「青い空の見えた日」あとがき  およそ原稿用紙三五〇枚の旅、制覇おめでとうございます。今回は原作つきの物語でありながら、まこと勝手に話をつくってみました。というのも、このお話は例の「ドラマシリーズ」向けに企画したシナリオを小説化したもので、本来ともに行動するはずのない主人公と「館林見晴」のサイドストーリーを、オリジナルのシチュエーションで構成しました。本編のストーリーを壊さずに、館林見晴という隠れキャラを活躍させるのは思ったより難しく、コナミが彼女をヒロインにしたドラマシリーズを断念したのもわかります(注・このあとがきは九七年に書かれました)。なにより館林というキャラクターが、プレイヤーの想像力をかき立てるような扱いになっているので、自分だけの「見晴」を持つ人にはメーカーから与えられる彼女に満足しないというのもあるでしょう。残念ながら筆者も偏狭な人間ですから、読者の期待を裏切る「館林見晴」をつくっているかも知れません。その点は御考慮ください。  さて、まずは今回の作品のコンセプトですが、「ゲーム的な要素を盛りこむ」「見晴のキャラ性を活かす」「ハッピーエンドである」として書いていました。  「ゲーム要素」に関しては、巨大なレジャーランドを舞台にし、プレイヤーがどこにいくかの選択ができ、そこでイベントを起こす形になるように考えていました。ですから小説では二七日に水族館に行きましたが、ゲームでは二五日に行ってもよいのです。また早朝の露天風呂で伊集院とぶつかる話も、特定の日でなくてもかまわないでしょう。なにより見晴とのデートイベントがほしいゆえのレジャーランドですから、もしゲームになったとしたら、好きに行動し、ミニゲームを遊ぶのが正しいプレイ方法だと思います。  「見晴のキャラ性」ですが、「館林見晴」といえばとりあえずは「コアラ」「当たり屋」「一目惚れ」「ストーカー」といったところでしょう。それに加えて「妙なところで行動的」な面があるので、それらをおしたててキャラ作りをしました。その結果どちらかといえば無個性な女の子になってしまいました。余談ですが、小説に登場したメインの女の子は「館林見晴」と「藤崎詩織」と「美樹原愛」ですが(伊集院は除外)、三人ともにおとなしめの女の子女の子タイプだったのが、ちょっと失敗かなと思いました。ですが本編で主人公を中心に考えると、どうしてもこのあたりでなくてはならず、例えば「紐緒結奈」でも出そうものなら方向性を見失っていたでしょう。かといって「虹野沙希」では、ヘタをすると館林を食ってしまいそうです。チョイ役の「朝日奈夕子」にしても、「早乙女好雄」の中学からの友人という設定があったからこそ登場したのであり、物語じたいには深く関わりませんでした。予定では「鏡魅羅」をショッピングセンターに、「清川望」をプールで登場させるはずだったのですが、余裕がなくボツになりました。  「ハッピーエンド」に関しては、説明は不要ですね。  次にキャラクターについて、少々筆者の主観などを説明させていただきます。  見晴については、本編では何事があろうともくじけない(ように見える)娘なのに、こちらでは人間的すぎるのか筆者が悪いのか、つねに浮き沈みを繰り返していました。自分で書いておきながら、あんな葛藤シーンばかりで本当に可哀相なくらいでした。  ですが、もし見晴がストレートに主人公に対して意志表示できるなら、それは彼女の存在意義の否定を表わすことになり、ゲーム本編とのかねあいがとれなくなるので、しかたないのでしょう。逆に楽天的すぎるというのも、彼女のキャラクターではないでしょうし。  ちなみに冬休み以後、彼女がまたコアラの髪型に戻したのは、そのほうが主人公に気付かれないと思ったからと、卒業式の日に彼に告白すると決めていたためです。だから悲しくもなかったし、彼へのアピール目的の髪型も苦にならなかったのです。  主人公の本名は、わざと決めませんでした。読者それぞれの想いいれがあるだろうと、あだ名のみにしたのです。あだ名にしても、本名とはまったく無関係にしようと適当に考えて「ひゅう」とし、エピソードも付加させました。  ひゅうのキャラクターは、「虹色の青春」ではスポーツマン、「彩のラブソング」ではバンドをやっているという設定なので、違うタイプとして「勉強ができる優等生」にしてみました。ただ詩織にも見晴にも好かれなければならないので、優しさと心の強さを与えました。あとは性格を無理に飾らないように気をつけたくらいです。完璧すぎるのも逆につまらないので、それ以上の長所はなくしています。とくにスポーツが得意ではないのが、ヒーロー志向の強い読者にはお気にめさないと思われますが、どうかご容赦のほどを。  藤崎詩織は「虹色の青春」とラジオドラマの彼女を参考にしました。何しろ本編のゲームではアレですから……。とりあえず言葉遣いとひゅうへの感情に気をつけて書いただけで、とくに難しいキャラでもありませんでした。  美樹原愛はもうそのまま美樹原です。内気な女の子を一生懸命あらわしてみました。それでも一人に一つのエピソードは与えようと、「差し入れ」を加えてみました。「付話」であかされた主人公への気持ちは、ゲームそのままです。また主人公に好きな人がいると気付き、あきらめてしまう点も、彼女らしいのではないでしょうか。  早乙女好雄はゲーム同様スパイスであり毒です。陽気なムードメーカーとして、見晴の相談役および協力者としてがんばってもらいました。テニスがうまいというエピソードは完全創作ながら、キャラ的におかしくはないでしょう。ただ伊集院とタメをはるのは、いきすぎだったかも知れませんが。……とにかく騒動を起こすトラブルメーカーの役もきちんと果たしてくれて満足です。彼が「見晴の初恋」などという話をでっち上げたりしなければ、また、見晴との約束を殊勝にも守ったりしなければ、二人はもっと早くおたがいを知り得たでしょうに。……まぁ、それではお話にならないのですが。  伊集院レイについては、ゲーム内の要素をすべて吐きださせ、それに人間味を加えました。「伊集院麗子」なる登場のさせかたをしたのも、サービスではなく意味がありました。伊集院の遭難イベントにつなぐためで、そこで心のおくで主人公に憧れる気持ちと、また親友のない寂しさを訴える意外な一面を表現しました。結果、女の子として見晴を応援するいい人にまで昇華できました。ちなみにバレンタインのビターチョコは伊集院の手作りで、鈍感な主人公に対する最初で最後の意志表示とささやかな仕打ちです。ホワイトチョコはもちろん見晴が作ったものでした。ところで、見晴に毛布をかけたのが彼女だと気付いた方、あなたは異常です。普通は主人公がしてあげたと思うものですよ。……ということは、つまり主人公は知らずに寝ていたのですね(笑)。  本当はプールや卒業式後にも女の子として出そうと思ったのですが、そぐわないという理由で却下したという裏話もありました。  横山晴海。言うまでもなく「館(たて)=横」、「林=山」、「みはる=はるみ」で名付けた男版見晴です。物語にアクセントをつけようと、前触れもなく登場したキャラクターで、性格も何もその場で考えてました。とりあえず主人公よりは「カッコよく」て「モテる」というのを前提にしました。あとは顔見知りにして、主人公の葛藤を深くしようと試みましたが、主人公がマイペースなのであまり意味がなかったような気もします。それでも妙な情報解説がいらなくて便利ではあったのですが。  最終的にいい人の代名詞で終わってしまったのは、少々つまらなかったかも知れませんが、あまりドラマすぎるのも嫌いなので失敗とは思っていません。だいたいヘンなキャラクターだったら、見晴が気をとられるとも思えないので。  さてキャラクターについては以上です。次はタイトルについてお話しします。  今回サブタイトルにしたのは「青い空の見えた日」ですが、実はまだ仮題状態なのです。とりあえずヒロインの名前から一字とるのがしきたりらしいので、どれにするか悩みました。「館」や「林」はどう考えても使えないし、となると「見」と「晴」ですが、いい述語が出てきません。まさかタイトルを「晴天の霹靂(正しくは「青天の霹靂」)」にするわけにもいきませんし……。  以下は候補に上がったタイトル名です。「晴れた日の想い出」「想い出のブルースカイ」「青空が見えた日」「虹色の晴春(笑)」「晴空の魔法」……など考えてみたものの、いまいちピンときませんでした。  次はイベントについて。  とにもかくにも見晴のお弁当イベントはいいです。ゲームでもほしいくらいです。夏場のげたばこに差し出し人不明の弁当がはいっていて、主人公が食べると中毒を起こし入院する――というのはいかがでしょうか?  見晴を追いかけるひゅうが、自転車で転倒するのはありがちなイベントです。が、ないと盛り上がらないのもたしかです。そのケガした腕に、そっとハンカチをあてるシチュエーションはたまりません。BGMを選局して読んでみてください。  コアラの消しゴムについては、とりあえずコアラと館林を結びつけねばならなかったために出てきたアイテムです。筆者の描いたマンガ版のほうでも、主人公からそれをもらって、そのときの笑顔に惹かれたという設定になっています。一番自然につながると思ったのですが、どうでしょうか?  伝説の樹の下での告白シーンについて。実はここに掲載されている原稿は、4回ほど書き直したものなのですが、それでやっと自分で書きたかった段階に仕上がりました。ゲーム本編とはえらく内容が変わっていますが、それについてはツッコミをいれないでください。とりあえず泣いてもらえれば幸いです。  また、「金魚すくい」については、一年目の夏祭りイベントですが、気にしないでください。  次は「付記」についてです。「付記」はあくまで本編で語れなかった裏話的なもので、本来読まなくてもいい部分です。筆者自身蛇足ではないかと思っているのですが、深読みするのが好きな読者には必要と書き足したしだいです。ですからあまり気にとめないでください。  文章の表現について。何しろ書くことじたいがもう二年ぶりくらいです。そのためか表現力が弱く、インパクトを残せませんでした。筆者の軽蔑する、台本小説――セリフを読めば内容がわかる小説。筆者の造語――になってしまいそうで、自分が情けなくなりました。が、書いていて台本小説が多くなる理由もわかりました。とにかく読みやすいし、わかりやすい。それに狙ってやるわけではなく、人数が多い場面では不可抗力的にそうなってしまう場合もあります。それに気付いたとき、やはり文章とは難しいのだなと痛感しました。それでも小説は小説の、マンガはマンガの、映画は映画の表現があると思います。それにあった表現ができるのがプロってものですよね。……筆者はアマチュアもいいところですが。  総括。この作品は、某人気コンテストで一位をとったにもかかわらず、館林見晴が(ドラマシリーズの)ヒロインになれなかった憤りと不満を原動力にして書きはじめました。ゲームで使えるシチュエーションを考え、キャラクターをつくり、ストーリーをまとめ、けっこう楽しく書きました。あとはゲーム化!……といいたいところですが、まぁ絶対に無理でしょう。とりあえず、欠点はあるものの、小説として存在させられただけで満足です。次回は紐緒結奈のベタベタの恋愛小説を予定……していません。というか書けません。人類には無理です。期待しないように。  最後に。長々とおつきあいくださって、本当にありがとうございました。  それでは、次の機会にまた。              九七年一〇月五日「青い空の見えた日」 <了> おまけ――  「青い空の見えた日」とゲーム本編の共通イベントを、あなたはいくつ発見できたでしょうか? ○「序」  ・見晴と主人公の衝突イベント ○「12月24日」  ・留守番電話のメッセージ(内容は小説オリジナル)  ・クリスマスパーティのプレゼント交換会 ○「12月27日」  ・好雄「水の中のアートだな」(ゲームでは主人公の選択肢)  ・縁日の金魚すくい ○「12月29日」スポーツセンター  ・バッティングブース  ・サッカーのシュート練習場  ・プール  ・フリースロー勝負のアドバイス  (以上、虹色の青春) ○「12月31日(特殊イベント)」  ・パーティのアイドル歌手(「栗林みえ」登場予定) ○「1月2日」ひゅうと見晴のデート中  ・見晴「少しだけ――」+「――このままでいて」  ・見晴「すてきな思い出ありがとう。あなたが――」  ・見晴「さよなら」  (以上、ゲーム本編のラストデート) ○「卒業式」伝説の樹の下  ・見晴「今までごめんなさい。わたし、館林見晴って言います」 ○「付記」  ・美樹原とひゅうの関係(バレンタイン)  ・最後の一文「アルバムにまた、二人の時が加えられた」(ゲームエンディング)