目の前に掲げられた小さなプレートにこの部屋の主の名が書かれている。

『涼宮遙』

私はそれを見て自嘲する。

今更そんな物を確認しなくとも、この部屋の事は誰よりも私が知っているというのに・・・。

「・・・・・・」

私は意を決して目の前のドアを2回、ノックする。

「・・・はい」

ドアの向こうから聞こえる返事。

私の入室を許可するそれを聞いて私はドアを開いた・・・。

 

 

 

君が望む永遠 9月10日より

 

HAYASE MITUKI SIDE STORY

〜閉鎖空間〜

 

 

「こんにちは、遙」

「こんにちは、涼宮」

「えっ、水月・・・それに平君」

いつもと変わらない病室のベッドの上に遙が居る。

しかしその手には先日発売されたばかりの雑誌が握られていた。

ベッドの脇にも積まれた多くの書籍。

それは止まっていた時間を取り戻そうとする彼女なりの意思の表れ・・・。

彼女は今、3年という年月を乗り越えようとしているのだ。

その顔は最初に目覚めた時に比べれば大分血色が良くなったようだ。

少しずつだが頬に肉が付いてきている様にも見える。

今、彼女は退院に向けて心身共に、リハビリの真っ最中。

再び自分自身の脚で病院の外の世界へ踏み出す日もそう遠い事でもないだろう。

 

「水月・・・また・・・来てくれたんだね・・・」

「何を言っているの遙。当然じゃない」

「うん、ありがとう」

微笑む遙。

「平君も来てくれてありがとう。

なんか久しぶりだね」

「すまないな涼宮。本当は学生の俺の方が速瀬よりも自由な筈なのに・・・。

でも女の子の見舞いなんてちょっと照れくさくってな」

「そんなことないよぉ。来てくれるだけでも嬉しいから・・・。

あ、二人とも立ってないでこっち来て座って」

そう言って手にした雑誌を脇に置いて折りたたみの椅子を指差す。

「・・・何見ていたの、遙」

私は彼女の手元にある物が気になって尋ねてみる。

・・・半月前までは見るどころか、話題にする事さえ禁忌とされた物を遙はどのように受け止めているのだろう・・・ふと、そんな考えが脳裏をかすめる。

「え、これ・・・」

遙は今しがたまで開いていたページを私に見せる。

そこには今流行りのファッションを着こなしたモデルの写真がいくつか載っていた。

「これなんかどうかなぁ、私にも似合うかな?」

そう言ってその中の一つを指で指し示す。

遙らしい選択のコートとセーターの組み合わせ。

「もう・・・冬物なんて載っているのね」

「9月って言えばもう秋だよ、水月。

そうしたらあっという間に冬が来るんだから」

「気が早いよ涼宮」

呆れ顔で言う慎二君。

「そんな事無いよぉ、こういうのは早くに用意しないといけないんだから。

水月も女の子なら判ってくれるよね」

そう言って私に雑誌を差し出す遙。

私は3年前とさほど変わらぬ彼女に少々驚いたが・・・、

「そうね。ちょっと貸して・・・。

う〜ん、この辺が今年の流行だけど私は余り好きじゃないなぁ」

「えぇ〜、水月はそっちの方が似合うよぉ」

「私だったらこっちの方を選ぶな。

遙は・・・うん、これが似合うと思うな」

「う・・・でもちょっと高そうだね」

「何言っているの、遙は地味目なんだからもっと自分をアピールするのを選ばなくちゃ」

私はそう言って再びページをめくる。

「・・・・・・ねぇ水月」

「何、遙?」

「3年って、意外と大した事無いよね・・・」

「・・・・・・えっ!?」

「す、涼宮・・・」

遙の口から飛び出した意外な言葉に私も慎二君も、思わずギョッとして遙の顔を見る。

「あ・・・ごめんね。そんなつもりで言った訳じゃないの。

でもね、こうやって色々と外の情報を見ていると思ったの・・・私が事故に遭う前とそれ程世の中は変わってはいない・・・って」

「遙・・・」

遙は窓の向こうを眺めながら続ける。

「最初はもちろん戸惑ったわ・・・。

でもね、例えばこの空が2度と見れなくなった訳じゃないの。

・・・そりゃ、外を歩けば気に入ったお店が無くなっている事くらいは有るかもしれない・・・でもそれで私が知っていた世界が全て無くなったわけじゃないのよ」

そう言って遙は脇に置いてあった封筒を取り出す。

「それ・・・遙・・・」

それは白陵大の入学願書だった。

「うん、年が明けたら白陵大を受験してみようと思うの。

もちろんそれで受かるとは思っていないけど、それでも受けてみようと思うの」

「は、遙なら今からでもきっと大丈夫よ」

「そうさ、涼宮が合格したら晴れて俺の後輩じゃないか!

よし、俺も応援するからな」

「ありがとう、2人とも。

ほら、こうして私にはまだ水月も平君もいる。

少しばかり他が変わっていても今の私はそれだけで充分だよ・・・」

「・・・・・・」

馬鹿・・・。

何が少しばかりよ・・・。

遙にとって一番重要なことが抜け落ちているというのに・・・。

・・・でも、だからこそ遙は私を求めていてくれる。

遙には、これ以上の「変化」に耐えられる筈が無いから・・・。

ならば私はいつまでも彼女の元に居なければいけない。

遙が一人で歩き出せるその日がくるまで。

それが私の・・・今の私の義務なのだから・・・。

「だからね水月・・・私が退院したら一緒に出かけたいの。

もう一度水月と外を歩きたいの。約束・・・してくれるかな・・・」

「何言ってるのよ。そんなの当たり前じゃない。

遙が行きたい場所ならどこにだって連れて行ってあげるわよ。

だから遙は一日でも早く、ちゃんと歩けるようにならないとね!」

「うん・・・」

「そうだよ涼宮。

速瀬の言う通り今は退院の事だけを考えていればいい。

涼宮さえしっかりしていれば俺達はいつでも一緒に居られるんだから」

「ふふふ・・・ありがとう、平君」

「そういえば憶えている遙?

ほら、昔・・・ううん前によく行っていた駅前の小さなケーキ屋があったじゃない」

「うん」

1年くらい前に何かの雑誌に載って、今じゃわざわざ関西から来た人が買いに来る程で毎日凄い行列のできるお店になっちゃているんだなぁ、これが」

「え!? 嘘・・・」

「やっぱりびっくりした? 遙。でも本当なんだから。

よしっ! 今日は目を覚ました眠り姫様に、貴女が寝ていた間に何が起こったのか色々と教えてあげよう!」

「うん、うん。教えて、水月」

それから暫くの間、私はちょっとした街の変化で驚く遙の顔を見て楽しんだ。

もしも本当に浦島太郎がいたら、こんな感じだったのかな。

そんな風にも思えた。

 

 

コンコンッ

ドアがノックされて1人の看護婦が入ってくる。

入ってきた人間を見て部屋の中の空気が一変する。

「涼宮さん、検診の時間・・・あら、今日はお友達の方がいらしていたんですね」

私達の方を向いて微笑む・・・穂村愛実。

「!?・・・・・・」

「・・・・・・」

そんな彼女に私も遙も目を逸らす事しか出来ない・・・。

「すぐ済みますのでそこで待っていて下さい」

私達から発せられる困惑と嫌悪を意にも介さず彼女は自分の仕事を丹念にこなす。

その彼女の質問に淡々と応える遙・・・。

私はそんな遙を見ながらこの部屋から逃げ出したい想いを、ぐっと我慢し続けたのだった。

 

暫くして穂村愛実が部屋を出て行っても、再び誰も喋ろうとはしなかった・・・。

 

 

「また来てくれるよね・・・水月・・・」

部屋から出て行こうとする私に遙が呼びかける。

遙が2度目に目覚めて以来、いや、孝之が私達の元を去った時からの決まり文句。

今の彼女には私達しかいない・・・。

どんなに身体が回復しても・・・どんなに心で納得していても・・・。

3年という壁が隔てていたこの世界で遙が頼みにしているのは今や「親友」の私しかいないのだ・・・。

振り返ると縋るような遙の眼差し・・・。

「・・・・・・」

そこに込められた想いは孝之の場合と私の場合とは別のものだ。

しかし、その眼差しを見れば少しだけ孝之の気持ちが判る気もする。

「・・・・・・。

何を言っているのやら、当ったり前じゃない遙。また、来るからね♪」

「・・・うん!!」

これ以上無いくらいの笑顔をする遙。

「ぁ・・・・・・」

私はその遙を孝之に見せまいと色々してきたのに・・・その笑顔がこんな形で自分に向けられる事になるとは皮肉な物だ。

背中に圧し掛かる「笑顔」という重荷を感じながら私は病室のドアを閉めた・・・。

 

 

 

「ちょっと待てよ速瀬!」

病院の外へ出るなり慎二君が私を引き止める。

「何・・・慎二君」

「何って・・・お前これからどうするつもりだよ・・・」

「ん・・・せっかく出てきたんだし、買い物でもして帰るわ」

そう言って再び歩き出そうとする私の腕を慎二君は掴んだ。

「待てよ、速瀬」

「ちょ、ちょっと慎二君・・・」

「そういうことを聞いているんじゃない。

涼宮に・・・いつまで黙っているつもりなんだ・・・」

「あ・・・・・・」

・・・そう、今でも遙は私と孝之が付き合っていた事を知らないのだ。

遙は何も知らされていない・・・。

私と孝之の事・・・。

私と茜の事・・・。

そして私と慎二君との事だって・・・。

「だいたい・・・今のお前の言葉も嘘だよな」

「え・・・」

「1人で帰って、また部屋に篭って・・・泣いて過ごすのか?」

「!?」

「・・・図星みたいだな」

「・・・・・・」

全て・・・お見通しなんだ・・・。

横顔でちらりと見ると、真剣な眼差しの慎二君の顔があった。

・・・そうか、そうよね・・・。

慎二君はいつだって私を見つめていてくれたんだから・・・。

私はそんな彼の気持ちに気付くことなく自分勝手なことばかり言って・・・。

「・・・速瀬、お前さえ良ければ俺だって・・・それに涼宮だってまた仲良くやっていける。

違うか・・・?」

慎二君はいつだってやさしく言ってくれる・・・。

でも・・・。

「・・・ごめん。私には無理みたい・・・」

「どうして!?」

「どうしてって・・・私、私にそんな資格なんてないわよっ!!」

私は叫びながら、自分の頬を伝う涙に気が付いた。

「あの娘から孝之を奪って、孝之を苦しめて・・・それに慎二君、貴方まで利用して・・・」

「速瀬、俺の事なんていいから・・・」

「よくない、よくないよ!!

私、慎二君の気持ちなんて何も考えずに・・・酷い女だよね・・・うっ・・・く・・・」

「気持ちを考えてなかったのは俺の方だ・・・あいつが、孝之が居なくなっちまったからってやっぱりお前に言うべきじゃなかったんだ・・・『好きだった』なんて・・・」

あの日・・・数日振りに出会った孝之と別れたあの日・・・彼は私に告白してきたのだった。

・・・白陵の頃から好きだった、と・・・。

「ううん・・・寂しさから貴方を頼ったのは私の方・・・だよ・・・。

ずるいよね・・・あんな態度とってみせたくせに・・・本当は孝之に当てつけたかっただけなのに・・・」

「速瀬・・・」

「孝之が浮気したからって・・・私も同じだよね・・・。

なのに慎二君に応えてあげられないなんて・・・本当、自分でも最低だと思うわ」

「違う、俺がもっとしっかりしていれば、今だって速瀬がこんなに悩む必要は無かったんだ・・・」

「慎二君・・・」

「あの日・・・のうのうと出てきたあいつを見たときに・・・思わずかっとなっちまって。

本当は孝之の言い分くらい聞いてやるべきだったんだ・・・。

なのにあいつときたら・・・はっ! 何も言わないんだぜ。

それを見たらこんな奴にお前を、速瀬を任せて置けない・・・ついそう思って・・・さ・・・」

「うん・・・」

「でも本当は俺の心のどこかで・・・速瀬は俺の物だって気持ちがあったんだ。

はは・・・これでよく、今まで親友やってこれたよな・・・」

自嘲する慎二君。

「・・・本当は何が何でも孝之を引きずって帰らなきゃいけなかったのによぉ」

・・・それは・・・違うよ慎二君。

きっともう1度孝之とやり直しても、きっと上手くはいかなかったと思う・・・。

だって・・・私自身が孝之を信じきれなかったから・・・。

孝之が彼女、穂村愛実と浮気した事は本当の事だから・・・。

私でもなく、遙でもない女性・・・。

それは・・・孝之は逃げ出したということ・・・。

私でも、遙でもない世界へ・・・。

そんな孝之を許せるほど・・・私は強くは無かった・・・。

・・・だけど・・・。

そう孝之を仕向けたのは私だ。

私か遙を選ばせるようにしたのは私・・・。

遙に私達の事を話すように迫ったのは私・・・。

毎日の見舞いに不安を感じたのは私・・・。

孝之を信じられなかったのは私・・・。

全部・・・全部私が撒いた種だったんだ・・・。

だったら・・・。

「こんな・・・こんな事になるのだったら・・・うくっ・・・遙に返してあげればよかったんだ・・・うう・・・。

本当は・・・孝之だって・・・遙が・・・遙のことを・・・う・・・く・・・・・・」

「速瀬・・・」

「本当・・・馬鹿だよね私・・・。

遙が目を覚ますまでの代わりでしかなかったのに・・・いつの間にか孝之を自分の物と勘違いしていた・・・。私が物語の主人公になれるわけ無かったのに・・・」

それを聞いた慎二君は私の両肩をがっしりと掴んで言う。

「待てよ速瀬。どうしてそうなるんだよ」

「う・・・く・・・」

「お前達は言うんじゃなかったのかよ。涼宮が目を覚ましたら、その時2人がどうなっていても涼宮に報告する。俺の前で2人で約束したじゃないか・・・。

孝之は・・・本当にお前を愛していたんだ・・・」

「・・・う・・・うん・・・」

彼のその言葉は間違いじゃない。だから私は頷く。

「・・・でも・・・結局あいつはその約束を破っちまった・・・。

他の女に逃げたのはあいつ自身の弱さだ・・・速瀬が、自分のせいにするのはおかしいさ」

「でも・・・」

「じゃぁ、どうしてあいつは何も言わなかったんだ!

どうして今だって連絡一つよこさないんだ!

本当に・・・本当にお前の事が・・・」

「・・・・・・」

「速瀬の事が大事ならどうしてあの時弁解しなかったんだよ!

孝之・・・!」

慎二君は拳を握り締めて言った・・・。

「ごめん・・・慎二君・・・」

「あ・・・いや・・・」

本当は・・・彼が一番悔しい筈なのに・・・。

私なんかよりも長い間孝之と一緒にいた彼。

3年も孝之と私との間で板ばさみになっていたその彼の想いは私にしかわからない筈なのに・・・。

「・・・・・・」

「・・・・・・」

暫しの沈黙。

再び口を開いたのは慎二君の方だった。

「速瀬・・・。

もう孝之の事を忘れろとは言わない。俺が孝之の代わりになるとも言わない。

だからって、いつまでも速瀬が孝之の事で自分を責める必要がどこにあるっていうんだ。

そんな事、涼宮は求めていないと思うよ」

「うん・・・」

「なあ、涼宮は・・・速瀬の親友だったんだろ。だったら涼宮は許してくれるさ。お前が、速瀬さえ本当の気持ちを伝えれば・・・必ず」

「でも・・・」

「このまま黙っているのが・・・一番涼宮にはいけない事だって解るよな、速瀬」

「うん・・・」

「本当に速瀬が涼宮に対して悪いと思っているのなら、涼宮に3年を教えてあげるべきだと思う」

「うん・・・」

「怖い?」

「うん・・・」

「俺が付いていようか」

「ううん・・・」

「・・・そっか。

そうだよな・・・」

私の答えに頷く慎二君。

「俺・・・振られたけれど、速瀬がいいって言うならいつだって力になるから・・・さ」

そう言ってハンカチを差し出す。

「ありがとう・・・慎二君。

でも、いいの・・・」

私は差し出されたハンカチを受け取らずに掌で涙をふきとった。

それを見た慎二君は苦笑しながらポケットにしまうと、

「悪ぃ。俺はこのまま帰るから・・・また、連絡くれよ・・・」

そのまま背中を向けて歩いていった。

「あ・・・う、うん!」

私の返事に彼は右手を軽く上げて応えたのだった。

 

 

 

私は再び、先ほど来た道を駆け戻った。

遙の居る病室への通路の入り口・・・。

そこにはまるで私を待っていたかのように1人の女性の姿があった。

「茜・・・」

「・・・・・・」

3年前から変わらぬ茜の冷ややかな眼差し。

いや、孝之が私の傍に居なくなった時からそこには哀れみと侮蔑が加わっていた・・・。

「ごめん・・・遙、まだ起きている?」

「・・・自分で確認したらどうです」

「そうね・・・ごめんなさい」

そう言って彼女の脇をすり抜けようとした時、

「・・・謝ればなんでも許してもらえると思っているんですか?」

茜が呟いた。

「茜?」

「あの姉さんのことです・・・きっと貴女のような人でも許してしまうんでしょうね・・・」

「・・・・・・」

「でも・・・」

茜の全身が震える。

「でも、私は貴女を許さないから!

鳴海さんが居ても居なくても関係ない!

貴女さえ・・・貴女さえ居なければ誰も苦しまなかったのに・・・」

「・・・言いたいのはそれだけ?」

「なっ!?」

「私は茜にも・・・遙にも許してもらおうとは思っていないから・・・」

「開き直るんですか」

「開き直る?

違うわよ・・・最初から私は許しを請える立場だとは思っていないわ」

「フン・・・。よく解っているじゃないですか。

そうですよね・・・それくらい図々しくなければ『親友』の恋人を取るなんて事、出来ませんよね」

「・・・ええ、貴女の言う通りかもしれない」

「・・・・・・。それで? 今まで姉さんを騙し続けてきた貴女が一体何の用ですか?

貴女の顔を見れば忘れ物を取りに来たわけじゃないって事くらい、私にだって判ります」

茜が私を睨みつける。

この娘は、私が何をしに帰ってきたのかが解っているんだ。

「言うわ、遙に・・・全てを・・・」

それを聞いて茜は、はぁとため息をついて言う。

「そんな事じゃないかと思いましたよ。

今更? あの人に説得でもされたんですか

姉さんと貴女は昔親友だったから、話せば解ってくれるって」

茜は的確にさっきまでの私と慎二君との会話を言い当ててきた。

「・・・もう、手遅れですよ」

「・・・そうかもしれないわね」

「・・・・・・」

「でも・・・私はやっぱり伝えなくちゃいけなかったんだ」

「このまま黙っていれば、貴女と鳴海さんの事には気付かないかもしれませんよ。

姉さん、鈍感だから・・・」

「本当にそう思う?」

「・・・・・・」

「・・・・・・」

「・・・知っていますよ」

「・・・え?」

「姉さんは貴女と鳴海さんのこと、全部知っていますよ。

・・・私が話しましたから」

「・・・・・・そう・・・」

不思議と茜の口から出た言葉に私は冷静に対処出来た。

・・・そうか、遙は全部知っていたんだ・・・。

その上で私達の道化に付き合っていてくれたんだ・・・。

本当・・・馬鹿だよね・・・私・・・。

「『そう』って、それだけですか!?」

「だから何? 遙が知っていようと知っていまいと関係ないの。

私は私がやらないといけない事をするだけだから」

「つまり姉さんの意思は関係ないって事ですか?

貴女の自己満足の為なら・・・今すぐに帰ってください!」

「・・・まだ判らないの・・・茜」

「な、何を・・・」

「遙は私を待っている・・・待って・・・いて・・・くれた・・・・・・」

「え・・・?」

「これ以上言う事が無いのなら・・・私は行くわ」

「う・・・・・・」

私はそのまま茜の横を通り過ぎていった。

「・・・許さないから・・・例え姉さんが許しても・・・私は絶対に・・・・・・絶対に・・・・・・」

背後から聞こえる茜の台詞は、しかし徐々に小さく消えていった・・・。

 

 

目の前に掲げられた小さなプレートにこの部屋の主の名が書かれている。

『涼宮遙』

「・・・・・・」

私は意を決して目の前のドアを2回、ノックする。

今度こそ、この閉じられた世界を終わらせる為に・・・。

 

 

君が望む永遠 

〜HAYASE MITUKI SIDE STORY〜

END  (BGM 終わりを迎える日まで)

 

 

 

 

 

 

〜あとがき〜

さて、如何だったでしょう?

読んでみれば判るように、非常に「水月」に都合の良い話ですよね。

遙は許してくれて、慎二とは付き合わずに、でも理解者で居てくれる。

可能性は無くは無いと思いますがその確率はとても低いものでしょう。

しかし・・・それでもあのシナリオの水月たちを信じてみたいとは思いませんか。

そもそも、愛実シナリオの孝之はやっている事が無茶苦茶です。

仮に愛実と(監禁される前に)上手く別れたとして、その後で今度は遙と水月の問題をどう解決するのでしょうか? あの孝之にそれを求めるのは無理があります。

そんな孝之に水月を任せられないと思う慎二はある意味正しいのでは?

もちろん、その後で慎二と水月が付き合うかどうかはまた別の問題ですよ(当然この発想自体が水月に都合が良すぎる考えですがね)。

 

まぁとにかく、表では孝之とマナマナの(変態)ラブラブ話が展開されているんだから、水月たんにもそれなりに救いをあげたいな、と思って書いてみました。

水月(と慎二)は・・・悪くないよね?(苦笑)

 

管理人コメント〜
で、こちらがPC版のマナマナエンドの水月SS。

水月が冷静さを取り戻して、閉鎖された世界を脱して先に進もうとするなら、遙と茜との関係がこの後どうなろうとこういった展開を避けるワケにはいかないのではないでしょうか?
遙の答えによっては水月に都合の良い話にはならないかもしれませんが、彼女には孝之と遙との関係に決着をつけて将来に向けて歩き出してほしいものです。
逃げの人生を送るのはヘタレ孝之だけで十分です。

マナマナエンドでの水月は疲れていました。
慎二に頼らざる得なかったのだろうなと、それはわかります。
但し、やはり水月が時間を置いて冷静さを取り戻したとき、慎二と恋人という関係を維持出来るものなのかは甚だ疑問ですね。
このSSくらいの距離感で落ち着くのが二人にとっては理想的ではないでしょうか?
もしも慎二がそれに満足出来ず水月に執着することがあるのなら・・・それこそ水月ス○ーカールートってことで(藁

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