雪舟   2000/09/24 00:45
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501  十六夜舟荷崩れの青磁浮き

502  雪舟の線で描かれた老大樹

503  俊敏なマウスに抜かれる花言葉

草間時彦に「老の手のマウスに遊ぶ梅雨ごもり」の一句あり。さすればパソコン用語も俳句市民権を持ちはじめたと言うべきか。

504  湯殿山蛇も湯流れにひたりけり

505  天高く肩車の父も低くなり

冬月君、小生は、あまり俳句作法にこだわらず、いわば着流しで書いている。いわく「直感」。でも、俳句作法に乗っ取ると不思議に言葉がスム−ズに流れていくみたいだ。そんな自己矛盾の隙間をかいくぐりながらも書いていくほかなさそうだ。



癌病棟   2000/09/24 12:22
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506  命なり癌病棟に桐一葉

507  天命を待つ友ひとり娑羅の花

508  秋深く諸行無常と友嘲笑(わら)う

509  万緑の柩にすがる幼き子

510  喪主の妻涙も見せず秋の寺



眼鏡(がんきょう)   2000/09/24 17:38
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511  眼鏡に透きとおほる秋の句集あり

512  眼鏡を洗ひて遠し秋の海

513  水瓶の寒夜に臥せる母ひとり

514  俳友を持って七草はじまりぬ

515  新らしき眼鏡に浮きし秋の峰

「言葉から意味引けば零である。無意味である。コンピュ−タは言葉から意味を剥ぎ取る」。この馬鹿馬鹿しい命題は一体、何ですか?むしろ、コンピュ−タは、意味を多様化し、ますます曖昧にしています。

吉本隆明の『言語にとって美とは何か』には「言葉には必ず意味がある」と定義してあります。これはヘ−ゲルの明晰さを求める論理哲学からの発想です。ただし彼は失敗しました。日本語にある「間」の深さを見落としています。それは禅的発想とでも言ったらいいのでしょうか、「結界の思想」です。田村隆一ふに言えば「言葉のない世界」にも「言葉」が存在する「事実」です。

御存知でしょうが、「結界の思想」で問題にされるのは、たとえば「門」。それは風がふきぬける「空間」であると同時に「境界」を意味しています。ほかには「すだれ」。内側から外が見えても外側から内側が見えない。

ミッシエル・フウコ−が日本に来て驚嘆したのは一枚の座布団だったようです。たとえば前に来た客の座った座布団を新しい客を迎える時は裏返す。つまり座布団一枚で風景を一新してしまう。「時間」と「空間」を一瞬の内にひっくり返してしまうのです。

「俳句空間」にも、「阿吽の呼吸」とも言うべき「転倒」スリルがあります。俳句における言葉のアクチュアリイも、そのような風俗習慣にもとずいた「場」にあると考えています。



詩人   2000/09/24 20:01
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516  淋しき血引きし青年秋の海

517  目刺し喰う詩人は濁酒に飲まれをり

518  海までの泥道詩人の秋の果て

519  出郷の秋も去りゆき家族散り

520  水風呂にひたりて冬の詩人死す

1976年、冬。石原吉郎逝去。享年62。ひとり住まいの団地の風呂で亡くなっていた。奥さんが精神病院に入院中の出来事だった。その奥さんも、後を追うようにして亡くなった。

遺稿の句に「眼帯のうらに眼をもち野分夜」。



飢えるス−ダン   2000/09/24 23:17
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521  りんりんとののしる疾風野分かな

522  鴨川に流す友禅髪千筋

523  戦闘に飢えるス−ダン枯木立ち

524  曝襲におびえる乳飲み子の目には蠅

525  蛇うねるジャングルぬめる泉まで

ス−ダンでは12年間、内戦が続いている。

とびお君、「コンピ−タ」になってるよ。



レギオンの馬   2000/09/25 01:36
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526  ユ−カリはそのみどりを遂げよと詩人去る

527  レギオンの馬一頭に落日が

528  笑ふ死者大波小波秋の海

529  レギオン迷ひし蹄鉄秋終わる

石原吉郎の詩作品「レギオン」(新選石原吉郎詩集」(思潮社)より。

「わが名はレギオン 多きが故なり マルコ伝5・9」とある。

530  戒名の無き慕票にも秋の花

おやすみなさい。



凩   2000/09/25 12:28
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531  凩や一本の電柱に鳴る虎狩笛(もがりぶえ)

532  汚れたるカ−テンの隙間に秋の海

533  病葉(わくらば)に金魚の水死見て眠る

534  舌頭に転がす千句柿ひとつ

子規のひそみにならって。

535  さらに越え峠に一輪の野菊哉

たまみさん、現在は俳句と川柳の区別はないようです。しかし、あなたのように、それだけ下手に書ければ絶品と言えます。



霧の駅   2000/09/25 17:21
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536  一本の煙草にて待つ霧の駅

537  霧の音渓谷ひそかに流れゆき

538  雲海にまぎれ込みしか霧の音

539  若き日と闘ひ終わる霧の駅

540  秋意なし煙草の火消ゆる霧の駅

「秋意」。中国からもたらされた言葉。政治の世界に処する男の悲しみ。



秋の短刀   2000/09/25 20:52
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541  秋渾身下校時に廻す喧嘩独楽

542  短刀(どす)一句刺す人もなき秋昏れて

543  我もまた骨の恐竜病みて夏

544  甲斐駒の白雪崩(しろくずれ)もあり秋澄みて

545  落武者が竹槍に追われし甲斐の里

黒沢明「七人の侍」より。



麻酔   2000/09/26 01:38
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546  秋深く海沢(うなざわ)に落ちる蛇の滝

「海沢」。奥多摩にある地名。そこに「ねじれ滝」がある。別名「蛇滝」。

547  油壷ヨットハ−バ−を飲み込めり

「油壷」。1518年、北条早雲によって攻め立てられた三浦一族が滅亡した土地。三浦一族の血は油壷の海を真っ赤に染めたという。いまはヨットハ−バになっている。関東学院生協に勤めていた時、よく遊びにいった土地だ。

548  秋暁に点滴の終わらず目覚めをり

549  麻酔より眼窩にしみる秋の水

550  秋病みて点滴の管車椅子

冬月君、小生も調べている。「結界」に関する本。

ところで、「西川徹郎全句集」(沖積舎・吉本隆明解説・17000円)を御当人から贈ってもらったが、小生には歯がたたない。今度の『詩塾』でお貸しするから、掲示板で寸評を試みてくれないだろうか?



定型   2000/09/26 12:22
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551  時は今ひと過ぎてゆく霧の墓

「時が過ぎて行くのではない、人間が過ぎて行くのだ」。田村隆一。

552  雪山にひとり谺が吠えるのみ

553  渇望の秋定型に堪えてをり

554  定型を破牢したきか曼珠沙華

555  全山紅葉すでに定型の檻にあり

千里さま、「甲斐駒ヶ岳」も「霧の駅」も小海線です。ただし「甲斐駒」と「しらくずれ」は、登山家兼画家(森田酔道、このひとは長く『俳句研究』の表紙を担当していた)に、先の一句を見せたところ常識だよと首をひねっていました。



埴輪の兵士   2000/09/27 10:53
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556  清輝の秋は埴輪の少女像

557  中国の埴輪の兵士山眠り

558  古戦場埴輪の馬は秋に立つ

559  死者の王守る埴輪の秋の城

560  埴輪焼く煙は古代の狼煙(のろし)哉

本日は新宿百人町俳句文学館で『詩塾』の日。359回。

知らぬ間に小生の句作「増殖する歳事記」の句作鑑賞の回数を追いこしていた。下手な鉄砲も数撃ちゃあたる。いわば、機関銃方式と散弾銃方式。しかし、ときどき、何故それほどまでして句作するのか、虚しい気持ちになってくる。

句作でも詩作でも推敲するにあたって大切なのは自作を最低だと認識した上で、さらに言葉を鍛え直していく事。自戒!



海月   2000/09/28 12:27
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561  流離する海月に大波ゆったりと

562  戦争も海月は知らず昼寝かな

563  ロボットの海月は秋水にひろがりて

564  秋の海むらさき海月ゆらりと

565  汝知らぬ刺身も知らぬ大海月

日本の青年が海月のロボットを作ったという。一体、何のために?句作と同じ気持ちなのだろうか。



金メダル   2000/09/28 13:33
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566  秋の絨毯濡らす一滴一句かな

谷川雁へ

567  毀誉褒貶文字が書けずに秋止まる

568  脳騙すマラソンランナ−秋の風

マラソンランナ−は脳に疲れを忘れさすための脳を騙す食事療法をするという。

569  金メダル歯で噛みしめる良夜かな

570  金メダル金貨にあらず掌の秋



ユダ   2000/09/28 17:42
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571  癩ひとりいのちの初夜に目覚めをり

北条民雄『いのちの初夜』より

572  感吟に駱駝が針の穴とほり

マタイ福音書19章

573  強盗の巣から飛びたつ鳩一羽

マタイ福音書21章

574  ユダが手銀三十枚の枯葉かな

マタイ福音書21章

575  大銀河コンピュ−タ−を流れをり



眼   2000/09/28 20:13
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576  膝小僧まるめて秋の読書かな

577  乳牛の怒りし秋の牧草地

578  眼には眼を命なりけり曼珠沙華

579  往き逝きて神軍なりし菊の花

580  秋しぐれコンピユ−タ−に大銀河



寒夜   2000/09/28 23:48
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581  武蔵野に独歩をしのぶ寒夜かな

582  武蔵野が閑としずまる秋の虫

583  屋外で蛇口をひねる寒夜かな

584  武蔵野に水道道路の寒かな

585  裏庭の寒夜に枝張る大欅



織姫   2000/09/29 01:41
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586  織姫と彦星逢ふは遠うき日枯木立つ

587  落葉降る窓辺に西鶴置土産

588  紅葉に寅さんが去りし毘沙門天

589  黒猫を塗り込めし乱歩の寒夜かな

590  八雲立つ黒髪の森に大白鳥

おやすみなさい



第三の男    2000/09/29 12:01
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591  秋深く地下街に黒人霊歌澄みわたり

592  第三の男流す居酒屋秋昏らし

593  黒人の霊歌教会の尖塔に登る月

594  つらきゆえハ−レムに叩き込まれし秋のジャズ

595  第三の男の楽符澄みゆくウイ−ン秋

千里さま、人生への捨て科白ですか?



絆   2000/09/29 20:16
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596  一族の絆りんどうの寺に消え

597  夏痩せを残して僧の風の道

598  紅葉の婚姻汝に告ぐべし風の木よ

599  老木にもうひと舞ひの落葉かな

600  鰯雲見下ろす野辺はどのあたり

千里さん、まいった!

明日は日本出版クラブで「田村隆一を如何に超えるか」(1時)シンポジュウムあり。冬月君、了解。



シドニ−終わり   2000/10/01 16:01
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 シドニ−の終わりに寒夜金メダル

 老詩人逝く秋涼に柿ひとつ

田村隆一追悼

 うつむきし青年の秋老ひに澄む

谷川俊太郎に

「俳句手帳」を何処かに置き忘れてしまった。田村隆一の会場だったかな。その会場にいた同志社の青年詩人、この掲示板に連絡頼む。

 ランナ−の孤独捩れて秋の果て

 五本目の煙草吸ひて五句の秋



寒いなあ含羞   2000/10/01 17:40
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含羞の人の墓前に生一本

かりかりと柿喰う汝の歯は白し

渋抜きの梅酒に母は少し酔い

泥吐かしどじょうもだえし我が転向

年齢の深みにぎらりと蛇頭の目



故郷   2000/10/02 11:58
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610  ハ−モニカ吹けば故郷の赤とんぼ

611  アカシアの雨に打たれてビラ汚れ

たまみさん、西田佐知子の「アカシアの雨」は、60年代の安保闘争を闘った学生たちの愛唱歌でもありました。

613  赤旗を売るアカシアの雨の下

614  凛として立つ菊一輪の寒さかな



蝙蝠傘   2000/10/02 20:53
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615  旅芸人踊子禁ず伊豆の秋

川端康成

616  独り言咳する我の秋の夜

617  将軍を追いひし里あり柿山伏

「柿山伏」。室町時代、足利一族を殲滅した武士軍団の里。

618  憂国忌近ずく寺に孔雀草

519  蝙蝠傘閉じて一献菊の花

本当に目が見えなくなったなあ



蝙蝠傘   2000/10/03 00:42
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620  蝙蝠傘とミシンを出逢ひて秋更けし

ロ−トレアモン

621  ミシン踏む母の日遠く老ひにけり

622  蝙蝠傘刻は移りて雪を待つ

623  老木の檜伐採木洩れ日に

624  木洩れ日に百年檜を伐採す

百年の檜でも間引かないと、他の檜は育たない。しかし、その檜、一本200円なり。

「アカシアの雨」について。60年安保闘争(日米軍事同盟)は6月15日のたった1日の全学連国会突入をもって敗北しました。彼等は小市民的ブルジョワジ−を嫌い、なおかつ一般市民を巻き込んでの日本百年の歴史に残る大闘争でした。敗北の虚しさに絶望して、たとえば国学院の学生歌人、岸上大作が自殺し、ブント(共産主義者同盟)の東大生樺美智子が国会正門前で、警官の鉄棒により虐殺されました。ある意味では、そのような馬鹿馬鹿しい死によって、ついに彼女の死は、今日まであがなわれることはありませんで
した。そのような時期に意味不明の「アカシアの雨」が愛唱されたとて何の不思議もないのです。それに当時、気がつかなった者がいたとしたら、彼は、よほどお人好しだったに違いありません。



漱石   2000/10/03 11:52
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625  緑成す金木犀は咲くに堪え

626  深かみどり住宅街に斑の猫

627  ロンドンの霧の漱石読了す

628  平成の漱石霧の影法師

629  心眼の一句漱石霧の中

ちなみに漱石の一句。「霧黄なる市に動くや影法師」。子規への弔句。



架橋   2000/10/03 13:02
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630  架橋する精神病院桐一葉

631  独り身で焼き芋を喰う夜更け哉

632  秋の海砂に約束して終はる

633  自己批判黙す涙に露の草

634  頼母しき母の面影曼珠沙華

どなたか、2000円札の裏面の「すずむし」ではじまる源氏物語に一文、読み解いてくれませんか?



母郷   2000/10/03 17:32
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635  鰯雲流れゆくさきに我が母郷

636  桐高を卒業せし友文の月

桐生高校出身の友、入江優に。

637  落書に殺してしまったと霧の駅

638  円陣をほどけば秋に鬼ひとり

639  八公のしっぽで秋の忍び逢ひ

たまみさん、2000円札の源氏物語の一文さっそく書き写しました。読めない筈ですね。デザインとしてしか言葉が使われていない。あれは俳句暗号説に良く似た作りだ。ちなみにカラ−プリンタ−に掛けても機械が一切反応しないだろう。この掲示板を見ている大蔵官僚よ、おぬしらは良くまあ完全に使用価値のない札をお造りになりましたね。あなたがたに注文あり。二千円札を早く自動販売機に掛けられるようにしてほしい。それに昨日手に入れた新500円球、あれは、もう使えるの?著作権のほうは、まだ少しル−ズだ。谷内さん、『インタ−ネットにおける著作権の問題』書店においてあるよ。



風紋   2000/10/03 22:26
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640  風紋や秋の渚に言葉あり

641  泥鱒の晩年沈む更衣なし

642  君しずか日傘の中に影踏みて

643  秋茄子を焼きて家内(やぬち)は昏れにけり

644  病む臓賦抱へて歩む秋の道

河野裕子へ



寒卵   2000/10/03 23:00
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650  寒卵の赤き一個を剥くひとり

651  折鶴の広島忘れ折る一句

652  青き馬欅並木の大学へ

成蹊大学『欅祭』

653  パレスチナ終命の秋なし神ふたり

654  殺伐のブリキの太鼓里の秋

ギュンタ−グラス。ナチス(国家社会主義労働者党)ヒットラ−がオ−ストリアに侵攻した時、ひとびとは彼等を「平和の使徒」だと思っていた。ところがの正体は前線の町を焼き払うガスマン(放火隊)だった。



京都御所   2000/10/03 23:22
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645  腐れつつ雨に溶け入るキャベツ哉

646  仏壇の扉閉める母の秋

647  水駅は花柳の血統のはずれ哉

648  蝙蝠傘ひらけば父の半生記

649  京都御所昏き如月(きさらぎ)雪降れり

なんだかおかしいな



蝋燭   2000/10/04 00:00
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655  米ぼっち母を売りしか女郎花

656  絵馬(えんま)の馬(ま)百人町に霙(みぞれ)降る

657  一輪車子が巡ゆく秋の橋

658  颱風の後にコスモス起き上がり

659  蝋燭を点じて青き露の草

なんだかみんなうるさいな



蜜柑   2000/10/04 01:35
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660  冬みかん剥く母の背は遠くなり

661  雑巾をたたみ重ねて秋を見る

662  今死なば晩年なりし露の草

663  晩年の太宰が残した桃の花

664  ピアノ出しがら空きの音秋の家


冬月君、なんとなくわかるよ。しかし、それを日本に適応させる場合、むつかしいね。



歌舞伎町   2000/10/05 05:47
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665  歌舞伎町裕子の乳房夏乱れ

666  青春の雪激しくて裕子去る

667  酔いどれて裕子哀しき雪の里

668  あたしはね裕子氷割りの酒

669  さようなら裕子しどけて雪の中



裕子   2000/10/05 07:05
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670  一輪の野菊裕子の抱きし夢

671  抱く裕子雪おんなのごとく溶けてゆき

672  かたはらで裕子が眠る夜の雪

673  鳳仙花汚れて至る雪の裕子よ

674  抱き寝して裕子の中に雪は降り



竹馬   2000/10/05 08:04
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675  竹馬の羽月の子らの天高し

676  竹馬の子らの高さの喧嘩哉

677  竹馬の友は逝きけり吹雪にて

678  竹馬がことこと歩く野原哉

679  竹馬で次郎太郎が揺れてをり



縄跳び   2000/10/05 08:24
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680  縄跳びの円から抜けぬ鬼ひとり

681  日光の写真に笛吹き童子浮く

682  青写真待ち猫もまた覗きをり

683  雪礫餓鬼大将を狙い打ち

684  雪掻きの小学校の達磨の目

なおったかな



花巻   2000/10/05 19:09
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685  武蔵野の齢(とし)を忘れし大欅

686  卓上に寒卵ひとつ凝視(みて)終わる

687  目刺焼く男の宿り雪が降り

688  青空に気球浮かびて目に泪

689  花巻の農学校にて春と修羅

宮沢賢治は俳句を作っていた。1993年、享年37。その直前の2年間、句作。



どうしよう赤門の賢治   2000/10/05 19:40
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690  本郷に雪降り賢治ガリを切る

691  赤門に降る雪賢治農を捨て

692  赤門に雪降り注文の多い料理店

693  黒板に賢治「下ノ畑二イマス」

694  賢治とて菊の重さに堪えかねて

賢治の一句「水霜をもちて菊の重さかな」。

賢治は東大赤門前の「文信社」にアルバイトととして入り大学の講義録のガリ版を切っていた。(大正10年1月)。



髑髏盃   2000/10/05 23:32
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695  ヘップバ−ン華奢なりしかば露の花

696  南海の藻屑光晴の髑髏盃

金子光晴

697  徒食せし男の背中(せな)に銀杏哉

698  曼珠沙華乱れ咲く庭に老母哉

699  筆濡らし推敲千句に野菊哉



驢馬   2000/10/06 01:38
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700  青い胡桃も吹き飛ばしどっと吹雪の夕べ哉

701  冬来るすっぱい果林も吹き飛ばせ

702  満月を浮かべて不忍池に三四郎  

703  諳んず石原吉郎驢馬目に泪

704  女あり中上健次にからむ蛇

おやすみなさい



寒牡丹   2000/10/06 15:20
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705  才能があるやなしやの寒牡丹

706  ゆく秋に動く道すじ枯れ木立

707  蟻もまた朝から働く検診日

708  雁渡る水田は枯れ雲黄昏(たそがれ)て

709  寒牡玄関に薄い帰宅哉

地震、島鳥一帯を襲う。2・45分。



鉄骨   2000/10/06 20:00
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710  一族の滅亡甲斐は薮の中

711  甲斐恋ひてやがて虚しき月夜哉

712  鉄骨の窓辺遥かに大欅

713  満月や鉄骨の空にひとりぼち

724  レギオンの馬一頭に秋句哉



おやすみなさい真珠   2000/10/07 00:57
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715  死よ驕るなかれと詩人冬に逝く

1998(平成10年)8月21日、田村隆一逝去。「死よ驕る勿れ」は、ジョン・ダンの詩句。彼は、死の当日、妻と娘に、この詩句を書き残して死んだ。享年75。

716  紅葉の書生俳句に雪が降り

尾崎紅葉

717  行く秋や野菜畑のソクラテス

八木幹夫に

718  東洋の真珠ひと粒秋澄めり

「俳句は東洋の真珠である」(日野草城)。

719  椋鳥(むくどり)のいっせいに飛ぶ地震(なひ)の島

本日『新潮』11月号を入手。

新潮新人賞と萩原朔太郎賞掲載。「新人賞評論部門」の「媒介と責任−−石原吉郎のコミュニズム」に幻滅。石原吉郎の詩作品の引用は一編もなし。こんなものは「文学評論」じゃない!

「朔太郎賞」もおかしい。受賞者江口充に対して選者(清水哲男、天沢退二郎、吉増剛増、司修)たちはだれも積極的に推しているとは思えない。「仕方がないから、まあ選んでおこう」といった感じだ。現代詩の衰弱もここまできた。



霙(みぞれ)   2000/10/07 02:15
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720  ボクサ−に感嘆符打ち枯れ木立

721  荒濤にすさぶ月下の日本海

722  生き急ぎ花野にひとり友の墓

723  登りつめ峠の茶屋に霙降る

724  累々と降り来る枯葉みぞれ酒



あおがえるおまえはぺんきぬりたてか乳母車   2000/10/07 12:21
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725  また昇るボクサ−崩れに秋の恋

ヘミングウエイ

726  エレベ−タ−おしゃぶりの秋乳母車

727  癌病棟つるべ落としの曼珠沙華

728  母を恋ふ火垂るの墓も暮れの秋

野坂昭如

729  友責める葭切(よしきり)鋭し青春の

口梔子や花の下からすぐに顎



みんな買い物かな三十路   2000/10/07 16:07
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730  鰯雲箸に崩れる絹豆腐

731  白梅に間一髪の風が切り

732  塞翁が馬迷走す花野哉

733  七転びして達磨市の寒夜哉

734  三十路ゆく芭蕉の道に枯木立



正宗   2000/10/07 16:26
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735  夢二描くほうずきの子の笑顔哉

736  老人のブランコを押す秋の風

737  春闘のノコギリくわがた投げ飛ばす

738  銅像の正宗の馬に花吹雪

仙台青葉城址

739  白桃を噛む汝の歯のあどけなき



団子坂   2000/10/07 23:21
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740  紅葉に大仏殿の喉仏

741  団子坂バス転がりて冬田かな

昨日、団子坂でバス横転。

742  束ね髪きりりと締めて水を打つ

743  凩やをんな隠れし秋の宿

744  坪内の腸捻転の冬近し

坪内念典君へ、あなたとは京都立命以来ですね。いつも読ませていただいています。(清水昶)

剛直の葱一本を残しをく    石田智規

そして彼は死んだ。

ON対決か。あまり面白くないな。



おやすみなさいダリア   2000/10/08 00:01
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745  空咳をひとつ卓上のダリア哉

746  昂然と期すことありやダリア咲き

747  冬苺つぶして深夜煙草吸い

748  三十路にて余生なりしか龍之介

749  地吹雪や遠い故郷のテレビジョン

寒牡丹顔をあげれば誰も居ず   (きくちつねこ)



さて犯罪   2000/10/08 02:22
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750  逝く秋に耳の真珠に二句光り

751  大地震裏日本にて鴉舞い

752  頭領のがぶ飲み根岸の茶の湯哉

三遊亭金歯

753  はんなりといふは老舗の暖簾哉

754  犯罪の匂ひどこかの月下哉



秋逝く   2000/10/08 12:59
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755  内視鏡何を探るか秋冷えて

756  寸鉄を帯びて秋逝く一句哉

757  ひたひたと秋逝く老母に曼珠沙華

母から来信あり。川越の庭は曼珠沙華が咲き乱れているという。

758  口笛が流れて淋し酒田最上川

759  傘閉じて霧降る夜に父帰る



小僧   2000/10/08 16:55
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760  極楽極楽繰り返寝る籠枕

少年時代、寝ることが人生最大の楽しみ?だった。死もまた人生最大の楽しみにならないかなあ。

761  野猿来る人里淋し柿ひとつ

762  噴煙の絶えざる島に秋逝きぬ

763  朝刊のくるまへしずむ絹豆腐

764  雪降りて山から降りる小僧哉

どうして「山から小僧がやってく来る」のですか?山人?どなたか教えて下さい。

きさらぎや一つ目小僧が山より来     「春樹」の一句あり。



この句もいいな軍歌   2000/10/08 18:07
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765  軍歌しか知らぬ父あり海ゆかば

766  山霧にまぎれし樵唄の里

767  悪童の出世妬む豆の花

768  一郷の血の絆なり曼珠沙華

769  麦笛を吹く少年の三里塚

次郎柿熟して雲を染めにけり   石田智規

この句いいな。



蕨餅   2000/10/08 19:37
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770  大家族怒りの葡萄に黙しをり

スタインベック

771  蕨餅母のぬくもり丸め込み

772  百姓の雪は草鞋を百作り

773  大地震墓を倒して秋揺すり

774  戒名も消えし無銘の秋の墓

雨降るや余寒びかりに竹の幹   有働亨



おやすみなさい寒夜   2000/10/08 23:20
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775  長州の家郷野猿の枯木立

776  うぐいすの声無きままに寒夜来る

777  大欅御老女ひとりの焚火哉

我が家の裏の邸宅に大欅がある。落葉の季節になると、そこの老婦人が、もうもうと焚火をする。東京では焚火は禁じられているはず。おかげさまで、我が家の雨樋は詰まり、煙りは部屋にもうもうと入ってくるる。あまり風雅な光景ではないけれど・・・・

778  旧約の砂漠に灼ける人の生

779  病眼の左右に揺れる孔雀草

温子さま、「朝刊の来る前にしずむ絹豆腐」だよ。それに、もうひとつ、あなたの生活信条の句、正確には「朝寝して夜寝するまで昼寝して時々起きて居眠りをする」だよ、おわかり?

「小僧」とは誰か。「大寒子寒山から小僧飛んで来た」。

「寒い寒い山の方から北風小僧が飛んで来た。寒い北風も仲間とばかり、外で元気に遊ぶ子供たちの歌うわらべ歌の一節」。(故事・俗信ことわざ大辞典。小学館)。報告終わり。

「あきこ」さん、ビデオ「2001年宇宙の旅」を返してくれたら写真送る。



冬銀河   2000/10/09 01:21
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780  冬銀河きらりと一つ我の星

781  夢生夢死越しの寒梅飲み干して

782  牡丹雪予備校生の夢に降り

783  万歩計千歩余生の蝸牛

784  熱燗やぐい飲み一気に酢牡蠣喰い



初しぐれ   2000/10/09 11:33
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785  泥流の地震の土地に寒波来る

786  居合刀ならぬ傘抜く初しぐれ

787  傘の下我が半生にしぐる々や

788  境涯は泪時雨の橋の上

789  初しぐれ雷を伴い地を鳴らす

いま東京は激しい雨と雷が鳴っている。とんだ初しぐれと体育の日である。



運動会   2000/10/09 15:44
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790  武蔵野の長者(をさ)のごとしや大欅

791  雷雲を見上げる子らに稲びかり

792  雨のなか夢中で転ぶ子らの秋

793  往年の気負ひ残りし寒夜哉

794  ちゃんちゃんこ着しも野武士の格があり

先日、電車の中で女子中学生たちが「バッタがバッタとクタバッタ」と言いあってきゃあきゃあ笑っていました。面白いと思う人は手をあげてください。



夕霧   2000/10/09 18:37
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795  夕霧や街灯に煙る五番町

796  学僧がたむろせしか京の夕霧楼

京都五番町は元遊廓。水上勉に「五番町夕霧楼」あり。学生時代、五番町でよく飲んだ。

797  遊廓のなごりは夕霧につつまれて

798  青春の夕霧の街に桐一葉

799  霧の海茫然なりしか月浮かべ

「霧に擦りしマッチを白き手が囲む」(安住敦)あり。この句が寺山修司の「マッチ擦る束の間海に霧深し身捨つるほどの祖国はありや」の盗作問題の一部と関係があった。



蟇   2000/10/09 20:54
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800  蟇口上述べるか門に目を据えて

801  蟇石に不動の姿勢の面がまえ

802  雨がっぱ素っ裸で着る蟇蛙

803  蟇蛙淋しくないぞ夜の雨

804  蟇蛙墓守なりし雨の中

蟇啖呵きるかに居直れり    智規



一つ目小僧   2000/10/09 23:32
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805  悔しさに一徹したり毛虫焼く

806  海亀が怒濤の中に消えし夏

807  伝説の一つ目小僧山眠る

808  寒鴉何を嘲笑(わらう)か枯木立

809  酒一本背負ひて深し紅葉狩り

「一つ目小僧」目が一つしかないという小僧姿の妖怪。一本足としたり、事八日(ことようか)現れるとする地方が多い。目一つ神の信仰が変化したものといわれている。(大辞林)。「ことようか」とは要するに一つ目小僧や厄病神を追い払う日。ニンニクが利くらしい。



雷   2000/10/10 01:28
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810  寒雷や我が罪の地に稲びかる

811  海底に命ありけり盲目魚

812  邯鄲や書斎の荒野に我の旅

813  野仏の首に巻きつく蛇衣

814  天蓋を地鳴り踏み抜く大地震

コノサカズキヲウケテクレ/ドウゾナミナミツイデクレ/ハナニアラシノタトエモアルゾ/「サヨナラ」ダケガ人生ダ(干武陵・勧酒・井伏鱒二訳)。



ゴッホの耳   2000/10/10 10:28
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815  しずかなる発狂ゴッホの秋の耳

816  画布の秋ゴッホの耳は澄み切りて

817  片耳のゴッホは冬の絵画館

818  耳冷えてゴッホは片道の秋を描く

819  耳冷やし真夏を描き込むゴッホあり

ただいま小林秀雄の「コッホの手紙」を捜索中。いったい、どこへいっちまったんだろう。寒



敷島   2000/10/10 16:21
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820  薪を割る人影もなし枯木立

薪をわるいもうとひとり冬籠   子規

821  一本の煙草が消える寒さ哉

たばこが消えて居る淋しさをなげすてる   放哉

822  ひき逃げの蛇のびている残暑哉

蛇が殺されている炎天またいで通る  放哉

823  王林檎がぶりと甘き子らの頬

824  敷島の道踏みはずしたる子規の秋

ころりと横になる今日が終わって居る   放哉

この句の、どこがいいのかな?



少年   2000/10/10 17:17
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825  諸悪なり家はあっても子は持たず

826  湧き水を汲む少年の腕細し

827  水汲みは子どもの仕事枯木立

828  少年の冬バケツ一杯の水重し

829  山火事にバケツの水で立ち向かう

水道も電気もない山口の山間の村での暮らしは、子どもにもつらかった。特に部落の中にある共同の水汲み場までバケツを持って往復する仕事?は難儀だった。その思い出はエッセイ集にも詩にも書いている。

しかし、一番興味ぶかく我々、子どもたちの事を親の目から書いた父の唯一の詩集兼童話集『火の学会の着席順』(国文社)がある。自費出版のため、ほとんど、どこにも送らなかった。もちろん、一冊も売れなかった。いま読み返してみても、上手いものである。小生宅に若干の残部があるが、なんだか淋しく懐かしい一書であった。その時、父六十歳。



銀盃   2000/10/10 23:50
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830  素十の子白雪姫に溶けにけり

高野素十の娘は、ある画伯に見込まれて「白雪姫」として描かれたという。(石原八束)。

831  銀盃を父に捧げし放蕩児哉

832  むらさきの桔梗が低し竹の里

833  熱燗で一杯やりし雪をんな

834  お手植えの紅葉もありき本福寺

京の本福寺。三笠宮崇仁の紅葉あり。

吉祥寺Tゾ−ンに掲示板のプリントアウト方法を聞きにいく。尾内君、日野のMさんに電話。



蛇忽秦名まほろば   2000/10/11 01:14
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835  雲が描く天才埋もれし山眠る

石川啄木「雲は天才である」。

836  秋深く秦名まほろば霧の中

富沢智へ

837  松ぼっくり海辺で堪えし女将哉

838  飛車止まり将棋の後の落葉哉

839  蓑虫や満月の中で眠りけり

尾内君、やっぱりだめだよ。まず掲示板をクリックしても色が変わらない。



栗   2000/10/12 11:32
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840  栗拾う子らに気づかぬ狸哉

841  いが栗打ちて逃げる餓鬼大将

842  栗御飯年に一度の舌鼓

843  はじけ飛ぶ栗にひとりで飛び上がり

844  学校の子使いさんの栗拾い

山びこのひとりをさそふ栗拾い    



三鬼あけび(やまおんな)   2000/10/12 15:56
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845  山女(あけび)熟れ山に夕焼けの子もありし

あけび。「山女」「おめこぐさ」。(2000年3月24日新装版 平凡社)。

846  あけび喰う鴉一羽の山の里

847  あけび買う人もなし都市昏れて

848  山霊のあけびを盗む子のゆうべ

849  何となく照れて山女を目の前に

あけび熟れ裏山寂と日の移る  雲母



赤い旗   2000/10/12 23:37
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850  日傘挿すうしろ姿を見ていたり

851  邯鄲に髑髏を忘れし秋逝きぬ

852  雪嶺に死す一天に赤い旗

「赤い旗」雪山の遭難者とおぼしき地点に赤い旗はたてられる。

853  雪崩れ打つ殺人事件に木漏れ日が

854  秋もまた故郷へ移る旅の人

一本のマッチを擦れば海は霧    



海上の道   2000/10/13 00:10
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855  海上の道を忘れし蝶もあり

856  乳牛の匂ひ高校を卒業す

857  有名高汝の誇りも渓谷に

元、都立立川高校出身で『詩塾』にいた乙津裕子さんは奥多摩の渓谷で自殺した。

858  生一本洗ひし汝の秋の墓

859  抒情詩が終わりし連峰の雪眺め

伊東静雄「わがひとに与へる哀歌」。



モナリザ   2000/10/13 00:53
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860  モナリザの微笑は秋波を洗いをり

861  詩人あり沈める寺に秋逝きぬ

「田村隆一全詩集」。

862  戦争や飢餓のおもひも秋の波

863  人間を引退したり冬牡丹

864  福来魚(ふくらぎ)やいなだ−若しと売りに来る

福来魚「ふくらぎ」。「いなだ」「ブリの若魚」。



蕗味噌   2000/10/13 12:02
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865  寒夕焼小焼独り子の帰り道

866  冬苺つぶし母郷を想ひをり

867  敵とするひと逝き冬の葉書来る

868  蕗味噌や故郷に忘れし味もどる

869  寒夜にて一つ目小僧が庭に立つ

コンピュ−タ予想によると巨人、ダイエ−、延長10回、0・1で巨人の勝ち。



再婚   2000/10/13 20:27
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870  黍(きび)嵐海底火山を目覚めさし

871  再婚す我が友の手に桃の花

872  国文科入りし友に若菜かな

藤井貞和へ

873  塩をふりトマトがぶりと少年期

874  ラジオから流れる鷹羽の秋澄みて

はたなには忘れ名草が、良く似合う。



花火師   2000/10/13 23:50
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875  ひとり逝きそこより我の寒夜哉

876  寒卵を割りてひとりの情事哉

877  花火師も老ひて寒夜に背を丸め

878  雲海に一行の雁が流れをり

879  巣作りのほどよき女みごもりぬ

冬の波冬の波止場に来て返す

米こぼす日本および日本人

べらぼうめはやりすたりは秋の風

以上、加藤郁呼2938句『加藤郁呼俳句集成』(沖積社)より。この句のいいところが、どうも小生にはわかりません。どなたか教えて下さい。なお、小生は彼と昔からの知り合いです。



犯罪   2000/10/14 00:12
Access from kichijoji3-32.teleway.ne.jp

880  落人のみちゆく先は秦名の湯(木へんでず)

881  魚売り絶えたる里の雪化粧

882  湯上がりの汝の黒子に北斗星

883  犯罪の匂う月下の猫の町

884  冬の霧友が逝きゆく大銀河

斧あてしごとき一笛初神楽   伊藤敬子



それが人生!猟銃   2000/10/14 01:55
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885  猟銃の音谺する古里遠し

886  僕の鳩撃てば黄昏れている母の秋

887  自転車屋自転車宙吊り秋の午後

塚本邦雄へ

888  野川あり水車を廻す冬の水

889  底のない人間てふもの秋逝きぬ

バガボンドさま、送ります。でも声がお聞きしたいので電話してみて下さい。0422(21)6807。

絵馬さん、おるかさん、ようやくメ−ルを見る始末。ごめんなさい。



刑務所   2000/10/14 22:45
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890  シャボン玉刑務所の塀を越えられず

「シャボン玉飛んだ」という童謡は野口雨情。寺山修司によると受刑者の悲しみを描いた童謡という事になる。

891  山々が眠り手前の蓬餅

892  鉄格子十数年ぶりの紅葉哉

南北海道に、もう25年も精神病院にいる文通友だちがいる。先頃の暑中見舞の葉書には、最近ようやく鉄格子の部屋から開放病棟に移されたと記してあった。なんとかしてあげたいのだが、どうしようもない。文面は、ごく普通に、そして切々と社会復帰を求めている。可哀想だが、それが彼の現実なのだ。

893  大屋根の大仏殿に夢の秋

最近、鎌倉の大仏は巨大な屋根の中にあったということが判明した。

894  鶏頭の疎ましきかな村の家



こけし   2000/10/14 23:18
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895  鶏頭や家籠りする長子あり

896  浮鴨のしずまる池に紅葉哉

897  伝統のこけし雪国の笑みたたへ

898  ひとり棄てこけしの雪は母のため

899  飢えし雪こけし子仏ひとりぼち

もう一息。



そして誰もいなくなった風船   2000/10/15 10:48
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900  風船の子が野を歩きゆく冬日和

901  青春は百花繚乱桐一葉

902  蜂飼の流離に蜂の秋の峰

903  夕映えに野仏鳶がめぐりをり

904  露草の命に濡れる虫の羽根

しゅうさん、ならびにメ−ルでの「とびお」君。加藤郁呼「(や)が出ない」の鑑賞ありがとう。
「米」の句は作者の気持ちはわかるけれど、もうひとつ俳句としての完成度に難があるように思えます。

それとはべつに小生はかんがえていました。「飢え」を知る世代は1940年生まれ以降はいないのではないのか、ということです。同年生まれには野球の王、相撲の大鵬、ボクサ−の海老原、詩人の清水昶氏らが名をつらねています。



紅の戦記   2000/10/15 11:33
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905  紅(くれない)の戦記の雪に祖父の墓

906  ランボ−に一筆書の砂漠かな

907  失ひし秋を戦がむ風の木よ

908  雉子鳴くや野良に立つ父背は若し

909  土間涼し水瓶を掬む母の手も



おはようございます   2000/10/16 09:35
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910  けものみちまで分け入らぬ秋の山        

田中康夫は、阪神大震災の時、ボランテアとして精力的に動いています。その頃から彼は政治家になるな、と思っていました。



中沢新一「はじまりのレ−ニン」より明治節   2000/10/16 11:32
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911  明治節化け文字文化の華も泣く

かつて11月3日は「明治節」だった。それを「文化の日」としたのは明治が「文明開花」の音がしてせいあろうか。不吉なる我が生誕の日なり。

912  雲をこそ墓標としたる菊乱れ

阿川弘之「雲の墓標」。

913  最上川舟一漕の入り日哉

914  華散りて酔うて候帰途哀し

おるかさん「加藤郁呼俳句集成」(沖積社・20000円)なり。あまり、ぞっとしない値段ですね。



笑うレ−ニン   2000/10/16 16:04
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915  紅葉を背負いて降りる樵かな

916  赤とんぼ夜の乳房に溺れゆき

917  ゲルニカの夜に鳴きしか秋の虫

918  レ−ニンの笑いに大輪の薔薇が咲き

919  雪の中笑うレ−ニンの墓ありし



なるほど。楽隊   2000/10/17 01:58
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920  吹雪野の便り達筆みぞれ雪

921  楽隊はガスマンなりし雪の坂

922  楽隊はブリキの太鼓地鳴かな

「ブリキの太鼓」ギュンタ−グラス。「ガスマン」ナチス前線の放火部隊。

923  楽隊の冬ゆく少年歳を止め

924  初恋の秋から戻りし手紙かな

おるかさん、はじめて、お写真プリントアウトに成功。少し美人すぎるのではないでしょうか。心配しています。

加藤郁呼俳句集成、困ったしろものですね。



パソコン   2000/10/17 11:09
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925  芹の水女らの顔澄みてさやめき

926  秋の雨恋の中にも降りて哀しき

927  剣山に活けしりんどうりんりんとして

928  霞目でパソコン操作紅葉を浮かし

929  友禅に染まりし汝は夕映えの中

縦打ちプリントアウトに、ようやく成功。

うどうさん、「にぎやかな夕暮」聞きました。色彩がにぎやかなんですね。



追悼 島成郎   2000/10/18 12:05
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930  満月の中医師独身で逝去せし

931  南島の冴える月下に海月哉

932  満月の首里に冬の怒濤来て

933  白南風の医師は赤鬚のごとく逝く

934  満月や俺は悔しい母子草

島成郎は安保(今は「日米軍事同盟」)闘争の折、反日共系全学連の書記長だった。あれから40年、歳月は滝のように流れていった。小生もまた、しかりである。さようなら島成郎!



凩   2000/10/18 22:16
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935  凩の一番子鴉鳴いて登りをり

936  俳人の六月カランドリエ哉

安東次男へ 彼は1960年、樺美智子の死を悼む死をかいている。 

938  アカシアの雨に打たれて少女逝く

939  狂句あり凩の身に子鴉もまた落ちて鳴く

温子さま、何だか疲れた気がするよ、だいたいにして明日への希望がない。今日、蜜柑を買った。



木枯   2000/10/19 02:09
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940  木枯やひとり身の男を吹きぬけり

941  木枯や言葉の世界を吹き飛ばし

942  凩やスカ−トの中をふきぬけり

943  木枯や俺を連れゆけ地の果てに

944  凩に又三郎が消えてゆき

おるかさんは写真も文字もきれいです。ただ、とびお君から警告を受けました。



梟   2000/10/19 15:53
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945  猿を見に行く井の頭寂として

946  村の家梟が鳴く眠り哉

947  冬眠の蛇と一緒に眠りたし

948  猫を抱き眠りし子らの家に雪

949  青春の日を引き伸ばす青葉城

絵馬さん、付句が出来ないような発句は駄目だという事ですね。小生もそう思いますが、そうすると貴兄は「近代俳句」の「結社」制度に反対なのですね。小生には、そこが、もうひとつ分かりません。

ところで、風邪なおりました?



現代詩と俳句えの架橋   2000/10/19 20:49
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950  野火放つすすきが原に人の影

951  地震鳴る島国一線晩秋へ

952  鷹舞ひて大地震の冬を待つ

953  虚子写生せせら笑ひて秋胡蝶

954  芭蕉てふ不易の雪にもう一歩

絵馬さん、プリントアウトしました。この文章、利用させて下さい。



芭蕉   2000/10/19 23:35
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950  野火放つすすきが原の夕日かな

951  地鳴りする島国一線晩秋へ

952  鷹舞ひて大震災の冬を待つ

953  虚子写生せせら笑ひて秋句帖

954  芭蕉いふ不易の雪にもう一歩

絵馬さん、ありがとう。詩と俳句の架橋は「連歌」「連句」にあり。と、するならば小生は、もう一度「俳諧」の世界で言葉を洗いなおして口語自由詩に向かうべきか否か?もっとも、安東次男は、自分の書く俳句こそ「現代詩」だと言っています。

蛇足   秋風やカレ−一鍋すぐに空   辻桃子

彼女には悪いけれど、この一句は、いわゆる「台所俳句」の駄句の典型ですね。



鳥海   2000/10/20 11:34
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955  揚げ舟の最上の漁村に青き婚

956  鳥海に見渡すかぎりの秋が澄み

957  新聞にしぐれも降りて夜学生

958  降りて来し紅葉の下に斧ひとつ

959  性愛の涼しき夜に野分哉

おるかさんは「結社」派、絵馬さんは反「結社」派。小生は、今、そのどちらにも属さない無所属派。せんじつめれば「結社」のいいところは師匠の才能の如何に関わっているのでしょう。西東三鬼は「我々は定型に甘え過ぎた」と言っています。何か、その辺に現代における俳句革新の鍵があるような気がします。



木犀の緑   2000/10/20 21:51
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960  木犀の雨に打たれて立ちつくし

961  木犀のみどりに雨の雫哉

962  ひとり立つ木犀緑の匂いして

963  木犀のみごもる緑秋しぐれ

964  木犀の匂う君らに雨みどり

現代詩と安東次男の俳諧の回路、そこまではわかった。問題はそれからだ。



初孫   2000/10/21 08:05
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965  没樹林魚影澄み切る落葉哉

966  初孫てふ銘酒掬みをり最上冬

967  蓑虫を剥いて淋しき少年期

968  草稿の野原にバッタ跳ね飛ばし

969  きりぎりす霧降る夜を鳴きとうし

独り言・今日は明治大学38番校舎まで「詩塾」小金さんらの朗読会を聞きに行く。2時。

賢治の俳句を調べる事。波子、上野山温泉に行く。小学校の同窓会。



ホトトギス   2000/10/21 11:26
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970  生きようとする身は細りいなびかり

971  旧約の書にはさみたる銀杏の葉

972  鶏をつぶして寒夜の宴哉

973  めをつむり初恋の秋を流れをり

974  大いなる夢で終わりしホトトギス

片桐さん、賢治の俳句ありがとう。



勝報あり巨人破れし帰途の灯や   2000/10/22 10:59
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昨日、明治大学まで朗読会を聞きに言って来た。朗読のプロ(朝日新聞にも取り上げられた)なのに何だか学芸会を見ているみたいで失望。もう駄目だ。しかし明大の校舎を見て驚いた。エスカレ−タ−までついている。ああいう大学なら入ってみたいな。飯島耕一明大教授に裏口入学を頼んでみようかな。

帰りに神田の三茶書房で「西東三鬼の世界」(東京四季出版)を買う。安東次男や五木寛之らの文章が採録されている。回転寿司なるものをはじめて食べた。おいしかったよ。



安東次男へ   2000/10/22 12:50
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975  張りのある白き女の障子哉

976  神の留守帰らぬ夜の菊の華

977  神の留守成熟したり曼珠沙華

978  曼珠沙華その根の毒を抜かぬまま

979  枝百舌は垂直に降り蛇つかむ

安東次男の詩「人それを呼んで反歌という」を読んでいたら、あ!と思った。彼の詩の書き方は連句なのである。

清水哲男さん、「えらいことになりにけり」。iMacは、めったに壊れるものではありません。「MacOS9ハンドブック」を読み直して、あわてないで起動してみて下さい。



おやすみベイビ−イ舟を焼く   2000/10/23 01:59
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980  舟を焼く飛島秋の地鳴りあり

981  雪嶺をあおぎて去りし里の父

982  木枯の真下に赤子産まれけり

983  脱糞し颱風一家を吹き飛ばし

984  うしろより汝の姿の潔し秋

絵馬さん、結社の良し悪しは、どうでもいい事ですね。後は連句の問題。日頃、他人の俳句作家の作品を読む者、書く者は、いつも、優れた俳人からの句に学び、「連句」をしています。



過疎   2000/10/23 02:44
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985   過疎の村野猿跳梁山眠り

986   荒濤のすさぶ夕日に秋ひとり

987  ひとり身の冬を恐れるキリギリス

988  汝の影薄い目の中雪降りぬ

989  ハナミズキ遠くで散りし汝の雪



寒鴉   2000/10/23 11:07
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990  北海のカインの影に雪が降り

有島武郎「カインの末裔」

991  みかえりの塔は雪で汚れいし

992  戦争が廊下に立ちし父の冬

993  弓張りし案山子はついに雉子撃たず

994  寒鴉汚れて至る閉鎖病棟

かよさんの句、川柳だけと上手いですね。だけど、あれはビ−ルをかけているのではなく炭酸水だと聞いたけど。



西東三鬼   2000/10/23 12:23
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995  老いざるは不良の末裔秋の骨

996  三鬼死す馬鹿の花咲くゆうぐれに

三鬼は1900年生まれ。一九六二年、四月一日、エイプリルフ−ル日に死んだ。なお「馬鹿の花」は達治の俳句にもあるように実在する花である。

997  百年も三鬼凩吹き抜けり

998  遠雷や三鬼の墓に春の雪

999  ナイフの句呑み三鬼冬眠いぶし銀

あと一句で2000句。とびお君、「石原吉郎句集」あり。



史乃命   2000/10/23 19:52
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1000  独り言秋の蝶舞ひ史乃命

岡田史乃さんへ

あれから史乃さん、岡田隆彦の第一詩集「史乃命」を、思い返しています。