつ、
 どこか残念な気持ちを持て余していたとか、いなかったとか・・・。

 


オワリ

「湊楽堂」の紺野ミナトさまから頂きました〜。人はそれをタナボタと言います。
 私が紺野さんのサイトで「1111」を踏んだ時に掲示板でその事をご報告しましたら、
 ありがたくも「リクエスト下さい」と言ってくれたのです。
 私のリクエストは「カブト先輩絡みのサスサク」でした。
 そしたらこんな素敵な小説を頂けましたよ。
 人はそれをタナボタと言います。
 紺野さま〜、ありがとうございました!
 嬉しさのあまりカットなんぞを描いてしまいました〜。イメージ壊してたらごめんんなさいまし〜。

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