モンスターコレクション・ノベル 1    第一章 草野駿(クサノシュン)                 1  湿った風と日替わりの激しい空の色、そして投げやりな太陽の光がこの季節の特徴だった。その中を、汗とあらい呼吸にまみれながら、少年の自転車は速度をゆるめず走り抜ける。だが、目的地まで1時間はかかる道のりも、これからの楽しみの前には苦にもならない。15歳の少年の表情はそう語っていた。  その視線がふとカゴの中のデイバッグにむく。彼の“最高傑作”が、そこで出番を待っていた。出番を待たせているほうも、体の芯からわきあがる衝動にムズムズしている。  少年・草野駿は、思わず笑みをこぼす――いや、たらすと、再びペダルへの力を強めるのだった。  駿は、つい先日に誕生日を迎えたばかりだ。したがってまだ中学生。すこし長めの髪を自由意志にまかせてなびかせ、猫のようなつりあがり気味の目を輝かせている。年齢に比して小柄すぎるのが、よけいにネコ科の動物を連想させた。学力は人類、運動能力は虎、容姿と性格は猫。それがクラスメイトの、悪意のない表現である。  いつもの駐輪場に自転車をおさめ、そこからは早足・5分で目的地に到着する。  東京・秋葉原。日本では有名な電気街。そのはずれにあるビルに、少年は入っていった。  いつもどおりゲームに関連したグッズがところせましと並び、よく似た風体の客がウンチクをたれながら物色している。それをかきわけて、店の奥にある閉まりかけたエレベータに無理やり飛びこむ。  利用階数はすでに押されていた。まわりをチラリとのぞき見て、同じ目的の人がいるのか、と期待する。それこそ望むところなのだ。でなければここへ来た意味もないというものだ。  ふと、狭いカゴの中で一人の男と目があった。自分より10センチ以上高い上背と、柔和な顔立ちをした青年だ。こんなところには珍しい、スーツ姿だった。駿は一瞬の観察ですぐに視線をそらし、何事もなかったふりをした。背後で、相手も同じことをしているのではないかと思いながら。  二度ほど、駿に言わせればむだに扉を開閉させ、目的の階数に到達する。少年は勢いよく飛びだし、眼前に広がる人だかりに満足した。  日曜日、正午すぎ。ここはこうでなければならないと、少年の常識が首肯する。目の前のカウンターには、はやりのトレーディングカードが何十種類も整然と並び、その他のスペースはいくつかのテーブルと、それを取り囲むイスと人でうまっている。相変わらず男くさいが、それもまた慣れである。  テーブルの上には、やはりトレーディングカードが山のようになっている。販売目的ではなく、交換のためにそれぞれが持ちよったものだ。ここではカード交換がフリーでできる。それを目的として、集まる者も多かった。  だが、それは駿の心を、半瞬でもゆるがす力を持たない。ゆえに少年は小柄な体格を活かして、人波をくぐる。  奥のテーブル3つに、彼が求める場所があった。紺のカードマットに、赤い六芒星と、白線でトレーディングカードの大きさの枠がいくつか描かれていた。マットの上にはカードがおかれ、それぞれ数字や文字、きれいなイラストがプリントされている。そしてそれらを挟んで、二人の男がカードとにらめっこし、ときおりダイス――サイコロ――を振っては一喜一憂している。周囲の見学客は、それらの反応を見て笑い、また求められない指図をしてプレイヤーの反感をかっていた。  モンスターコレクション。富士見書房という出版社から発売された、トレーディングカードゲームである。カードに描かれた様々なモンスターを召還し、相手の魔物を撃破しながら陣地を占領して、最終的に相手の本陣を攻略すれば勝ちとなる。  陣地となりうる戦場の大きさは、縦が4、横は3の12ブロックである。その一番手前の中心が、自分の本陣となり、ちょうど反対側が相手の本陣だ。ここでは、縦を1〜4、横をL(左)、C(中央)、R(右)で表現しよう。なお、先手側の本陣の位置をC1、後手側の本陣の位置をC4とし、先手側を基準に位置をみていく。  ……駿は、3つのテーブルで繰り広げられる戦いを眺める。中学三年の少年の小遣いでは、500種類以上のカードすべてを集めるなど不可能に近く、見ているだけでよだれがこぼれそうになる。また、ここで戦う者のほとんどが大学生以上で、高校生ですら珍しい。それゆえ、一つひとつのやりとりが高度に計算され、洗練されたものだった。それは駿によい刺激を与えていた。 「テーブルあいたよ。誰かやらないか?」  背後のテーブルから、カードを片付けながら、一方の男が呼びかけた。毎週かならずここに来ている、大学生だった。色白で、筋肉のかけらもなさそうな人で、カバンにはいつも女の子のキーホルダーを下げている。  駿はためらいなくその席を占領し、相手に軽くあいさつした。ここでは年齢や地位など何の力も持たない。最低限のマナーさえ守れば、同じ仲間という意識がすべてを払拭してくれるのだ。 「駿くんだっけ? 君もいつも来てるね。……あれ、今日はお連れはいないのか?」 「今日は塾で試験があって……」  駿は学校での唯一のモンコレ(モンスターコレクションの略)仲間・雨宮士郎の今ごろを思いはせた。受験生である以上、それは仕方のないことなのだろうが、梅雨もはじまらぬ時期から受験勉強とはいささか可哀相であった。駿自身も、もちろん高校へはいくつもりだが、友人と違い高望みはしないし、また成績が悪いというほどでもない。なにより遊べるうちに遊ぶのがこの世代の鉄則であると、彼はかたく信じていた。 「さて、君とやるのははじめてだけど、どんなデックかな?」  大学生・上村は楽しそうに駿を見た。“しょせんは中学生”と、暗に秘められたように聞こえるのは、駿の年齢差によるひがみだろうか。 「それを言ったらつまらないじゃん。でも、やるからには勝たなきゃね」  自信の笑みを浮かべてカードをシャッフルし、お互いにカードを交換してまたよくきる。戻ってきたカードの山を脇におき、一番上のそれを裏のまま、自分の本陣においた。  二人はダイスをにぎり、コバルトのマットに放つ。 「オレの先手」  駿ははじめのダイス勝負に勝てて、さい先のよさを素直に喜ぶ。山札から6枚のカードがひかれ、手札となった。 「これと……、これ、ついでにこれも…っと」  駿の本陣(C1)に、3枚のユニットが召還された。<ジャングルクロコダイル>、<ジャングルエイプ>、<ジャングルタイガー>と書かれたカードだ。  駿は3枚手札を補充して、初手を完了した。  上村の表情が微妙に険しくなった。彼の視線は、自分のカードと戦場を何度も往復している。相性はあまりよくないな。コンボで片付けるにしても、敵の残りがどうでるか。それにどんな魔法を持っているか、わからないしな。  戸惑いつつも、彼は自分の本陣(C4)に<首長竜>と<ヒドラ>、それに<ピクシー>をおいた。彼のターンも召還で終わりだ。  第3ターン、駿はC2に<代理地形>をおき、JエイプとJタイガーを進軍させ、2枚目の<ジャングルエイプ>と<ジャングルコンドル>を呼び出した。 「ジャングルデックか? まいったな……」  上村は、今度は声にして心中を表わした。相手は駆け引きも何もない、“ぶん殴り”デックだと結論づけたからだ。これは彼の扱うデックとは、相性がよくない。カードの出るタイミングしだいでは、すぐに勝負がつく。  上村は、半分あきらめ顔でいらないカードを捨て、2枚補充した。とたんその表情が輝きだす。  C3に<代理地形>をおき、首長竜とピクシーを前進。本陣に<ウォータードラゴン>を召還して終了。  駿にとっては、最悪の敵が出てきてしまった。彼のデックは、上村が言うとおり“動物”だけで構成したものだ。もちろんそんな動物たちが、魔法やアイテムをつかえるわけもない。もし先攻を取ったら、Wドラゴンの特殊能力を使われ、全滅する可能性もあるのだ。  相手が先攻ならば、そんな心配はいらない。また、たとえ特殊能力を使われたとして、ダイスの目が高くなければ効果はない。そう考えれば、確率的に見ても駿のほうが有利なのだが、わかっていても、心理的には負けてしまうものがドラゴンにはある。  だが、とりあえず駿は目の前の敵をどうにかしたかった。駿は性格上、敵がいるのに見過ごすことができないのだ。たとえそれが、戦略にはずれることであっても、戦術上の勝利に固執するタイプだった。  それでも一応、悩んでみるのが、彼の成長した証である。以前までの彼は、何も考えず敵陣を目指していたが、それで親友・雨宮士郎に勝てたためしがなかった。いや、ダイスの女神に好かれて勝ったことはあるが、それに喜ぶほど駿も単純ではなかった。  そうして勝ったにもかかわらず、顔を曇らせる彼に、士郎は言う。 “運も実力のうちとはいうけど、はじめから運に頼って戦うのはどうかな? 駿のデックは、戦いかたを変えればもっと強くなるよ”  その答えはいまだ出ていない。それが本当なのかさえ、疑ってしまう。けれど少しずつ手を加えてきた自分だけのデックで、少年は勝ちたかった。そう思うからこそ、駿は汗だくになりながらここまで来たのだ。 「……勝負!」  駿は決断した。C3を護る首長竜とピクシーに対し、JエイプとJタイガーが挑む。 「即時召還は<サーベルタイガー>」  少年が手札から一枚のユニットをだす。  上村の目がきつくなった。そして半分あきらめた顔で<セイレーン>を召還し、イニシアチブ・ダイスが振られた。  首長竜の−2修正のおかげで、駿の先攻が決まった。  駿の選択は1つしかない。「攻撃」が命じられ、Jエイプが胸を叩き暴れ出し、JタイガーとSタイガーが獲物をもとめて飛びかかる。 「首長竜、セイレーンのコンボ!」  上村は黙ってやられるのをよしとしなかった。一番攻撃力の高いSタイガーが宙に舞い、首長竜に飲みこまれた。しかし、残ったJエイプとJタイガーの攻撃により、前にでていた首長竜とピクシーは無残にかみ砕かれ、引き裂かれた。セイレーンはそれ以上なにもできず、結果のみを問えば駿の部隊は進軍に失敗したのだった。  「あのさぁ……」横で見ていたギャラリーが、あきれたように駿に話しかけた。 「もうちょっと考えろよ。キミのユニットは自軍領土にいるときその強さを発揮するんだぜ。攻めないで待っていりゃよかったんだよ。それかさ、こいつがいたんだから、一体だけで進軍して、こいつも召還すれば全滅できたのに……」  彼の指差すカードは、もう一枚手札にあった<サーベルタイガー>だった。 「……はぁ、そうですね」  駿は相手の言の正しさを認めながら、やはり反感はおさえられなかった。このようにいちいち人のカードをのぞき見て、軍師だか、参謀だかをきどる輩が多すぎる。それを望む人もいるだろうが、自分は自分の力で勝ちたいのだ。ジャマはしてほしくなかった。しかしこういう手合いは自分が正しいと思い込んでいるため、何を言ってもわからないのも、やはり常である。そのため、駿は淡白に応対せざるをえない。  相手ははなはだ不機嫌な様子だ。せっかく助言してやっているのに、なんて態度だ。と、表情に表わし、駿の横顔を睨んでいる。  だが、彼も中学生相手に大人気ない態度をとるような良識はずれでもないようで、黙って席を離れ、仲間であろう数人と陰口をきくにとどまっていた。 「……あいつ、ゲームが強いのは認めるけど、ちょっと付き合いにくいヤツだよな」  そうささやいたのは、上村だった。どうやら内心は駿と同じようで、かなり辟易していたらしい。  駿は少し気持ちが和らぎ、とまっていたゲームに戻った。これ以上移動できないので、最後に<グレイウルフ>を召還し、2枚ひいてターン終了。  上村のターンはWドラゴンがC3へ、R3に地形<妖精の輪>をおいてセイレーンをそこへ移動。本陣に<ワーウルフ>を呼び出して終了。手札は7枚である。  駿はC2のJタイガーと本陣のJコンドルを、R2においた地形<魔法陣・泉>に移し、C2にはJエイプが二体待機、本陣に<ジャングルクロコダイル>と<プレインランナー>を召還してターンを譲った。  上村はWドラゴンをおさえておく必要がなかった。相手の防御力が+2されていようとおかまいなしである。 「C2に進軍。即召(即時召還)は<モーヴ>と<ナイトメア>」  上村が会心の笑みを浮かべる。  その陣列に駿は勝ちめがないのを悟り、何も召還しなかった。  イニシアチブは、駿が2。そして上村は、5以上を願う駿を横目に、3をだした。 「……攻撃」  駿はもはや投げやりである。 「Wドラゴンの“津波”。ダイスの目は……、4か。じゃあモーヴを使う」 「はいはい」  駿はJエイプを破棄し、ふてくされた。  さすがに上村も苦笑しながら、C3にヒドラとワーウルフ、本陣にセイレーンを戻し、<エレファント>と<マーブルビートル>をおく。  次のターン、駿のJクロコダイル・2体がC2へ進軍。<サーベルタイガー>を即時召還してWドラゴンを叩きにいく。  ここでさっきの借りをかえそうとでもしたのか、ダイスの女神は駿に1を、上村に4をプレゼントしたのだった。ナイトメアの−2を加えても、上村の先攻は決まりである。  上村は多少残念な気持ちでJクロコダイルを1体倒し、駿の反撃を待った。  Wドラゴンは隊列の前、攻撃力はJクロコダイルが3+1で4、サーベルタイガーは2。Wドラゴンだけは倒せる!  駿の攻撃命令に、クロコダイルとSタイガーは牙をむき襲いかかる。が、その牙はWドラゴンに致命傷を与えることはできなかった。 「<ミラー・イメージ>」  上村はそのカードを場にだし、対象をJクロコダイルに指し示したのだ。 「……このカードによって、本来あたえられる+1の修正は無効となる」  がく然とする駿に「悪いな」と本心から上村はあやまり、目的をとげられなかったJクロコダイルとSタイガーに本陣へさがってもらった。  駿は納得いかない気分だったが、もともと対抗に弱いという欠点は知っていた。それで負けるのがいやならば、はじめからそんなデックをつくらなければよかったのだ。そう、これは自分で決めたことだ。  少年は一度自分の頭を叩き、冷静になろうとした。とにかく、まだ負けたわけではないのだから、と。  駿は、R2からR3の妖精の輪へ、JタイガーとJコンドルを移動させ、本陣に<シルバーイーグル>を召還する。そして泉に<ジャングルコンドル>、<プレインランナー>、<グレイウルフ>を呼び出した。  上村のターン。中学生相手とはいえ、彼は手加減する気はなかった。と、言うよりできなかった。彼の手札の中には、今はもう頼れる魔法もなく、<モーヴ>のような便利なユニットもいない。ここで勝負をつけねば、対抗型デックではだんだん不利になるのが見えていたのだ。  上村は第一手札調整フェイズで、思いきって手札を全部捨てて、これから手札になる6枚にかけた。  思いきりのよさが戦場にどう反映するか、手札を眺める彼だけが知っている。駿は来るのを自覚しながらも、何もできない。ただ、相手のカードを呪うのみだ。  上村の顔には満足も悲観もなかった。彼はいつも、ここぞという場面で、判断のつかぬ能面となる。そして、それは彼が賭けにでる証拠であった。  はたして彼は、駿の本陣へと進軍をはじめた。  上村の部隊はナイトメアとWドラゴン、そして<リザードマン突撃隊>を即時召還する。  対する駿は、Sイーグル、Sタイガー、プレインランナー、グレイウルフ、Jクロコダイルの10レベルである。  イニシアチブが振られる。上村が5、駿は4。それぞれの修正を加えて、上村は3、駿は6である。  駿は出したくもない攻撃命令を与える。  遅いかかる獣たちに、ウォータードラゴンは津波を浴びせかける。  上村のダイスが、神と悪魔の祈りを受けながら、戦場を走った。  3!  ジャングルクロコダイルを残し、すべては死んだ。だが、ドラゴンの攻撃がありえない今、本陣は護られたのだ。  駿の行動はすべて完了し、上村のタイミングとなる。リザードマンとナイトメアの攻撃力では、クロコダイルは倒せない。  駿が生き延びたことに安堵していると、上村の右手が動きはじめた。  手札の一番左にあったカードを抜き取り、場にさらす。  駿は負けたのである。                 2  空いたテーブルでカードを見直していた駿は、不意に声をかけられた。  視線をあげると、エレベータで目があった青年が目の前に座っている。声も、容姿を裏切らない温かなものだったが、いまの駿にはそれを受け入れるだけの余裕がなかった。 「なんかよう?」 「さっきのゲーム、見てたよ。おもしろいデックだね。ちょっと、いいかい?」  青年は笑顔のまま駿のデックを指差した。少年は猫のような目を大きくして困惑していたが、けっきょく彼にわたした。 「……なんで勝てないのかなぁ」  駿は天井を見上げる。通算7勝69敗。勝率は一割に満たない。その敗戦のほとんどは、雨宮士郎によってつけられている。 「士郎みたいにカードがたくさんあればなぁ……」  ついグチがでてしまったが、彼のデックに組み込まれているカードの半分は、その士郎からもらったものだった。彼が自分で買ったのは、スターターを2つと、初期のブースターを3つ、そして「古代帝国の遺産」を3つだけだ。 「カードの多さで勝敗が決まるわけではないよ。もちろん、あるにこしたことはないけどね」  駿のデックをレベルや地形ごとに分類しながら、青年は言った。 「デックにはお互い相性がある。どれとやってもかならず勝てるデックなどないんだ。ただ、そのデックの長所をさらに活かすのは可能だし、戦いかたというものも存在する。君はまだ、そのどちらも知らないだけだよ」  淡々と、カードの分類と言葉を発する青年に、駿はあっけにとられた。 「……だったら、それを教えてくれよ」  駿としてはすねる以外に、表現のしようがなかった。正面に座るスーツ姿の男は、ため息のような笑みを少年に向け、「いいよ」と応えた。  青年はまず質問からはじめた。このデックのコンセプトは? なぜ地形が<泉>だけ2枚なのか? どのカードが重要なのか……。  駿は並べられたカードを見ながら、考えて口にした。 「オレは動物が好きだから、このデックをつくったんだ。それに殴ると強いし……。地形は3レベルが多いから入れた。でも地形ばっかりだと、ユニットが入れられなくなるじゃん。だから2枚だけ。それと重要なカードね……、うん、<百獣の王>だね、やっぱり。あと、<ロック>もそうかな」  青年はうなずくと、もう一つ質問を追加した。 「このデックに入れたいカードはあるかい? 持ってなくてもかまわないよ」 「……百獣の王かな? 1枚しかないから。あとは……、ロックもほしい」 「地形は?」 「いらないよ。ユニットが多いほうがいいに決まってる」  答えを受け、青年は分類したカードの、3レベルユニットの束を手にとった。その厚みは、全体の三分ノ一ほどあった。それを見ながら、彼は言葉をまとめているようだ。そして10秒ほどすぎたのち、意見を言わせてもらうと前置きして少年に語った。 「コンセプトはいいよ。自分のつくりたいものをつくるのは正しい。それにけして弱いわけではないから、問題はない。ほしいカードについては、百獣の王はたしかに入れるべきだろうね。ただ、ロックは無理にいれる必要を感じないな。……なぜって? あれは8レベルだからね。召還は本陣でしかできないし、このデックは3レベル以上が多いから、追いつめられたときには呼び出すのもままならなくなる。そのための泉といいたいんだろうけど、泉だけじゃダメだよ」 「なんで?」 「まず、地形のメリット、デメリットを考えてみようか。デメリットは簡単だ。君の言うとおり入れられるカードが減ってしまう。兵力が多いほうが有利なのは戦いの常識だから、無駄はなるべく省きたい。……次にメリットだ。例えば泉は、3レベル以下を普通召還できる。君のデックにはもってこいだ。他にもユニット自体を進軍できなくするような地形は便利だし、移動系は奇襲にむく。……こうして考えていって、自分がなるべく有利になるような環境をつくるのが地形の役割だ。では、君のデックを見て必要な“地の利”とは何か。まず対抗に弱いから、アイテムや魔法がつかえなくなる地形と、3レベルが活躍できる地形の2種類があげられる。そしてその両者を天秤にかけて、どちらがデックを活かせるかといえば、3レベルが活躍できるほうなんだよ」  なぜ、と問いかけたそうな駿に、青年は笑みを浮かべた。 「3レベルユニットが多いということは、それらが主とならなければならないわけだ。そしてそれが一つの戦場に集まれば、より強くなる。例えば、自軍領土で、百獣の王とジャングルエイプ・2体が組んだらどうなるだろう? 特殊能力を受け、攻撃力は11点、防御力は15点にもなるんだ」  駿はその計算に目をみはるが、それではリミットが9になってしまい、パーティーは組めないではないか。 「だから地形を使うんだよ。<眺めのいい丘>のリミットは10だ。それに、君に一番あう地形<砦>がある。リミットが9で、レベル3以下の即時召還が行なえる。この二つの地形が相手の本陣までのびていたら、3レベル3体で、敵陣をおとしに行けるんだよ」  少年の目が輝きだす。きっとその頭の中では、百獣の王に率いられた獣たちが、敵陣を打ち砕いている姿が浮かんでいるのだろう。 「たしかに地形はデメリットもある。手札になければ意味がないからね。でも、君のデックのように、地形があってこそ本領を発揮できる場合もあるんだよ」  大きく元気にうなずく駿であったが、ふと一つだけ気付いてしまった。 「……でも、オレ、砦なんか持ってないよ。それに百獣の王だって……」 「何いってるんだ、そういうときのためのこの場所だろう? ……君が交換にだせるカードは、何もないのかい?」  駿はデイバッグをあけ、2つのカードケースを出した。雨宮士郎からもらったカードや、自分で買ったものがそこにおさめられている。  対して青年のほうは、5つのカードケースを出した。うち4つはスターターの箱で、1つだけ透明なプラスチックケースだ。そこにはスリーブに包まれたカードがつまっている。  彼はスターターの箱を一つあけ、カードの束を取り出した。左下のマークは星ばかりであった。そこから百獣の王を一枚だし、また違う箱から砦を3枚ひきぬいた。 「残念ながら百獣の王は1枚しか出せない。君のカードを見せてくれるかい?」  駿は申しわけなさそうにカードを差し出した。自分より多くの種類をもっている相手に見せるには、あまりにも貧弱なカードたちだったからだ。  彼は、そんな駿に気にしている様子もなく、カードを1枚1枚確認している。そしてときどき考えながら、カードをテーブルに抜き取っていく。  <鉄と鋼の王>、<グレートノーチラス>、<マーブルビートル>、<冒険者ポケット>の4枚が、テーブルにおかれた。 「これでなら交換するけど、どれかだせないものはあるかい?」  駿は首を振った。どれも使ったことすらないカードで、使うこともないような気がする。  青年はうなずき、カードをケースにしまった。それからおもむろに、カバンから新たにスターターの箱を3つ、取り出した。中には三角やダイヤマークのカードがギッシリつまっていた。それを駿に「あげるよ」と差し出した。 「い、いいの!?」 「あまりものさ。邪魔になるだけだからね。有効に使ってくれる人にあげたほうがいい」  駿は大歓喜で、名も知らぬ青年に何度もお礼を言った。 「さて、あとは百獣の王がもう一枚はいれば、デックは完成かな?」  少年はうなずくが、彼の手元には、もう交換につかえそうなカードが残っていなかった。 「大丈夫さ、このカードがあればね」 「それは……?」  <ブラウニーズ>のカードだった。駿の余りカードから見つけて、彼が抜き出しておいたものだ。  目で疑問を訴えかける少年に、彼は安心を与えてやる。 「人には好みというのがあってね、他人にとっては価値がなくとも、ある特定の人には貴重なものなのさ。……ほら、来たよ」  彼にうながされ、入り口のほうへ目を向けると、一人の男がカードファイルを片手にこちらにやってくるところだった。 「ブラウニーズ余ってない? 今ならたいがい交換できるよ」 「ほらね」  あっけにとられる駿に、彼は笑ってみせた。  こうして、駿は3枚目の百獣の王を手に入れたのだった。                 3  駿がデックを組みなおしている間、気前のいい青年はとなりで対戦をしていた。駿はときどき横目で見ながら、恩人の勝利を祈っていた。  彼も、ここにはかなり出入りしているようであった。常連の中で、「真田さん」とか「ヨーヘイさん」とか呼ばれている。今まで駿が逢ったことがなかったのは、どうやら「ヨーヘイさん」は平日の、それも夕方から来ているためであった。とうぜん駿には学校があるし、夕方は部活動もあるので、これるはずもない。  真田洋平のデックは、炎系のユニットが多く、意外にシンプルなつくりだった。中にはその他の属性も見えるが、やはり目立つのは<オーク>たちである。それを知り、わずかに学があるのを誇示しようとしたギャラリーの一人が、彼のデックを評してこう述べた。  “真田の赤備え”と。  “真田の赤備え”とは、戦国末期の武将・真田幸村が、赤く染めあげた武具をつけた兵を編成していたことからついた、部隊の名前である。  真田に率いられたオークたちは、マグマのように戦場を走り、敵を焼き、つきくずす。見ていて爽快なくらい、兵は生きて、活きていた。まさに“真田の赤備え”の勇名にはじぬ、戦いぶりであった。  しかし相手の本陣をおとしたのは、意表をついて<大砂蟲>だった。真田は思いきりよく、勝てる算段をつけると手札をすべて捨てて、巨大な蟲を敵陣に送りこんだのである。捨てた手札には、魔法やアイテム、有効なユニットがあるにもかかわらず、彼はまったくためらいなくそれを破棄したのだ。  勝負は決まった。相手に何もさせず、また、しようとする前にすべてを終わらせてしまったのであった。  真田は駿の視線に気付き、カードをしまって少年のテーブルについた。 「ヨーヘイさん、強いんだね!」 「いや、デックの相性がよかったんだよ。それにカードのまわりも、ダイスも期待を裏切らなかったしね。……カードゲームであり、ダイスを使う以上、イカサマでもしなければ結果は相対的なものさ。だからそれをすこしでもよくするために、戦術能力をみがくんだよ」 「センジュツ? ……戦略のこと?」  真田は苦笑した。昔の自分と同じセリフを、少年がしたからだ。 「戦略と戦術は別のものだよ。……そうだな、このゲームで言えば、デックをつくり、どんな作戦で戦うのかを決めるのが戦略。そして実際のゲーム中に、どうやって有利に戦うかを考えるのが戦術だよ」  駿にはその違いがよく理解できない。だがとりあえずうなずいておくのが、少年というものだった。  真田は、少年の心情を看破して、声を出して優しく笑った。無理に理解しようとしなくていい、と付け加えながら。 「……デック、できたかい?」  駿は問いかけられ、さらにパワーアップした――と思われる――ジャングルデックを真田にわたした。  感心しながら見ていた真田は、やおら「ゲームをしよう」と駿にデックを返した。勝てるわけがないと訴える少年に、彼は先ほどとは別のデックを取りだした。 「やるか、やらないかは自由だよ。勝つか、負けるかも結局、自分の意志だ」  そういわれれば、駿はあとにはひけなかった。勝つためにここに来た、それが少年の意志だったのだから。  カードマットがひかれた。  ダイスが用意された。  カードがきられた。  本陣がおかれた。  勝負がはじまった!  先手・駿の行動は、第一手札調整フェイズがないので、そのままメインフェィズへ。しかし置く地形がないので、<エレファント>と、<ジャングルクロコダイル>2体の、計3体を召還して終了。  後手、真田は、<インプ>、<サーベルタイガー>、<リザードマン突撃隊>、<オーク長槍隊>を召還してターンを終わる。  駿はC2に地形<砦>を置き、エレファントとJクロコダイルを移動させる。そして本陣に<ジャングルタイガー>と<ジャングルエイプ>を召還。  真田は手札を冷静に見て、C3に地形<泉>を置き、Sタイガーとリザードマンをそこに進める。本陣に<ワイバーン>、<ヒポグリフ>を召還した。  駿はこれなら勝てる、とエレファントをC3へ進軍。<ウィンターウルフ>、<ラー>、<サーベルタイガー>を即時召還する。  真田は考えこんだあげく、<プレインマンティス>を召還。  お互いに、先攻をとれば相手を倒せる陣容である。イニシアチブに+1があるぶん、駿のほうが有利ではあったが。  お互いがダイスを握り、真田は軽く、駿はハデにそれを投げる。 「3!」 「4だ」 「同時攻撃!」  ギャラリーの声がわくと、進軍されたほうは肩の力を抜き、進軍したほうは悔しがった。だが、ともかく駿のエレファントが生き残ったため、進軍は成功したのだ。  駿はため息をつきながら、Jクロコダイルをエレファントのもとに送った。それから本陣にいたJタイガーとJエイプをC2の砦に行かせた。召還は、<エレファント>と<名馬「ワールウィンド」>である。  真田は自分のターンに入るとカードを補充して、C3の泉を奪回すべく行動を開始した。インプ、ワイバーン、ヒポグリフの3体で、駿のほうは即時召還をせずにそのままだ。  これも先攻をとったほうが勝ちとなる。  二人は大小差があるものの、気合いをこめてダイスを振った。  結果は駿の負けだ。攻撃力10で殴られ、全滅。  これで状況は五分五分に戻った。  真田が<デザートビースト>を召還している間に、駿は第一手札調整で手札を変えようと、カードを選定している。  駿はターンが譲られると、地形・<眺めのいい丘>を捨てて1枚補充した。その顔は歓喜には程遠く、かえってギャラリーのほうが笑っている。それもそのはず、地形を捨ててとったカードが、また地形だったのだから。しかも、手札にはもう1枚、同じ<砦>がはいっていた。  駿はこれ以上なにもせず、ターンを終了する。  真田は考え込む。なぜ攻めてこなかったのだろう。イニシアチブをとられたら負けるからか? たしかに自軍領土にいれば防御力の修正がえられる。だが、それならばJタイガーをさげ、Jクロコダイルをあげるべきだろう。……そうか、先手をとる自信があるということか。それなら納得できるが、さて、こちらはどう攻めるべきか……。  真田の思案は半分当たっている。駿にはイニシアチブをとるための算段があった。だが、よく考えるとそれはあまりよい確率ではない。わずかに有利、という表現が適切だろう。そして当たっていない予測は、駿がタイガーをさげてクロコダイルをあげなかった理由である。これは、単に駿が思いいたらなかっただけで、真田の過大評価、もしくは考えすぎであった。  真田は移動を開始した。インプとワイバーンをC2に行かせ、<ドワーフ王国警備隊>と<クリムゾンソルジャー>を即時召還する。  駿は<ジャングルコンドル>を呼び出し、イニシアチブ修正+3を手に入れた。  またしても――というより、駿のデックも真田のデックも先攻をとることに意味があるものなのだから、ダイス勝負はさけられない。  同時に振ったため、お互いのダイスが衝突し、マットに転がった。 「よし!」  うなったのは駿である。攻撃を命じ、それぞれがそれぞれの武器で襲いかかる。  真田の軍勢は、暴力を受けて黙っていられる平和主義者ではなかった。ドワーフがポケットから一つの卵を取り出し、Jタイガーに投げつける。するとタイガーの攻撃は急速に力を失い、その牙と爪はもろく崩れていく。  だが、勢いはとまらず、ワイバーンを残し、真田軍は敗北した。……と、そのとき、インプは最期を前に“呪そ”をはきかけ、自分をこんな目に合わせたものへ死の贈り物をした。  ジャングルエイプはインプとともに墓場をこえ、闇の奥深くへと消えた。  そして仲間を失ったワイバーンは、悲痛の咆哮をあげ、Jコンドルに踊りかかった。戦いの終結後、砦に残ったのはJタイガーとワイバーンのみで、その翼竜も自分の住みかへと帰っていった。 「ヨーヘイさん、アイテムと魔法を使うのはずるいよ」  真田は少年の言葉に肩をすくめ、苦笑しただけだった。  それ以上なにもできず、4枚の手札を補充してターンを終わる。  それからの6ターンは一進一退が繰り返される。真田はイニシアチブはとるものの、敵の硬さに陣地が奪えず、駿は自軍領土から離れると並の攻撃しかできない。しかもアイテムや魔法を使われるために、どうしてもいま一歩たりなかった。ただ戦場だけは少しずつ拡大し、R2には駿の<砦>が、R3とR4には真田の<妖精の輪>があった。 「R2の砦は占拠できた……。次のターンで終わらせるか」  つぶやく真田だが、実は攻略は難しかった。駿の本陣には<百獣の王>と<エレファント>が陣取っており、まだ3レベルの余裕まであるのだ。こちらはR2の砦にいる<ヒポグリフ>と<レッサーデーモン>、それに手札の即時召還用ユニット。どう見ても分が悪かった。  駿はターンが与えられると、C2にいたジャングルエイプをR2に進軍させた。そして<ジャングルエイプ>と<ジャングルクロコダイル>を即時召還する。  真田はさすがに冷静ではいられなかったが、<グレムリン>と<コボルトライダーズ>を呼び出した。  イニシアチブは+3の修正を持つ真田がとった。攻撃をしてJエイプ2体を倒し、残ったJクロコダイルの反撃を受けてグレムリンとコボルトライダーズがかみ砕かれた。  駿は全滅させられず残念でしかたなかったが、真田としても被害があった。手札に眠る唯一のチャージユニットが死んでしまったのだから。これで本陣攻略はあきらめざるをえなくなった。  駿が召還もせずターン終了を告げると、真田は腕を組みはじめた。手札を捨て、新たなカードをえるか、それともしばらく様子を見るか……。判断がつきがたい状況であった。  結局、真田は即時召還で失った2枚を補充するにとどまった。敵本陣を護る百獣の王とエレファントのコンビが、あまりに強力すぎるからだ。あれを何とか分散させたかった。  真田のC3にいた部隊が、C2の砦に向かった。真田軍<デザートビースト>、<羽虫の群れ>、<クリムゾンソルジャー>は、草野駿の<Jクロコダイル>、<ジャングルタイガー>、<ラー>、<グレイウルフ>とぶつかることになった。  2体目のラーに意表をつかれたが、真田は動揺を見せぬようにダイスを振った。 「ダメだぁ、どうしてもイニシアチブがとれない!」  嘆く駿だが、半分演技が入っている。この勝負は同時攻撃さえおきなければ、駿にそんなに悪い形にはならない。  真田は攻撃を命じた。ギャラリーの中ではなぜデザートビーストを戻さないのか疑問に思うものもいたが、彼にはもう大型ユニットは必要ではなかったのだ。  ともかくラーが発動し、攻撃がおさえられると、真田軍はグレイウルフだけを倒して全滅した。  落胆した真田が、他の部隊の進軍と召還を終えてカードを補充すると、その瞳に得心した輝きが生まれた。しかし、それに気付いたものは一人としていなかったのである。  駿は何となく勝てそうな気分に、心が踊っていた。その手始めとばかりに、R2の砦へ、JクロコダイルとJタイガーに<プレインランナー>が加わったパーティーを送りこんだ。  これでイニシアチブ修正は互角になった。平目勝負だ、と意気ごんでいるところを、真田は<ヒポグリフ>を呼び出し、またも+2の差をつけた。  これで意気消沈したのか、駿のダイス目は1。真田は並の3をだった。  攻撃で、無残に全滅する駿の部隊。言いたくはないが「きたないなぁ」とつい、ぼやきがでてしまう。  少年は不機嫌の表情を隠しもせず、決着をつけるべく、本陣の2体に前進を指令した。  この瞬間、真田は勝利を確信した。  そして、次のターンにその確信は現実となった。                 4  負けはしたものの、駿は60%満足だった。もちろん勝てれば100%爽快であったろうが、この一戦で、戦いかたを学んだだけでも収穫ありだった。  真田は言う。とにかく経験をつむこと。そしてユニットの特徴をきちんと把握すること。これは自分のだけではなく、すべてのユニットのだ。そうすれば相手がそのユニットで戦いを挑んでくる理由がわかり、対応策も導き出せる。君のデックの場合は、護るのか倒すのか、ユニットによってはっきりしているから、まずはそれから知っていくことだ……。 「それにしても、基礎的な戦いかたはきちんと守っていたね。即時召還ユニットの使い方や、隊列配置はしっかり基本どおりだったよ」 「あー、なんかバカにしてるな」 「すまない、そんなつもりじゃないんだ。……ただ、独学でそれだけできれば、そのうち誰とでも互角に戦えるようになるよ」  多分にお世辞が混じっているとしても、駿には勇気の源になりえた。人の心を動かすのは、常に尊敬できる人からのたった一言なのだ。  真田はテーブルの上を片付けると、席をたった。 「今日はこれで帰らなきゃならないんだ。また、対戦しよう」  真田を元気よく見送ると、駿は両手を強くにぎり、自分に気合いを入れた。 「さぁ、勝負!」  この日の駿の戦績は、4勝5敗。うち2つの黒星は、上村と真田につけられたものだ。つまり真田の助言によって改良された新しいデックは、4勝4敗で初日を終わったことになる。それは駿にとって、快挙とも言うべき記録であった。  モンスターコレクション・ノベル  第一章を書き終えて(あとがき)  はじめまして、筆者です。モンスターコレクション(以下MC)が好きで、某週刊マンガの「遊○王」が好きで、ついこのようなものを書いてしまいました。文章は稚拙で、内容にいたっては赤面ものですが、自分の書きたいものが書けるのがアマチュアの強みなので、どうか大目に見てやってください。  さて、このようなゲームを小説やマンガにする場合、普通はその世界観を彩った作品になりますよね? 実際「ドラゴンマガジン」に掲載されていたのは、世界観に則ったファンタジー小説でした。けれど筆者は、MCは「ゲームだから面白い」と思うのです。さまざまな戦略と戦術を研究し、1対1の心理戦を楽しむのが醍醐味ではないかと。そう偏見で決めつけ、さらに「遊○王」のマンガならではやりとりに魅せられ、今回このような形で小説を書きはじめたのです(本当はマンガが一番よい表現ができると思うのですが、筆者にはそっちのレベルが小説のレベルより格段に低いので、こうして恥をかきつつも頑張っているしだいです。どうかご理解のほどを)。この先がどうなるか、筆者自身不安ですが、よろしければご意見・ご感想をお聞かせください。  話は変わって、少々この作品の補足をしておきます。  まずこの作品には正式なタイトルはありません。思いつかないのです。もし単なるファンタジー作品なら、適当なロゴできれいにまとめてしまうところなんですが、何しろ現代ものですから困っています。何かいい案があったら教えてください。  主人公について。今回の主人公は「草野駿」です。第二章では別の人が主人公になります。つまり毎回主人公が変わり、毎回でてくるメンバーも変わるということです。だからといって出番がないわけではなく、視点が変わると思ってください。  ……「草野駿」には、いちおうモデルがありまして、なんと「ガ○ダムX」の「ガ○ード・○ン」です(伏せ字になってない…)。そう意識していたのですが、完成した駿は、かなり違うような気がします。「ガ○ード」のように奔放では、つまはじきにされてしまうだろうから、ちょっとおさえめにしたのがいけなかったのでしょうか。……筆者の力不足です。  とにかく初心者以上・中級者未満のキャラをはじめにだして、作品の雰囲気を知ってほしかったのです。そのため、勝ちたいのに勝てない、その理由がわからない、といった役を演じてもらいました。この先も出演予定ですが、そのときはどうなっているか、実は筆者の頭の片隅にもありません。ちなみに、彼の名前の由来はデックからきています。ジャングルデックゆえに、「草野駿」なのです。  「真田洋平」は、熟練者でサポート役です。この先もでてきては、おせっかいをやくことでしょう。キャラクター的なモデルはなく、はっきり言えば適当です。それだけに成長があるかも知れませんが。  「上村」にいたっては、かませ犬でしょう。中級者の代表でおしまいです。それ以上の発展はありません。  駿の友達、今回は名前だけの「雨宮士郎」は、初期プロットにおいて主人公でした。でもキャラクター性が弱いので、多分あまり目立つことはないでしょう。「士郎」という名前に反して、男らしくないのが唯一の特徴かも知れません。あとはでてきてから考えます。  作品舞台について。時代は1998年5月の下旬、場所は東京・秋葉原。知る人ぞ知る街が舞台です。まぁ、あの街なら何があっても不思議じゃないので、これくらいは許容範囲でしょう。それにともない、ときとして駿の学校や、ヘンなイベントホールなどがでてくる可能性もありますが、架空の出来事なので深く追及しないでください。  デックについて。デックは、すべて筆者が対戦、もしくは観察したことがあるものを登場させています。駿の「ジャングルデック」も、「真田の赤備え」も、参考デックがありました(「真田の赤備え」については、筆者が読んだある小説の中にでてきたもので、史実かどうかの確認はしていません。無責任ですがご許容ください)。また、勝負についても、実際にカードを並べながらやっていますので、まるっきりインチキでもありません。  とにかく矢は放たれました。これから少しずつ、時間をみてはこの新たな作品を大きくしていきたいと思います。お暇があったら、ゲームをしましょう。では、またいずれ。  ps. くれぐれも富士見書房さんに迷惑がかからないようにお願いします。      わたしはまったくそちらとは無関係な人間ですから。                  1998年5月下旬  筆者  これが勝利の鍵だ!……<魔力のスクロール>