増田都子の
名誉棄損訴訟の経緯と展望
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平成16年5月25日
弁護士 徳 永 信 一
| 1 控訴審判決の意義 | |
| ● | 平成14年12月25日、東京高裁第15民事部の赤塚信雄裁判長は、土屋敬之都議・三輪和雄氏の控訴と増田都子教諭の控訴を共に棄却し、土屋都議らに慰謝料等35万円を増田教諭に支払うよう命じた一審判決をそのまま維持する判決を言い渡しました。土屋都議らの一部敗訴が維持されたのは全く以て残念でしたが、他方、勝訴部分も維持されたことを忘れてはなりません。実のところ、12の争点のうち9つの争点では土屋都議・三輪和雄氏が勝ち、負けていたのは3つだけでした。内容的にも訴えの主要部分では勝訴していたのです。 平成12年に増田教諭が提起した本件訴訟は、土屋都議と三輪和雄「世論の会」会長によるJR北千住駅前での街頭演説とその際に配布されたビラによって彼女の名誉が棄損されたとして慰謝料等380万円の支払いと謝罪広告を求めるものでした。 増田教諭が訴えた土屋都議らの街頭演説の主要部分は、彼女の授業方法が政治性の強い「偏向教育」であることを告発し、授業中に生徒の母親を中傷する内容のプリントを配布して生徒と母親を傷つける「人権侵害」を冒しながら一切の反省と謝罪を拒否している彼女を「教師として完全に失格した人格」であると指弾し、都教委に「懲戒免職」を求めるものでした。裁判所は、これらをいずれも事実に基づく正当な表現であると認定し、事実に反する誹謗であるとする彼女の主張を退けたのでした。 増田教諭による極端な偏向教育を問題視し、教育の正常化を求めてきた土屋都議らの教育改革運動にとっても、彼女が提起した裁判の判決の中で、その授業が「偏向教育」であり、授業中の「人権侵害」が認められたことは大いに意義のあることと言えるでしょう。 (詳しい解説は下記参考資料参照) |
| 2 増田教諭の記者会見 | |
判決当日、増田教諭は裁判所の記者クラブで記者会見を開き、土屋都議らの名誉棄損を一部認めた一審判決が維持されたことをもって「大変満足しております」との声明を発表しました。それは全く奇妙な会見でした。自らの控訴が棄却され、自身の授業が「偏向教育」であり、自らを「人権侵害教師」「教師としての適格性を欠いた人格」とする土屋都議らの演説を正当なものとした部分が維持されたことについては、全く触れないままでした。これによって土屋都議らの一部敗訴を強調しようとする政治判断なのでしょう。都合の良い部分だけ利用し、都合の悪い部分は隠す。彼女の授業や運動の手法そのままです。彼女の本心が控訴審判決を不服としていたことは、その後に上告したことからも明らかでした(双方からの上告及び上告受理申立ては、いずれも程なく退けられ、一審判決が確定しました)。 記者会見では、続いて、古賀・田代・土屋都議の共著である 「こんな偏向教師を許せるか」を名誉棄損で訴えたことが公表されました。自分にとって都合の悪い判決を土俵を変えて挽回しようとする、なんとも凄まじい執念です。 |
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| 3 名誉棄損訴訟の枠組みと敗訴部分 | |
さて、名誉棄損の民事裁判の枠組みですが、先ず演説等の表現が名誉(社会的評価)を害するものかどうかが争点となりますが、これが認められても直ちに不法行為が成立するわけではありません。憲法が保障する表現の自由との調整が必要になります。すなわち、その表現が、公共の利害に関わるものであり、公益を図る目的でなされた場合には、摘示された事実(意見表明の場合は基礎とした事実)が真実であるとの証明(真実性)があるか、証明ができなくとも真実であると信じるについて相当の理由(相当性)があれば、正当な言論とされ、原則として不法行為は成立しないのです。 裁判所は一審も控訴審も、土屋都議らの演説内容等が増田教諭の社会的評価を低下させるものであったことを認める一方で、公教育は社会の関心事であることから、増田教諭による授業に対する批判は公共性を有しており、その教員としての適格性を問題として懲戒免職を求めることは、公益目的に出た言論であったことを認め、誹謗中傷が目的だとした増田教諭の主張を退けました。公立学校の教諭も公務員であり「全体の奉仕者」であることからすれば当然のことです。 そこで次に問題になるのが表現の真実性と相当性です。「偏向教育」、「人権侵害教師」、「教師として完全に失格した人格」の外、「学習指導要領の枠の中で授業をやっていない」、「思想統一されるような授業」といった表現は、いずれも真実性ないし相当性ありとされ不法行為の成立が否定されました。他方、増田教諭を「犯罪者」と呼び、「過激派や爆弾犯人を応援している人達」が支援者であるとした点、更に、運動の支援者が持ち込んだ幟に描かれた「魔女を模した絵」の3点については、真実性の証明がない等として不法行為の成立を認められたのでした。 「犯罪者」や「過激派」という用語は多義的であり、人権侵害を行ったものを「犯罪者」と呼び、今時プロレタリア独裁を掲げる集団を「過激派」と表現することも用法の範囲を逸脱したものとはいえません。しかし、裁判所は「犯罪者」を過去に刑事犯罪を犯した者の意味に解し、「過激派」を暴力集団に限定し、その証明を要求したのです。いささか厳格に過ぎる姿勢であり、表現の自由を萎縮させる虞があります。また、街頭演説全体からみれば、敗訴部分は主要部分から外れた些細な表現についてのものでした。土屋都議にとっては不用意に揚げた足をとられた格好ですが、演説全体の正当性は肯定されたと受け止めてよいでしょう。 |
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| 4 第2ラウンド〜『こんな偏向教師を許せるか』名誉棄損訴訟 | |
現在、増田教諭が記者会見で公表した『こんな偏向教師を許せるか』(展転社)を対象とする名誉棄損訴訟が、土屋都議とともに共同執筆者である古賀俊昭、田代ひろしの三都議と発行人の相澤宏明氏を被告として東京地裁に提起され、現在審理が続けられています。蔓延していた偏向教育を糺し、教育現場を改革するべく立ち上がった三都議の闘いに対する増田教諭の反撃です。痛み分けに終わった名誉棄損訴訟の第2ラウンドです。 『こんな偏向教師を許せるか』には、増田教諭の授業があたかも政治学習会のうな「偏向教育」であり、教室で「洗脳教育」ともいうべき「マインドコントロール」が行われていたことや、授業中に女生徒の母親を誹謗するプリントを配布した増田教諭の「人権侵害」や一切の反省・謝罪を拒否する独善的態度、そしてこれを放置できないとして立ち上がった三都議による都教委との闘いやその成果が経緯とともに詳しく描かれています。増田教諭はその中にある「偏向」「洗脳教育」「マインドコントロール」「人権侵害」という言葉等を含む30箇所を名誉棄損だとして訴えています。一切の批判を許さない唯我独尊の独善を貫く増田教諭の面目躍如というところですが、今回は街頭演説に支援者が幟を持ち込むというハプニングもなく、「過激派」や「犯罪者」という誤解を招く表現もありません。法廷では「マインドコントロール」の実態が明らかにされ、増田教諭は再び返り討ちに合うでしょう。 そのためか、審理の途中、増田教諭は都教委から受けた減俸処分や研修命令処分を本の中で公表した箇所を取り上げ、それが彼女のプライバシー侵害にあたるとする請求を新たに付け加えました。公務員の違法行為とこれに対する公的処分の公表が私人の私的領域を保護するプライバシー権の侵害になるわけがありません。増田教諭の主張はますます混迷を深め不可解なものになるばかりです。 とはいえ、名誉棄損の訴訟は、用いられた言葉の解釈如何によって結論が分かれる微妙な裁判ですので予断は許せません。大勢は既に決していますが些細なところで足を掬われる虞は完全には消えてないのです。秋以降には、いよいよ三都議の尋問が始まります。教育の現状を憂える多くの良識人の注目を呼びかけると共に、ますますの御支援をお願いしたいと思います。 以上 |
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