#4 セカンドベスト


きた…!
そのリバーをみたとき、男は勝ちを確信した。フロップでQKをみても、いつもなら手札9Jでリバーまで いくことはないはずだった。その男が敢えてストレートを狙いにいったのは、このリバーの女神に 引き寄せられたのかもしれない。そしてたしかにTは配られたのである。 勝てる…。
あとは勝利へ向かうだけだ。頭の中はその確信だけで満たされていた。 そう、やがて訪れるべきショウダウンで相手のAJに気づくまでは…。

皆さんもこのような微妙な勝負に直面したことがあると思います。そして、それは決まって 自分が勝てると思い込んでいるときに起こるものではないでしょうか。 ホールデムでは、常に変化するボードに対し、その都度瞬時に、しかも正確にナッツの判断を しなければなりません。ナッツとは、その局面において予想される最高手(ベストハンド)のことをいいます。 その見極めが甘いと、思わぬ失態を演じる羽目になってしまいます。
とはいえ、局面によっては、ある程度ポーカーに慣れた人でも狂う場合がままあります。 それが、非常に微妙な見極めを求められる局面なのです。まずは分かりやすい例を。

ボードはTh−Kh−Ahです。このフロップの時点でのナッツはなんでしょうか。もし、プレイヤーの手札が JhQhならロイヤルストレートフラッシュですから、これがこの時点でのナッツということになります。 その次に高い手役はAをハイカードにしたフラッシュですね。この場合はボードにAKという高い札が でてしまっているので、Qを手札にもつ人が最高のフラッシュということになります。フラッシュの次は ストレート、そしてAのスリーカードとなります。このような例は、分かりやすいと思います。 では、このフロップのまま、ターンでTがでた場合はどうでしょう。 このとき、ロイヤルストレートフラッシュ以外の最高手はTのフォーカード、そして手札AAをもっていれば Aのフルハウス、手札KKのKフルハウス、手札ATのTフルハウスの順となりますが、これが瞬時に 判断できる方はある程度慣れている方かと思います。しかし、まだ判断しやすいケースといえるでしょう。

"セカンドベスト"は、文字どおり、ナッツを見逃してしまったために負けてしまうパターンで、 そのような場合はたいていかなりのダメージを受けます。なぜなら、自分が負けると思っていないからです。 よく"分かっていたけど降りられなかった"という言葉をききます。しかし、これはまさに敗者の弁。 分かっていれば降りるにこしたことはないのです。それが降りられなかったのは、相手のベットの意味を 読みとれなかったそのプレイヤーの落ち度であり、ひょっとして勝てるかもしれないという期待を捨て切れ なかったそのプレイヤーの決断力の欠如にあるのです。いずれにせよ、ナッツの見逃しと大差ありません。 なお、ここではとくに、同じ手役同士でぶつかって負ける場合の"セカンドベスト"についてより多く 言及してあります。そして、その中でもとくに、その中にナッツが含まれている手役に対する セカンドベストの場合、という例を多く扱っています。そのような場合こそ、より高度な見極めが要求されると思うからです。

セカンドベストで負けるケースはよくあります。しかし、ポーカーがゲームである以上、そのような 局面は避けられませんし、それ自体は当然なので、悔しさはあれど、さほど悲観すべきことではありません。 しかし、"微妙な"セカンドベストで負けたときには注意が必要です。なぜ負けたのかが分からないと、 次も同じ失敗を繰り返すことになりかねません。

もっとも読みにくい手は、フルハウスでもフラッシュでもなく、ストレートでしょう。 そして、このストレートほど厄介なハンドはありません。ある程度強いハンドではありますが、 常にフラッシュとフルハウスの危険におびえなければならず、なまじ強い手であるがために、負けたときの ショックは大きいのです。そして、それよりもむしろ、ストレート同士の勝負で起こる"微妙な" セカンドベストでの負けが多くあるように思います。

手札8Jで臨んだフロップが7−9−T。そのとき、ターンかリバーで8、或はJやQがでたときに、 相手のレイズでQハイ、Kハイストレートの可能性を考える余裕をもてる 人はどのくらいいるでしょうか。たいてい、慣れていない人ほど、フロップの時点で "勝った!"と思い込んでいるものです。その結果、ナッツの予測ができずに、負けたときは予想以上の ショックを受けてしまうことになるのです。ただ、数ある同手役のセカンドベストのパターンの中でも、 このような"微妙な"ストレートの予測はかなり難しく、どうしても見逃してしまいがちです。 ストレートができそうな、若しくは自分ができてしまっている場合は常に注意してナッツを予測する必要があるでしょう。

ストレート以外の、微妙なセカンドベストの例をひとつ。手札6Kで迎えたボードが6−K−T。 ターンで6がでたら、あなたは自分の勝利を確信しますか? 相手がレイズ、リレイズしてきたとき、KK、或はTTをもつ可能性を瞬時に考える余裕があるでしょうか。 また、リバーでTかKがきたら慎重に対応することができるでしょうか。先日も、このようなケースを みかけましたが、負けたプレイヤーは、リバーでTがでたにも関わらず最後までレイズをし続けていました。

さきほどのストレートの例、そしてこのフルハウスの例についてどちらにも共通していることは、 自分以上の強い手役がある可能性を考える"余地"(ナッツの予測)がなかったということ、そして 他方で、確実に勝てるという正確な予測を冷静に下しているナッツをもつプレイヤーがいるということです。 つまり、ナッツをもつプレイヤーは、常にセカンドベストをもつプレイヤーがナッツを見誤る、または見落とす ことを願っている、ということです。その差(ギャップ)のなんと大きいことでしょうか。

では、なぜ微妙なセカンドベストで負けてしまうことになるのでしょう。 それは、先ほども少し触れましたが、セカンドベストで負けてしまうプレイヤーの殆どが、 そのときまで"自分が勝てる"と思い込んでいることにあります。単に相手をみくびっていることから 起こるケースもありますが、たいていは自分の勝ちを信じて疑わず、そのことから、普段ならば 冷静に見極められるはずのナッツの見極めが狂ってしまうのです。いわば、"勝てる!"という霧によって 盲目状態にさせられているわけですね。わたしも今だによくそういう状態になることがあります。 やはり、そのようなことを防ぐには経験はもとより、勝てると思う局面でこそ常に冷静でいることが 肝心だと思います。まさに、"勝ち急ぐ者は自壊す"といえるでしょう。"きっと〜"ではなく、"もしかしたら〜"。 また、人は先入観の塊であり、しかも、えてして自己中心的なものです。従いまして、 相手の手を自分に照らし合わせて判断しがちです。そういう人が使う典型的な言葉はいつもこうです。
"(予測はしていたけど)まさかこんな手でくるとは思わなかった"

ここまで述べてきて、"勝てると思う局面でこそ冷静に"とか"もしかしたら〜"などというのは なんとも消極的ではないかと思われる読者の方がいらっしゃるかもしれません。しかし、それは ベットの仕方に言及していないからです。 やはり相手の手を探るためにはチェックやベット、それにレイズを駆使する必要がありますし、 そこから情報を読み取って、ある程度絞っていく作業は欠かせません。むしろ、この技術がポーカーの基本です。 ただナッツをおそれるばかりでは持ち金は増やせません。このことは、ネットポーカーでもライブポーカーでも 共通しているものだと信じます。

先ほども微妙なセカンドベストで負けてしまうプレイヤーを酷評しましたが、やはり、 ナッツを見逃してしまっていながら勝ちを確信しているセカンドベストのプレイヤーがいる一方で、 確実な勝ちを予測しているプレイヤーがいるわけです。これは明らかにスキルの差でしょう。 もしも、自分がセカンドベストだと気づいていれば、つまり、ナッツを見極めていれば 被害を最小限に抑えることができる筈です。 そのことが分かっていないプレイヤーは、セカンドベストで負ける度に決まってこういうでしょう。
"あとひとつの差だった""惜しい負け方で悔しい"と。
彼らは、その"ひとつの差"がいかに大きいかを考えていません。微妙であればあるほど、その勝利者は 大きく勝ち、その勝利は偶然ではなく、勝つべくして勝ったという実感が沸くものでしょう。
勝つ可能性が高くなればなるほど、負けたときのダメージは大きいもの。KハイフラッシュがAハイに 負けるような場面などはその典型です。そして、このような場合、両者とも勝ちを確信していることが多い ものです。

本当のスキルは、数字ひとつをいかに制するか、そのことにかかっているような気がするのです。 そして、その読みあいの難しさがポーカーをここまで魅力的なゲームにしているのだと。

最後に例をもうひとつ。 あなたの手札はKKでボードがA−K−2とでました。ターンでAがでた時点で、どれだけの人が AKとA2、そしてAAの可能性を疑うことができるでしょうか。(6/21,1999 なごやん)



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