レ ノ ス ウ ィ ー ド


はじまりの歌
偉大なる王アリエンの歌
カッコウの歌
竜殺しの王スヴァンの歌
ホトトギスの歌
兄弟殺しのニースルの歌
コマドリの歌
彷徨い人ヴィヴィアンの歌
リアンノンの小鳥の歌


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がて時がすぎ、エリンの島に
北の国の人々が訪れるようになった。

彼らは商人、富を求め
世界じゅうのありとあらゆる国を歩き
あらゆるものを売りさばいた。
体は小さく 色は黒く
宝の輝きを 何より愛する人々だった。

北の国の人々はうわさを聞いた
かつてローグルの国を治めた王
竜殺しのスヴァンが手にした剣の話を
その剣が見出された
さらに古い時代の王 アリエンのことを。

好奇心にかられた一人の男が闇夜に紛れ
朽ちかけた墓標の間を探した
男は土を掘り起こし 棺を砕いた
中からあらわれたのは大いなる宝
朽ちた骨とともに蘇るは 王国の忌まわしき栄光の記憶。

欲深き男は夜のうちに
暴いた宝の数々を小船に載せて
暗い海へと漕ぎ出した
浜辺の木々はざわめき叫び
海の乙女たちは警告を発する
けれど男は気にも止めない。

波は逆巻き、風が出て
小船は激しく揺れて舞う
男は懸命に漕ぎ続けた
島は水平線の向こうに遠くなり
もはや戻ることはかなわない。

大地の加護無き海の上
船はついに沈み始めた
罪の重さに耐えかねて
宝を山と積んだまま、男もろとも海の底
それで海は多くの宝を持つようになった
これが「海の隠す黄金」の生い立ちである。


墓が暴かれたことを知ったローグル人は
大いに怒り
北の国の人々を
ありとあらゆる場所から追放しようとした
金髪のスヴァンの息子の息子
子孫たる王は人々をなだめ
罪の償いを条件とした。

富の失われたアリエンの墓に
それと同じだけの価値あるものを戻すよう。
打ち砕かれた棺を作り直し
それに満たされるだけの宝物を入れるよう
さすれば罪は許されよう。

北の国の人々は思案した
誰が宝を見つけるか
誰が宝を手放すか

エリンの島の遥か北に
彼らの来る道筋に
黒き呪われた島があった
ごつごつとした岩山で
耕す畑も土地もなく
海に垂らした糸を手繰り 海鳥を射落として食料とする
老婆がひとり住んでいた

そこは魔術に守られて
人は滅多に近寄れなかった
老婆は岩穴に宝を隠し 夜はその上にござをひいて眠った

北の国の人々は一計を案じ
小さな鯨を一頭とらえ
その腹に黄色い砂と
小柄な男をひとり隠した
鯨は重みに耐えかねて
岩山で座礁して砂を吐いた

それを見た老婆は不思議がり
波間に下りて呟いた
"この鯨は何処から来たものやら
 水のように黄金を吐くとは。"
老婆は鯨を岩穴に運び込み
宝を隠した脇に置いた
腹に潜んだ盗人は 鯨の腹から這い出して
魔女の居ぬ間に宝をすべて
ローグルの国へと持ち去った。

宝を奪われたことを知り
老婆は怒り、呪いをかけた
波間の向こう、去りゆく船に
奪われた黄金を手にする者が
みな滅びてしまうようにと。

船は戻り、北の国の人々は
作り直した棺の中に
奪った宝の数々を並べた
しかし盗人は欲を出し、
ただ一つ、見事なつくりの腕輪だけは隠そうとした
王は行った、棺の足元が欠けている。
横たえられた朽ちた骨の見えるうちは
まだ償いは十分ではない。

男はしぶしぶ 隠していた腕輪を出して
それで棺の端を埋めた
見ていたは王の二人の息子と
同じ日に、同じ母の胎から生まれた
双子の兄弟 ニースルとヤーシル
兄は弟がより父に好かれているのを知っていた
やがてこの王国を継ぐだろうと

棺が土に埋め戻された後
ニースルは思案した
あの宝はこの国を継ぐ者のもの
すなわちいずれは弟のもの
全てを奪われるくらいなら
せめて一つは我が物とせん

夜に乗じて墓を掘った
真新しい土は柔らかく
棺の杭は錆びていなかった
棺の端に隠された 腕輪を抜き取り、土を戻した
それは見事な装飾に飾られて
忌まわしい赤い宝玉の輝く腕輪だった

だが 城へと戻る途中
彼は弟に出くわした
まだズボンの土は落としきれておらず
盗みの証拠は一目瞭然。
ヤーシルは兄を問いただし、腕輪を見つけた
怒りに任せ 兄は弟の脳天に死の一撃を振り下ろす
剣は折れて砕け散り
哀れ若き王子は血の花を咲かせ
無残に草陰に横たわる。

翌日、冷たい躯となった
世継ぎの姿が発見される
王は悲しみ、人々は怒った
墓が荒らされ、棺のこじ開けられた跡を見つけて
疑いは北の国の人々に向けられた
呪われし宝をもたらした
盗人たちは逃げ去った。

やがて父王は年をとり
若き王子に玉座を譲った
即位の日が近づいて
王子は清められた聖堂に入った
途端に水盤の水は赤くなり
人々は不吉の影を読み取った
ニースルが聖堂にひざまづき
まさに王冠を受けんとしたとき
一羽の小鳥が舞い込んで
祭壇の上で歌を歌った

 弟殺しの墓荒らし
 不実なる王子ニースルよ
 腕輪を返せ、腕輪を返せ
 その腕輪は呪われしもの
 王国を滅ぼす災いとなろう

ニースルは驚き、剣を抜くや
一太刀に小鳥を切り落とした
白い羽根が飛び散って
不思議に躯は霧となって消えた。
王は兄弟殺しと呼ばれた
白き小鳥が告げたので。
心は晴れず、気は重く。

ある時 王は馬に乗って
王国を見周るべく遠出をした
森に差し掛かったとき 馬は何かに驚いて
とつぜん飛び上がり、王を落とした
奇しくもヤーシルと同じ日に
王は草陰に赤い花を咲かせた。

かくて誉れ高き玉座の主は去った
若き頃の過ちの償いとして
呪われた腕輪はまだ其処にあった
残された若き未亡人とともに。

やがてその人と腕輪がもとで
王国は滅び行くさだめにあった。