次章予告


 年の瀬も近づく頃、港町は冬至祭の準備で大忙し。例年であれば、遠方から来ている研究員のいくらかは帰省のために長期休暇をとり、町に住む”協会”職員も一部は家族と過ごすために時間を割く季節なのだが、今年ばかりはそうもいかなかった。まず第一に破壊されたヴィレノーザの復旧が終わっておらず、したがって、長距離列車が走れなくなっているからだ。帰省も家族旅行も簡単に出かけることは出来ず、それでもという者は臨時運行の乗合馬車にすし詰めになるのを覚悟するしかない。
 そんなわけで、支部は普段の年の同じ季節より、人が多かった。本部機能がまだフォルティーザに仮置きされているせいもある。ヴィレノーザの本部から避難してきた職員たちの大半は、まだ、フォルティーザに残っている。
 会議を終えて廊下を通りかかったジョルジュは、支部の研究棟ロビーで、水の入ったコップを前にルークがぐったりしているのを見つけた。ジョルジュは傷が治り、ようやく腕のギプスが取れたばかり。後ろにはいつものように秘書のアネットを従えている。
 「おやおや。どうしたんですか? ルーク」
 「…ああ、ジョルジュさん」
ルークは、青ざめた顔で体を起こした。「…食あたりっぽいです。」
 「食あたり?」
 「ミズハが…。」
曰く、料理というものに興味を持ったのはよいのだが、本を読むだけでは上達するわけもなく、基本が色々間違っているのだとか。
 「島の生活はほとんど料理なんて無かったらしく…。コンロの上で焚き火するし…。」
 「まあ、そうなるでしょうね。」
ジョルジュは笑いをこらえてする。「しかし”再生”の力を持つあなたでも、食あたりにはなるものですか?」
 「治してる端から壊されている気分です…」
言いながら、ルークはぐったりと机の上に頭を落とした。慌ててアネットが駆け寄る。
 「それもう毒じゃないですか、何食べたんです?! 医務室に行きましょう。ミズハちゃんには今度、しっかり料理の仕方を教えておきます!」
アネットに抱えられて去ってゆくルークの後ろ姿を見送りながら、ジョルジュは小脇に挟んだ書類にちらと視線をやった。
 さすがにこの状況では言い出せないが、体調が良くなったら伝えるつもりだった。調査依頼、というより、指名での緊急依頼が来ている。

  ――”青の洞窟”で、化石化した海竜の骨が見つかった。

 フォルティーザより西方、岩礁地帯の中にある”青の洞窟”と呼ばれる巨大な洞窟内部で、石の中に封じ込められている化石が見つかったのだ。海竜と思われるが、詳細は不明。その化石の搬出を支援して欲しいという。何しろ洞窟は、今のところ発見されている限りで唯一の”黒い”海竜の繁殖地なのだ。
 そう、ジャスパーの生まれ故郷だ。
 数十年前、グレイス・ハーヴィがジャスパーの卵を引き取るきっかけになった事件の顛末にも関わるかもしれない話…、指名の理由は、そういうわけだ。
 それにしても、とジョルジュは思う。
 フォルティーザでの”双頭の巨人”との戦いの一件いらい、メテオラが特に何も言ってこないことがかえって気にかかっている。あれほど誇示していた兵器も軍備も刃が立たず、脅威を退けたられたのは主にルークとミズハの二人の活躍に依る。その二人の身柄を今のところ確保しているのは、メテオラが毛嫌いするフィオナ。そのことに気づいていないはずもないのに、警告ひとつ発してこないのはどういうわけだろう。
 ドン・コローネの言っていた内容も気がかりだ。今すぐ彼らを動かすことには不安もある。
 だが、そんな薄ぼんやりとした心配だけでは、依頼を断る理由はならない。ジャスパーの件もある、この件は久しぶりにルークに任せる仕事になるはずだった。


 太古の存在は石となり、新たな種族が生まれ名もつけられぬままに生きる世界。
 人はまだ、その世界の全容を知らない。

<<二章へ続く>>


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