fter of tale...

おしまいの歌

…なんだって。レヴィンたちがそのあとどうなったかが聞きたいだって?
 困ったね、そんなことを聞いてどうするんだい。本当に、もう、語ることはほとんどないんだよ。
 人は何でも、おしまいのおしまいまで聞きたがる。
 でもね。物語っていうのは、終っちまったあとのことなんか、大して面白くないのさ。ほんのつまらない、日常の些細な出来事ばかりだよ。ありふれたお話さ。

 レヴィンは…
 エノーラを娶り、二人でソルマルケルから少し離れた小高い丘のふもとに住んでいたよ。三人の息子と二人の娘が生まれた。エオル、ウル、アリル、白き髪のソルゲルズ、猛き腕のソルヴァルド。子供たちは、それぞれに立派に成長して、それぞれの道を生きた。
 家族を亡くしたエヴァンジェリンも、しばらくはそこにいた。何年か経って、ナルヴィが独立するとき一緒についていったね。その後の行方は記憶には無いけれど、たぶん、それなりに上手くいったんじゃないかね。記憶に残らないのはいいことさ、だって何も事件が無く、平穏無事に暮らせたってことだろう?
ナルヴィたちが去って、レヴィンの子供たちが一人で歩き始める頃、ソルマルケルには人が戻ってきて、少しずつ賑やかになりはじめていた。

 その頃になってね、レヴィンは、グレーシルに会いに行ったんだ。ふと思いついたように、ある朝ひとりで、ふらりとね。
 だが彼女は、もうそこにはいなくて、その代わり、彼が黄金を投げ込んだ木の根元には、長い年月を風雨にさらされた、崩れかけた白い骨のかけらが散らばっていただけだったんだ。
 そう、グレーシルなんて女は、最初から居なかったのさ。 
 墓守りはとっくの昔に死んで、おぼろげな月明かりの影に蘇った微かな命で、彼に話しかけていたんだよ。
レヴィンは、隠してあった黄金をそっくり外海の部族に渡してやった。
そんなもの自分で使う気は無かったからね。外海の部族は、それで十分だと言った。娘をもらえなかったのは残念だが、それも仕方が無い、と。

 彼らは、レヴィンが等価以上の取り引きを申し出たと思ったんだよ。
 そうして、外海との貿易が始まって…、そうだね。ここから後のことは、あんたのほうがよく知っているだろう? ソルマルケルはずいぶん大きな町になったよ。今じゃ、内海の貿易のほうが落ち込んでて。
 ここらの人は、誰もが、レヴィンの話を知っているというね。
 でもそれは、彼が新しく町を作ってからの話だけさ。本当のところは、誰も知らない。言っても信じやしないだろうね。人はそういうもんさ、どんどん忘れていくものなんだよ。

 …え、何だい。どうして笑うんだい。
 ははあ、あんたの、その首飾り。白蛇を模しているんだね。あんたの家の守護精霊は白蛇の姿をしているのかい。
 そう、あんたは信じてるんだ。いいことだよ。古き神々の時代が過ぎ去ったとはいえ、居なくなるもんでもないからね。もしかすると、時々はこの辺りに戻ってくるかもしれない。
 でもね。そんなこと、あたしの知ったこっちゃない。
 人は移り気なものさ、昔のことはすぐに忘れる。新しいことは何にも分かっちゃいない。ただ信じるか、信じないか、それだけのこと。

 おお、もう夜明けが近づいてきた。白い光が雲の切れ間から見える。あたしは、もう眠らなくてはならない。時の流れから取り残された、この石とともに。
 せいぜい頑張ってお生きなさい。運命に抗うように、そして時に、運命を受け入れながら。
 話が聞きたければ、ここへ来て呼ぶがいいよ。

あたしの名は、レギンレイフ。
 人々の忘れた、遠い記憶を守るもの。


END



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