ゆずり葉       河井 酔茗    

子供たちよ
これは譲り葉の木です。
この譲り葉は
新しい葉が出来ると
入り代ってふるい葉が落ちてしまうのです。

こんなに厚い葉
こんなに大きい葉でも
新しい葉が出来ると無造作に落ちる
新しい葉にいのちを譲って――。

子供たちよ
お前たちは何を欲しがらないでも
凡てのものがお前たちに譲られるのです。
太陽の廻るかぎり
譲られるものは絶えません。

輝ける大都会も
そっくりお前たちが譲り受けるのです。
読みきれないほどの書物も
みんなお前たちの手に受取るのです。
幸福なる子供たちよ
お前たちの手はまだ小さいけれど――。

世のお父さん、お母さんたちは
何一つ持ってゆかない。
みんなお前たちに譲ってゆくために
いのちあるもの、よいもの、美しいものを、
一生懸命に造っています。

今、お前たちは気が附かないけれど
ひとりでにいのちは延びる。
鳥のようにうたい、花のように笑っている間に
気が附いてきます。

そしたら子供たちよ、
もう一度譲り葉の木の下に立って
譲り葉を見る時が来るでしょう。
河井 酔茗(かわい すいめい)
              本名 又平(またへい)
明治7〜昭和40(1874〜1965)
詩人。大阪府堺市に生まれた。
早く『文庫』の詩欄の選者となり、
いわゆる文庫派詩人を育成し、
口語詩の発展につくした。
おもな詩集に『無弦弓』『塔影』『霧』
などがある。
          ゆずり葉の木
トウダイグサ科の常緑高木。
葉は丸みがあってつやがあり、
葉柄は長めで赤みを帯びている。
形のいいりっぱな葉で、正月の
飾り物に用いられる。新しい葉が
出るのと交代に古い葉が落ちる
ので、この名がある。
※お断り

←旧仮名づかいの部分は、現代仮名づかい
にしてあります。
←↑ 以上は、

ジュニア版
近代の詩〔一〕
目で見る日本の詩歌E


監修―井上 靖・山本 健吉
著者―渋沢 孝輔 
 
   より、抜粋。
   
   ゆずり葉
「ユズリハ」…広島県緑化センタ−で…’03.1.25 撮影 
写真は、
「広島植物公園」と
「広島県立緑化公園」で
撮影したものです。