第1回 : Introduction - オッズとキャラとポジションと -
戦略について語る前に、まずはこの戦略がどんなタイプのゲームを前提としているかについて述べておきたい。すなわち、それがライブ(ring game)なのか、それともトーナメント(tournament)なのか、ライブならばローリミット(low limit)なのかハイリミット(high limit)なのか、トーナメントであればサテライト(satellite tournament: 特定のトーナメントへの切符がもらえるトーナメント)なのか、はたまた世界戦の1万ドルイベント(WSOP Big One)なのか、といった点である。これらを明確にしておかなければ、たとえ微に入り細をうがって戦略論を進めても、受け手にとって効果的なものとはなり得ない。なぜなら、両者は同じポーカーとはいえ、その戦略上のスタンスはまったくといって良いほど異なるからである。
当サイトでは、ポーカールームにおいて自分の現金を動かすライブゲーム、とりわけローリミット(低いレートのゲーム)に関心を寄せているプレイヤーを対象として話を進めていきたい。トーナメント、とくにノーリミットのトーナメントの仕組みを理解するためには、ライブゲームの仕組みを理解しておかなければならないため、トーナメントを目指す人も、まず始めはライブゲームについて学ぶ必要がある。ローリミットの定義はさまざまであるが、ここではYahoo! Poker で行われているような$2-4から$1-4-8-8、$4-8, それに$6-12のあたりまでをその範囲としたい。
では、まずは本編で進める戦略およびテクニックの概説から始めてみたい。
以下に挙げる要素は、テキサスホールデムで成果を挙げるために欠かせないものばかりである。
1) 手を絞る
2) ボードを読む
3) オッズを考える
4) ポジションを駆使する
5) テーブルのタイプを掴む
6) ブラフをかける
1) 手を絞る
テキサスホールデムの戦略を扱うテキストでは、必ずといってよいほどスターティングハンド、すなわち「初手」の分析から始められているが、これはいかにテキサスホールデムにおいて初手の扱いが大切か、ということを端的に示している。
しかしながら、ビギナー諸氏が頼るポーカーの「攻略法」として、この手っ取り早いテクニックがいささか強調されすぎているようにも思われる。
たしかに、ローリミットのポーカーにおいては、ハイリミットのそれに比べてショウダウンする可能性が高く、手札の強弱が勝敗を分けるのに重要な要素となるため妥当な流れではあるが、まことしやかに語られる手札のグループ分けや、シミュレーションソフトから弾き出される確率が、実際のゲームにそのまま通用すると思うのは早計である。とくに、プレー可能なハンドの分類については、それらがポジション毎に細かくなればなるほど、違和感を覚えてしまう(詳しくは David Sklansky の著作群などを参照)。常に変化するポーカーテーブルの中で、いつも変わらぬひとつのやり方を実践していては、十分な効果が望めないだけではなく、逆効果になる場合すらある。初手を考える際には、ポジションだけではなく、テーブルの性質、さらにはその中における自分の位置づけなども併せて考えなければいけない。
よって、ここでは、ポジション毎にスターティングハンドを振り分けるという機械的な手法をとらず、変化するボードの中でいかに初手を使いこなすかというより実践向けの解説をすることにした。もちろん、絞り方の工夫とコツは、この戦略のコンテンツの中で随所に散りばめられているから、実践を積み重ねながら何度も読み返し、自分なりの初手のスタイルを見つけていってもらいたい。なお、ポジションの項は別に設け、そこで詳しく解説することにした。
第2回及び第3回では、わたしのプレーするハンドをいくつか紹介し、場札と合わせて、押してよい状況なのか、それとも引くべき状況なのかを詳しく解説していくことにする。ここで取り上げていないハンドは、明らかに勝率の低いハンドであるか、わたしなごやんが数年の経験の中でのらない方がよいとみなしたハンドであるか、そのどちらかである。
2) ボードを読む
先ほども述べた通り、ローリミットのテキサスホールデムではショウダウンすることが多く、場の読み方をひとつ間違うと大きな傷を負いかねない。いくら素晴らしい手札をもっていても、ボードによってはゴミになってしまう。
プレイヤーは、常に変化するボードを的確に読み切り、それに対して最も有効なアクションをとることが求められる。熟練者は、フロップをみた瞬間に、考え得る最強の手役を弾き出し、相手のこれまでのアクションとともに、自分の手役の強弱を判断できるだけではなく、ポジション、それからオッズ(いずれも後述)を駆使しながら、有効なアクションを導くことができる。
わが国では、ポーカーというと、とかく「はったりをかまして勝つ」とか、「表情を読む」といったギャンブルの側面が強調されがちである。たしかに、短期的にみれば、はったりで相手を痛快に振り落とすことも出来よう。最後の1枚をヒットさせて大きなポットを得ることも出来よう。しかし、長期的にみれば、これらのプレイヤーは必ずといってよいほど負ける。
勿論、ポーカーであるからには、運に左右される部分はある。これは否めない事実である。しかし、そうしたイメージがあまりに先行してしまっている点に、わたしは疑問を覚えざるを得ない。ポーカー、とりわけテキサスホールデムは、それで生計を立てている人もいるほどスキルが問われるゲームであるということを、少しずつでも示していけたらと思う。
場の読み方については初手の扱い方とともに、第2回及び第3回で詳しく扱う。
3) オッズを知る
オッズについて語るには、まずポットオッズから始めなければならない。
ポットオッズ(pot odds)とは、ポットの総額と、あなたがゲームを継続するために投資すべき額、すなわちコールする額との比である。投資額に対するポットの総額が大きければ大きいほど、難しい局面の勝負にもいけることになる。このことを感覚的に知っている人は、いつでもどこでもドロー(draw: 特定の手役を完成させるため、引きにいくこと)しにいくことはない。あと1枚でフラッシュやストレートが完成する時、ポットの額を考えずに必ず引きにいこうとする人は、長い目で見ると損をする可能性が高いといえる。
たとえば、4-8(ブラインド2-4)のストラクチャで、あなたの手札がJdTd、ボードがAs-8c-9hだとする。すでに相手から4ドルベットされており、ポットは24ドルとしよう。もし、あなたが勝つのに-おそらく-必要なストレートのドローに見合うポットオッズがあれば、喜んでコールできることになる。今、ポットは24ドル、すでに4ドルベットされていることから、ポットオッズは24-to-4、すなわち6-to-1ということが出来る。
次に、あなたのアウツ(outs)を考えなければならない。アウツとは、目的の手役を完成させるために必要な札のことである。この例の場合、ストレートをターンでつくるためのアウツは、7とQのそれぞれ8枚であり、残りの39枚は不要である。従って、ドローに対するオッズは39-to-8、すなわち4.9-to-1のドッグ(underdog: ポットを勝ち取るのに不利な状況)となり、ここではドローのオッズに見合ったポットオッズがあるため、引きにいくことができるとされる。いわゆる「オッズに合う」状況である。しかし、直前でレイズが入ってしまった時には、ポットオッズは4-to-1となり、それに従うならば「オッズに合わない」状況といえるため、引きにいくことは分が悪い勝負をしているとみなされる。
一方、同じポットと手札の状況で、フロップがAs-7c-8hの例をみてみよう。上の例と違うのは、狙いにいくのがオープンエンドストレート(open-ended straight: 両面待ちのストレート)ではなく、インサイドストレート(inside straight: 穴あき、または片面待ちのストレート)だということである。あなたがターンでアウツの9を引いてインサイドストレートを完成させる確率は8.5%、オッズは10.8-to-1のドッグである。ポットオッズは6-to-1だから、この状況で引きにいくのはオッズに合わない。ポットオッズに従い、4ドルコールしてストレートを狙うには、少なくともポットに44ドルなければならないことになる。
インプライドオッズ(implied odds)についても触れておきたい。これも、要はポットオッズのことなのだが、先に挙げたポットオッズが現在のポットを問題とするのに対し、インプライドオッズは、将来のポットを問題とする。たとえ、現在のポットオッズが合わなくとも、目的の手役を完成させた時に、「必ず」相手をコールさせることができるならば、インプライドオッズとしては合っているとみなされる。
たとえば、手札KdJd で、ボードが Ad-4d-3s-Jh の時に、あと1枚でフラッシュを引きにいけるかどうかを、オッズに基づいて考えてみよう。ポットはワンベット8ドルが入り、総額28ドルとする。ここでは、19.6%の確率でフラッシュを引けることになるため、フラッシュドローに対するオッズは4.1-to-1のドッグとなる。
一方、ポットオッズは28-to-8で3.5-to-1となり、ポットオッズに従うならば、この時点でドローにいくのは割が合わない。しかし、もしもリバーでフラッシュを完成させ、かつ相手が自分のベットにコールしてくれることが「確実」ならば、インプライドオッズは36-to-8、すなわち4.5-to-1となり、たちまちオッズが合う勝負になる。このように、将来のポットを視野に入れて現在のオッズを考えるのがインプライドオッズの特徴である。ノーリミットのトーナメントでは、とくにこの概念が重要な意味をもつ。
インプライドオッズの考えに基づくならば、ルーズゲームにおいて、自分のベットに必ず複数のプレイヤーがコールしてくれることが分かっている時に、フラッシュドローやストレートドローでベットするのは有効策となり得る。そのためには、ポジションをはじめとして、テーブルの性質や、テーブル内における自分の評判を知っておくことが重要である。普段から、周りのプレイヤーをよく観察しておこう。自分の番が終わっても、カクテルガールにみとれている暇はない。
はじめのうちは、ポットの量をいつでも把握しておく癖をつけておくことが何より重要である。ポットの量が分からなければ、ポットオッズを割り出すことは出来ない。その点、ネットポーカーは一目瞭然でポットの量が分かるので、オッズを考えながらアクションを決めるのにうってつけの環境である。
4) ポジションを駆使する
テキサスホールデムはポジションのゲームともいわれる。ローリミットのゲームではショウダウンが多いため、ポジションよりも手札の強弱のほうが重要ではあるが、それでもポジションをないがしろにしては、ゲームを有利な方向へもっていくことは出来ない。
テーブルにおけるポジションは大きく3つに分けられる。ひとつはアーリーポジション、次にミドルポジション、そしてレイトポジションである。テーブルに9名のプレイヤーがいるとすると、アーリーポジション(early position: 以下アーリー)は、最初にアクションをする4名のプレイヤーを、ミドルポジション(middle position: 以下ミドル)は、中ほどにアクションをする3名のプレイヤーを、レイトポジション(late position: 以下レイト)は、後半にアクションをする2名のプレイヤーをそれぞれ指す(分類は Lee Jones "Winning Low Limit HOLD'EM" による)。
ポーカーは、相手からより多くの情報を得る側が有利であるため、人よりも早くアクションをとることは不利となる。一番はじめにアクションをするプレイヤーは、全プレイヤーから銃口を向けられ、その一挙手一投足を監視されているという意味で、アンダー・ザ・ガン(under the gun: 以下UTG)と呼ばれ、最も不利な位置である。逆に、プリフロップ(pre-flop: フロップの出る前)を除いて一番最後にアクションをとるボタンのプレイヤーが最も有利な位置である。
ポジションの重要性を示すため、ひとつの例を挙げよう。
あなたはタイトアグレッシブ(tight-aggressive: 有利な手札を選んで勝負にくるプレイヤー。強気な攻めが特徴)なプレイヤーの多いテーブルにいて、UTGから22でコールした。すると、直後のプレイヤーがレイズをしてきた。コールで入れると思っていたあなたは、心の中でレイズされたことに対して不愉快である。さらに、その後に控えているプレイヤーは、すべて降りてしまった。つまり、レイズをした-おそらくは自分よりも強い手をもっているであろう-相手と、ポットを争わなければならなくなってしまったわけだ。
ビギナーであるあなたがこのようなプレーをした時点で、強いられる反省点は3つある。ひとつは、手札の強弱に関する理解不足に対する反省、次にテーブルの性質、すなわちこのテーブルにどのようなタイプのプレイヤーがいて、それぞれがどのような関わりをもってプレーしているか、ということに関する認識の甘さに対する反省、そして最後はポジションへの注意力の欠如に対する反省である。もしも、あなたがフロップで相手からベットされたら、そこに2が出ていない限り-たとえ相手が何ももっていなくても-、コールすることは難しくなる。47枚のうち、目的の札はたった2枚。しかも、ポットは少なく、たとえ勝ったとしても実入りが僅かであることをみれば、安易にコールしたことに対する見通しの甘さを指摘されても仕方がない。
一方、あなたが同じ手札をボタンの位置で持っていたならどうか。たとえ、相手が同じ位置からレイズしてきても、コールするプレイヤーが少なく、勝負にのってもポットの実入りが少ないと判断すれば、あなたもそのまま手札を捨てればよいし、コールするプレイヤーが多く、勝負にのるだけの価値があるポット量と判断すれば、あなたもコールすればよい。
ポジションに関する考え方、及びポジションを利用したテクニックについては、ポーカーのスキルの中でもとくに重要かつ分かりにくい部分であるため、項を改めて(第4回)さらに詳しく解説していきたいと思う。
5) テーブルのタイプを掴む
テーブルは生きものである。プレイヤーは常に入れ替わり、ゲームは時に予想外の展開をもたらす。あなたが入った時に穏やかだったテーブルも、ずっと穏やかなままではない。一体、自分のいるテーブルがどのような性質をもったテーブルなのか、そして、その中で自分は周りのプレイヤーからどのように位置づけられているのか。この点を考えることは、心理的側面の強いポーカーにおいて非常に重要である。テーブルの性質を正確に把握し続けることが出来なければ、あなたは適切なアクションに対して十分な成果を挙げられないか、或いは、カモになる。
あなたのいるテーブルのタイプは、たいてい次の5つに分けられる。
1) タフなプレイヤーの多いテーブル
2) 極端にアグレッシブなテーブル
3) 会話の多いルーズなテーブル
4) タイトでパッシブな常連テーブル
5) 何らかの理由で一時的に険悪なムードになっているテーブル
1のタイプは、いわゆるタイトでアグレッシブなテーブルである。テーブルには熟練者が多く、会話は少ない。しかし、仲間内による暗黙の連携もあり、新しく入ってくる者はすぐさま標的にされてしまう。たいていのプレイヤーは、手札の強弱はもちろん、ポジションにも気を配り、オッズに関する知識もある。ひとたび相手をカモだと判断するや、決してそのプレイヤーを逃さない。もっとも、一見タフに見えるプレイヤーの中には、ポジションやオッズの認識の乏しいプレイヤーも混じっていることがあるので、上手く見極める必要がある。彼らは読みやすいABCタイトプレイヤーであり、自分が思うほどタフなプレイヤーではない。なるべく、このような人たちが多くなるようにテーブルを操作したいものである。
2のタイプは、常にポットが大きくなるテーブルである。1回でも勝てばフレンチレストランのディナーに誘えるが、負ければ帰りのタクシー代すら払えなくなる。初手から必ずレイズが入り、キャップ(cap: 限界までレイズをすること。たいていレイズの回数は3回程度に決められている)までいくことも珍しくない。チェックレイズも多く、ドローにはとくに要注意。いかにキレないようにするかが、このようなテーブルにおける最大のポイントである。
3のタイプは、会話が弾んでいて和やかなテーブルである。ルーズでコールが多いが、攻撃的なレイズやリレイズは少なく、チェックレイズに至っては皆無に近い。たいてい、こちらに注意が向かないため、一番のびのびと稼ぎやすいテーブルといえる。
4のタイプは、初手でレイズがかかりにくいため、普通なら勝負にのり辛い手札も挑戦することが出来る。ただし、あまり中途半端な手で押すと、相手にあっさりコールされてしまうので、注意が必要である。皆、手札の強弱を分かっていて堅実であるから、お粗末な手札でショウダウンすると軽蔑のまなざしを向けられることになる。常に実入りは少ない。
5のタイプは、たとえばひどいバッドビートが続いたり、ひとりのプレイヤーが大勝していたり、あるプレイヤーのアクションがやけに遅かったりして周りのプレイヤーが苛立ち、そのせいで、全体的にタイトだったテーブルが一時的にルーズになっているテーブルを指す。
このように、自分のいるテーブルがどのようなタイプに属するのかを知ることが出来れば、それに応じてプレースタイルをフレキシブルに変えることも出来るようになる。すなわち、その環境に適した「泳ぎかた」が可能になる、ということである。もちろん、その泳ぎかた次第で、激しく波を立てたり、穏やかなままにしておくことも出来よう。周りから、自分がどのようなプレースタイルをもったプレイヤーとして見られているのか、という点を意識しておくのも大切である。これらの点を押さえておくことなしに、テーブルの操作は望めない。
もちろん、自分に合わないテーブルであれば、席を立つか、別のテーブルに移動することである。とくに、周りのプレイヤーたちが自分をターゲットにしていることが明らかならば、自分の腕に自信があり、かつ周りからの威圧に耐えられるだけの肝がなければ、同じテーブルでゲームを続けるのはやめた方がいい。8対1、9対1の勝負で稼ぐのは、至難の業である。
なお、アドバタイズ(advertising)を中心としたテーブル操作のテクニックについては、第5回で詳述する。また、プレイヤーのタイプについてはコラムでも取り上げたことがあるので、そちらも併せてご覧頂きたい。
6) ブラフをかける
ブラフ(bluffing)には、大きく分けて3種類ある。ひとつは、いわゆるはったり(complete bluff)であり、これは手札に関係なくベットをする純粋なブラフをいう。また、はったりに近いコールドブラフ(cold bluff)は、非常に弱い手札によるブラフをいう。そして最後はセミブラフ(semi-bluff)で、これは何らかの手役発展の意図をもって行われるブラフをいう。はったりやコールドブラフがパッシブなブラフであるのに対し、セミブラフはアクティブなブラフと言うことが出来よう。フラッシュドローやストレートドローにおけるベット(若しくはレイズ)は、セミブラフの典型である。
ブラフの成否は、ポジションやオッズ、それにブラフをかける人のテーブルにおける評判などによっても大きく左右されるため、かなり高度なテクニックである。はじめのうちは、下手にブラフをかけると怪我をする危険性が高いため、お勧めできない。裏を返せば、かじりはじめのプレイヤーほど、ブラフに頼りやすいといえよう。
ブラフをかけるタイミングについては、第5回で詳しく述べたい。
戦略、テクニックの概説は以上である。
これから詳しい戦略、テクニックの項に入っていくわけだが、あなたにとって最も大切なのは実践だということを常に心に留めておいてほしい。まずは、テキストのページをめくる時間があったら、クリックして席に着いてみることであり、シミュレーションソフトを起動させてみることである。あなたはポーカープレイヤーであって、研究者ではない。