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幻想カトリ戦記−蟲王国の陰謀−



彼の名は、カトリ。渦巻カトリ(16)。普段はごくフツーな高校生だが、毎年、ある季節が来ると、彼は人前から姿を消し、ある任務へと向かう。

 彼には知られざる使命があったのだ。秘められた古えの知恵と力で、人々の平和を守らねばならない。彼の戦うべき相手とは、超古代よりこの世界に棲息する、恐るべき悪魔―――

 蚊だった。

 遥か恐竜繁栄の時代より地上にあり、闇世界を支配する危険な蟲! 奴らは、生命の歴史とともに、進化を繰り返しながら何千年という悠久の時を息づいて来た生命体だ。にもかかわらず、奴らの全てを知ることは、いまだもって不可能。しかも、生き物の体内を流れる命の源を貪り吸うのみならず、そのさい、自らが媒体となって日本脳炎やエボラ熱といった死の病までも媒介するという、究極の敵なのだ!

 目に見える敵ならば良い。だが、蚊とは、見えるようでいて見えない存在。明かりを消せば、その闇に乗じて人の耳元に滑り込み、昼間の疲れを癒すため心地よい惰眠を貪る人間たちの無防備な首筋に空中よりテロを仕掛け、容赦なく食らいつき、幸せのひと時を一瞬にして地獄に陥れるという!

 許すまじ、「蚊」!

 奴らを撲滅するためなら、いかなる手段を用いても許される。それが、神よりカトリに与えられた絶対の権限であった。蚊との戦いのためならば、たとえ河川の生態系が変わって罪もない小魚等が絶滅しようとも、燻蒸のため建物から追い出されようとも、人々は、涙を呑んで許すだろう。
 我らの平和な夏の眠りを守るために多少の犠牲はやむを得ない。奴らは、決して生かしておいてはならない存在なのだ。

 蚊とはいえど、かの不浄なる存在に、蚊トンボほどの命の価値も認めてはならない。カインによるアベル殺しの時代より、呪われし血を煤って生きて来た奴らには、明るい日差しの中よりも、地の底で永遠に続く責め苦こそが相応しいのだッ!

 奴らは人類の天敵だ。人間、人生の約半分は眠って暮らすもの。その眠りを襲う無差別テロリスト・蚊を退治できずして、一体何のための文明か?!

 黙って耐えるなど、知恵もつ人には相応しくない。だが、世界は蟲王国の支配下にある。表立って反乱を企てれば、即、尖兵たちの攻撃に遭うだろう。蟲魔王の手先には、ゴキブリ、ハエといったおなじみの雑兵の他、特攻を仕掛けるカナブン傭兵、回天魚雷を体内に仕込んだハチといった、恐るべき種族が存在する。奴らの襲撃を受ければ、ひとたまりもない。飛行機一機を落とすには、エンジンに飛び込むイナゴ一匹で十分なのだ!

 そう、これは、隠されし戦い。歴史の裏で、多くの人間は、自分達が蟲王国の支配を受けていることすら気付かずに暮らしてきた。蟲魔王のおそるべき洗脳によって、穀物が荒らされるのも、ガの襲撃で肝を冷やすのも、クモの巣にひっかかるのも、夏の暑さに相乗するセミの声に耐えねぱならんのも、すべて仕方のないことだと思い込んでいる…そう、すべては、蟲王国によって苦労に慣らされてしまったがために…!

 だが、一部の強靭な精神力を持つ人々だけが、その洗脳攻撃に耐え、反乱の芽を育ててきた。運命は変えられるものだと信じて。

 かくして極秘裏に研究が重ねられ、彼は生み出された。―――渦巻カトリ。そう、彼こそは、人類文明の頂点として、全世界の科学者が生み出した究極蚊取り改造人間、蚊バスター01なのだ!
 彼こそは人々の希望。
 全ての可能性を秘めて生まれて来た、新人類。

 闇の中でも見える目には、素早い動きで隙を狙う蚊どもの動きを追う驚異の動体視力搭載! また、視覚情報から入った情報を素早く伝達するため、脳内回路は常にフル稼働、敵を発見次第、正確無比な動きで急所を打ち、仕留める高性能グリップハンド! さらに、体には蚊の侵略を寄せ付けない成分を分泌する生態バリアが常にフル展開!

 いかなる蚊も寄せ付けず、屋外キャンプなど対多数の長期戦においても驚くべき性能を発揮し、なおかつ機動力もバツグン。戦場においては、冷徹無比なるコマンドーだが、人類にとっては心強き夏の守護者。

 渦巻カトリ。

 彼を筆頭に、人類よ、今こそ立ち上がる時だ。

 ご近所のドブ川に水を流せ。打ち捨てられたドラム缶の底に溜まった水をさらえ。ありとあらゆる場所をくまなく探し、敵の出城を殲滅せよ。反乱の萌芽を摘み取るのだ!
 我らが眠りを妨げる、すべての愚かなる蚊どもに天罰を!  蟲王国の侵略から、夏の暮らしを守るのだ! 蚊、撲滅! 我々の手で、我らの安眠を取り戻すのだ!


 ―――こうして、人類と蚊との戦いの幕は切って落とされた。
 遥か古えより続く蚊取り戦争の行方は…そして、満身創痍の人類に、勝利への道は開けるのか?!


 次回、究極の敵、蚊大魔王登場! 敵の本拠地、蟲神殿へとなだれ込んだカトリたちが見たものは…?! 乞うご期待! (※第2話は、来年の夏に登場です、なんちゃって。)




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