レ ノ ス ウ ィ ー ド


はじまりの歌
偉大なる王アリエンの歌
カッコウの歌
竜殺しの王スヴァンの歌
ホトトギスの歌
兄弟殺しのニースルの歌
コマドリの歌
彷徨い人ヴィヴィアンの歌
リアンノンの小鳥の歌


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ーグルの王国は こうして途絶えた
王は知らぬ、銀の髪もつフルールブランの
死の間際にかけた恐ろしい呪いを
この王国に子は生まれぬ
人にも犬にも 鳥や虫にも。
花さえも実を結ぶことなく
咲いても、ただ枯れ往くのみ。

やがて百年の時が過ぎ
廃墟となった王国に、西の方より海を渡り
竜の頭(かしら)持つ舟を駆って
新たな人々が訪れた
彼らは波より疾く馳せ来る者
見る影もなく荒れ果てた城を我が物とし
焼け落ちた塔を見て
これは戦の跡だろうかと考えた
王国に人の影はなく
はや栄光の歌も忘れ去られた。

異国の民らはドゥアンと名乗った
彼らの始祖の名を取って
ドゥアンの民は痩せた土地を開き
かつての王国の跡に村を築いた
そこが呪われた土地とも知らず
かつて祝福された土地とも知らず

棲み始めて一年で
その土地の異様は異国人たちにも知れた
畑に撒いた穀物は青々と逞しく育つのに
実は結ばれず、収穫もなく
色艶よく並んだ麦の穂は空ばかり
一粒の麦さえも
人々が手にすることはかなわなかった。

そこでドゥアンの族長は まじない師を呼んだ
白いひげは大地を這い
痩せて曲がった体は樫の枝のよう。
三日三晩の祈祷のすえに
まじない師はこう言った。

"塔の下に竜がいる
焼け落ちた塔の下を掘り
竜を退治せねばならぬ。
竜退治には、かつてこの地を治めた偉大な王
アリエンの剣を使うがいい。"

かくて墓が探し出され、
きらびやかな衣装に包まれた
王の亡骸が見出された
墓には王者に相応しく
金銀財宝が詰まっていたが
彼らはそれに目もくれなかった。
王の手にある剣が取られ、墓は元通り封印された。

たちまち塔は打ち壊され
屈強な男らが空き地を取り囲んだ。

竜は眠っていた。
だが日が昇り 光の当たるのを感じ取ると
すぐさま目を覚ましてうなり声をあげた
闇に棲むものに光は好ましくなかったので。
太陽は何より忌むべきものだった

大蛇が動き出したとたん
たちどころに恐怖が辺りを支配した
人々は知った、この世ならざるものの恨みを
憎しみを抱いて 葬られることなく死んだ者の魂が
いかにこの世に災いをもたらすかを。

竜の吐く息で多くの者が死んだ
大地は毒に変わり 鳥は落ちた
けれど まだひげの生えぬ一人の若者が
王の剣をとり 竜を刺した
その心臓を、邪悪な鼓動の真ん中を
腹から背までつらぬきとおした。
竜は倒れた。
その骨は溶けて消え、あとから大きなりんごの樹が生えた

若者は一族の救い手として認められ
やがて望まれて新たなローグルの王となった。


彼にはひとりの母がいた
父はいくさに倒れ 兄たちは既に亡く
彼ひとりが母の喜びだった。
母は彼をいくさに行かせまいと 幼き頃は女のなりをさせ
同じ年頃の子供たちから引き離して育てた

しかし勇敢な男の息子は
やがて年頃になると 自ら戦にその身を投じた
血の命ずるままに おのが本能の語るままに。
母は悲しみ、庵に籠もり
日夜 ひとり子の無事を祈り続けた。

だが 彼女の知らぬ頃
恐れを知らぬ男 金の髪の若者スヴァンは
月桂樹の冠を戴き 水晶の飾り施したマントを纏い
ローグルの玉座にあったのだ。


若者は善き王として王国を治めた
木々は息を吹き返し、花は実をつけ
鳥は歌う
大地に実りが取り戻され
妻たちは新しき同胞を産んだ

老いた族長には ひとりの娘があった
スヴァンが玉座について三年が過ぎる頃
彼は娘を妻にと勧めた。

王は断った、自分はまだ若すぎると
女性に興味も無かったので。
気高い娘は気を悪くした
拒まれたために
自らの美しさが価値ないものとして扱われたと思ったのだ。

彼女は思わずののしった
"お前は情のない母殺し、母は息子を案じるあまり
人里離れた庵の中で ひとり寂しく息絶えた。"

それを聞いて王はただ一人の母のことを思い出し、
幼き日のことを蘇らせた
彼はすべてを投げ捨てて森へ走った
懐かしい我が家へと
だが そこに母はなく 深き森に面影はなく
彼は慟哭する ただ一人
水晶の飾りを引きちぎり
ただ剣のみを手に 彼は消えた
娘は後悔したが時すでに遅し
玉座はからのまま
四方手を尽くしても 金髪の若者は見つからなかった


やがてローグルの国に ミレシアの子らがやって来た
偉大なる夜の女王の治める一族 強き夜の巨人たち。
闇がたちどころに押し寄せた
海の上に暗き翼広げて横たわり
王国は閉ざされ、朝は来ず
荒れ狂う波が浜を洗い
大いなるフクロウが告げるいくさの声は
瞬く間に島じゅうを包み込む。

ローグルの国に王はなく
勝利もたらす力強き腕はいまだ戻らず。

そのころ王は湖の城にいた
正気を失い さすらううちに
霧深き森の奥 賢き妖精の元へと辿り着いた
城で介抱されるうち 彼はようやく我を取り戻した
分別を取り戻す代償として
花の盛りの若さを失って。

女王は彼に告げた、王国の危機を
海を渡って攻め寄せる
偉大なる夜の息子たちの名を

湖で生まれた白き馬に乗り
彼は駆ける 鴉たちの餌場へと
いくさの波打ち寄せる浜辺へと。

王の戻りし時 ドゥアンの子らは
すでに半数が討ち取られ
残る半分の命も今や 荒風の前に消えようとしていた。


老いた族長は波間に消え
娘はミレシアの王のものになっていた
いくさの音を聞いた時
ローグルの子らが息を吹き返したのを知った時
彼女は夜の息子を身ごもっていた
偉大なる魔女の血を引く赤子を
その子は力強く母の胎を蹴り
彼女に逃げることを許さなかった。

ローグルの王、妖精の守護を得た者は
瞬く間に魔術巧みに操る者らを打ち倒した。
いかなる武器も彼に届かず
いかなる邪悪な呪いも 彼の足をとめることはかなわなかった
砂は紅に染まり 打ち寄せる波は血色の泡
いまや鴉と魚たちが彼らの友
勢いを取り戻したローグルの子らは
ミレシアの城へと押し寄せて
ついに敵の王を葬り去る。

息子の敗れ去ったのを見て夜の女王は
悲しみの声を張り上げた
あらん限りの呪いを吐いて
生き残りし子らを翼に乗せ
海の彼方へと逃れ去った

あとには闇の子を宿した娘たちが残った
彼女たちは崖の上に立ち
魔女の去った海の彼方を見つめていた
王はかつて拒んだ誇り高き娘の姿をそこに見とめた
彼女は崖の端にたち
呪われた子とともに
はや 渦巻く波に身を投げようとしていた。

王は止めたが 彼女らは聞かず
舞い落ちる羽根のごとく 
次々に海に落ちていった。


かくてそこは嘆きの岬と呼ばれるようになり
波間に散った母の胎から自ら這い出た闇の子らが
父を知らず、母も亡くした哀れな怪物が
今も そこに棲むという。