
<第四幕>
河上 遅いわねぇ、半ちゃんったら。もう、どうしたのかしら。
岡田 まさか、捕まっちまったわけじゃねぇだろうな?
河上 うそぉ。最悪!!
桂 いやぁ、いくらなんでも半次郎さんも名の知れた人斬りでしょう?
そんなヘマはやらないでしょう。でもまぁ、壬生とバッタリっていうセンはあながち
間違っていないかもしれないですけどね。
河上 そうねぇ・・・まぁ、もう少し待ってみましょうよ、以蔵。
岡田 待つのは好かん。
河上 そう言わずに、ね?そうだわ。ねぇ、桂さん。
桂 何でしょう?
河上 例の計画の進行状況はどうなってるのかしら?
桂 例の計画ですか?それはもう順調ですよ。この美しい京の町並みを火の海と化すんです。
それなりの時間はかかりますがね。まぁ、あと七日もあれば準備はすべて終わるでしょう。
河上 そう。じゃぁ、決行は十日後くらいかしら?
桂 そうですねぇ、それくらいだと思ってくださっていて結構ですよ。
岡田 そんなに先なのか?三日くらいで出来ないのか?
桂 以蔵さん、いくらなんでもそれはムリですよ。七日で精一杯ってところなんですから。
壬生に気づかれずにこの広い京の町中に火薬を仕掛けるとなるとこれが限界なんです。
河上 まぁ、いいじゃない。壬生の狼たちにしたって、余命三日だなんてかわいそうだもの。
せいぜい楽しませてあげましょ。残り少ない命を。
以蔵 そうだな。あいつらの命はあくまで俺たちが握ってるんだ。
あいつらは俺たちに生かされてるってわけだ。そう考えると気分がいい。
河上 でしょ?勝つのは私たち。余裕をもって構えてましょうよ。
岡田 これでやっとあいつらをこの手で殺れる。一人ずつ斬り殺してやる。
想像するだけで身震いしてくるぜ。
河上 いやぁねぇ、以蔵ったら。一人で殺っちゃうつもりじゃないでしょうね?
私にも少しはわけて。そうねぇ、沖田なんかいいかも。
一番隊組長の沖田総司は私に残しておいてちょうだい。
岡田 沖田?あぁ、わかった。その代わり土方には手を出すな。
土方は・・・あいつはこの俺が絶対に息の根を止めてやる。
桂さん、あんたもだ。土方に手を出したら、その場で斬る!!
桂 えぇ、わかってますよ。壬生の始末はすべてあなた方に任せます。
私にはほかにやらなければならないことがありますから。
河上 もう、以蔵ったらこわいわねぇ。まぁ、土方っていったらちょっと見てみたい気もするけど、
以蔵がそこまで言うんなら手は出さないわよ。
岡田 それなら問題ない。
河上 それにしても、桂さんも、随分と思い切ったこと考えたんじゃない?
壬生の狼たちも想像もつかないわよ。京を焼くだなんて。
桂 まぁ、それだけこちらも追い詰められてきているということです。
今まで散々我々の目的達成の邪魔をしてくれた憎い壬生を始末するためには
多少の犠牲もやむをえないでしょう。
河上 多少?京に住む人々の命すべてでも桂さんの中では多少なのかしら?
本当に怖い人ねぇ。でも、「追い詰められている」って言う割には余裕たっぷりって
感じじゃない?まだほかに考えてることがあるんじゃないの?もっと大きなこと。
桂 それはどうでしょう?そうですねぇ、強いて言うなら、余裕が感じられるのは
今回の計画、成功させる自信があるからですよ、きっと。
今回はあなた方という強い味方がいますからね。
河上 まぁ、うまくごまかしたわね。あら?戻ってきたんじゃない?
中村登場
河上 半ちゃん、遅かったんじゃない?
中村 すまん。新撰組の奴らに会っちまったんだ。って、桂さん。いらっしゃってたんですか?
桂 えぇ。
岡田 おい、半次郎。斬ったのか?
中村 いや、大事の前だろ?我慢したさ。でも、ちょっと脅しをかけといたよ。
「あの計画が成功したらお前たちはおしまいだ」ってね。
河上 え?半ちゃんたらそんなこと言っちゃったの?あんた口軽いんじゃない?
中村 あれ?まずった?俺。計画の内容は言ってないじゃん。
河上 かなりまずったわよ。それじゃぁ、警戒が厳しくなっちゃうでしょ?
中村 あ・・・すいません、桂さん。つい口が滑っちゃって。
桂 まぁ、言ってしまったものは仕方がない。今回は大目にみますよ。
でも、今回だけですからね。これからは絶対に口外しないよう、お願いしますよ。
中村 面目ないです。以後気をつけます。ところで、桂さん。今日はどうしたんですか?
もしかして、例の計画、日程が決まったんですか?
桂 いや、それはまだです。半次郎さん、用事がないと来てはいけないですかねぇ?
中村 いえ、あの、そういうつもりでは全然ないんです。もしもお気に触ったようでしたら謝ります。
桂 いいですよ。ちょっとからかっただけです。
河上 半ちゃんはからかいやすいものねぇ。桂さんもお茶目さんよね、意外と。
私、そういう人好きよ。でも、強い人はもっと好き。だから以蔵が一番。桂さんは二番かしら。
桂 それは光栄です。私は以蔵さんの次で十分ですよ。半次郎さんは三番ですか?
河上 半ちゃん?そうねぇ、下から三番目くらいかしら?
中村 なんだよぉ、それ。
河上 嘘嘘。まぁ、桂さんと同じく二番ってとこかしら?
桂 なんと。それは心外ですねぇ。私は半次郎さんと同じですか。
中村 桂さん、ひどいじゃないですかぁ。俺と一緒っていうことのどこが嫌なんですか?
桂 だからからかっているだけですよ。あんまり気にしないでください。まぁ、そろそろ時間も
なくなってきたので、本題に入らせてもらいますね。
以蔵さんと彦斎さんには先ほども言いましたが、決行は十日後を予定しています。
合図代わりに花火を打ち上げ、それと同時に私の配下の者たちが一斉に火薬に点火します。
そうしたら、あなた方の出番です。壬生を始末しちゃってください。
河上 はぁい、質問!!
桂 はい、彦斎さん。
河上 私たちがばっさばっさ壬生の狼どもの始末をしている間、あなたは何をしているのかしら?
まさか高見の見物ってことはないわよねぇ?なにかあるんでしょ?教えてよ。
桂 ・・・彦斎さん。あなたはそこまで知る必要はないんです。
ただ私のいう通りに壬生の始末をしてくれればいいんですよ。
河上 ・・・わかったわよ。そんなに怖い顔しなくてもいいじゃない。
ちょっと言ってみただけなんだから。
桂 そうですか。それはすいませんでした。では、話を戻しましょう。
まぁ、現段階で決まっているのはそこまでです。
詳しいことは、八日後、池田屋で話します。子の刻までには集まってください。
くれぐれも壬生には気づかれないように。特に半次郎さん。
中村 はい。
桂 それでは、私は戻ります。また八日後に会いましょう。
中村 お気をつけて。
河上 ばいばぁい。
桂退場
河上 行ったわね。ねぇ、以蔵。
岡田 何だ?
河上 桂小五郎・・・一体何を考えているのかしら?
中村 あれ?もしかして難しい話?
河上 バカは黙ってて。ねぇ?以蔵?
岡田 さぁな。そんなことは知りたくもないし、知る必要もないだろう。
俺は土方さえ斬れれば何も文句はないさ。
彦斎、お前も下手に深入りしない方がいい。桂は怖い男だ。何を考えてるのかわからない。
邪魔だと思ったらすぐに始末するぞ、あいつは。まぁ、死にたいのなら話は別だが。
河上 いやだ、心配してくれてるの?彦斎うれしい。
まぁ、さっき怒られちゃったことだし、ちょっとやばいのかもね。
でも、そのときは以蔵に守ってもらうから大丈夫。
岡田 バカなこと言うな。自分の身くらい自分で守れ。
河上 まぁ、照れ屋さんなんだから。でも、桂小五郎・・・本当に何を考えているのかしら?
岡田 知らんぞ、俺は。忠告はしたからな。
河上 はぁい。
中村 ・・・あの・・・。
河上 なぁに?
中村 もう終わった?難しい話。
河上 全然難しい話じゃなかったけど、終わったわよ。
中村 あのさぁ、面白い情報があるんだけど、聞きたい?
河上 聞きたくない。
中村 え?なんでなんで?
河上 だって、半ちゃんの情報ってどれもつまんないんだもん。
どうせそれもくだらないことなんでしょ?
中村 違うよ。本当に面白いんだって。
河上 本当なのね?じゃ、言ってみなさいよ。くだらなかったらただじゃおかないから。
中村 うん。新撰組の奴らとばったり会っちゃって、逃げてたときのことなんだけど・・・
河上 あんた、逃げてきたの?情けないわね。
中村 うるさいな。とにかく、そのときに変な女に会ったんだ。なんか見たこともない服着てて、
まぁ、言葉は通じたんだけど、よくわかんないこと言っててさぁ。
河上 なんて?
中村 え?・・・え〜っと・・・あれ?なんだったっけ?・・・忘れちゃった。へへへ。
岡田・河上 ・・・・・。
河上 はぁ。行きましょ、以蔵。
岡田 そうだな。
中村 え?なんで?面白くない?
河上 つまらない!!聞いて損したわ。もうあきれてものも言えないわよ。
ばいばい、半ちゃん。言っとくけど、ついてこないでね。
岡田、河上退場
その姿を悲しげに見つめる中村
中村 ひどいよ。ひどすぎるよ。いつも俺だけ仲間外れにしやがって。
でも、俺は負けないぞ!!こんなことでくじけてたら友達は出来ないんだ。
そうだ!!心をこめて接していれば、きっと二人ともいつか俺の魅力に気づいてくれるさ。
頑張るんだ!!中村半次郎!!出来る!!俺には出来るぞ!!
よくわからない笑い声をあげながら中村退場
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