モンスターコレクション・ノベル 8    外伝・3 冬の終わりに(フユノオワリニ)                 1  「舞美、明日どうするの?」  白い息につつまれたすこしだけ大人びた声が、竜堂舞美に投げかけられた。舞美のクラスメイトで、同じクラブに所属している友人、畑野聡子(ハタノサトコ)のものだった。  放課後の教室には、彼女たち以外にはもう人影はなかった。日直であった舞美の最後の仕事――学級日誌の記入――が終了するのを待っていた聡子は、ひまつぶしにグラウンドを眺めていた。そのとき、ふと思い出したように視線だけを動かして、言葉にしたのだった。  舞美は、聡子の目的語のかけた質問に首をかしげた。三つ編みにしておくのがもったいないほどの美しい黒髪が、少女の目にはうつっている。  聡子はあいかわらず鈍い彼女に、あきれと不満の吐息をもらした。 「明日は13日よ。14日が日曜なんだから、明日しかないでしょ?」  聡子はやはりすべてを語らず、ヒントだけをあたえた。それぐらいわかりなさい、と無言で訴えているのである。  舞美は学級日誌のカレンダーに目をむけ、友人の言葉を確認する。たしかに明日は13日で、14日は日曜である。  14日。2月14日。そうか、そういうことか。舞美は得心し、友人にふたたび顔をむけた。 「どうするの、舞美?」  今度こそ舞美にも、質問の意味が理解できた。聡子は知っているのだ。竜堂舞美が明るくなり、友達が増えた理由を。そしてそのきっかけとなった、一人の少年への想いを。  舞美は顔を赤らめ、うつむいた。そんな素直なかわいらしい反応をする少女に、聡子の眼は優しく、あたたかくなった。まるで小さな妹を見守る姉のような瞳だった。 「受験前にどうかとは思うけど、やっぱり、あげたほうがいいんじゃない?」 「うん」 「舞美とは志望校も違うんでしょ? 卒業したら、会う機会はほとんどないわよ」 「うん」 「それにアイツ、かなり鈍いから、舞美のほうから言わないかぎり絶対気づかないと思うな」 「うん」 「ついでに言うとさ、アイツ、けっこう人気あるのよ。親しいからって、うかうかしてると――」 「うん」  「舞美ぃ……」聡子はわざわざ息を吸いこんでから、ため息をついた。舞美は舞美なりに真剣なのだろうが、どうも自分一人が空回りしている気分は否めなかった。  舞美にもそれが伝わったのか、大切な友人に「ごめんなさい」とあやまり、悲しそうな表情を自然とつくっていた。それは聡子を心配させた自分への情けなさのためだけではない。彼女が今の自分――友人ができ、明るくなれ、毎日が楽しいと思えるようになれた自分――に変わるきっかけをあたえてくれた少年と、離れてしまうさびしさとせつなさに、舞美の心が泣いているのだった。たとえこのまま別々の高校へとわかれても、あのゲームがあるかぎり、つながりはあるのだと信じたい。だが、これからの多くの人との出会いが、おたがいをどのような方向へと導いていくのかは、誰にもわかりはしないのだ。だからよけい、少女の心は揺れるのである。  聡子はそんな友達の、小さく丸まった背中を思いきりたたいた。 「“ごめんなさい”なんて言わないの」  舞美はたたかれた衝撃で肺の空気が抜けたのか、激しくせきこんだ。目のはしに涙をためて加害者の聡子にふりかえると、彼女はいつもの罪のない笑顔をみせていた。 「ガンバレ、舞美。あたしがついてるからさ」  竜堂舞美は、畑野聡子と友達でよかったと思った。                 2  2月13日土曜日、舞美はいつもどおり登校した。  8時をわずかに過ぎたころ、彼女は自分の席に落ち着く。カバンの中にはきのう聡子と寄り道をして買った、赤い包装紙につつまれたささやかな箱があった。普通の板チョコがはいった、普通の箱。包装だけがおおげさな、少女の気持ちの代弁者だった。それを選ぶのでさえ、少女は長いながい時間をかけ、聡子に迷惑をかけたものだ。そのときの聡子の言葉が、ふと脳裏によみがえる。 「大げさに考えることはないわよ。あんたたち仲がいいんだからさ、友達としてあげればいいのよ。そのほうがあんたもわたしやすいし、むこうも安心して受けとるでしょ?」  舞美はそれで心の負担を軽くできたのである。しかし頼りになる友人は、一言をつけくわえずにはいられなかった。 「もっとも、あんたが本気なら、こっちをすすめるけど?」  と、50センチ四方の箱にはいった、マンガの中でしか存在しないようなハート型チョコレートをかかげてみせた。  このとき、自分はどんな表情をしたのだろうか。聡子はそれからずっと、おもいだしてはところかまわず声をはりあげて笑っていた。舞美がにらんでも一時的にガマンするだけで、けっきょく別れるまで彼女の大笑はおさまりはしなかった。きっと、家に戻っても笑い続けていたことだろう。 「おっはよー、舞美」  いやな記憶までおもいだし、ため息をつく舞美の肩を気楽にたたくのは、やはり聡子であった。あわててカバンを閉じて、彼女に返事をする。 「その様子なら、ちゃんと持ってきてるようね。がんばって――」  聡子は真剣な顔で舞美を見つめていたのだが、不意に言葉をつまらせた。  不審におもい、舞美は心配げに聡子をのぞきこむ。  そんな舞美の視線から逃れるように彼女は背をむけ、そして―― 「クッ!」  笑いだした。 「ダ、ダメ……。ふふ…腹筋がいたい。で、でも――」 「聡子ちゃん!」  舞美の訴えにあやまりつつも、彼女の笑いはとまらない。聡子はこの日、授業中にも笑いだして――さすがに爆笑はしなかったが――何度も注意され、あまつさえ“笑いすぎて腹筋がいたい”ために体育を休むこととなった。もちろん表面上は別の理由をとりつくろったのはいうまでもない。  学校での一日が終わり、それぞれが帰路につこうとするなか、舞美はまだわたせずにいる小さな箱を、カバンの中でにぎっていた。 「舞美、がんばれ」  聡子は舞美にウィンクを送ると、さきに教室を出ていった。彼女は彼女で、いろいろと忙しいのである。  舞美は小さくうなずくと、一大決心をして立ち上がった。がんばれ、がんばれ、がんばれ――! 自分にエールを送り、“友達だからあげるだけ”だと、いいわけをつくって気持ちをおさえようとする。彼女にとってそれがどれほどのエネルギーであるか、他人には想像もつかないだろう。 「草野くん――」  ようやくの思いで少年に呼びかけた声は、不意に背後からとんできたもう一つの「草野くん」という言葉にかき消されていた。  舞美をおしのけるように、その女の子は少年の前へすすみ、重たそうなカバンをあけて何かをとりだした。 「草野くん、はいチョコレート。三年間、ご苦労さま。……いっとくけど、義理だからね」 「わかってるよ、サンキュ。そっちもマネージャー、ご苦労さん」  草野駿は三年間、サッカー部としてがんばっていた。彼女もまた、彼ら部員を支えるという、陰ながら大事な仕事をしてきたのだ。二人はしばらくのあいだ、なつかしい三年間を会話によって掘りおこしていた。それは舞美にはとうてい手にいれることのできない、深い共通の宝であった。  自分にとってとても大切だと思えるひとが、目の前で笑っていた。自分以外のひとと話をし、楽しそうにしている。それがつらく、悲しい。いや、そうではない。自分は彼にあたえられてばかりいた。しかし自分は、彼になにをあたえただろう。あんな笑顔を、わたしの前でつくったことがあったのだろうか。わたしは、なにをしてあげられるのだろう……?  「まだ他にも配らなきゃいけないから」と彼女があわただしく去っていくと、少年の瞳にはさみしげにうつむく少女の姿がうつった。 「竜堂」  舞美はハッとした。あとほんの数瞬、少年の声が聞こえなかったら、彼女は知らずうちに泣きだしていたかもしれない。舞美は潤みだそうとしていた眼を軽くこすり、おずおずと少年の前に立った。 「竜堂、どうしたんだ?」 「う、ううん、別に……。それより、あの……」  舞美の言葉は、それ以上でてこなかった。にぶった決心を再び結集させるには、時間がかかりそうであった。必死に心の整理をつけ、自分の気持ちに前向きになろうとする。 (がんばれ。わたすだけいいの。それ以上は望まないから……)  すこしずつ、すこしずつ、勇気が戻りはじめた。  が、少年はそんな舞美に気づいてやれなかった。他人の心の奥底をのぞける超能力もなく、雰囲気をさっせるほど鋭敏でもなく、待つということになれた大人でもない。少年は、少年だったのだ。 「そういや竜堂は、明日はどうするんだ? さすがに入試前だから、むこうには行かないか」  舞美の中で、膨らみかけた勇気がしぼむのを感じた。表にだしては、「勉強するつもり」とだけつぶやいていた。 「そうだよな。じゃ、明日はオレひとりだな」 「……行くの?」 「ああ、そのつもり。今さらあわててもしかたないし、親にも気晴らししてこいって追い出されるだろうしさ」  舞美と駿はそのさきも会話を続けた。しかし舞美はなにを話したのかすら覚えておらず、気がつくと独り、通学路を歩いていた。  赤い包装紙につつまれた彼女の心の結晶は、カバンの中で、いまだ静かに眠っていた。                 3  草野駿が毎週日曜日の予定どおりにその店へやってきたとき、まれに見る行列ができていた。年齢層にして20歳前後の若者たち、それも男性ばかりが狭い路地にむさくるしくならんでいる。呆然と彼らを眺めていると、そのなかに見慣れた紺の帽子があった。 「この列、なに?」  駿は早足で冴木彰にちかづき問いただす。帽子が似合う気のいい大学生は、本日限定販売グッズの話をし、無関係な駿にテーブル確保の任務をあたえた。  少年は了解すると急いで入り口へ戻り、半分閉じていたシャッターが動きだしているのに気づいて、さらに加速をかけて店内へすべりこんだ。「わりこみするな」という怒声も聞こえたが、駿はそのグッズとやらには1ミリグラムの興味もない。ゆえにこんな狭い場所に行列をつくる人たちのほうが、彼に言わせればじゃまなだけであった。  ひとりエレベータにのりこみ、少年は最上階へ。だれもいないフロアに到着すると、いつものテーブルにカバンを投げだし、任務を完了した。  しばらくデックの調整などをしていると、大きな袋をさげた行列部隊がやってきた。みな幸せそうに袋をあけ、歓喜の声をあげている。  モンコレ対戦だけが目的である少年は、「なにが楽しいんだろう?」と首をかしげながらそんな光景を眺めていたが、彼女の姿を確認すると、同胞の到来に、今度は彼が喜んだ。 「すごい人だったけど、今日はなに?」  美浦真夜は少年の前にすわり、一息をつく。質問の答えをうけとると、彼女もまたあきれたようにうなずいた。内心ではかなり無礼な想像をしていたのだが、口にしたりはしなかった。話題にしたのは目の前の中学生にとって、もっと深刻なことがらだった。 「ところでさ、駿くんはたしか、入試前じゃなかった?」 「あさってが私立の試験だよ」  そそくさとゲームの準備をしながら、受験生はあっさりと答える。驚く真夜に、彼は言葉を続けた。 「大丈夫、親のほうがオレを追い出したんだから。ノイローゼになられるくらいなら遊んでこいって。まったく、オレがノイローゼになんかなるわけないじゃん」 「そ、そうよね……」 「でも、まぁ、せっかくだから、こうして遊んでいるわけ。さすがにいつもよりははやく帰るつもりだけど」  真夜は乾いた笑みを浮かべるだけだ。たしか自分が高校受験のときは、まわりや親の圧迫で自由な時間などなかったような気がする。ましてや試験を目前にしてゲームに興じるなどありえなかった。これが時代の流れなのか、とも思ったが、やはり駿のところだけがずれているのだろう。 「ま、いいか。ともかく試験、がんばってね。これはその元気づけ」  真夜はカバンから包みをだした。赤い袋には金のシールがはられており、英語の筆記体がかかれている。それを読むまでもなく、少年にも中身はわかった。 「ありがと。でも、オレお返しできるかな」 「中学生からもらおうなんて思わないわよ。……でもそうね、どうせなら今度出る“空中庭園”のクラブカード1枚くれると嬉しいかな?」 「オレもどうせならそっちのほうがいい」  真夜と駿はどこまで本気かわからない願望に、笑いあった。 「士郎くんと舞美ちゃんにもあげたいんだけど、やっぱりこないわよね」 「二人とも勉強するって言ってたからね。オレが明日、わたしとこうか?」  真夜はできるなら手渡したかったのだが、どう考えても無理そうであるし、かといって先おくりにできるものでもない。彼女は駿にあげたものと同様の袋を2つとりだし、少年にあずけた。それぞれメッセージカードがついているので、名前を間違えないようにとの注意もつけて。  二人のカバンの中身がわずかずつ内容を変え終えたころ、「よぉ」と紺の帽子の男がやたら楽しそうに入ってきた。 「あ〜ぁ、アキさんがきちゃった。これで真田さんが来ないのは確定ね」  冗談とともに深いため息を彼女がはきだすと、彰のごきげんが急激に低下した。 「なんだ、オレより真田さんのほうがいいってのか?」 「当たり前じゃない。今日は何の日だと思ってるの?」 「バレンタインだろ?」 「だから真田さんのためにチョコを用意してきたのに……」  真夜は再びため息をついた。やはり口もとが笑っていたので、彰もまた軽口をかえす。 「じゃ、代わりにオレがもらってやるよ」 「アキさんはもう、充分もらってるでしょ? かわいい女の子たちから」  真夜の視線の先には、彼がさげている大きな袋があった。本日限定・美少女ゲームヒロイン・バレンタイングッズの山が、そこには詰まっている。  彰はてきめんにうろたえ、言葉を失う。真夜と駿がこらえられなくなりついにふきだすと、一番年上の青年は、舌打ちしつつ帽子のつばをおろした。 「冗談よ。はい、これはアキさんの。クラブカード20枚の価値はあるんだから、味わって食べてね」 「……それはもしかして、お返しにカードをくれってことか?」  憮然としながらも、彰は礼をいってうけとった。なんだかんだありつつも、この雰囲気は三人にとって悪くないものだった。だから彰は多少の不満はあるものの、真夜からのプレゼントを大事にするのである。 「ところでさ、駿くんは舞美ちゃんから、どんなのもらったの?」  自分の用件がすんでしまうと、がぜん興味は他人のほうへとうつる。とくに舞美の気持ちを知っている彼女には、はずせない話題だった。  だが、少年はあっさり否定する。 「もらってないの? 舞美ちゃんから? ホントに?」  駿は疑問をなげかけられるたびに否定の動作を繰り返した。どうやらウソではなさそうだと判明すると、真夜は腕をくんで、少女の真意を考えはじめた。しかし、答えはでない。 「駿くんは気にならないの? 舞美ちゃんがくれなかったこと」 「う〜ん、考えてなかったなぁ。……受験もあるし、竜堂も忘れてたんじゃないの? それに、オレにくれるとはかぎらないじゃん」  「ダメだ、こりゃ」真夜は口の中でつぶやいた。少年の精神年齢は少年のままなのだ。男というのは、どうもこういう方面では鈍すぎるのではないかと、ときおり思う。だからといって一方的に駿をせめるわけにもいかないので、真夜はあとで舞美に電話してみようと決めた。真夜にできるのは、それくらいであった。                 4  風がふたたび冷たくなりはじめる時刻、駿は当初の計画どおりに帰路についた。太陽が夕日へと変化をみせる時間、薄暗い空が重く感じられる時間、少年の自転車は都会を駆け抜けていた。  小一時間ほどで、地元でゆいいつ有名とも思える森林公園へ入った。寂しげな緑のなかを、速度をゆるめてひとまわりしてみる。春がくれば桜並木が淡いピンクの花びらをちらし、大地にはタンポポをはじめ、さまざまな色があでやかに広がる。自分はそのころ、どうしているのだろう? みんなとはどうなっているのだろう? 駿は普段なら考えないような感傷がうかびあがるのを、不思議に思っていた。  「あれ?」駿は見知った顔を、公園の出口で見つけた。 「竜堂、なにしてんだ?」 「うん、草野くん、待ってた……」  少年が顔を曇らせると、少女は真夜から駿が帰ったと聞き、いつもこの公園を通っていくのを知っていたので待っていたと、ポツリポツリ話した。  駿はあまりに暗い表情の舞美に、動揺を隠せなかった。ともかく話ができる場所へいこうと近くのベンチに誘い、寒い身体をあたためるために缶コーヒーを買ってきた。だが舞美はお礼を言って受けとったきりで、フタをあけたのは少年だけだった。 「竜堂は、明日あさってと入試だったよな? 大丈夫なのか?」  舞美は、二日連続で私立高校の試験を受ける。第一志望は、あさってに入学試験が行なわれる私立有明高等学校である。この学校の美術の講師が、舞美に絵を描くきっかけをあたえてくれたのだ。もちろん理由はそれだけではないが、舞美は以前から有明高校への進学を希望していた。対して駿の第一志望は自宅から近いという理由だけで選んだ都立高校で、はっきりいえば進学できればいいという考えしか持っていなかった。第二志望は舞美の望む有明高校で、動機はやはり“都立の次に自宅から近い”からだった。 「うん、ちょっと、緊張してるけど――」  舞美はさらに声と顔を沈めた。 「でも、今がいちばん緊張してる」  「え?」と自分を見返す駿の視線を感じて、舞美はスカートの裾をキュッとにぎった。“ガンバレ”という聡子と、真夜と、自分の心からのエールを少女は思いだし、心臓の高鳴りに負けない勇気をふりしぼった。 「これ!」  舞美はカバンからそれを一気にひきだし、駿の眼前につきつけた。赤い包装紙につつまれた、ささやかな箱。しかし中につまっているものは、彼女の想いのすべてだった。 「あ、ありがとう……」  突然の攻撃は、駿を困惑させるにたりた。しかし少年は、それだけに少女の決心までの心痛を、ばくぜんとだが知りえたのだった。  舞美はまだ、顔をあげなかった。真っ赤になった顔を見られたくはなかったし、駿の反応もこわかった。呼吸もおちつかないし、脚が今になってふるえている。聡子にいわれたとおり、「友達として」なんていいわけもつける余裕もなかったので、よけい緊張は高まっていた。  時が冷たい風とともに流れ、空を茜色から深い紺へと変えていく。静かな、夕刻と夜の狭間だった。 「あのさ――」  駿は手のなかの小さな箱を見つめながら、今いえる最大の感謝を、言葉という形にして舞美に送った。  舞美は、大きく跳ねた胸を抱きしめながら、駿の優しい声をきいた。それはまだまだ少年の言葉で、舞美のすべてをみたすものではなかった。けれど、少女にはそれで充分であり、彼女の想う彼はそういう少年だった。嬉しくて涙があふれ、彼があわててハンカチをさがす姿を、少女は絶対に忘れないだろうと思った。絶対、絶対忘れないだろうと思った。             *   *   *  冬の終わり。  新しいはじまり。  少年と少女は、同じ道にいた。  モンスターコレクション・ノベル  外伝3・あとがき  今回は本当の意味で外伝です。お読みくださればわかるとおり、ゲームシーンもありません。今回の執筆は、草野駿と竜堂舞美の進路を説明するには、本編では蛇足が多すぎるだろうと思ってのことです。それにせっかくキャラクターが活きはじめたのに、卒業などのイベントを無視してしまうのもおしかったからです。終わりはかなり抽象的ですが、筆者自身は気に入っています。読みとっていただければ幸いです。  本当はもう少し長く、試験当日なども書く予定でしたが、それこそ蛇足だったのではぶきました。  もうひとりの同級生・雨宮士郎についても本来ふれねばならなかったのですが、物語の進行上、付加させられませんでした。彼については本編で書かれることになると思います。  今回の新キャラクター・畑野聡子(ハタノサトコ)については、プレイヤーではないので次の登場予定はありません。進路は舞美と同じなので、学校シーンには出てくるかも知れない、という程度です。  私立有明(アリアケ)高等学校について。もしかすると実在しそうな名称ですが、筆者は確認をしておりません。あくまでフィクションですので、実在のおりには先方にご迷惑がかからぬようお願いいたします。  この学校名は、筆者の別作品「有高祭園す(アリコウサイエンス)」からとっています。この作品は完成しておらず、未発表のまま何年も寝かせたまま、今にいたっています。ですが舞台としてはおもしろくなるだろうと、こちらで登場とあいなったわけです。そして次回作は、「空中庭園の降臨」を主軸にした戦いを予定しており、新キャラクターが有高の先輩と決まっています。どうぞおたのしみに。  では、今回はこのへんで。次回お会いしましょう。                  1999年4月13日  筆者