第21回 名古屋ポーカーオフ(POKER in NAGOYA)


平成13年4月28日(土)快晴 於 愛知県スポーツ会館

オマハハイローは、勢いにまかせて書いたら物語調になってしまった。妄想爆発。ゲーム展開それ自体に関しては事実なのでご安心を(当たり前だ)。



***



順位ネーム
優勝いわた
なごやん
heba
池永
LAC-HERO
爆破道
いぶやん
斉藤


上はテキサスホールデムトーナメント順位表。

今回のこのゲームに関しての報告は短い。 あれこれ言えないことはないのだが、それにはあまりに気力を浪費しすぎるであろうし、その浪費する気力に 見合うだけの話題性にも欠ける。せいぜい、中盤77にTTでコールしたことで上位への足がかりを 掴んだものの、優勝するにはもう少しチップを保持していなければいけなかった、ということのみを 記すに留めよう。ゲーム終了後にぽつりと漏らした「カードが偏りすぎたなあ」というディーラーの斉藤氏の言葉にも、素直に温度を感じた。 だが、いわた氏が勝ち、わたしが負けたというこの結果は、チップやカードの問題だけではなかった。Qのトップペアがヒットし、 なんたる僥倖とチップを前に押し出した刹那、間髪入れずにオーバーペアでコールされ、 そしてそれが、以降の形勢の逆転を決定的に困難なものとしたというヘッズアップにおける汚点も、 ここは包み隠さず−いわた氏の名誉のためにも−報告しておかねばなるまい。

ちなみに、いわた氏はこの部門初優勝である。心から祝福したい。



***



順位ネーム
優勝なごやん
池永
斉藤
LAC-HERO
いぶやん
heba
いわた
爆破道


上はセブンスタッドトーナメント順位表。

序盤、爆破道氏があの人とぶつかった。爆破道氏のベットが続く。間をおかずにコールするのは ダイヤ2枚の鈍く光る池永氏。しかし爆破道氏のほうもクラブの目が続く威圧的なカード展開。 ストレート目のおまけ付きだ。
ラストカードが配られた。同氏ベット、感情の見えぬ低い声音。対する池永氏の発声、レイズ。 リレイズ。声音がワントーン上がった。この、ほぼ向かい合う両者のやり取りは短いうちに、だが突き刺すような 激しさでもって、もう一巡繰り返された。コールの声は池永氏の口からこぼれ出る。 フラッシュでもって爆破道氏のストレートを降した瞬間だ。なるほど、看板からして 相手がより高めのフラッシュを完成させたと予感したのであろう。 しかし、勝敗は池永氏に配られたラストカードの閃く真紅によって分かつこととなった。

中盤。 一向に手が入らない。まあ、いつものことなのでそんなことはどうでもいいのである。ブルーのサングラス越しに右をみる。 顔面から指先まで蒼白く染まったいわた氏が、さっきからなにやら独りごちている。珍しくおとなしいではないか。 しばらくそのままおとなしくしていてくれることを密やかに願う。一方左をみると、いぶやん氏の機嫌がいい。 勝つたびに胸を反っくり返して哄笑する人間をみると、得てして胸糞が悪くなるものだが、この人だと寛大になって許せる気がする。 不思議ではあるが、これは徳である。目を走らせてみると、真向かいのLAC-HERO氏と池永氏も浮いているのが分かる。
またbring-inか。ええ、払いますとも。

いい天気だ。まどろんできた。絵札ははいっとんのか、と決まりきったフレーズを心の中で呟きつつ。 だが、そんな気分が一瞬にしてはじけた。オープンカードA。愛い奴。待った甲斐があったというものよ。伏せ札たち、汝らも面をあげい。なぜ奉行調。

J-J!

heba氏のレイズという発声をきき、ゆっくりと顔を上げる。さきほどは、トップペアで攻めたら Tフルまでつくられて、あやうくチェックレイズをかまされるところだった。今度はその借りを返す番だ。
わたしの前まですべてフォールドと言ったことを確認し、リレイズ。 bring-inでオールインしたLAC-HERO氏と、あっさりコールのheba氏との開戦。 互いにデリケートな状況、heba氏をオールインさせたはいいが、開いてみればペア同士だったという。KKに勝つには ペアができてもらうしかない。あわやKings upか!?と思いきや、もうひとつのペアが出来たのはこちらのほうだった。 ラストカードは何事も起こらず、最後まで剣呑な思いにつきまとわれながらも、押しきるようにして難所を制した。
そうだ、LAC-HERO氏をすっかり忘れてた。666のセット勝ち。わたしの未来を暗示しているのか? 相変わらず嫌な男である。ゲーム続行。

さて、いよいよ人数も絞られてきた。今こそ、時を逸せずスティールをかけるべきだ。 と、勇ましいのはよいが、急に分かりやすい手ばかりが回りだした。レイズをかけざるを得ないような手が。 これじゃあスティールをかけにいくとは呼べぬ。負ける気がしない、というのはこのような局面のことを指すのであろう。
いぶやん氏に競り勝った時点で、結果は揺るぎないものという確信をもった。今までは そういう邪心を抱くと、大概悲惨な結末に終わってきたが、今回だけは間違いない。 最後も他に選択の余地がないほどの札が回り、相手の44にストレートという手で勝利を決めることができた。

さあ、いよいよオマハハイローだ。



***



順位ネーム
優勝爆破道
斉藤
池永
いわた
heba
なごやん
LAC-HERO
いぶやん


上はオマハハイロートーナメント順位表。

"このゲームに関しては一家言あるつもりでいる割に、冴えない。"
わたしは意識が遠のいてゆくこの男から、辛うじてこの言葉のみを聞き取ることができた。

今回はとくに、終始嫌な予感がこの男の周りからまとわりついて離れなかったようである。 想像してみるといい。迷いの森の瘴気にかかり、蹌踉たる足取りでそぞろ歩くひとりの男の姿を。 その男の末路までの道のりを、わたしは今思い返している。

初っ端、A23K A-suitedが配られた。その男の喜びようといったらなかった。あまりの欣喜雀躍ぶりに、 かけていた華奢なサングラスがずり落ちそうになったほどだ。ともかく、その男の発声はレイズ。 それ以外には考えられなかった。加えて、いくらアーリーからレイズをかけられているとはいえ、 そしてそれがある程度の信用のある男からのものであれ、この始まったばかりの楽しいゲームに フォールドというつむじ曲がりの判断をもって臨むこと、カードが2枚も増えたことに対してわくわくする 感情を素直に表現するのは当然じゃないかという"常識"に対して、嘲笑、軽蔑、若しくは安堵の思いを 抱くことも同じく考えられなかった名古屋では、案の定殆どがコールした。彼ら共通に流れている 感覚は、"まずは手鳴らし、いっちょ小手調べ"である。
BBの人物もコール。男が本ゲームにおいて名古屋で最も信頼し、尊敬しているこの人物も、周りの空気に 呑み込まれてしまったか。男は、すぐ隣にいるその爆破道氏に教えてやりたい気持ちでいっぱいだった。 "ほらごらん!僕はいまこんなに素晴らしい手をもっているのだよ!"と。 彼はきっとこう答えるであろう。 "やあ、こんなすごい手にはかなわないや"と。 そして惜しげもなく自分の手をmuckするであろう。そうしたあとの微笑まで、男にははっきりと見てとれる。

フロップ、4-8-X。
ck-ck、当然の如く男はベットした。誰一人として降りる者はいなかった。

ターン A。
ck-ck、またも男はベットした。レイズまでした。誰一人として降りる者はいなかった。

そしてリバー、ck-ck。ベット以外に考えられぬ。2名コール。誇らしげにナッツローを開く男。 渋面でAces-upを示す爆破道氏。そしてもうひとりのショウダウン、sbでコールした斉藤氏の手札、2-3。 Aがないその手でコールされ、男の手札は効力を相殺されたばかりでなく、被害さえ受けた。

男はたった今、迷いの森に足を踏み入れた。



その後、A34Kでの押しきりロー、Ad-3dでのバックドアフラッシュ(始めはフロップでのロードロー)、 Qのセットによるチェックレイズを成功させてのスクープなど、決して良くない状況ではなかった。 むしろ、風はこの男に向かって吹いているようにみえた。 だが、それをたやすく追い風、順風と結論づけてはいけない。 追い風は往々にして突風を巻きおこし、嵐となり得ることを肝に銘じておくべきだ。

森の木々が騒ぎ始めた。風は、心持ちその動きを変えたようだった。男は、気づかなかった。



AA。男は数分前に終わったひとつのゲームのことに頭をめぐらせていた。
あの時は何のためらいもなく捨てたAA。その判断は"いつものとおり"間違っているはずはなかった。 ターンでAがめくられ、リバーで残りのその1枚がおごそかに姿を現すという光景をみるまでは。
いや、待て。今回は状況が違いすぎる。弱いがローの保険もある。これまでのところall fold。 そしてポジションはボタン。レイズしてやれ。ブラインドの2人はコール。
フロップでBBのLAC-HERO氏に叩かれ、ターンでダイヤ2枚。ここでsbの池永氏がベットしてきた。 LAC-HERO氏コール。望み、もはやAAは何の意味もない。バックドアフラッシュと、 この危機的状況において縋るにはあまりに頼りないローだけだ。そしてリバーはダイヤだった。 池永氏ベット、LAC-HERO氏ダウン。そしてただひとり長考する男。手札、A-A-Qd-7d。思い通りの展開ではないか。 なにをためらうことがある?
コールしてはいけない…。頭の上からそんな声が聞こえてきた気がしたという。 しかし、いよいよ勢いを増して吹きすさぶ風の轟きに殆どかき消されてしまったのか、 その時は男の注意をひきつけるまでに至らなかった。
手を開示し、相手のダイヤ2枚(Aがあったことだけは確かだ)とスペードの6を みたとき、すべてを悟った。男にはもう1枚の札をみる必要などなかった。
いや、本当はみたかったのかもしれない。一陣のつむじ風が男のカードを舞いあがらせ、 それと同時に男の記憶さえも那由多の彼方まで吹き飛ばしさえしなければ。

今、この男をみよ。
周りからは総合優勝間違いなしと目され、当の本人もそれによって横溢していた自信を背景に、 数十分前にはまんざらでもない気持ちで微笑を湛えていた余裕をすっかり失い、 代わりに神にでもすがろうとしているこの狼狽ぶりをみよ。 そして、どのゲームよりも矜持を抱いていたオマハハイローにおけるこの放心ぶりをみるがいい!



遠くで俺を呼ぶ声が聞こえる。これは幻聴か…?
たしかに聞こえる。
目の前に配られた自分の札をみるんだ。すっかりさっきの風にチップも奪い去られたような錯覚を覚えたが…。
錯覚ではない。たしかに手元にあるチップの半分ほどが、ごっそりなくなっている。

…As……
……K…

とはいえ、まだ十分にチップはある。半分のコップの水をまだ半分もあるととるか、 もう半分しかないととるかという問題ではない。確実に、まだ十分浮いているではないか。

…K……

戦わなくてはならない。今こそ戦場に戻らねばならない。黄塵の舞う戦場に。
そうだ、まだ負けたわけじゃない…。

……2s

男は最後の力を振り絞り、見えない敵と闘っていた。いつしか豪雨に変わった状況に視界を 奪われ、意識までも失いかけているその男の最後の抵抗。信念という名の悲しきカンフル剤。 だが、この試合がスティールという、有り難くも残酷な結末を用意していようとは。

それでもみじめに闘いつづけた。
札を敵前で落とし、すべてを読まれながらも虎口に突進し、リバーでストレートを完成させもした。
だが、彼の命の灯火は、今まさに尽き果てようとしていた。それは闘いの終焉であった。

あの男よりも…。

彼の口から何度も吐息に混じって繰り返された言葉。
あの男とは、言うまでもなく、この日信じ難い復活劇を幾度となく繰り返したheba氏のことだ。 中盤から後半にかけて常にshort-stackでありながら、オールインのたびに不死鳥の如く甦った男。 不死鳥にたとえたのは、その勝ち方が奇跡的なほどに華麗で、かつ完璧なものだったからである。この人が オールインになると、その都度ナッツか、それに匹敵する手札を完成させた。手札も A2A3、A2KJなど、素晴らしいものを持っていた。周りは、この人のオールインを恐れた。

なぜだ!
1枚1枚真剣に希望を託して札をみる者より、肩肘ついて優雅に長い足を組みながら、 1枚ずつつまみあげるようにして開いてみせるこのパフォーマーのほうに、札の神は味方するというのか! 口をきっと結び、邪念のはびこる余地をなくすことに最大限の注意を払っている者より、 この極めて危機的な状況にありながら笑顔をたやすことのない者のほうがより誠実さの意味において優るとでもいうのか!
俺の最後の希望…。このまま膝を折らざるを得ない展開しか残されていないのならば、せめてあの瀕死の男が先に行ってから幕を引きたい。 あの男、自分に比べたら限りなくゼロに近いチップしか持っていないあの男よりも先に脱落するなんて、そんなことがあっていいのか。いいわけはない。
だが、事態は更に深刻さを増してきているようだ。ATT3、レイズ。池永氏リレイズA46X with 2hearts。 フロップでハート2枚。一縷の希望をTTに懸ける。ハートだけは出給うな。ターン、ラグ。リバー、2h。嗚呼…やんぬるかな!



"このゲームに関しては一家言あるつもりでいる割に、冴えない…。"

そう語る彼の耳に、圧倒的なチップリーダーだったいわた氏と池永氏が相次いで倒れた、 とくに池永氏をフロップセットで降した爆破道氏は完勝といえるものだった、と繰り返し伝えた。 勿論、それによって君が総合優勝を勝ち取ったのだ、ということも。 けれども、返事はなかった。ただ、ゆがんだ微笑のみがあった。 彼が最後にみせた微笑は、自分の力量の甘さを恥じた自嘲だったのかもしれない。



吹き立つ風は、いつしか止んだようだった。
雲の切れ間から溢れた数条の駒影が、男の横顔をやわらかに包みはじめた。


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◆関連サイト◆
オフの予定等はこちら(heba氏)
名古屋オフ限定ポイントランキングはこちら(LAC-HERO氏提供)



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