<第三章>

の城



 その日の午後遅く、彼は波打ち際にいた。
 いつもの桟橋。長旅を終えたばかりのハーヴィ号が静かに揺れている。その周囲を泳ぎまわっていた黒い影は、桟橋を古く足音に気づいて首を水面の上に出した。
 「やあ、ジャスパー」
ちゃぷん、と水音を響かせて首がいったん引込み、次の瞬間には桟橋のすぐそば、ルークの足元に現れていた。ルークが手を波間に差し入れると、握っていた石に青白い輝きが戻り、海竜の言葉を通訳する。
 「そっちは楽しかったか?」
 「うん、まあね。なんていうか、新鮮な体験だったよ。ごめんな、またお前が仲間はずれに――」
 「陸の上のことだろ? どのみち、俺は興味ない」
言いながら、ジャスパーは長い首を桟橋の上にべたりと寝かせつけた。「それに、あの火吹くやつ、俺あんま好きじゃない」
 「バルゴスのことか?」
ルークも、桟橋の端に腰を下ろす。うまがあわない、とでも言うべきか。初めて逢った時から、ジャスパーとバルゴスは仲が良くない。
 「マルのことは、あんま嫌いじゃないのにな」
 「あれもあんま好きじゃないけど、姫っちが仲良くしてるしな。」
 「…お前、ほんとミズハにだけは愛想いいよな」
笑って、ルークは水平線のほうに目をやった。ジャスパーとともに”霧の巣”を目指してから、もう一年以上経つ。あの時は、ただ好奇心と使命感からで、その先に待っているものなんて考えもしなかった。自分の正体や、今の世界の成り立ちなど、考えつきもしなかった――。

 「ああ、くそっ」
小さな声を上げて、ジャスパーが口元を歪めた。ヒレで水面を叩く音。
 「どうした?」
 「あの輪っかだよ。また変なふうに捩れた。…歯のスキマに引っかかって気持ち悪いんだよ」
 「輪っかって、ヴェリザンドに貰ったやつ?」
 「そうそう」
西の海で、ヴェリザンドたち海竜と冥王フェーブルの戦いに助力した際に受け取った銀の輪は、今もジャスパーの口の中、奥の歯にはめ込まれている。何やらいわくありげな品だが、使い方までは教えてくれなかった。ヴェリザンドは、いずれ分かる、と言っていたが――。
 「あーなんか気持ち悪ィ。あのクソ王の口の中に入ってたもの、ずっと身につけてるとかー…」」
 「おいおい、捨てるなよ。海王様の宝だぞ」
 「海竜が飾りなんて持っててどうするんだよ。要らないだろ、こんなもん」
確かに、海竜に装飾品など身につけようがない。輪を歯にひっかけているのだって、海を泳ぐ海竜には指も腕も無く、他に保管しておく場所が無いからだ。
 「…言われてみれば、確かに妙だな」
ルークは、ジャスパーの口を開けさせて、輪を取り出してみた。何の装飾もないが、長いこと海竜の口の中で塩水に浸かっていたはずなのに曇ひとつない。まるで王冠のようだな、とルークは思った。ちょうど、大人の頭ひとつぶんくらいの大きさだ。
 「人間なら、こういう感じで使えそうだけどな」
言いながら、自分の頭に載せてみる。大きさは、ぴったり…
 「おい、おい、ルーク!」
ぎょっとしてジャスパーが叫んだ。
 「ん?」
 「何してる! それ! なんか光ってる!」
 「――え」
輪をおろしてみると、さっきまでただの銀色の輪だったものが、海竜の言葉を通訳するシェムスールの石と同じように、かすかな青白い光をまとっている。
 「おれ、何もしてないぞ…」
 「やっぱ、あいつが寄越したものなんて信用するもんじゃねえ! 貸せっ」
半ばひったくるようにして輪を咥えると、ジャスパーは、それを波間にぺっと吐き捨てた。
 「おい、ジャスパー!」
 「光っててヤバそうだからな。しばらく冷やしとけば戻るかもしれない」
 「危ないものじゃないだろう、多分…。お前の兄さんがくれたものなんだぞ」
 「だーから、俺はあいつを兄とか呼びたくないわけ。ていうか一緒に暮らしたこともないし」
 「…やれやれ。」
ルークは肩をすくめた。前回は共闘したとはいえ、長年の軋轢はそう簡単に弱まらない。
 「あとで、ちゃんと回収しろよ。無くしたりしたら、ミズハに何言われるか」
 「わかってるよ…」
ぶつぶつ言いながら、ジャスパーは小さな水音だけたてて波間に姿を消した。日は、傾きつつある。海鳥たちも、そろそろ塒へ帰る時間だ。


 港から引き上げようとして海岸通りに差し掛かった時、ルークは、リーザとともに坂道を下ってくる赤毛の少年の姿に気づいた。
 「あ」
少年のほうも、同時に気づく。
 「今帰りか? マル」
 「片付け手伝わされたんだよ…」
ブツブツ言いながら、マルは目をそらす。
 「だいぶ町の暮らしにも染まってきたみたいじゃないか」
 「べ、べつに…」
 「リーザもよく懐いてるみたいだし」
ルークが目を向けると、傍らの幼い少女、アネットの娘は、マルの手を握ったまま、ささっと少年の影に隠れてしまう。人見知りが激しいのだとアネットは言っていたが、この場合、ルークが特別に恐れられているような気もしていた。 
 「こやつは、余の第一臣下だからな。」
 「臣下?」
 「そうだ。余が力を取り戻して火の国に戻ったとき、国に民がおらねば格好がつかぬからな」
 「マル…、」
ルークは、呆れ顔になった。「こんな小さな子に、何吹き込んでるんだ。」
 「…お兄ちゃんは、ほんとに王様なんだもん」
ぽそっ、とリーザが呟いた。
 「魔法だって使えるんだよ。ほんとは、すごく強いんだもん」
 「見ろ。ういやつではないか」
 「まだ小さいから、そういうの信じちゃうんだって…。いや、まあいいか。」
少なくとも、目の前のこの少年が、かつて闇の海を越えた先の大陸で「火の国」を守護した「火の魔神」の今の姿なのは間違いない。たとえ、力の大半を失っていようとも、だ。
 「もう日が暮れるな」
マルドルゥインは、西の海のほうにちらと目をやった。「そろそろ来るか…」
 「マル様ー、マル様ー」
ほら来た、といわんばかりの渋い顔で、少年は頭上を見上げた。
 「バルゴス、いちいち迎えに来なくてもいいと言ったろう」
 「何を言っておられるのです。守護獣の付き添いなしで日暮れ後出歩かれるのは、よろしくありませぬ!」
 「日暮れ後って?」
 「向こうでは、日が暮れた後は…敵対的な連中が徘徊していたからな」
と、マルドルゥイン。ひとつため息をつく。「指輪を取り戻すとき、お前たちに始末させた連中のような輩がな。嘆かわしいことだが、そやつらを抑えておく力もなく…。だが、こちらの大陸には連中はおらぬ」
 「しかし別の何かがおるやもしれません!」
 「心配しなくても、こっちは精霊の一匹も生き残っておらぬわ」
少年は、皮肉っぽく口の端を歪めた。「おおかた、あの空の上にいる貪欲な奴が食い尽くしてしまったんだろうよ」
 バージェスのことだ。
 ルークも、それを考えていた。冥王フェーブルがそうだったように、消えてしまった精霊や妖魔と言われるもの、魔王や神といわれるものたちの幾らかは、バージェスに食われてしまったのではないかと。だとすれば、ミズハの言っていた「生命を奪うもの」という名とも一致する。そこまでして他の存在を食らう意味は分からないが、そう考えれば辻褄のあう部分もあるのだ。
 「まあ、まあ。バルゴスも少し過保護すぎるぞ。少なくとも、この町は大丈夫だよ。普通に人間が暮らせてるんだし」
 「そうだ。だいたい、お前ごときが居た所で何が…」
 「お兄ちゃん!」
ふいに、少女が叫んだ。マルドルゥインの袖を引っ張る。「あれ見て!」
 振り返って、少年は思わず息を飲んだ。「なんだ?」
 「ああ、白い森か――」
言いかけて、ルークも気がついた。町のはずれ、去年の夏から崖の上に陣取っている白い森の枝の上に、色とりどりの光が宿っている。暮れてゆく藍色の空を背景に、その光はまるで、祭りの灯り飾りのようにちらちらと点滅している。今までも何度か観測された現象ではあるが――
 「精霊の灯だ」
マルドルゥインのつぶやきで、ルークも思い出した。巨人の国から火の国へ渡ったとき、同じような光を見たこと。そこには、大地の精霊と名乗る赤ん坊の姿をした存在が住んでいた。普段は全く動かず、あまりにも静かなので、白い森の存在はすっかり忘れていた。目にしても、風景の一部だと認識するようになっていたのだ。
 「行くぞバルゴス!」
 「あ、マル…」
リーザの手を引いたまま、少年は丘に向かって駆け出した。やむなくルークも後に続く。


 崖を駆け上がり、白い森の前に辿り着いたとき、輝きは下から見た時より数を増していた。本物の樹の枝のように絡み合いながら空に向かって伸ばされた枝の合間に、握りこぶしほどの虹色の輝きが、赤、黄、緑と色を変えながら浮遊している。
 「なんなのだ、これは」
マルドルゥインは、興奮した様子だ。「ただの森かと…思っていたぞ。こんなものが住んでいるなど一言も言わなかったではないか!」
 「忘れてたんだよ。多分」
ルークは、近づいてきた光に触れようとしたが、それはまるで生き物のように、ついと飛んで離れていってしまった。
 「この白い部分全体でひとつの生き物らしい。動くときもある。一度はそれで助けられた」
 「きれいー…」
リーザは、うっとりと飛び交う光を見上げている。マルドルゥインはというと、「関係者以外立ち入り禁止」のロープから身を乗り出して、白い枝すきまを熱心に覗きこんでいる。
 「ふむ…不思議だな。精霊の灯があるのに、精霊はおらぬのか。おいバルゴス、ちょっと中を見てこい」
 「御意」
鼻から炎の息を吐きながら、バルゴスが小さな翼をはためかせて森のなかへ消えてゆく。待っている間、赤毛の少年は、腕組みをして考え込んでいた。
 「この森は、動くといったな?」
 「ああ。西のほう――そう、バージェスの監視下から、ここまで移動してきたんだ。それで、バージェスを崇めてるリブレ人というのが一度、取り戻しに来たよ。」
 「助けられたというのは?」
ルークは、かつてこの町で起きた戦いのことを、かいつまんで話した。この森が現れた時のこと。ハリールードとの戦いで加勢してもらったことなど。
 バルゴスが戻ってきた。
 「マル様ー、ひとめぐりしてみましたが、怪しいものは何もいませんでした。」
 「本当に何もか?」
バルゴスは、鼻から炎を吐き出す。
 「何かいるなら、それがしが気配を感知出来ぬことはありませぬぞ。地面の奥深くに潜ってでも居ない限りは」
 (地面の奥深く…)
ルークは、その言葉に微かな引っかかりを感じた。この森の本体は、地面の奥深くにある。その部分がどうなっているのか、確かめた者は誰もいない。
 マルドルゥインは、腕をほどいた。
 「ふむ。ならば致し方ない。害はないようだし、今日の所は戻るとしよう。行くぞ、リーザ」
崖を降りて振り返ると、光は、ひとつ、またひとつと消えていくところだった。まるで、ルークたちが帰ったのを見計らって灯りを消しているかのようだ。
 (もしかして、あれは、おれたちを呼び寄せるために点けたのか?)
まさかな、と胸の中で呟きながら、完全に否定は出来なかった。
 あの森のような生き物には、何がしかの知性があるのかもしれなかった。


 その日の夜、町もすっかり寝静まる時刻。
 調べ物を片付け、少し遅めの床につこうとしていたルークは、階下で何か物音がするのに気がついた。丘の上にあり、街の喧騒からも離れているこの家では、ちょっとした物音もよく響く。
 ずる、ずる、と何かを引きずるような音。明らかに、生き物の動いている音だ。建物を一周し、玄関のほうへ近づいていく。こんな夜更けに訪問者だろうか。それにしては――。
 足音を忍ばせて、廊下に出る。音は、玄関前で止まった。ルークも、そろそろと玄関に近づいて、脇の小窓から覗いてみる。暗くてよく見えないが、確かに誰かがドアの前に立っている。男だろうか? 一人だけだ。ジョルジュやアーノルドではない。背は高い―― 武器などは持っていなさそうだ。
 思い切って、ドアを開いた。外気とともに、むっと押し寄せる海の匂い。
 「誰だ?」
誰何したのとほぼ同時に、ルークは、ドアの外に自分の姿を見ていた。
 いや。
 正確に言えば、「自分によく似た誰か」だ。ルークは、ぽかんとして目の前の人物を見上げた。似ていると思ったのは一瞬だけ。漁師のように日焼けした黒い肌に、引き締まった体格。その人物は、ルークを見てばつが悪そうに顔を歪めた。ルークは、思わず吹き出してしまった。
 なんという格好だろう。頭から破れた魚取り網をかぶり、その後ろには浮き輪と海藻の束まで引きずっている。腰から下は裸で、足にも何も履いていない。これがドッペルゲンガーというやつなら、見た人間が死ぬというのは、笑い死にに違いない。
 「そんなに笑うなよ…」
珍妙な格好をした男が、ぼそりと呟いた。その声には、聞き覚えがある。
 「いや、ごめん。あんまり酷い格好だからさ。えっと…」
誰だったたろう? そう思いながら男の腕に視線を走らせた時、そこにしっかりと嵌められて輝いている銀色のものが目に止まった。その瞬間、彼は真顔に戻った。
 「…まさかと思うけど」
 「たぶん合ってる」
苛々した様子で、男は頭から漁網を取り外し、地面に投げ捨てた。
 「一晩船で待とうかとも思ったんだが、こんな格好じゃ落ち着かなくて…」
 「とにかく中に入って」
慌ててドアを閉め、来客を風呂場に連れ込んだ。ミズハが起きてくる前に、身支度だけでも整えさせたほうがいい。
 「何が合ったんだよ、ジャスパー」
 「しらん」
憮然とした様子で、ジャスパー(人間型)は、ルークの差し出したタオルを受け取り、匂いを嗅いだ。
 「どうしてこうなったか、戻り方がわからねーんだ。ていうか、あのクソ王が寄越したこいつのせいだろ? 多分」
腕輪に目やる。
 「外れないのか」
 「忌々しいことにな」
相当暴れたらしく、腕のあたりは噛み傷のようなものが幾重にもついている。それでも銀の輪は、腕にぴったりと張り付いて、まるで腕の一部になってしまったかのようにしっくり嵌っている。
 「元のサイズより明らかに縮んでるな。そもそもこれ、どうやって嵌めた?」
 「わかんねーよ。あのあと、海の底に沈んでるのを拾いに行ってさ。咥えたところまでは覚えてるんだけど…」
ルークは、箪笥に締まってある服の中から今のジャスパーの体格にも合いそうなものを探しだした。皮肉にも、それは「かつての」ルークが着ていたものだった。「今の」ルークにはサイズが合わなくて、結局そのままになっていたものだ。
 「これ着て。」
 「…おいおい、懐かしい服だなこれ」
 「いいだろ。おれのお古なんだし」
人間の服装は初めてのジャスパーは、シャツを着るのに手間取っている。手伝ってボタンをかけ、靴下まで履かせてみると、驚くほど人間にしか見えなくなった。それも、奇妙にルークに似ている。雰囲気はまるっきり違うのに、だ。
 「うへえ、気持ち悪いな、これ」
鏡を覗きこんで、ジャスパーは自分の顔をぺたぺたと触っている。
 「なんか昔のお前がちょっと日焼けした感じじゃね? うわ、ていうか人間ってこんな感じ? やっべ手の感触違いすぎ」
 「…意外と楽しんでるだろ、お前」
 「いやいやいや。なんかもう慌てすぎて、どうしていいかわかんねーんだって。笑うわマジ」
騒ぎに気づいて、ミズハが起きだしてきた。
 「んー、何? こんな時間に」
 「お、姫っち」
 「ん?」
階段を降りた所で足を止め、並んで立つジャスパーとルークの姿を交互に数秒だけ眺めると、彼女は、ふわぁ、とひとつ欠伸をした。
 「…なんだ、ジャスパーかあ。静かにしてよー、もう寝てるんだから」
いうなり、踵を返して階段を登っていく。足音が部屋に消え、ぱたん、と扉の閉まる音がした。
 「……。」
 「……。」
男二人は、顔を見合わせる。
 「姫っち侮れねえな」
 「寝ぼけてるんだと思うけど、多分」
もっとも、海鳥と人間の姿を交互に使い分けられる彼女のことだ。海の生き物が人間の姿になる、くらいは、よくあることだと認識している可能性も無くはない。
 夜が明けるまで、まだ時間はある。
 誰かに相談するにしても、今からでは遅すぎる。
 「さて、どうしたもんか」
リビングのソファで向かいあい、ルークとジャスパーは考え込んだ。
 「何か方法があるはずだ。外すのに合言葉とか」
 「そんなん教わってねぇし、この姿じゃ聞きに戻るのも一苦労だぜ?」
確かに。人間の姿では、船は牽引できない。
 「不思議なのは、おれに似てることだよな」
 「ああ、それ。お前がこれ頭に載っけた時、光りだしただろ? んで、そのあと拾いに行ったらこのざまでさ。もしかして――」ジャスパーは、腕に目をやった。「この輪っか、お前の姿を写してるんじゃないかって気がする」
 「おれの?」
 「こうなっちまった後、考えたんだ。こいつは、人間に化けるための道具かもって。あの通訳の石と同じ光り方してただろ? おんなじような目的で作られたんじゃないか、って――」
ルークは、上着を探してポケットに入れたままになっていたシェムスールの灯り石を取り出した。今は乾いて光を失っているが、確かにあの時、銀の輪はこの石と同じように輝いていた。灯り石が海水に触れることで海竜の言葉を通訳するように、ヴェリザンドのくれた銀の輪にも何か力を発揮するための条件があり、今までジャスパーの口の中にあって何も起きなかったのは、その条件を満たしていなかったから、なのだろうか。
 「人間に化けるための輪、ねえ…」
そんなものを今まで持ち続けていたなど、人間嫌いな今の海竜たち、ことにヴェリザンドの徹底した人間嫌いの態度からは想像もつかない。
 「…ジャスパー」
 「ん?」
 「今さらだけど、ヴェリザンドは、それの使い方を知ってたはずだ。あの人がそれをお前にくれたってことは――」 
 「あぁ、言われなくてもわかってるよ」
ぶすっとした表情で、ジャスパーは足を組んだ。「けど俺は、なんとかして元に戻る」
 「そうだな。ま、心配しなくても何とかなるさ。夜が明けたら、支部に行ってみよう。それでだめでも、しばらくここで暮らせばいい――」
言いかけて、ふとルークはあることに思い当たった。
 「お前が人間になるの、今朝だったらよかったのに。そしたら、今日のパーティー出られたのにな」
 「はぁ?!」
ソファの上でごろごろしていたジャスパーは、驚いた様子で上体を起こした。
 「いや、だって… 前にそれで拗ねてたから」
 「だからー、あれはそういうんじゃないんだってば!」
ジャスパーは、真っ赤になりながらルークにクッションを投げつけ、むすっとした様子でソファに横になった。
 「ここで寝てる! 朝になったら適当に起こせ」
 「ああ、わかったよ」
横になったかと思ったら、もう寝息を立てている。海の生き物は、寝入るのが早い。ミズハも、既に眠りに落ちている。そして朝になれば、海鳥たちの声とともに目を覚ます…。


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