レ ノ ス ウ ィ ー ド


はじまりの歌
偉大なる王アリエンの歌
カッコウの歌
竜殺しの王スヴァンの歌
ホトトギスの歌
兄弟殺しのニースルの歌
コマドリの歌
彷徨い人ヴィヴィアンの歌
リアンノンの小鳥の歌


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き未亡人、ニースルの王妃は
ひとり深く打ち沈んでいた
そのかんばせは萎れた花のよう、けれどいまだ美しさは春の盛り
王は世継ぎを残していた
王妃は密かに身ごもっていた
男の子とも知れず 女の子とも知れず。

王の跡目を伺って
諸侯は醜く争い始めた
喪もあけよらぬ頃合から
王妃の前には求婚者が列を成す。
彼女は困り果て 霧の森の賢者に相談した
国の果て 黒々と広がる
古き時代の魔性の森の長に

すぐさま彼はフクロウに身を変え
霧とともに宮廷の広間に現れた。

争い罵り合う求婚者たちを前にして
老人は一振りの剣を差し出す
それは遠き昔 偉大なる王アリエンが
異界の女王より賜りし剣。

賢者は剣を 深々と りんごの大樹に突き立てる
それは遠き昔 金髪のスヴァンが
竜を倒し呪われた土地を解き放った証

彼はこう云った

 りんごの木より剣を抜き放て
 それが出来た者が 誰であれ
 このローグルの国の王となる。

かくて求婚者たちは次々と
この難題に挑戦した
されどただの一人とて
老人の手によるその剣を
幹から抜き去ることは出来なかった。


王妃はそのうち月満ちて
人知れず赤子を産み落とす
それは玉のような男の子
ローグルの世継ぎとなるべき王子。

人に知れるを恐れた王妃は、
ひそかに賢者を呼び寄せて
腕輪とその子を託して預けた、
いつの日か立派に成長し
我が元へ戻ることを望みつつ。

無垢な赤子は霧の森へ
湖のほとりで育てられ
やがて大きく成長する
姿美しく、力は強く。

ただ一つ汚れを知らなかった
人の心のいずれにも宿る
偽りや嘘というものを

あるとき王子は森で出会う
奇妙な格好をした一団に
彼らは流離う旅芸人
とんぼ返りや 歌や踊り
王子はすっかり魅了され
一人の道化と親しくなった。

少年の腕に光る腕輪に目を留めて
強欲な道化は少年に囁く
その腕輪を贈ってくれと

欲の無い少年は
楽しませた礼にとそれを手放し
道化は腕輪を手に入れて
意気揚々と一路 城へ
そこで芸を披露して
高貴な人々を楽しませ
宿と飯とにありつくために。

さても悲しき王妃は打ち沈み
いまだ絶えぬ求婚者に煩わされていた
気晴らしにと呼び寄せた旅芸人
その中の道化の腕に光るはまごうことなき
愛しき我が子に与えた腕輪
王妃は悲しみ卒倒し
我と我が身の運命を呪う
ああ、信じて預けた一人息子が
ただの道化に身をやつすとは。

彼女は道化を呼び寄せて
腕輪の由来を問いただす
のらりくらりとかわした道化も
やがて彼女の真剣さに気づく
ならば語らずにいようではないか
王妃は疑い怪しみつつも
旅芸人の一団を厚くもてなして
我が子と疑う卑しい道化に
なにくれとなく世話をやいた。

一方、王子も森をあとにする
道化の語った町の様子
祭りや城の賑やかさ
ありゆる光景に憧れて。

老人は少年に忠告を与える
決して己の名を名乗らぬこと
人に尋ねられても、口を閉ざし
ある人にだけ明かすようにと。

彼は細かに教えを説いた
城の広間にあるりんごの木
そこに刺さる剣を抜くように
王の血筋たる少年には
その資格があるはずだから と。

云われたとおりに少年は
城のある町へやってきた
そこでは人々が噂する 王妃は気でも触れたのか
卑しい道化に入れあげたとさ
城にはくだんの道化がいたが
知己の少年にも知らん顔
王様のような服を着て
昼間からだらしなく酔っ払う
門番は誰何する 少年は名乗らぬ
押し問答のすえに少年は
兵士を押しやり広間へ入る

そこには教わったとおりの りんごの木
傍らには優しく悲しげな眼差しの婦人が
ひとり寂しく座っている

彼は産みの母に挨拶し
剣に手をかけ 引き抜いた

 我は湖に育ちし者
 ヴィヴィアンは母上に挨拶する。

かくて王妃は真実を知った
道化は豪華な服を剥ぎ取られ
人々は世継ぎの帰還を知ることとなる。
面白くないのは廷臣たち
私生児の王など認めない。
霧の森の老人は少年に云った
何度でも剣を抜いて示し、
従わぬ者たちと戦うように。

けれど無垢なるヴィヴィアンは
戦いの何たるかを知らぬ

追われた道化は悪意から
いたずらに中傷の歌を歌い
人々も世継ぎの帰還を信じない

王妃は一計を案じた 愛し子のために
高価な腕輪を贈り物とし
力ある首長に助力を頼んだ
もしも息子を王にしてくれようなら
腕輪をたずさえ あなたのもとに参りましょう。

首長は承諾し
それから長い戦がはじまった
少年のために ローグルの王座のために
あまたの若者が母の手を離れ
若い命を戦場に散らした。
畑は荒れ 人は散り
首長の息子たちも傷つき倒れた

五年ののち全ての諸侯が服したとき
緑の王国ははや荒れ果て
多くの悲しみに染まっていた。

首長は王妃を迎えるにあたり
我が娘をヴィヴィアンに差し出した。
若く美しいが嫉妬深く
囀りの煩く耳障りな女
王座について間もないままに
はや若者は森が恋しくなり
妻と母とを置いて逃げ出した。

 森の小鳥は かように歌わぬ
 でたらめな偽りのくちばしを閉じよ

霧の森は若者を受け入れ
そして二度と手放さなかった
いまや沈黙が彼の母となり
あれほど流された血の果てに
一粒の果実も結ぶことなく。

王国は荒れたまま 数年ののちに
海を渡りし蛮族どもの手に落ちた
首長は倒れ 王妃は静かに
呪われた腕輪を土に埋め
その上で命を絶ったのだった。


道化は歌う、笑いながら歌う
死に行く王国の 崩れ往く塔を
くるくる回って 倒れても歌う。