■23


 朝靄が草原を覆う中を、草の上に降りた霜を蹴立てるようにして走る二頭の馬。それから少し遅れて、数十頭の馬が同じ方向を目指して駆けている。ユッドは太陽の輝きを避けるように頭上に手を翳し、丘の上に見え始めたリオネス砦を見上げた。ルーヴァ川のせせらぎの音が耳に届き始める。
 馬の速度を緩めると、後ろの隊を率いていたラーメドが追いついてきた。
 「司令に報告に行く。一緒に来い」
 「わかりました」
ユッドは、後ろをついてくるリュカのほうを振り返った。以前のように、砦についたら一度別れて森へ戻るのかと思っていたが、そうはしないようだ。
 馬が近づいていくと、砦の入り口で見張りに立っていた留守番の若い兵士たちの中から、慌てて数人が砦の奥へ駆け出していく。
 「俺らが戻って来たことは、先に知らせておいてくれるらしい。手間が省けるな」
ラーメドは安堵したような表情になっている。不在の間も問題なく砦の警戒網が機能していたこと、不在の間に襲撃は無かったことが確認できたからだ。
 馬に乗ったまま砦の入り口を駆け抜ける。ほとんどの兵士が出払ってしまった砦の中は、いつもより静かだ。
 「ラーメド!」
まとめ役として砦の居残りだったカリムが、通路に飛び出してくる。「巧く行ったか?」
 「ああ。敵の拠点は落としてきた。ただ、気になることがあってな。…引き続き、警戒は頼んだぞ」
馬を降りて、司令塔のある丘の道を歩き始める。厩もほぼ空っぽで、この時間でも広場で訓練している兵士の姿はない。戦える者のほとんどが今回の作戦のために遠征に加わり、残りは、いつも通り斥候に出ているのだ。あとは、厩番や食事係など、非戦闘員ばかり。
 司令室に入っていくと、先に期間の報を受けていたフレイザーが待ち構えていた。
 「どうだった」
 「奇襲は成功だ。こちらの被害はほぼなし。幼体を含む竜人族、百二十ほど。それに司令官らしき奴も倒した」
 「百二十…」
フレイザーの顔が強張る。 
 「幼体は成長していれば強力な敵の手ごまになっていた。手を出すのが遅れていれば、それだけ勝機は失われていたはずだ。ギリギリの時期だった」
 「そうか。…だがこれで、奴等の有力な攻撃拠点は失われたわけだな?」
 「そのはずですがね。どうにも手ごたえがなさすぎる」ラーメドの視線が、後ろをついてきたユッドのほうに向けられる。「お前たちが見たという、武器商人と行動を共にしていた竜人はあそこには居なかったんだな?」 
 「ええ、違いました」
あのあと念入りに、竜人族の死体を確認したのだ。どこにも死体は無かった。
 「気になることは、もう一つあります。竜人族の拠点に保管されていた武器が少なすぎるんです。レスカトーレの町の備蓄から奪った分だけだったとしても…。」
 「人間の人質が二百人ほどいた」
ラーメドが付け加える。
 「そいつらが作らされていた防御壁らしきものはまだ、作りかけだった。あそこは、新しく作られる途中だった未完成の拠点かもしれん」
 「だとすると――」フレイザーがあごに指を当てた。「もっと西方のどこかに、完成された拠点がある、ということか」
 「おそらくは。ただ、場所の見当がつかない」
 「出来るかどうかはわかりませんが、探ってみようと思います」
リュカが言った。全員の視線が、彼に向けられる。
 「出来るのか? そんなことが」
 「地下水脈で領界が繋がっていれば、近くに妖精族には判るはずです。ただ、竜人族は妖精族の領界も襲って破壊しています。生き残っている者がいるかどうかは…。」
 「確実とは言えない、ってことだな」
ラーメドは自分の、癖のある髪の毛をぐしゃぐしゃとかき回すと、ひとつ息をついた。
 「ま、詳しい報告はあとでユッドに聞いてくれ。俺はちょいと砦の見回りにいってくる」
 「いま戻って来たばかりなのにか?」フレイザーは苦笑している。「ラーメド。せめてもう少し、自分を大切にしてくれ。お前は主戦力だ。何かあったら取り返しがつかない」
 「なぁに、俺なんざ居なくなったって心配要りませんよ。若い連中も育ってきてる。いつまでも古参が先頭に立ってちゃあな」
 「しかし…」
 「失礼します」
ドアが開いて、ウェインが入口で一礼して大股に部屋の真ん中まで歩いて来た
 「商人ギルドからの使者が。その…」ちらりとユッドのほうを振り返る。「面会相手として、ユッド・クレストフォーレスを指名しています。宜しいでしょうか」
 「…オレ? 何で」
 「面識があると言っていたが。ベース・ブラウドという人だ」
 「!」
ユッドとリュカは、顔を見合わせた。レスカトーレで出会った、あの男だ。確かに、グロッサリアでの仕事が終わったらルナリアにも行く、と言っていたが。
 「えっと…こっちの話を聞いてくるので、報告はやっぱり、ラーメドさんが」
 「えぇ? ったく、しょうがねぇな」
渋々部屋の中にとどまるラーメドに、フレイザーは苦笑しながらもどこかほっとした様子だった。常に気が張り詰めているようで、危険な時でも自分が先陣を切って突っ込んでいこうとするラーメドは、どこか危うくも見えるのだ。せめて、他の人間を頼ろうとしてくれれば。


 面会の相手は、司令棟の奥の事務室に待っていた。商人にしては鍛え上げられた体に、白いものが少しばかり混じる赤っぽい髪。ユッドが入っていくと、男は立ち上がって目尻に皺を寄せた。
 「よお、お前たち! 元気そうだなあ」
 「お久し振りです。どうしたんですか? わざわざ砦まで訪ねてくるなんて」
 「なあに、丁度近くのロンフェって町で仕事をしたついででな。リオネス砦の連中がグロッサリアの遠征から帰って来た来た噂を聞いて来てみたんだ」
帰りついたのは、ほんのつい先ほど。国境を通過したことを噂で聞き知って、そこから帰還の日時を推測したのだろうか。それにしても待ち構えていたかのようなタイミングで、この男はどこかから見ていたのかと思いたくもなる。
 「そっちの遠征は、うまいこといったようだな。レスカトーレは? 奪還されたのか」
 「一応は。ただ、倒した竜人の数が、想定したより少なかった。多分、ほかにも竜人族の拠点がある。あと幾つあるのかは分からないし、そもそも本拠地がどこにあるのか――竜人族の"女王"の居場所も掴めていないんですよ。」
 「ソルナレイク」
 「え?」
 「ソルナレイクだ、おそらくな。まぁ座れ。今日は、その話をしにきたんだ」
言われている内容を理解するのに、数秒かかった。それから、ユッドとリュカは静かに椅子に腰を下ろす。自然と声は低くなっていた。
 「何か掴んだんですか」
 「竜人族と取引していた連中が吐いた。表には出ちゃいないが、商人ギルドの中でも、これ以上の竜人族の勢力拡大は商売の妨げにしかならんと問題になりはじめてな。ただし、そいつらも全て知らされてるわけではないようだった。もしかしたら、お前たちが既に突き止めていることかもしれないが」
 「構いません、何でもいいんです。知っていることを教えてください」
 「"女王"ギメルというのは、母親が人間だったそうだ」
数秒の沈黙。ベースはそれとなくユッドたちの表情を眺め、その言葉が真実として受け入れられたことを確かめた。
 「もう知ってた、という顔だな」
 「そうだろうとは…でも、ベースさんはどこでそれを知ったんです」
 「さっき言った、竜人族と取引していた連中からだ。本人がそう言ったらしい。交易都市ソルナレイクの藩主が、竜人族との同盟を結ぶため、一族の娘を人質として差し出したんだそうだ。その娘と竜人族の一部族の長との間に生まれたのがギメル。ただし竜人族は卵生だ。人間の子が胎内で成長するように、竜人族の子は人間の母の胎内に卵として宿り、誕生の瞬間に母親の腹ごと卵の殻を食い破る。子の誕生は、母体の死を意味する。だが、そうして生まれてきた竜人は、人間とよく似た見た目で高い知能を持ち、竜人族の怪力も併せ持つ生き物となる。…だそうだ」
 「信じたんですか、それを」
 「信じるしかなかった。それに今のお前たちの顔を見れば、それが真実だとわかる」
ふっ、と息を継いで、男は口元に皮肉めいた笑みを浮かべた。
 「竜人族が人間のような行動をとり始めた理由がそれだとしたら、わしらはまさに自分で自分の首を絞めちまったようなもんだ。竜人族に人間の血も知恵も与えて、強力な敵として育て上げたんだからな」
 「分からないな…」
小さな声でリュカが呟いた。
 「人間との間に生まれたのなら、なぜギメルは人間を滅ぼそうとし始めたんだろう? 自分も、半分は人間なのに」
 「母を見捨てた人間という種族を恨んでいたのか。或いは、人間に成り代わろうと考えたのか。…そこは人間の感情じゃ推し量れねえな。確かなことは、ギメルは数十年も前には既に王国を築く意志を持っていたということだ。そのために人間を利用した。今のこの急進は、人間はもはや用済みだと見なされるようになったからだろう。…ギメルが王国の"首都"に選んだのは、ソルナレシクだそうだ。母親の故郷。かつて東方と西方を繋ぐ交易で栄えた、ソルナレイク藩主国の中心」
 そこは、竜人族の躍進が始まったとき、最初に陥落した国だった。もう二十年以上、人間は住んでおらず、今では地図にも載っていない。ルナリアからはずっと南へ街道を下っていった先にある、とだけユッドは知っていた。
 「――ま、大した情報じゃなかっただろうが。これは、竜人族と人間と、どちらかが生き残り、どちらかが滅びるしかない戦いだと思う」
別れ際、ベースはそう言ってた。
 「いえ。これは妖精族の将来にも関わることです」
と、リュカ。「今まで、人間とはそれなりに協力し合うことが出来た。でも、あの竜人族とは共存することが出来ない。」
 「あんたに会う前は、妖精族ってのは、もっととっつきにくい奴らかと思っていたんだがなあ」
笑いながら、男は意味深な光を宿した目でリュカを見た。「あんたの両親は、ギメルのように不幸な子は産まなかったわけだ」
 「当然です」
済ました顔で言って、リュカはちらと背後に視線をやった。
 「また情報が手に入ったら、伝えに来る」
真顔に戻りながら、ベースは言った。「…情報の収集は商人ギルドの得意技だ。あんたらには勝利して貰う必要がある。わしら商売人が、商売の前に生き残るためにもな」
 数人の供とともに砦を去っていく男の馬を見送りながら、ユッドは、ベースの言い残していった言葉の意味を考えていた。
 商人ギルド――ルナリアを含む、このあたりの国々の間に深く根を張る商人たちの情報と物流の網。国王でさえ迂闊に手を出せない強力な組織のはずだ。その組織が味方についてくれたという心強さよりも、不安のほうが上回った。
 ベースの言葉から、はっきりと判ってしまったからだ。…取引していたはずの商人ギルドの情報をもってしても、今の竜人族の戦力の全容は分からないのだということが。


 砦の中の静けさが妙に気になった。
 戦力の半分以上がグロッサリアへの遠征に参加しているせいもあるのだが、それ以上に、この一ヶ月以上、マリッドが焼き払われて以降、一度もこの近くで竜人族との戦闘が起きていないことが不気味に思えた。ユッドが砦に赴任した頃は、小規模な戦闘も、斥候との遭遇もそれなりに起きていたはずなのだ。
 リュカと別れて丘の上の司令塔に戻ろうと広場を通り過ぎようとしたとき、ユッドは、そこで居残りの新兵たちを集めて何か指導しているラーメドの姿を見つけた。フレイザーとの会話では、それほど長くは引き止められなかったらしい。それにしても、行軍と戦闘までこなしたあとだというのに少しも休まずに次の仕事に取り掛かっている。
 (疲れてないわけじゃないはずなのにな、あの人も)
けれど、じっとしていられなくて動き回りたい気分なのはユッドも同じだ。何かが引っ掛かっている。何かの予感。これから始まる「何か」が、この日常を決定的に変えてしまうという気がする。――残された時間はもう、それほど多くは無い。
 「お父さん」
去りかけたとき、エリンが、木箱を抱えてラーメドたちのほうに駆け寄っていくのが見えた。
 「何だエリン、その箱。医療班のじゃないか。給仕係が何してる」
 「怪我人が出たときの手当ての係が足りないっていうから、ちょっと勉強させてもらってたの。医療班なら、前線に一緒についていけるんでしょ? 炊事も出来る医療班よ。便利でしょ」
ラーメドの表情が、はっきりと判るほどに強張った。
 「やめろ」
 「どうしてよ。あたしだって、皆の役に立ちたいの。いつも留守番ばっかりで、あたし――」
 「止めろと言っている。俺は、お前を戦場に送るために引き取ったんじゃないぞ!」
怒鳴りつける声が響き渡り、しん、と一瞬の静寂が落ちる。エリンの大きく見開いた瞳から、ややあって、大粒の涙が零れ落ちる。はっとして、ラーメドは自分でも声を荒げすぎたことに気づいた顔になった。
 「…エリン、あのな」
 「もういい」
抱えていた木箱を地面に投げ落とし、彼女は、片手で涙を拭い取った。
 「いつだってそう。何も話してくれない。怒るばっかりで話も聞いてくれない。近くにいても、ずっと遠いまま。どうしてあたしを養女になんかしたのよ? ただ哀れむだけだったら、孤児院に入れてくれたほうがよかったのに」
 「違うんだ、俺はただ――」
 「大嫌い」
スカートを翻すと、エリンはユッドのいるほうに向かって駆け出した。顔も上げずに彼とすれ違う。呆然としたまま、ラーメドは、まだその場から動けないでいる。
 硬直したままのラーメドの表情と、エリンの後姿とを見比べたユッドは、とっさにエリンの後を追って駆け出した。
 「エリン!」
声は聞こえているのか、いないのか、彼女は全く速度を緩めようともしなかった。人にぶつかりそうになりながら、わき目も降らずに走り続けている。行く手には砦の端、ルーヴァ川が横たわっている。それ以上走ることが出来ず、彼女はしぶしぶと足を止めた。ようやく追いついたユッドのほうも、息が弾んでいる。
 「エリン、待てって」
 「ついてこないで」
 「聞けよ。ラーメドさんは別に、エリンが嫌いだとか、邪魔だとかであんなこと言ってるんじゃなくて…」
 「知ってるわよ!」
振り返るなり、彼女は両手で力いっぱいユッドを突き飛ばした。両目には、涙が一杯に貯まってている。
 「見くびらないでよ! あたしだってもう子供じゃないもの。分かってるわよ、そんなこと!」
呆気に取られているユッドに向かって、彼女は次々と言葉を浴びせる。
 「引き取られてから、たくさん気を遣ってくれた。お金もちゃんと送ってくれた! いい学校に入れて、不自由なく暮らせるようにしてくれた。少しくらい恩返しがしたかったのよ! でも、何も返せなかった。あたしがあげるものなんか、ぜんぶ要らないものなの。口では感謝してるけど…分かっちゃうのよ。どんなに気を遣って貰っても、どんなに…大事にされても…ーお父さんにとって本当に欲しいものは、絶対に手に入らないんだって…あたしは、その代わりでしかないんだってこと…」
声が力を失っていく。涙の粒が一つ零れ落ちる。
 「…あたしは、誰かの代わりなの。あたしじゃあ、どう頑張ったって、お父さんの胸にあいた穴は埋められない…」
胸に溜め込まれていた思い。気づかずにいられれば、どれほど幸せだっただろう。すすり上げながら両手で涙を拭うエリンを前に、ユッドは、かけてやれる言葉もなかった。
 ラーメドにとってエリンは、大事な養女には違いない。けれど同時に、手に入れることの出来なかった家族との平穏な暮らしの代わりを無意識に求めてしまった結果でもある。
 そして、彼女が"代わり"には決してなれないことは、事実なのだ。
 「死んでしまった人の代わりになることは、誰にも出来ないよ…。エリンはエリンだ。ラーメドさんにとっては、君が平和に、幸せに生きてくれることが一番の恩返しになるんだと思う。」
エリンは、泣きはらした目で気丈にユッドを睨みつける。
 「ってことは、君は前から知ってたのね? お父さんが、何を隠してるのか」
 「前からでもないし、知ってたわけじゃない。気がついただけだ」
 「どうして言ってくれなかったのよ!」
殴りかかろうと振り上げた手を避けようとした弾みで体がぶつかり、ユッドが抱きとめるような形になっていた。彼は無意識に、その体を抱き寄せた。しゃくりあげる振動がゆっくりと、静まってゆく。やがて彼女は、ぽつりと言った。
 「みんな嘘つきで身勝手よ。お父さんも、君も…」
 「そうだな」
 「どうせまた、あたしを置いて皆いなくなるんだわ。」
 「オレは死なないって。ちゃんと戻ってきただろ? そっちこそ、約束守ってくれるんだろうな。」
 「あれは、約束じゃなくて希望じゃなかったの?」
ユッドの腕から身を引き剥がしながら、エリンは涙を拭って、少し笑って見せる。
 「落ち着いたか?」
 「うん、ありがと。ごめんね」
見ていると吸い込まれそうになる大きな瞳。最初に出会った時から、ずっとこの眼差しが心のどこかにあった。何故なのかは、ずっと判らなかった。けれど今、ようやくその理由が判ったような気がした。
 惹かれていたのは、決して折れない強さ。どんな状況でも、自分以外の誰かのことを考えていられる優しさ。その眼差しの先にいたかった。ラーメドではなく、自分なら。
 「エリン、オレは…」
言いかけた、その時だった。
 けたたましい鐘の音が鳴り響き、見張り台のほうで叫び声が上がった。
 「敵襲! 敵襲!」
 「えっ?!」
 「敵…?! 一体どこから」
振り返った時、ユッドは信じられないものを目にしていた。体中の毛が逆立つような、ぞくりとする感覚。目の前のルーヴァ川に、上流から小船がいくつも川を下ってくる。その舟から棹が伸び、方向が変わった。岸に近づいて来ようとしている。
 「…エリン、下れ」
低いユッドの声に、彼女もようやく、何が起きているのかに気づく。
 「あ、…」
喉が枯れて、悲鳴も出てこない。
 ユッドは剣を抜き、エリンを背中に庇いながらゆっくりとあとすさった。
 斧を手にした小柄な竜人が一体、赤々と燃え盛る眼をして舟から上陸してくる。人間に似た顔。身体に身につけた防具。その後ろには、さらに同じような姿の竜人たちが次々と、水しぶきを上げて舟から飛び降りてくる。
 「ブォオオオッ!」
仲間たちを奮い立たせる突撃の雄たけび。答えるように、砦の反対側からも竜人の声が二重、三重に響き渡る。
 完全に包囲されている。ユッドは奥歯を噛み締めた。 
 手薄な隙をついて襲撃してくるかもしれない、という予想は、当たっていたのだ。その意味では相手の手の内は読めていた――読めていなかったのは、攻め寄せる敵の数が、グロッサリアの拠点を遥かに上回る数だということだけで。


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