レ ノ ス ウ ィ ー ド


はじまりの歌
偉大なる王アリエンの歌
カッコウの歌
竜殺しの王スヴァンの歌
ホトトギスの歌
兄弟殺しのニースルの歌
コマドリの歌
彷徨い人ヴィヴィアンの歌
リアンノンの小鳥の歌


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、ローグルの国には ひとりの偉大な王がいた
彼の名はアリエン
王は若い頃 多くの武勲を立て
人々から大いに讃えられていた

彼の元に集う騎士たちは王国の誉れ
乙女たちは王国の花
幸せがそこにあり、宮廷に笑い声は絶えなかった
だが王には妻がいなかった
一人の息子も、一人の娘も。

彼にもかつては妻がいた
愛する王妃、誉れ高きローグルの女王
銀の髪持つフルールブラン、白き手の貴婦人

いと高き玉座に座する彼女の前に 人々はみなこうべを垂れ
その手が触れたものすべてを うやうやしく崇めた
王もまた 彼女によってどれほどの栄誉を得、
その愛によってどれほど癒されたことか。

若かりし日の王は 彼女を手に入れるため
数多の冒険を成し 敵を返り討ちにして
大いに鴉たちを喜ばせた
女王はこの世で最も優れたる男の手に落ちた
二人は結ばれ
それから甘く美しい夫婦の暮らしが始まるはずだった
フルールブランはよき妻となり
まめやかに夫に仕えていた
はじめの七年の間だけは。

王国が花の盛りにあったとき、
やがて彼女のため多くの血が流され
宮廷の誉れたる騎士たちが痛ましく倒れようとは
誰も想像だにしなかった。


七年目の夏
王と王妃はローグルの北、青い湖へ行幸した
妖精たちの棲む処、あの世とこの世の境たる、霧に包まれた帰らずの森へ
彼らにはひとりの王子 イリアッドがいた
美しい幼な子 金の髪の愛児は
やがて命を失うさだめであった。

王国の果てたる湖で
王妃は髪を垂らして水浴をしていた
侍女たちは女主人に付き従い
王は家臣たちと狩りに出た
大きな白い鹿に惑わされ
王は帰り道を見失う
たどり着いたは霧深き異界の王国
賢き女王の治めるところ
白き鹿はそこな道案内。

異界の国は病に冒され
今にも死に絶えようとしていた
毒の呪いをかけたは敵国の魔女、
悪しきものを倒す勇者を女王は求めた
王は応え、彼女のために戦った
いにしえの物語に言われるように
よき騎士は尊き婦人を助け
決して見捨ててはならぬものなのだ。

霧の国で数多の戦いが繰り広げられ
王と騎士たちは数々の冒険をこなした
かくて王は魔女を退け
比類なき美貌もつ妖精の女王と一夜を共にした。

別れに際して女王は 王にひとふりの剣を与えた
戦いの礼として、愛と友情の証として
その剣はいかなる盾にも防ぐことはかなわず
不思議な魔力に満ちていた。

王がローグルの国に戻ったとき
すでに三年が過ぎており
国中が喪に服し、王の葬式を営んでいた
王の生きて戻ったことに 人々は驚き、かつ喜び
すぐに黒い幕は取り去られた
ただひとり、この目出度き宴を喜ばぬ者がいた
湖にいる王妃に見ほれ、森の奥で我が物とした男

王妃は既に飽いていた
ローグルの平和に、染み一つない王のマントに
闇夜に生まれし銀の女王が
暗い影もつ若い男に心魅かれるは道理
その男には 王にはない
美しい声もあったので。

彼は歌った、甘い恋の歌
彼は囁いた、異国の愛の言葉
それは気高き貴婦人の心をとろかし
白き腕を開かせる魔法だった。

王が戻り、自らの玉座に腰を据えても
傍らの王妃は浮かぬ顔。
彼女は口実を求め
王と共に異界を旅した騎士を問いただした
忠実なる騎士はたくらみを知らず
王妃の望むままに全てを語った
やがて王妃は騎士の口から
望む口実を手に入れた
彼女は王に迫る 別離を求め
湖の妖精と通じたことを理由に、
魔女と寝た夫とは 共に住めぬと

王は怒り、彼女を塔へ閉じ込めた
その時から王国に影は忍び寄り
王の名声には悪口が混じるようになった
その一方で、影なる男は高き塔にもやすやすと
鳥のごくとに忍び込み
親しく王妃と戯れた
もはや誰も彼らを見咎めることはなく
昼も夜も まるで恋人たちのように振舞った。

そのうち男は王妃をそそのかし
王国を我らのものにせん と企んだ
幼き王子を玉座に据えれば
彼ら二人の思うまま。

しかし忠実な侍女がそれを聞いていた
耳にした恐ろしいたくらみに
恐れおののき、取り乱し
少女は語った、ありのままを王に。

誉れ高きローグルの王は、ひどく驚いた
居合わせた家臣たちはみないきり立ち
不埒な王妃に死を、と叫ぶ
彼は王妃の不義の場を確かめるべく
塔を見張らせ、侍女の報告のとおりであることを知る
運悪く、幼い王子も王妃のもとにいた
まだ母恋しい年頃であったので。

二人がまことの夫婦の如く
よりそいあい、言葉を交わすのを見て
王は塔の入り口を固めさせた
男は慌て塔の屋根から逃げようとしたが
射手に撃たれて くるくる回りながら落ちた
轟音をとどろかせ、大地に赤い花を咲かせた。

見ていた王妃は嘆きの声を上げ
両手を天に差し上げ、髪を振り乱し
傍らの我が子をとらえて叫んだ
夫なる王への呪詛を。

ナイフを取り上げ、幼子の首をはねた
家臣たちはみな嘆きの声をあげ
幼子のよき姉であった忠実な侍女は
悲鳴をあげるなり、その場に倒れ付し
あわれにも二度と立ち上がることは無かった。

そうするうちに、塔から火の手が上がった
破滅を悟った気高き女王は
自らの手でランプの油を撒き
己の体を破滅に委ねたのだ。

塔は炎に包まれ、赤々と
人々と大地を照らし出し
王の手には 血に染まった幼子の首と不名誉と
そして悲しみだけが残された
女は自らを火刑に処した
そしてそれは、炎の助けを借りて
国中のあらゆる人々の知るところとなった。


それから三年の時が過ぎ
王は新たに妻を迎えた
湖の貴婦人 霧深き湖の女王を
彼女は貞淑な女だった
十五年の間 王に寄り添い
ただの一度も 王を裏切ることはなく。

しかし子供は出来なかった
彼らの間にローグルの世継ぎは
男の子も、女の子も ただの一人も
やがて若く力強かった王は老いて
闇は次第に濃さを増し
日が中天を過ぎて西へ向かうように
王国は しずかに滅びようとしていた。