第5回 : ブラフをかけるタイミング
まずはブラフを考えるな
Michael Wiesenberg のポーカー辞書によれば、ブラフ(bluffing)とは「相手を落とすために弱い手でベットすること」とある。
「ポーカー=ポーカーフェイス=ブラフの掛け合い」、いまだにこれが世間に広く知られているポーカーに対するイメージであり、これが誇張されすぎているがために、他のゲームと比べてポーカーが底の浅いものだと思われている節がある。このあたりは既にコラムでも述べた(SIDE-B「ガイドブックとポーカー」参照)。事実、もしも勝つ見込みのない手でベットすることがブラフの意味する全てであるならば、ポーカーは単なる子供のお遊びに過ぎなくなってしまう。
しかし、その言葉の裏に相手の数やオッズ、ポジションやテーブルイメージへの目配りといった基本的なスキルの要素を汲み取れば、辞書の定義を表面的に受け取って誤解することもないはずである。
おそらく、ここまで当サイトのコンテンツを読み進んでこられた多くのかたがたは、ポーカーというゲームがハッタリのかけ合いなどではないことに気づいて下さっているとは思う。けれども、心のどこかにはあるのではないか、「ポーカーなんて騙し合い。最後はやっぱりハッタリだよ」と。
たしかに、ポーカーをしていてブラフが決まったときほど大きなカタルシスを得られる瞬間はない。ナッツで勝負を決めた時に比べ、その満足感は比較にならないほどである。
ひとたび個人ブログやポーカーフォーラムにアクセスすれば、どこもこの手の自慢話であふれかえっている。従って、単なるその場限りの楽しみでポーカーと接するならば、快感を求めるためにブラフへ走るのも良いと思う。しかし、長い目でみて負けないシリアスプレイヤーを目指す皆さんに対して本項で最初に申し上げておかなければならないのは、「まずはブラフを考えるな」ということである。
ローリミットの性質
98年のポーカー世界選手権大会(World Series of Poker)で、ポーカーをはじめたての素人が、熟達したプロプレイヤー Scotty Nguyen に完膚なきまでに叩き潰された。
Scotty はそこで華麗なブラフを披露し、素人との違いをここぞとばかり見せつけたのである。このようなトーナメント、とりわけノーリミットやポットリミットゲームなどでは、当サイトで扱っているローリミットよりもブラフの効果をあげやすい。
ノーリミットのようなゲームでは、ひとつの判断ミスが命取りである。相手のベットにたやすくコールしてしまえば、これで全てが終わってしまうことも珍しくない。よって、簡単にはコールできない。それに対し、ローリミットはオッズが合わなくても「コールできてしまう」種類のゲームである。すなわち、ブラフが極めて効き辛いゲームなのだ。
ローリミットでは、「勝てる席につき、勝てる手で、勝つべきときに勝つ」のが基本である。これまで、初手やボードの見方について重点的に述べてきたのはそのためである。そして、オッズの知識も含め、言うなればここまでは誰もが一定のスキルレベルまでたどり着くことができる。
他方、ポジションやブラフについてはこれらの要素に加え、その場その場の状況に合わせて瞬時に適切な判断を下し続けていかなければならないため、スキルにばらつきが生じてくる。従って、シリアスプレイヤーとなるための真のスターティングポイントはここからだともいえる。
まずは経験者のプレーを徹底的に参考にすることである。たとえば、同じ手なのに、なぜ前回とアクションが違うのかを考えてみるとよい。
テーブルイメージとアドバタイズ
あなたはどのようなタイプのプレイヤーだろうか。
コラムSIDE-Bでも取り上げたが、タイトパッシブなプレイヤーか、ルーズアグレッシブなプレイヤーか、それともマニアック?
これは自分が抱いているイメージではなく、相手から、さらにいえばテーブル全体からどういうイメージをもたれているか、ということだ。
もし、あなたが堅いプレイヤーと見られていれば、比較的あなたのブラフに対してはコールされづらくなるし、逆にルーズプレイヤーと見られていれば、あなたの参加するポットには比較的多くの参加者が群がってくる、つまりはブラフが効きづらいはずである。
そして、こうしたイメージはあなたのプレーはもちろん、相手のプレー、そしてプレイヤーそのものが入れ替わることで時々刻々と変化していく。大切なのは、自分にとって有利なイメージをその都度つくりあげることである。
そこで、ここではテーブルイメージを効果的につくりあげるのに用いられるアドバタイズ(advertising)という手法を紹介したい。
先のポーカー辞書には、「負けて当然の手をさらすことを意図してベットする」こともブラフのひとつだと述べられている。つまり、原則的にアドバタイズは、こんなに勝ち目のない手で勝負するなんて愚かな奴だ、こいつはいいカモだと思わせることを狙って行うものであり、のちにベストハンドが入ったときにガツンとやりこめる「先行投資」というニュアンスが強い。そして、これはとくにテーブルイメージの定着していないゲームの初期段階で行う場合が多い。bluejayさんの「独り言」でも、カモのフリをして常連たちから巻き上げるくだりが痛快に書かれている(ポーカーサイト STRADDLE「独り言」参照)。
しかし、こうした認識の下に立ったアドバタイズは初級者の皆さんにはあまりお勧めできない。あくまで、目の前のポットをとるためにブラフをするのが正道である。
たとえば、リバーまでチェックで回ったとき、毎回ポジションベットする代わりに、何度かはチェックで手をさらしてみる。また、次回ブラフを仕掛けるべく、それと同じ状況下で相手をおろした時に「ちゃんとした」手札をちらりと見せておくなど、アドバタイズもさまざまである。
ただし、これは頻繁に用いるものではない。また、スティールに成功した後で弱い手をさらすのも相手の怒りを買うだけである。アグレッシブでしつこいテーブルにしたい場合を除き、自分にとって大したメリットはない。
ブラフをかけるタイミング
Case 1
Starting hand: 9 8
Position: Button
Pot: 3 players
A 3 2
あなたはスティールのためレイズしたが、両ブラインドにコールされてフロップを迎える。相手はともにチェックし、ベットした。
A
ひとり残った相手は再びチェック。相手はブラインドであり、Axをもっている可能性は低く、ドローハンドの可能性が高い。しかも、あなたのフロップでのベットが効いている。たとえペアがなにかしら引っかかっていても、この状況でベットすれば、おそらくフォールドするしかないだろう。
Case 2
Starting hand: A 4
Position: Big Blind
Pot: Heads-up
5 5 2
スモールブラインドがリンプインを図ったため、あなたはブラインドからレイズ。フロップでは相手のチェックにベットしたが、コールされる。
K
相手は再びチェック。あなたはブラインドからのレイズが効いているため、ここでのベットは有利に働くはず。逆に、ストレート狙いのチェックは下策である。
Case 3
Starting hand: J T
Position: Button
Pot: Heads-up
5 6 7
アーリーのレイズにリレイズし、両ブラインドを落とした。相手はチェックし、ベットした。
4
相手は再びチェック、ここもベットである。AKやAQのような手札をもつ相手は、最早フォールドしかない。ただし、オーバーペアでべったり合わせてくる可能性も常に考慮に入れておく必要がある。
Case 4
Starting hand: A Q
Position: Cut-off
Pot: Heads-up
6 7 8
プリフロップレイズしたが、ボタンがコール。ボードであなたのチェックにポジションベットしてきた。
2
あなたのチェックに相手がベットしてきたため、チェックレイズ。相手はAcをもっていない限り、ローフラッシュでも「まともな」あなたにコールするのは極めて苦しい状況である。
とはいえ、厳しい状況判断が求められる場面ではある。くどいようだが、何とかのひとつ覚えになってはいけない。相手によってはポジションベットではなく、クラブ持ちの場合をはじめ、トップペアかそれに近いペアをヒットさせているか、ポケットペアの可能性もあり、そうした場合はショウダウンに持ち込まれるおそれがある。
問題は、あなたのフロップでのコールが、のちにフラッシュと見せかけて相手を振り落とすためのものなのか、それとも単にAかQがめくられるのを見たいだけなのかという点である。もし前者ならば、ターンでチェックレイズ以外の有効な手はない。
ブラフは、当然ながら相手が少なければそれだけ奏功しやすい。しかし、ブラフを効果的にかけるためにはそれ以前の基礎をしっかり習得しておく必要がある。それができずに行うブラフは文字通りハッタリでしかなく、必ず悲惨な結果が待ち受けている。
次項ではショートハンドについて解説するが、そこではブラフなしに手札だけで勝つのは至難の技である。そしてそこでは、たとえローリミットといえども、ポーカースキルのエッセンスが全て凝縮されて吐き出される。ぜひ、本項を踏まえた上で読み進めていただきたい。
なお、この「戦略・テクニック編」は次項で完結する。あなたが少しでも早く当サイトを卒業し、中・上級者へとステップアップされることを願う。
プレーに行き詰ったとき、まずは当サイトの内容をじっくり読み返し、上手いプレイヤーの技を盗み、そして再びリングへあがってほしい。
ポーカーは人生と同じ。ノックアウトされても這い上がり、そして最後に勝てばよいのだ。