#15 ガイドブックとポーカー


ポーカーの世界戦(WSOP)真っ最中ということもあり、ポーカーファンのみならず、このビッグイベントをひと目みようとガイドブックを引っさげてラスベガス入りされる一般旅行者のかたも多いと思われるが、これら市販のガイドブックほどポーカーに関する記述がおろそかで、しかも間違いだらけのものはない。
そこで、今回は旅行ガイドブックにおけるポーカーの記述というものがどれほどお粗末なのかを白日の下にさらしてみたいと思う。これらガイドブックの内容が、悲しいかな、すなわち今の我々のポーカーに対する認識そのものなのである。
では、早速旅行ガイドブックのひとつである「ワールドガイド アメリカ4 ラスベガス」(JTB刊)を例にとってみていこう。手許にこのガイドブックのあるかたは、それを見ながらこちらを読みすすめていってもらいたい。なお、ここで批判しているのはゲーミング、とくにポーカーに関する項のみであって、本書全体の内容を批判するものではないことを、予め断っておきたい。

まず、本書における「ゲーミング」欄をみてみると、そこではブラックジャックやクラップスなど全8種類のカジノゲームが紹介されていて、ポーカーはスロットマシン、ルーレット、ブラックジャックに次いで4番目に位置づけられているのが分かる。だが、ブラックジャックまでは見開きで紹介されているのに対し、ポーカーからはそれぞれ半ページ分しか割り当てられていない(以降、クラップス、バカラ、キノと続き、スポーツ・ブックで終わる)。そして、ページ上方に太字で「カンと度胸が運を呼ぶ高度なテクニックを要するカードゲーム(傍線筆者)」というキャッチが飛びこんできた時に嫌な予感はさらに強まり、ライブゲームのポーカーとビデオ・ポーカーとが明確に区別されておらず、同じ「ポーカー」という枠内で紹介されているのをみてしまったとき、その思いは確信へと変わる。僅か半ページの中で、これでどうやってまともな解説ができようか。

さて、ページの構成は大きく3つに分けられる。ひとつは、「ゲームの概要」、続いて「プレーのしかた」、そして「ワンポイントアドバイス」である。
はじめに、「ゲームの概要」からみていくと、ポーカーとは配られた手札を「引いたり、捨てたり」して「手役を作っていくゲーム」とあるが、この「引いたり、捨てたり」という表現は、現在のポーカー事情に関する記述においてごくありふれた表現であり、そしてそれは多くの場合誤りである。おそらく、ここではカード交換の認められているドロー・ポーカー(ファイブ・カード・ドロー)、とりわけハイ・ドロー・ポーカーを念頭に置いていたのであろう。
また、ポーカーでは必ずしも高い手役を作っていくのが目的であるとは限らない。ポット獲得という点が欠落していることから、いきおいこのような説明にならざるを得なかったものと思われる。
書き手の文章はさらに熱を帯び、冒頭で「引いたり、捨てたり」と述べてあるにも関わらず、ポーカーには多くの種類があることを記した上で、「ファイブ・カード・スタッドが最もポピュラー」という文が続き、突然ファイブ・スタッド・ポーカーが登場する。「ポピュラー」という表現そのものが既に罪深いのだが、そのうえ「最も」というたいへん勇気のいる副詞までつけてしまっている点に注目されたい。 なお、本書が2001年度版ということを強調しておきたいと思う。

続いて、「プレーのしかた」について。
これに目を通し、実際のポーカールームに足を踏み入れようという気になったすべての−熱心かつ真面目な−人たちが気の毒である。ラスベガスでは殆ど死に絶えているハイ・ドロー・ポーカーに関する記述であると思われるので、これらすべてのアドバイスは無視して構わない。

最後に、「ワンポイントアドバイス」について。
「いいカードが揃っても、『ポーカーフェイス』で周りに気付かせない度胸も必要」と、非常に親切かつためになるアドバイスをしてくれている。ポーカーといえば「ポーカーフェイス」。これなくしてポーカーについてすべてを語ったとはいえない。意識的にカッコで括ってあることからも、それがいかに強い自信と決意をもって採用した語であるかが分かる。「度胸」や「カン」もそうだが、こうしたキーワードを散りばめなければ自分が許せないような、担当者によるある種の強迫観念すら感じさせられる内容である。

わたしの考えをまとめてみると、こんな内容ならば「ガイド」してもらわない方がまだましだということになる。
ひょっとしたら、わが国におけるポーカーの正しい理解と発展を阻害している近因(若しくは遠因)がこのあたりにあるかもしれないので、今後もこのようなカタチでこれら各種ガイドブックのやる気のなさをばっさり斬っていきたいと思う。
また、もし皆さんがその手のガイドブックをお持ちなら、そこでポーカーがどのように紹介されているかを−なるべくメールで−教えて頂きたい。できれば、これに優るとも劣らぬひどい内容のものをお待ちしている。



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