モンスターコレクション・ノベル 10    第7章 鳥井哲也(トリイテツヤ)                 3  試合は進み、五人はほぼ同点数で並んでいた。すべての結果は最後のこの試合にかかっており、もし鳥井が勝てば優勝となるが、海原が相手の本陣をおとせば、舞美をのぞいた四人によるサバイバル戦がはじまる。  “提督”の称号をもつ男は、冷静な判断とムダのない動きで3枚のカードを引き抜いた。“水”を表わすマークがついた3体のしもべは、本陣と呼ばれる聖域に音もなくおり立つ。<カプリコーン>、<フライング・エストック>、<マーメイド女王親衛隊>と名がつけられていた。  海原源一郎は首を縦にふり、行動の終了を告げた。  戦場をはさんで“提督”の正面に座る鳥井は、いまにも口笛をふきだしそうなかすかな笑みを浮かべながら、左手におさまる6枚のカードうち、1枚を右手にとった。 「1枚きって補充」  鳥井は<キキーモラ>を捨て山に移し、山札からカードをひいた。ひと吹きだが、今度こそ口笛がこぼれた。  海原の本陣から3ブロック向こうに存在する、鳥井の聖域に2体の魔物が姿をみせる。<ストーム・ドラゴン>と<サキュバス>だった。  おたがいが初手を終え、手札と戦場を確認する。二人ともに、悪くないと内心でうなずいていた――  二人の唯一ともいえる共通点は、このモンスターコレクションである。ゆえに秋葉原のいつもの場所、いつもの時間、いつものメンバーがそろえば対決は避けられない。  が、今日にかぎり雰囲気が違った。のちに「御門の真理宣言」と、ごく微量の人ひとのあいだでささやかれる事件が起きた一日は、モンコレを知らない第三者の、たった一言からはじまった。                  1  「草野、どこ行くんだ?」  草野駿のクラスメイトにして唯一無二の親友――と思っている――桑原大介は、空になったゴミ箱をかついで、少年のもとへとやってきた。週末最後のお仕事である掃除当番の大役を終えた解放感からか、もしくは持ちまえなのかは不明だが、明るい顔に楽しそうな声が重なっていた。  駿と竜堂舞美は廊下での立ち話をうちきり、声の主にふり返った。「ごくろうさま」と、すこし前までの自分ならいえなかったであろう言葉を、舞美は笑顔とともにクラスメイトに送る。  桑原は照れたように返事をして、本題にもどるべく駿に視線を移した。 「で、明日二人でどこにいくって? 聞こえたぞ、この、うらやましい」  後半の言葉は冷やかしだが、本音が60パーセント以上は含まれていただろう。桑原にとって舞美が意中というわけではないが、自分以外が女の子と仲がよいのを手放しで喜ぶほど、お人好しでもなかった。つまりは言葉どおり“うらやましい”のである。  恥ずかしそうにうつむく舞美と異なり、駿は無関心に息をはいた。 「うらやましいならいっしょに行くか? 秋葉原に」 「秋葉原ぁ? おまえら、ヘンなとこでデートすんだなぁ」 「違うよ。ゲームしに行くんだ、モンコレっていうゲーム」 「モンコレぇ? ああ、このまえ言ってたあのカードゲームか。なんだ、ゲームをするのにわざわざ秋葉原までいくのか? ますますヘンなやつらだなぁ」  桑原は意識せず複数形を使ったのだが、“効果の対象”となった二人のうち一人は“対抗”できず赤面し、もう一人はいつもどおり“対抗:悪口限定”を発動させた。 「そういう前に、桑原もやってみろよ。おもしろいぜ」 「わりぃな、今月は金欠なんだ。それに頭を使うのは学校だけで充分だ」 「そうだな。しょせんサルには理解できまい」  「御門!?」唐突に割りこんできた声の主は、はたして駿と桑原が同時に叫んだ人間のものだった。 「キミも、サルに芸を仕込むようなことはやめるんだね。しょせんサルには、高度なかけひきを要するゲームは不可能だ」  あざける彼に、桑原がつっかかろうとする。が、それを予測して、駿は別の話題を素早くふった。 「と、ところで御門、おまえも秋葉原にこないか? けっこう人が集まるぜ」 「……彼も、くるのか?」 「こないだ、言ってたやつのことか?」  さらに駿が「彼」の名を尋ねようとしたとき、御門は舌打ちしてきびすを返した。 (ボクはまだ、アイツを気にしているのか……)  御門は自分の妙なこだわりに、腹立たしかった。意識せずもらした「彼」という単語が、あのときを思い出させる。 「御門……?」 「……ほっといてくれ」  御門は何者もよせつけない見えざる結界で自身を包み、ふりかえることなく去っていく。駿と舞美は触れられない何かを感じ、声をかけられなかった。 「なんだアイツ、どうしたんだ?」  桑原の質問は、駿が聞きたいくらいであった。ただ首をかしげて訝しむしか、少年にはできなかった。  「ま、いいかぁ」天性のお調子者・桑原大介は、悩まないのが長所であり短所であった。親しい友人ならともかく、人をバカにするやつなど、気にかける時間はないのだ。それにいつまでもゴミ箱をかついでいる時間もだ。  掃除当番だった男は、「じゃあな」と仲のいい二人に背をむけた。  返事をしようとした駿は、話が途中だったのを思い出した。 「そうだ大介、さっきの続き。秋葉原、いくか?」 「やっぱ、パス。デートのジャマをするほど、ヤボじゃないからな」 「違うって言ってんだろ」  「……ばぁか」桑原は顔すらむけず、ゴミ箱を揺らして教室へと消えていった。残された少年は、顔を曇らせながら「わけのわからないやつばっかだな」とそばにいる少女に同意を求めた。 「そ、そうね……」  竜堂舞美は下をむいたまま、緊張したような声で答えた。  まったく、わけがわからない。少年はまたも、自分以外の人間に対してため息をついた。                 2  日曜日午前11時30分。JR秋葉原駅・電気街口改札で合流した草野駿と竜堂舞美の二人は、熱い日差しと濁った空気と湿った風の中、不快指数を気にするでもなく、いつもの店へ向かった。にぎやかな電気街をさけるように裏道を使い、10分弱でたどり着く。  どう見ても妖しそうな店に入り、エレベータで最上階へ。開くと同時に男たちの甲高い声が、脳髄に響きわたった。  駿と舞美は臆することなく、一番近いテーブルをのぞきこむ。そこではすでに“提督”と呼ばれる海原源一郎と、“鉄壁”の二つの名をもつ美浦真夜が戦闘していた。  “提督”海原源一郎(カイバラゲンイチロウ)。外見は中肉中背、全体的に印象の残る風貌ではないが、唯一とがりぎみのアゴだけが特徴といえた。寡黙で冷静なため、表情もほとんど動かず、“沈黙提督”などと呼ばれることもある。性格については不明な部分が多く、彼の友人たちにもいまだ理解不能な点があるという。それでも「愛想がない」という点をのぞけば嫌われる要素はなかったので、駿たちモンコレ対戦者は、彼とゲームを興じるのである。  そんな彼のデックは、“勝利”より“知略の競いあい”を重きにおいた、戦術を楽しむものだった。“海”系ユニット、魔法とアイテム、地形で構成され、儀式スペルは使用しない。用兵をみせるデック、儀式を使わない潔さ、なにより高い戦術能力が、彼を“提督”たらしめているのだった。  一方、現在の“提督”の対戦者・美浦真夜(ミウラマヤ)は、守りを主体としたデック構成のため、“鉄壁”などという女性には不似合いの名をあたえられていた。しかし、容姿や普段の性格を自ら放棄した、“勝負中の彼女”にはふさわしいといえるかも知れない。真夜は日常では感じさせないが、かなりの負けず嫌いであり、ガンコであった。冴木彰の言葉を借りるなら「鉄壁の女将軍」であり、鳥井哲也に訊けば「勝負以外のきっかけで知り合いたかった」とぼやき、苦笑する。もっとも、両者ともが彼女に対する好意のかけらを持っているようなので、やはり彼女は魅力的なのであろう。  その魅力的な“鉄壁の女将軍”は、昨年から伸ばしはじめた髪を煩わしげに後ろに流し、鋭い眼光で戦場を見つめた。  勝負は終盤、おたがいの山札はつき、海原の自軍領土(C2)を賭けて真夜の最後の攻撃がはじまる。  C2・地形<代理地形>に、真夜は<碧鱗の王><サキュバス><ドワーフ神官戦士団>を、対する海原は<七つの海の王子><ウォーター・ドラゴン>をならべた。 「このユニットで、どうやってウォーターを倒す気なんだ?」  試合を見学していたギャラリーの一人が、好意的ではないつぶやきを発した。はじめてみる顔で、背中にはポスターが何本もはみ出したバッグを背負っている。きっと買い物帰りのヒマつぶしにでも寄ってみたのだろう。 「悪いけど黙ってて」  真夜は視線すら動かさず、するどく言いはなった。彼は“女将軍”としての真夜を知らなかったのだ。本陣賭けの勝負の最中では、これですんだだけでもよかったといえるだろう。  だが、言われた当人は不満である。それを音声化しようとしたが、もう一つの声によって防がれてしまった。 「ダメだぜ、勝負中の真夜ちゃんに声をかけちゃ。殺されるぞ」  声の主は、“秋葉原の双璧”の一人、鳥井哲也(トリイテツヤ)であった。  当初この場所へ来たとき、彼は真夜や駿の敵であった。彼が望んだのではなく、容姿と性格と趣味の悪い死神に、「借金」という魂を握られて勝負をするはめになったのである。そののち彼は死神と決別し、現在はこの場所で本来の自分を解放していた。  “秋葉原の双璧”と呼ばれるだけあって、“双璧”の片割れである冴木彰とならんで、ゲームのうまさには定評があった。両者は初対面をはたしたときから意気投合し、それ以来ゲームの好敵手となり、また友人として親睦を深めていた。タッグ戦では常勝無敗、コンビを組めば絶対無敵。まさに“双璧”であった。  だが、じつは“双璧”には隠された秘密があった。  “秋葉原の双璧”、それを省略せず発音すると“秋葉原・お気楽の双璧”という。一見、何も考えていなさそうで本当はやはり何も考えていない冴木彰と、考えてはいるがそうは見えない鳥井哲也。それゆえ“お気楽の双璧”と悪意のない陰口をたたかれる結果となったのだ。  秘密とはおもしろいもので、隠せば隠すほど発見されるらしい。鳥井は公然の秘密、もしくは暗黙の了解ともいうべき“双璧”の意味を知っており、真夜が二つ名を嫌うように、彼もまったく歓迎していなかった。彼は自身を、いたってまじめで、思慮深い、学のあふれる渋い人間だと思っているのだ。思うのは自由であるとはいえ。  ともかく彼はその名を払拭するために、今もこうして他人に親切に忠告してあげるのだった。 「このお姉さんはおっかないんだぞ。唐突に人にケンカを売って、さんざんいじめたあげく、貴重品を奪っていくんだ。いいか、けして眼を合わせちゃいけないぞ」 「そこでヘンなウワサをたてないでよ!」  真夜の本気ではないにしろ怒りのこもった声がとび、鳥井は肩をすくめた。事実を言ったまでだ、とはさすがに口にはしなかった。  真夜と海原の勝負は、けっきょく引き分けで終わった。サドンデスまではやらないので、両者ともにカード枚数の変動はなかった。 「駿くん、そっちの人はだれ?」  勝負が終わると、真夜は普段の彼女に戻る。優しげな笑みをたたえて自分の背後を見つめる彼女に、駿は身体ごとふりかえった。 「み、御門……」  予想外の人物が立っていた。眉目秀麗でしなやかなスタイルの少年が、さめた表情で戦場を見つめていた。 「御門、ゲームしにきたのか?」  御門は答えなかった。テーブルの上のカードに何を思ったか、小さな吐息をもらしただけだった。 「なぁ、そのために来たんだろ?」 「……ああ」  ようやく口を開いた御門だが、その眼に駿は映っていない。特定のだれかを捜すように視線が走り、一巡すると落胆の色をみせた。  駿は相手にされていない自分を知りながらも、彼に勝負を挑んだ。だがやはり、彼は拒絶した。そして「人を待っている」と、余ったイスをみつけて、壁際におちついてしまった。 「ヘンなやつだな」 「でもモンコレは強いらしいよ。“裏”トーナメントとかの準優勝だってさ」  鳥井は驚きつつも、興味を覚えた。彼とて自分の腕に自信はあるし、機会があれば強さを知りたいと思っている。あの少年が来たのは、その好機ではないだろうか。  どうやら鳥井と同じ思考回路をもつ者は、他にもいたらしい。“鉄壁の女将軍”美浦真夜の口もとはひらめき、“沈黙提督”海原源一郎の眉もかすかに反応をしめした。もちろん草野駿の猫のような眼も輝き、舞美も楽しそうにほほえんでいた。  五人は顔を見合わせ無言でうなずき、一同の代弁者として、鳥井哲也が御門シンの前に進みでた。 「君と勝負がしたい。受けてくれるかい?」  御門は予想していたのか、目前の青年の瞳をまっすぐ見つめ、しばしの沈黙をおいた。  鳥井は黙って、少年の返答を待った。  深いブラウンの瞳をもつ白セキの美少年は、眼を閉じて下を向き、その3秒後に青年の申し出を受けた。勝負は一度だけ、たった一人とだけならやってもいい、という条件をつけて。  彼の答えには、鳥井をはじめ、みな満足しなかった。が、少年は譲歩の必要はないとばかりに、うつむいて自己の意識世界に身を投じてしまった。  そうなれば結果、やるべきことは一つ。  モンコレ・ファイトである。                 3  試合は進み、五人はほぼ同点数で並んでいた。すべての結果は最後のこの試合にかかっており、もし鳥井が勝てば優勝となるが、海原が相手の本陣をおとせば、舞美をのぞいた四人によるサバイバル戦がはじまる。  “提督”の称号をもつ男は、冷静な判断とムダのない動きで3枚のカードを引き抜いた。“水”を表わすマークがついた3体のしもべは、本陣と呼ばれる聖域に音もなくおり立つ。<カプリコーン>、<フライング・エストック>、<マーメイド女王親衛隊>と名がつけられていた。  海原源一郎は首を縦にふり、行動の終了を告げた。  戦場をはさんで“提督”の正面に座る鳥井は、いまにも口笛をふきだしそうなかすかな笑みを浮かべながら、左手におさまる6枚のカードうち、1枚を右手にとった。 「1枚きって補充」  鳥井は<キキーモラ>を捨て山に移し、山札からカードをひいた。ひと吹きだが、今度こそ口笛がこぼれた。  海原の本陣から3ブロック向こうに存在する、鳥井の聖域に2体の魔物が姿をみせる。<ストーム・ドラゴン>と<サキュバス>だった。  おたがいが初手を終え、手札と戦場を確認する。二人ともに、悪くないと内心でうなずいていた。  第3ターン。海原はC2とC3に地形<魔法陣「水瓶」>を配置し、C2<水瓶>へエストックとマーメイド女王親衛隊を進軍させた。本陣へは<メロウ>を召還し、終了。 「こういう召還系の地形って、あまり使わないわね」  真夜のつぶやきに、駿も以前のジャングルデック以来組みこんでいないのを思い出した。最近はさまざまな対抗を考えしまい、地形をいれる余裕がなくなってきていたのだ。だが使われてみると、意外に対戦相手は嫌がるものである。  このときの鳥井も同様に、目の前の<水瓶>がジャマだと思いつつ、だがはりかえは行なわなかった。ただ本陣のストームドラゴンとサキュバスを進め、<ロック>と<サキュバス>を普通召還。  海の男・海原源一郎はR2に地形<せせらぎの音>をおいたものの、何も進軍はさせず、本陣のメロウをC2へ送った。本陣に<ウォーター・ドラゴン>を呼び出して終わる。 「チッ、もう出てきたか。カードを引きたいところだが……」  鳥井は20秒ほど考え、そして「前に進軍」と手札調整をせずに攻めた。  おたがいに即時召還はなし。隊列は鳥井がストームドラゴン、サキュバスの順で、海原はエストック、メロウ、マーメイド女王親衛隊である。 「オレの先攻。サキュバスがメロウを破棄。対抗は?」 「……」  提督は首をふりながら、メロウを捨て山にとばした。  意外に思いつつも、鳥井は次の命令を実行する。攻撃だった。  ここで提督も動きだす。手札から<クォーター・スタッフ>を抜き、ストームを指差した。 「ご苦労さん。<フラッシュ・デトネイター>」  この魔法を持っていたからこそ、彼は親衛隊のいる地形を攻めたのである。そしてただしく報われたのだ。 「哲也兄ちゃん、シブイね」 「<デトネイター>は便利だぜ。アイテムを使ったやつを、ほぼ確実に倒してくれるからな。炎系三大魔法の一つだとオレは思ってる」  ちなみに駿が残りの二つをたずねたところ、彼は<ファイアボール>と<ウォークライ>だと答えた。真夜も海原も否定しないところをみると、どうやら偏見というわけではないようだ。  初戦を勝利でおさめた鳥井は、本陣のロックをC3<水瓶>に進軍させ、余裕のできた聖域に次の<ストーム・ドラゴン>を召還した。補充した手札も最上だったので、このまま勝てるのではないか、とつい笑みがこぼれかけた。  それを「油断」と評していいものだろうか? 少なくとも彼は、普段なら気づきえたであろうたった一つのミスをした。<魔法陣「水瓶」>というものが、たんに“水”系ユニットの普通召還を助ける働きしかないと思いこんでいたのだ。だからそれを占拠してしまえば効果は発揮できないと安心し、他の要素にまったく思いをいたさなかった。その思慮の浅さの代償が、深刻ではないが不快な結果をともなうこととなる。  海原は本陣のカプリコーンをC2<水瓶>へ進軍させ、1体のユニットを即時召還した。 「<カメレオン・スクィッド>? そうか、そのための<水瓶>だったのか」  鳥井は手札を見て絶望し、ダイス目に賭けることにした。  先攻はまたも鳥井。 「殴るぜ。対抗をふってくれ」  うながされるまでもなく、提督はスクィッドの特殊能力「引きずり込む」を使用する。 「3以下でろ。できれば1……」  祈る正面の鳥井をしり目に、海原は口もとをひきしめながらダイスを投じる。「4」以上という1/2の確率を成功させるために。 「……」  提督は満足げにうなずいた。鳥井の舌打ちがたしかに聞こえ、彼の、しもべを悔やむ気持ちが伝わってきた。  海原はひと心地つきながら、本陣に<七つの海の王子>と<マーメイド女王親衛隊>を召還した。  こうなるとジャマになるのはロックである。ともかく同じ轍をふまぬようにC3<水瓶>を<代理地形>にかえておき、手にしたついでにロックをC2<水瓶>へ飛ばす。 「<タイダル>でも<ウォーター・サークル>でも使ってくれ」  投げやりにダイスをふるう鳥井だが、ときには何も考えないのが吉を呼ぶのかも知れない。  同時攻撃だった。  海原にとっては不幸な出来事だった――と周囲はみている。だがそれは買いかぶりであった。彼にはいっさいの対抗がなかったのである。負ける戦いであったものが、逆に彼に味方した。なぜなら海原が絶対に持っているであろう対抗を使う機会がなかった、つまりまだ切り札が残っているんだ、と鳥井に思わせられるからだ。憶測に過ぎない想像が、自分自身を縛るのである。 「本陣のストームとサキュバスを前(C3)に送って、召還。<パズス>と<マーブル・スパイダー>と<オーク練金術師団>。3枚補充で終わり」  海原は小さく何度もうなずきながら、頭脳をフル回転させていた。ともかくロックを倒すことからはじめなければならない。  本陣のWドラゴンと七つの海の王子がC2<水瓶>へ侵入。一度は救われた命であるが、今度こそ絶命は免れそうもなかった。それでも先攻でアタックできるのは、相手に負荷をかけられるだけマシであろう。 「……」  提督は一枚のカードを提示した。 「<シェル・トラップ>? ああ、ナナウミがロックにかけるのか。でも、ロックは“風”ユニットだぜ」  鳥井の忠告など、彼は意に介さない。七つの海の王子をタップし、そして――  <ウォーター・サークル>。それが海原の作戦だった。 「なつかしいコンボだな」  感慨にふける鳥井にはかまわず、提督は召還をはじめていた。<グレート・ノーチラス>と<マーマン海洋警備隊>だ。  ターンが移り、鳥井は手札と敵本陣を見比べた。 (陣容が厚いな。でも、なんとかなりそうだ。いってみるか……?)  少なくともウォータードラゴンを相手にするよりはマシであろう。そう判断し、鳥井はC3<代理地形>を<雲ひとつない空>にかえた。ここで<風と共に去りぬ>を使用されると気分はブルーになるのだが、今回は助かったようだ。 「本陣へ進軍だ。ストームとサキュバス、それに<インヴィジブル・ストーカー>」 「……」  提督は静かに<マーメイド女王親衛隊>を即時召還する。隊列は女王親衛隊、海洋警備隊、グレートノーチラス、女王親衛隊の順である。鳥井の隊列がストーカー、Sドラゴン、サキュバスの順であったから、しごく当然の並びであろう。  鳥井にとっては本陣攻略のチャンスである。ぜひ先攻がとりたいものであった。  二つのダイスのかたい音が響き、運命を開く。鳥井を守護するダイスの女神は、ひいきがすぎるようだ。 「2コ差で先攻だけど、まずはこれ。サキュバスが、<サプライズ・ウィンド>を先頭のマーメイドに」 「……」  提督は頭の中で相手の狙いをさぐった。ノーチラスを倒すにはドラゴンが殴るしかない。そのためには楯となっている親衛隊や警備隊を、<ファイアボール>でも使って葬るつもりだろう。先攻をとられた以上、サキュバスの破棄も覚悟せねばならないし、<ファイアボール>もまずまちがいない。ならばここは1体でも確実に撃退していくべきだ。彼は、ダイスの女神にはそれほど好かれてはいなかったが、それを帳消しにできるほどのカード運と戦術能力にめぐまれていた。  提督は決断し、<魔力のスクロール>を出す。使うのは対象となっている先頭のマーメイドだ。  ダイスの結果は「3」。  鳥井はあごに手をあてて考えはじめた。ここでサキュバスを死なすにはおしい。が、対抗能力のあるストーカー以外、今は動かせないのだ。 「……やっぱり対抗能力のほうが使うよな。サキュバスは死ぬわ」  麗しき夢魔のマスターは、彼女を丁重に墓場へと送り、敵討ちとばかりに魔法をはなった。  提督の予想どおり、<ファイアボール>だ。  予想していたからには対策もある。彼は最後列のマーメイドを指示し、<滅びの粉塵>を、ついで<ポリモルフ>を場に提示した。 「そのコンボか……。それはストーカーを使うしかない」  代償として<名馬「ワールウィンド」>を捨てる鳥井とほぼ同時に、提督は<ミラー・イメージ>を放つ。  鳥井は大きく落胆した。本陣攻略はならず、全滅もまぬがれない。だが一矢くらいは報いたかった。 「……ストームをムダ死させるわけにはいかないから、ブレスを撃ってやる」 「……」  鳥井のタップに合わせ、海原は<ロマンシング・ストーン>を使用した。 「まだあるのかぁ。完敗だな。……しかたねぇ、全滅する」  海原のほうもかなりの手札を消耗したが、結果的には無傷なので胸をなでおろした。 「せめて<デトネイター>でもあればよかったのにね」 「マジでそう思う。そうすりゃ、もう少し違うやり方があったんだ」 「それは残念でした」  真夜がからかうように笑うと、鳥井は反論しようとした。が、声帯をふるわすことなく、口を閉ざし戦場に視線を戻す。そして二度のため息のあと、本陣の<パズス>と<マーブル・スパイダー>に、C3<雲ひとつない空>の守備をまかせ、召還もなくカードを補充した。  海原のターン。しばし考えつつも、C2のWドラゴンと七つの海の王子がC3<雲ひとつない空>へ前進。鳥井は「いちおう出しておくか」と<ブラウニーズ>を呼び出して、隊列をスパイダー、パズス、ブラウニーズとした。  先攻は、めずらしく海原。 「……」  提督の手刀が空を裂く。攻撃命令の発令であった。  チャージをあたえなかったのが不思議であったが、鳥井としてはごく自然にマーブルスパイダーの能力を使うほかなかった。  斑蜘蛛がはきだす強力な粘着性を持つ糸は、自分より何倍も大きく、かつ最強の幻獣と恐れられるドラゴンでさえ封じ込めてしまう。  しかし海原はあわてずに、1枚のカードを場に投じた。  <ミラー・イメージ>か、と誰もが思う予測に反し、彼は<ウォーター・サークル>を使い、王子の攻撃力をあげた。ダイス目は「3」。 「対抗、パズスが「雷雲」をドラゴンに使い、さらに<エア・サークル>」  鳥井が<エア・サークル>と「雷雲」の代償となる<ウィンド・カッター>を捨てたのを確認し、提督の第二のカードが現れた。 「<ロマンシング>か……。ダメだ、<フラ・デト>はない」  残念に思いながら、彼はスパイダーの死亡を認めた。ブラウニーズが「お手伝い」をしても、攻撃力「5」は通ってしまう。  鳥井の後攻タイミング。「<ナナウミ>はジャマだ」とぼやきつつ、<ファイアボール>を使う。海原もこれは甘受せねばならなかった。  C3の攻略作戦は失敗したのでドラゴンはC2に戻り、召還フェイズへ移行。<マーマン海洋警備隊>をC2<水瓶>に呼び出す。補充をすませると、無言の終了宣言がされた。  戦場を見れば、不利と思わざるをえなかった。鳥井は補充される手札によっては、負けを覚悟した。だが、そんなに捨てたものでもないようだ。  C3のブラウニーズを本陣に戻し、かわって本陣のオーク練金術師団がC3のパズスと合流。9レベル分の余裕がある本陣に、<エレファント>と<嵐の魔神パズス>が登場。  ターンを譲られると、ハラゲン提督はちゅうちょすることなく、進軍。C3<雲ひとつない空>へ向かうのは、Wドラゴンとマーマン海洋警備隊である。  鳥井はイチかバチかの賭け、同時攻撃をねらっていた。そのために<オーク練金術師団>を即時召還し、楯にした。  ダイス目は「2」と「5」。鳥井は賭けに負けた――かに見えた。 「しかたねぇ、使うぜ<ウォークライ>」 「……」  海原は舌打ちしたそうな表情のまま、<魔力のスクロール>を出した。 「予想どおり。イニシアチブタイミング中だから、<サプライズ・ウィンド>だ」 「……!」  それでもまだ提督は切り札を持っていた。<ミラー・イメージ>である。 「ならば、はじめのマリョスク(魔力のスクロール)に対抗して<フラッシュ・デトネイター>」 「!」  これ以上は抗いようがなかった。海原は奥歯をかみしめるようにドラゴンとマーマンを捨て山においた。  かたや鳥井は必要以上の消耗戦になったのを悔やみつつも、とりあえず守れたので安堵していた。  提督の召還フェイズ。誰もいなくなったC2<水瓶>に、<フライング・エストック><カメレオン・スクィッド>を召還。補充で終了。  鳥井の第1手札調整フェイズは山札から4枚を引いて終わり、手にいれた<吹き抜ける風>でC2<水瓶>をはりかえる。当然、カメレオンスクィッドは存在できずに破棄される。これが地形限定ユニットの悲しさね、と横で見ていた真夜はうなった。  さらにC3<雲ひとつない空>まで、彼は自らの手で<白い息をはいて>にかえる。そのうえ本陣のパズスがC3のもう1体と合流したものだから、簡単には落とせなくなってしまった。  召還で<レッドホーン>を本陣において、補充し、ターン終了。  海原は手札のユニットに貧弱を感じずにはいられなかった。大型ユニットが1体でもいれば、戦況は大きく傾くのだが、ターンを持ち越すしかないようだ。幸い、<雲ひとつない空>は消えているので、1ターンはもつだろう。  彼は本陣のマーメイド女王親衛隊をC2<水瓶>に進ませ、エストックの援護をさせる。そして<マーマン少年聖歌隊>と<マーマン海洋警備隊>を本陣におき、第2手札調整。と、同時に待ち望んだ最高のコンビと最強の海の悪魔が手札に入ったのであった。 「これが最後の勝負だな。これで勝てなきゃ、こっちもタネぎれだ」  ボソリと鳥井はつぶやき、C3の地形を再びかえた。  <雲ひとつない空>。2体の嵐の魔神が、“提督”海原源一郎の本陣へ舞いおりる。 「即時召還は<ブラウニーズ>。そっちは召還できないよな?」  いやな予感を覚えつつも、海原はうなずいた。  鳥井の隊列はブラウニーズ、パズス、パズス。  海原の隊列はノーチラス、少年聖歌隊、海洋警備隊、海洋警備隊、親衛隊。  ダイスがふられ、鳥井の先攻。 「まずブラウニーズが前のパズスに防御+2」 「……」  海原はマーマン海洋警備隊を差し、<封印の札>を出す。 「それは防御をあげる予定のパズスが<ヴォーテックス>」 「!」  海原はふるえる手でマーマンを手札に戻した。 「<ライトニング・ボルト>を捨ててノーチラスに「雷雲」を使う」 「……」  提督には、やはり何もなかった。しかしその眼に、まだ敗者の色は見えない。ここが正念場。鳥井が何も考えず、攻撃してくれれば……。確率の低い望みではあるが、可能性はある。とくに<フラッシュ・デトネイター>や<ヴォーテックス>を持っているなら、相手――海原源一郎――にアイテムを使わせて、1体を確実に倒すか手札に戻し、総防御力を減らして貫通を狙うのも戦術だ。現に彼は初戦において、それを狙ったではないか。  だが、彼はもう一つの最悪の可能性も考えていた。 「……あっさりいきすぎだな。何かありそうだ」  あごに手をあててつぶやく鳥井には、3つの選択肢があった。  1、パズスが殴る。それから魔法。  2、パズスが「雷雲」を使う。  3、魔法を使う。それから殴るか、対抗「雷雲」。  手札は2枚。1枚は普通タイミングの魔法。もう1枚は対抗でも使えるが、殺傷力のない魔法である。ごく一般的な戦術をとるなら、ここは当然―― 「<ファイアボール>」  3番の選択肢である。これに何か仕掛けてきたら、対抗「雷雲」を使うべきなのだ。 「……」  提督は、手札を放棄した。予測した最悪の可能性が、現実になったのである。彼は負けを認め、大きく息をはいた。彼の切り札は、<プロテクション>と<タイダルウェイヴ>だった。  もし鳥井が最後の賭けに失敗していたら、もう海原には勝てなかったであろう。提督の持つ残りのカードは、<ウォーター・ドラゴン>、<七つの海の王子>、<クラーケン>。魔法の在庫が少ない鳥井には、荷が勝ちすぎる敵が待っていたのだから。                  4  「さてと、それじゃ約束どおりオレと勝負してもらうぜ」  鳥井がいつになくにこやかな笑顔で、御門に呼びかけた。リーグ戦を制した喜びと、実力を試せる興奮が、感情を高ぶらせているのだ。  少年は、無表情まま視線をあげた。 「かまわないが、それじゃボクには勝てないよ」 「やってみなきゃわからないぜ」 「では訊くが、そのデックで真田洋平に勝てると思うかい?」 「!?」  意外な名前が御門からこぼれた。鳥井も、駿も、真夜も、舞美も、海原も、とっさに言葉が出なかった。 「……真田さんを、知ってるのか?」 「質問してるのはボクだ。質問に質問で返すのは、失礼じゃないかな」  生意気な口をきく。鳥井は思ったが、よけいな論議をはさむムダをおかさず、彼との会話を続けた。 「たぶん、勝てない。このデックに自信はあるが、オレの最高傑作とはいえない。オレのデックは儀式を使うから、ここでは――」 「なぜ儀式を使うのをためらう」  御門の声は大きくも強くもない。だが、人を圧倒させた。15歳の少年は、この場を支配していた。 「ルールに則り戦う以上、儀式スペルは反則ではない。使うために、勝つために存在しているものを用いるのに、何をためらうのか。用兵だけがこのゲームのすべてか? 戦略だけで思い通りになるゲームか? 違う。戦略をたて、デックをバランスよく構築し、戦術で切り抜ける。その要素が一つかけても最強たりえない。強いデックをつくりたいならすべてのカードに眼をむけ、うまくなりたいなら多種多様なデックと戦え。それがわからない者と、戦うのはムダだ」  御門は席をたち、出口へと向かった。エレベータが、まるで彼を迎えるように開いた。  言葉を失い呆然とする五人のなかで、一人、真田を師とあおぎ、御門を目標とする少年だけが自分をとりもどした。 「御門、おまえが言ってた人は、ヨーヘイさんなのか?」 「……」  御門はエレベータに寄りかかりながら、薄い笑みを浮かべた。駿をあざけるようにも見え、だが自分自身を嗤っているようにも見えた。複雑な感情の産物が、少年の表情をかたち作っているようであった。 「答えろ!」 「……」  無言の御門をのせ、扉は閉ざされた。彼の心を閉ざすように。駿の未来を閉ざすように。 「……オレは、なめられたのか? 15のガキに、なめられたのか?」  鳥井は手のなかのカードを見つめ、憤りに肩をふるわせた。だがその対象が判然としなかった。あの生意気な少年なのか、軟弱に染まった自分なのか、それとも別のものなのか――  ただ一つたしかなのは、強くなりたいという意志。冴木彰より、御門シンより、真田洋平より。そして、誰より。  「御門の真理宣言」事件は、こうして終わる。  “秋葉原の双璧”と謳われた鳥井哲也に陽が陰り、“双璧”は意外な結末をむかえる。  だが、それを知るものは、まだ誰もいない。 モンスターコレクション・ノベル  第7章・あとがき  「先のことを考えてないでしょう?」  「はい」  これが今の心境です。本編を読んだだけではわからないでしょうが、じつは今回、第一稿を書きあげた後、対戦以外のシーンをほとんど書き直しています。しかも内容は180度反対でして、改稿前はどちらかといえばギャグ路線でした。タイトルも「桑原大介」といい、筆者のやる気のなさを如実に表わしていました。「それではいかん!」と奮起したはいいものの、結果がこの有り様。どちらにしてもトホホな気分です。  と、ぼやいてみてもしかたないので、恒例のキャラ紹介を。  今回は、初登場はいません。なので主役「鳥井哲也(トリイテツヤ)」についてから。  鳥井はキャラクター的に冴木彰とかぶっています。これは狙ったものではなく、筆者の力量不足です。しかし書いてしまった以上、今さら変えるわけにもいかないので、開き直って“秋葉原(お気楽)の双璧”にまで堕ちていただきました。ですが、冴木彰との差がまったくないわけでもなく、たとえば最後のシーンで御門に一喝されたとき、鳥井は自尊心を傷つけられました。しかし冴木彰だと、まったくではないにしろ、気にはしなかったでしょう。逆に「それがどうした」とでも反撃したかも知れません。これはモンコレを、「ゲームとみる」冴木彰と、「勝負とみる」鳥井哲也の差です。そしてこの差が二人の道を分かつわけですが、さてどうなるのか筆者にも未来が見えません。ただどうせなら、“秋葉原の双璧”としての二人の絡みを1本ぐらい書いておくべきだったと思いました。  “沈黙提督”海原源一郎は、「外伝1」での登場以来です。最近は駿と舞美の話ばかりで読者もあきているのではないかと、鳥井ともども復活させてみました。今回の執筆も、もとをただせばそれが理由でした。それに使いたかったデックと組み合わせてみても、ちょうどよかったものですから。  ハラゲン提督のキャラクター性については、ゲームがうまくてしゃべらなければいいだけなので、あいかわらず深く考えていません。これから先しばらくは、また草野少年と御門美少年を中心に物語が進行する――しなければならない――予定ですから、彼の出番も多くはないでしょう。  問題児・御門シンくんは、当初の設定から大きく軌道をそれてしまい、はっきり言えば持て余しています。狙ったりせず、ジミなキャラクターにしておけば良かったと、ときおり感じずにはいられません。しかし「御門編」が終わったとき、きっと筆者は「これで良かったんだ」と感慨にむせぶでしょう。目に見えるようです。  ともかく近いうちに彼のデックをつくり、一つの解決をみたいと思っています。だれもが納得できる結末は不可能でしょうが、少なくとも御門自身が納得できる終わりにしたいですね。  デックについて。  海原の「海はいいな」デックは、モンコレ仲間の「<カメレオン・スクィッド>でデックつくってよ」という一言がはじまりです。それ以上でも以下でもないので、本文を参考に組んでみてください。<リヴァイアサン>と<クラーケン>だけは忘れないように。  鳥井の「パズス」デックは、アイテムなしの魔法主体のデックです。勝率もかなり良いので、筆者としては気に入っています。奇襲や、かわった戦術を好むかたにお勧めです。  最後にお詫びを。  そもそもモンコレ小説を書きはじめたのは、ゲームシーンの再現とかけひきの楽しさを追究するのが目的であり、一つの小説としてドラマを組み立てることではありませんでした。キャラクターはともかく、ストーリー的にはすべてが読みきりであり、それでいいと考えていたのですが、どうにもおかしな方向へ進んでいます。結局は、わたしが望んだことなのですが。  わたしは多くの場合、そのときのノリとひらめきで文章を書いています。それによって後悔もしますし、良かったと思うときもあります。今回後悔するのは、わたし自身が「アマチュアの作品は完結していなければ読まない」主義だからであり、自説を曲げる自分がゆるせないからです。作品に期待してくださる、何人か、(願望として)何十人かを、何の保証もなく次回まで待たせるのが、とても悪いと思うのです。それゆえにわたしは、「書く以上は読みきりで」をモットーとしているのです。ですから今回は、ただ頭を下げるしかありません。しかも続きの構想すら練っていないお粗末さは、非難の対象にしかならないでしょう。かといって、盛りあげるだけ盛りあげておいて、適当にごまかすのも性格的にできませんので、なんとか“対抗”できるよう、努力します。いまはただ、おわびするだけです。  では、今回はこれでお別れです。必ず、次回にまた。                  1999年7月10日  筆者