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冬休み特大号〜アルバイター戦記・20世紀最終章…そして伝説へ〜




 冬季特殊任務…別名「短期アルバイト」、無事終了。
 過酷な勤務時間とその労働条件がゆえにミッション・インポッシブルとまで言われた魔の10日間を無事生き抜いた精鋭たち。彼らの表情には今、疲労と、飢えと、「やべぇ、レポート書いてねぇ」という絶望の色だけが残されていた…。

 時は200X年。

 新たな時代とともに、飽くことなき戦いの日々が今、再び始まろうとしていた。



  第一部 極秘指令〜戦場のメリークリスマス〜 


 ――――始まりは特殊国家公務員…通称「YU−mate」による簡略型極秘文書、一般的に「年賀はがき」と呼ばれているものの分別作業だった。
 そこは、聖夜の鐘を聞くこともなく、人々の上に降り注ぐ祝福の淡い光とて無縁の生き地獄。深夜勤務という条件下、乾ききったホコリ舞う戦場に積み上げられた何千何万という葉書の仕分けは、想像を絶する体力と精神力の限界に挑む魔の空間と化した。

 真に恐ろしき内敵、すなわち睡魔との戦いに、一人、また一人と帰らぬ眠りの淵に落ちてゆく。臨時救護室と化した喫煙ルームには青ざめた顔をして横たわる負傷兵たち。その傍らを、容赦なくベルトコンベアに運ばれていく膨大な文書。誰もが言葉を失い、わずかな休息の時に甘味料等で疲れを癒した。
 戦いの日々の中で友情が生まれ、我々は、共同で「こっそりサボってみよう」作戦を遂行した。今考えれば、危険極まりない決死の作戦。しかし、我々はそこまで追い詰められていたのだろう。

 時に達筆すぎて読まれないくずし字暗号文で書された地名を解読し、時に番号間違いで転送された葉書に正しい番号をふり直し、時に目詰まりを起こしたマシンをなだめすかしながら、我々の部隊は少しずつ、だが確実に敵を殲滅していった。それは、あまりにも辛く、険しく、一言では言い表せない暗黒の時代であったかもしれない。

 ――――そして奈良県内の郵便番号と主な地名を覚え尽くすころ、任期は終わり、我々の部隊は解散した。
 しかし、これで戦争が終わったわけではない。不景気の世の中、貧乏学士に選択の余地などない。兵士たちは各々、次なる戦場へ向けて…再会を誓いあい、必ず生きて帰ろうと約束しながら散っていったのだった。



  第二部 新世紀ソバんゲリオン〜誰がために除夜の鐘はなる〜


 あの部隊に配属された時から、私は覚悟を決めていた。
 将校(正社員)の誰もが過労に倒れた経験を持ち、新入りの臨時兵(バイト)が次々と辞めていくという伝説の戦場。場所は東向き商店街の…、いや、これ以上は止めておこう。兎に角、そこは古参の兵士たちでさえ恐れをなし、生き残りをかけて死に物狂いで戦わねばならぬ前線の中でも激戦区なのだった。

 我々に与えられた任務は、年末年始の一定期間、敵の攻撃が最も激しくなるその期間を交代で砦を守りぬけとのもの。だが、最初から無理は覚悟だった。人手も、物資も足りない。本国からの救援は途絶えて久しい。我々が送り込まれた砦は、もはや死にゆく陸の孤島なのだった。
 それでも、黙って命をくれてやるわけにはいかない。
 私は覚悟して時を待った。そして…予想を越えた猛攻撃は、ある瞬間から突然に始まったのだった!

 恐るべき人海戦術を前に、我々の部隊は連日ひどい苦戦を強いられていた。一歩店内に入れば、酒気帯びの客たちが次々と追加注文を繰り返し、一歩通りへ出れば身を切るような寒風が体を貫くデッドゾーン。
 出前岡持ちを持つ手さえままならず、右も左も分からず初もうでの人ごみに放り出された当日限りの新入り兵は、人海の中で帰還不能となってしまったほど。絶望とも思われた2時間半ののち、彼が闇空の中から奇跡的な生還を遂げた影には、マスターの愛犬「ロリィ」による救出があったからと言われている。

 それにしても、敵は一体、どこから沸いてくるのか…。
 果てしなき戦い。夜は更け、明け方近くなっても攻撃の手は緩むことなく、もはや誰もが体力に限界を感じていた。そばオケの回転が間に合わず、料理長自ら年越しソバを手にして前線で戦った。古傷の痛む店主は除夜の鐘を聞くことなく後退。古参兵たちさえ、次々と倒れてゆく。

 ここで諦めてはいけない。

 夜明けは、夜明けは必ずやってくる。そう信じて、僅かな者だけが戦いつづけた。
 気が付けば、町は静まり、ようやく平原(奈良公園)にも、普段どおりの気配が戻りつつあった。

 早朝5時…。
 疲れきった兵士たちの顔には、もはや初日の出を拝もうという気力さえなく、一刻も早く故郷へ帰りたいという切実な願いだけが表れていた。
  戦いは無意味ではないが、あまりにも空しい。我々は、一体何のために戦ったのか。人は、何度でも同じ過ちを繰り返す生き物だ。来年も、再来年も、またその次も…お正月が来るたびに、多くの若い命が、この戦場に呑まれていくことだろう。
 私は元凶である砦を破壊したい衝動にさえかられたが、給料袋を前にしては、そのようなことは言い出せなかった。

 そして、今日。
 進級によるスケジュール過密を理由に除隊願いが受理された私は、ようやく故郷へ帰る。待ち望んでいた安息の日々の到来に、残り少ない冬休みを思いつつ、ほんの少しだけ暖かくなった懐を抱いて…。


〜完〜



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