#3 ルーズプレイ再考
トータルで勝つにはタイトのほうがいい、しかし本当にタイトプレイがルーズプレイに勝るのか―
その答えを出すのは容易ではありません。どのような場合でも前提が必要になってくるわけですが、
ポーカーでもその人が何を目的にしてプレイをしているのか、ということを踏まえておくことが大切でしょう。
誰しも、ゲームに負けて喜ぶ人はいません。ゲームに挑むからには勝ちたいわけですね。その前提でいくと、
あとは「いかに確実に勝つか」というタイプと「いかに大きく勝つか」というタイプに大別されるのでは
ないでしょうか。
わたしの中では、基本的に前者がタイトプレイヤー、そして後者がルーズプレイヤーの目的だと認識しています。
「強い」と呼ばれる人ほどその目的を果たしている人だといえるでしょう。そして、その中でも稼ぎだす
額の度合いによってプレイヤーの優劣が分かれるわけです。
タイトプレイヤーは、概してルーズプレイヤーを嫌う傾向にあるようです。わたしは今までにこうした
両者の相克を半ば不思議に思っていたのですが、観察を続けていくうちに、おぼろげながらその理由が
分かってきました。
タイトプレイヤーは、そもボード(場札のこと、ホールデムではフロップ=最初の3枚・ターン=4枚目・
リバー=5枚目を合わせてボードという)が与えてくれる情報を手がかりにして先の展開を予測し、
ポットに応じて臨機応変に対応します。事実、ホールデムにおいてはいかにしてこのボードを的確に読むか、が
勝敗を分けるカギになりますから、タイトプレイヤーの多くは、そのスキルに長けているという自負をもっています。
逆に、ルーズプレイヤーは一般的にコールが多く、次の札を見たがる傾向にあります。従いまして、
タイトプレイヤーからみればルーズプレイヤーはボードを読む能力に劣るという烙印を押されることに
なってしまうのです。
たしかに、初心者にはルーズプレイヤーは多く、夢を抱いてコールしたにも関わらず無残にフォールド
せざるを得ない状況に陥るという場面は実に多く見受けられます。しかし、ルーズプレイヤーの中にも
「強い」人は存在し、先の目的を達成しているのです。「強い」プレイヤーはよくコールをするのですが、
次の札に必ず自分が期待した札がくることを確信しています。つまり「引きの強さ」をひとつの自信と
しているわけですね。
さて、ここで具体的にプレイヤーの特徴をみていくために例を挙げることにしましょう。
テーブルには10人が参加しています。ルーズでアグレッシブ(攻撃的な、つまり
レイズ、リレイズがよくかかることを示す)なテーブルなため、次の札をみにいくためには相当の出費を
覚悟せねばなりません。ここではその中で5人のプレイヤーを抽出していくことにします。
タイトプレイヤーであるA氏はAdKd、他からレイズがかかったものの同じく典型的なタイトプレイヤーである
B氏(AcAs)のリレイズに注意しながらコールしました。ルーズでアグレッシブなプレイヤーのC氏は8c9dでレイズをかけましたが、
彼はほぼ毎回このような調子なので周りはさほど気に留める様子はなく、ルーズでパッシブ
(あまりレイズのしない受け身的なさま)なプレイヤーD氏(4hJh)、「強い」ルーズプレイヤーといわれる
Z氏(9cTc)もコールで臨んだフロップがTsJcQh(この際ポジションもかなり重要な意味をもつのですが、
話のポイントがずれるため割愛します)。
B氏のベットにA氏は当然レイズ、C氏のリレイズと続きます。ルーズプレイヤーのD氏はいつもの
ようにコール、Z氏も同様にコールしました。そして期待のターンが9h。B氏がチェックしたとき、A氏は
ほぼ勝利を確信しました。しかし、リバーでフラッシュをひかれることもあるので、(ボードの読めない)C氏を
利用してその回はキャップ(限界まで賭けること)に。この時点で残るは5人。B氏は一度はコールしたものの、
レイズリレイズがかかるとフォールドし、D氏Z氏はともにコール。しかし、この3人のコールの意味は
かなり違います。B氏は降りたい気持ちでいっぱいなのです。普段は攻撃しない同じタイトプレイヤーの
A氏の激しい攻撃に動揺しているからです。しかも、稀にしか参加せず、AAという得難いカードが配られたために
降りるに降りられないわけです。結局ここではストレートがみえているので降りましたが、
このようなところにB氏のプレイヤーとしての限界が感じられます。
一方、D氏のコールはフラッシュ狙いのコールなのですが、このタイプはペアがありさえすればコールする
ようなゲーム参加型のタイプなので、今回もいつものようにコールしただけです。このD氏のようなタイプも
先のC氏と同じくボードの読めないプレイヤーとみてよいでしょう。
では、Z氏のコールはどうでしょうか。この人は、最後にくる札がTしかないことを知っています。
しかも、すでにクラブとスペードのTは出ているので、Tがでるならハートがくる可能性が強いと読んでいます。
もしそうなら、チェックレイズをする構えです。しかし、Tがこなければこれで終わりだということも
分かっています。その上で、敢えてThを狙い、そしてそれがくる自信も持ち合わせているところがZ氏の
特徴です。
このゲームでは結局ThがきてZ氏が大量のチップを手にするのですが、まさかのフラッシュで負けた
D氏、それにフロップ段階でのストレートで自信満々だったC氏は呆然としています。A氏はリバーがでた瞬間に
コールに切り替えましたが、ついていってしまい大負け。
これはかなり極端な事例ですが、それぞれのプレイヤーの特徴をみるのには具合がいいのです。
仮にA氏が9cTcをもっていたとしてらどうでしょう。ターンで2ペアができたとしてもおそらく
フォールドでしょう。セオリーではフォールドで正解なのですが、こうした局面を目の当たりにすると
タイトに徹することに疑問を覚えてしまうのも事実です。
先のような負け方をしてしまったタイトプレイヤーのA氏の心境としては次のような感じでしょう。
「なぜリバーであんなカードがでるんだ」「ターンがでてレイズリレイズしたのになぜやすやすとコールできるんだ」と。
ポーカーをギャンブルとして捉えていないA氏は、ボードが予期せぬ展開をみせたことに腹を立ててしまうわけです。
それは、これまでボードを読む経験を積んできたA氏の自信を揺るがせにしてしまいます。
先のA氏の心境は個人的には理解できるのですが、それに同意するとなると難しいところです。
タイトプレイヤーの自信は、ボードを読む自信に裏付けされているため、タイトであることがすでに
強さそのものであり、それができぬ者は劣る存在と見なします。つまり、彼らの多くはタイトプレイの
絶対的な「信奉者」になってしまっているのです。わたしはこの流れに疑問符をつけんがためにこれまで
述べてきました。タイトプレイヤーは、戦略を追究するあまり、肝心の「ゲーム性」を見失いがちになります。
それだからこそ、逆にルーズプレイを見直す必要があるといいたいのです。
わたしはルーズプレイそのものを奨励しているのではありません。むしろ、単なるルーズプレイならば、
タイトプレイに劣ると考えます。それは、前回までのコラムで述べました。
ポーカーをはじめたてのころはルーズプレイヤーが圧倒的に多く、それは当然のことでしょう。そのようなタイプは、
次第にルーズなだけでは勝てないと悟るものです。そして徐々にタイトプレイへと目覚めていくのです。
そして核心部分がここです。タイトプレイに目覚めた人が、その状態のまま満足するのか、
それともタイトプレイを知った上で、敢えてルーズプレイを取り入れるのか、ということです。
タイトプレイヤーを熟知したルーズプレイヤーほどこわいものはありません。なぜなら、彼らはあらゆる
タイプのプレイヤーを想定して試合に臨むことができるからです。彼らはテーブルに応じてプレイスタイルを
変えることができます。そして、負けを気にしなくなります。この理由は2点ほど挙げることができます。
ひとつは、タイトプレイを知っているため、必ず最後には勝てるという確信を抱いているから、そして
もうひとつはタイトプレイヤーが陥りやすい理論的な戦略にとらわれないので、ポーカーをひとつの
ゲームとして捉えることができるからです。必勝法のない理論は、それが緻密になればなるほど形骸化するものです。
理論的にすすめていっている多くのタイトプレイヤーからすれば、先のZ氏のような行動は異常としか思えません。
そして勝ったときには憎しみが湧いてきます。これは予期せぬボードへの怒りでもあります。しかし、
Z氏が勝ったという「事実」は曲げられないのです。今回の例は仮想ですが、予期せぬ展開で勝敗がつく局面は
数多く存在します。
わたし自身、タイトなだけのプレイに徹することへの限界を感じています。
ヤフーポーカーでも以前のように高いリスクを背負うことを避けるようになりました。これは同時に
大きなポットを獲得できないことにも繋がるのです。確実に勝てるけれども、ゲームの面白さに欠ける
部分がでてきました。ですから、再度ルーズプレイを評価したいと思いたったわけです。
そうすることで、ポーカーのもつ本来の「ゲーム性」の魅力が鮮烈に浮かび上がるような気がするのです。
そしてこのことは同時に、1プレイヤーにとって成長になると信じます。
決してひとつのプレイスタイルを絶対視し、その「信奉者」にならないこと。
このことをわたしはいいたいのです。(5/18,1999 なごやん / 5/18,2002 一部訂正)