◆64



 朝が訪れるより早く、嵐は海のほうからやって来た。
 空は分厚い雲で掻き曇り、瞬く間に輝く月と星々を覆い隠した。強い風が平原を吹き荒れ、冷たい雨が血と鉄を洗い流した。ティレ河の銀のきらめきはどす黒く染まり、天幕は風になぶられて揺れた。何度も稲妻が天を駆け、世界の終わりのようだった。嵐の神がこれほどまでに祈りに答えるとは、さぞかし高貴な者が贄とされたのだろう、と人々は噂し合った。
 「エレリの世継ぎ、粗暴なるアムレンが倒れたのだ。彼が戦場に立つことは、もはやあるまい」
それは金の髪もつ射手による、一本の矢の成したことだった。

 叩き付けるような雨の中、イオナの旗も濡れ、重く垂れ下がっている。丘の最も高い場所に張られたマース公の天幕の側に、別な小さな幕が張られていた。火は小さく灯され、中は薄暗い。雷が空を駆けるたび、世界は白く染まり、馬たちのいななきが聞こえる。
 中には寝台があり、眠っている若者が見えた。子供のように背を丸め、誰かが入ってきたのにも気づかず、静かな寝息を立てている。傍らで黒い影が身じろぎした。
 「ブレイドゥンか」
この男が側に居る限り、それ以上に安全な場所は、この世には他に無かった。
 「ええ。スェウはよく寝てますね」
ブレイドゥンは入り口に近い場所に腰を下ろした。雨は絶えず叩きつけ、雲は速い速度で流れる。丘の下のほうはもうすっかり大きな湖のようになり、兵たちは少しでも高い場所に幕を移した。カエルディフの背後にそびえる山を越えれば、すぐそこはリドランの地だ。ここからはエレリの軍も、ルヴァインの軍も見えなかった。
 戻ってきてから、グウィディオンはスェウの傍らを離れていなかったが、耳ざといこの男は、陣内で起きているあらゆる出来事を知っていた。
 「ヘドゥンは、まだ裏切り者のところか」
言われて、ブレイドゥンは驚いた。
 「よく知ってますね。そうです、今更話すことなどあるはずもないのに、人のいいあの兄は、いまだにヘッフドゥンの裏切りが信じられないのです」
 「その善良さが、あれの良いところだ。平和な時代ならば、皆に愛される領主となれただろうが。…サウィル殿は、どうしている。まだ息子の傍らにいるか」
 「棺をそばに置いて、送り返すこともせずに側で酒を。いまだ悲しみから立ち直られてはおりません」
 「喜びも悲しみも、大げさにするのがあの男の癖だ。良きことが起きれば素早く動き、悪しきことが起きれば、ぐずぐすして、手を拱く。テイルノン殿はどこへ行かれた?」
 「分かりません。そぞろなる民の歌声は、雨にかき消され、聞こえてきません」
 「それはお前が気づかぬだけだ。俺には聞こえる。ルヴァインの王の右腕を奪った金の鷹の歌が、戦場に倒れたルドヴィウ・リスの息子の歌が丘を越えて、モッホトレヴに互いの歌が響き渡る。長は説得するつもりなのだ、エレリについた残る支族を。長が歌っている。戦場を駆ける輝く射手の、金の鬣の馬に乗ったイオナの鷹の歌を」
 「彼らはイオナの王に、再び忠誠を誓うでしょうか」
 「それは、判らぬ。」
言って、影のような男はじっと、細いランプの灯を見つめた。「明日にはまた、数多の歌が作られ、歌われるだろう。ブレイドゥン、お前はケンヴィルを討つつもりだな」
甥の目に、燃え立つようなきらめきが宿るのを、彼は見逃さなかった。若者は言った。力を込めて。
 「狼は鴉など恐れぬものです。猟犬たちとともに出ます。必ず探し出し、父の死に報います。」
 「だがケンヴィルは、姿消しの頭巾を持っている。猟犬たちの鼻を頼れ。また目に見えるものを信じすぎるな。見えずとも、命あるものは呼吸し、人は大地を歩かねばならぬ」
 「心得ました、伯父上。」
 「生き残れ、ブレイドゥン。必ずな。俺に哀歌を歌わせるな。お前もお前の兄も、まだ、お前たちの父に会いにゆくには早過ぎる。」
小さく頷き、若者は天幕を後にした。残されたのは、沈黙ばかり。

 ややあって、グウィディオンは口を開き、小さな声で、こう歌った。

 友よ、聞け
 眠れる大地は目を覚まし
 荒れ果てた戦場にも 若木が育つ


 マース公は、座したまま天幕の外を眺めていた。兵たちが騒がしく動きはじめている。その気配は、幕の中にいても伝わってきた。
 ゴヴァンノンが入ってきた。公は尋ねた。
 「雨は、まだ?」
 「は。だいぶ弱まって参りました。月の出る頃には止むでしょう」
 「外を見せてくれ。」
椅子が担ぎだされ、王座を預かる男は丘の上から戦場を見た。
 平原はまるで湖に沈んだようになっていた。浅い水の表面は鏡のよう。薄れた雲が一瞬、途切れると、月が世界を照らし出し、地面の下にも空が続いているように見えた。靄が去り、遠く、はためくルヴァインびとの旗があった。エレリの旗は、その傍らに。霧のような雨が降り注ぐ中、人々は天幕の外へ出て、敵の陣に目を凝らした。
 「明日は、今までに無い激しい戦となろう。」
彼は呟いた。「この場所で、全てが決まるのだ。」
ゴヴァンノンは、頷いた。
 「多くの血が流されました。また数多の者たちが倒れました。デオルヴェン、イヴルナッハ、ウルサッハ、またアウン・ペビルとその息子たち、マソルッフとマソルヌイ。マイルハウンの息子たち、ニッズとキリッフの誉れ高き若武者たちも今はもうおりません。善良なる領主ブランも、サウィルの息子エデルンも、死者を悼む歌に歌に名を詠まれましょう。」
 「願わくば」と、老いた公は言った。「その中に、輝く金の若者が、名を詠まれることなきよう。」
 「ご心配なく、マース殿」
と、ダヴェドの王プイスが言った。王は戦の準備を整え、ペンダラン・ダヴェドを伴っていた。「月は目覚め、その傍らには何者も打ち破ることの出来ぬ黒い剣が控えております。」
 テイルノンはまだ、戻っていなかった。

 そして、朝もやの晴れたとき、白い朝がやって来た。空はまだ薄雲に覆われていたが、海から吹く風は強く、雨はいつまでもぐずぐずと、留まっていることは出来なかった。
 いまだ角笛は吹かれていなかったが、スェウは青いマントを身に纏い、既に馬上にあった。
 「して、スェウ殿。今日はどのように攻められる」
マース公が尋ねる。
 「昨日と同じようにして。私は、イオナの兵たちを連れ、ルヴァインの軍へ向かいましょう。我が従兄弟なる方々は、エレリへと向かわれるはず」
 「そうしよう。我が花嫁への殴打のため、私は狡猾なるグウィン、あの男に、報いねばならぬ」
ヘドゥンが言い、続けてブレイドゥンが。「オレはケンヴィルを探さなくては。きっとグウィンの近くにいるだろう」
 「では我々はスェウ殿についてゆくとしよう」
ダヴェドの王がおごそかに片手を上げた。「我が領土を襲わせたのは、ルヴァインの王であるがゆえに。」
 そして残る者たちは、みな、エレリのほうへ向かうことと決まった。馬たちは浅い水の上を軽やかに走り、蹄は高く水しぶきを上げた。
 「気をつけられよ。深い泥にはまりこまぬよう」
だが、二騎だけは、どんな足場の悪い場所も気にもとめず、まるで鳥が飛ぶように、風のように平原を駆けていた。それはスェウの乗る金の鬣の馬と、半馬身遅れて付き従う、黒い影のような雌馬だった。それを見て、人々はこのように言い合った。
 「ご覧あれ、月が影を引いて西へ降りてゆく。」
戦場に三度目の朝が巡り来た。
 先に角笛を吹き鳴らしたのは、エレリのほうだった。すぐさまに、イオナの軍からも答えるように高らかに、角笛の音が重なりあう。音は谷間に、山々に、空にこだました。武者たちは盾を打ち鳴らし、鬨の声を上げた。
 「勝利を!」
誰かが叫び、また別の誰かが叫んだ。
 「栄光あれ!」
はや、ブレイドゥンの猟犬たちは駆け出している。雨で一晩閉じ込められ、いまや獲物を求め血は逸っている。揃いの金の首輪をつけ、白と黒、または灰色の斑模様、舌は赤く、牙は鋭い。群れを従える者はその先頭にいた。
 「遅れるな。続け!」
背高きヘドゥンもまた、悲しみと怒りを胸に馬を走らせた。リドランの若者たちの目には、軍の後ろで指揮する黒い甲冑の男の姿がはっきりと映っていた。アルヴォンとアベルフラウの軍は、先をゆくディノディグとリドランの軍勢を追った。
 一方で、イオナとダヴェドの軍勢は、平原を西へ、イオナの方へと横切っていた。スェウは遠くから矢を射て、はためくルヴァインの旗を落とし、自らの射程を警告した。ルヴァインの軍は鳥のように駆けてくる馬を見て恐れて幾度も矢を射かけたが、あまりの速さにそれは全て外れてしまった。最初の陣に突撃したとき、スェウとグウィディオンは、たった二人でその全てを倒してしまった。
 見ていたスタルノは、苦々しく呟いた。
 「なんという猛々しさよ。あれは悪鬼か、地獄の使者か」
傍らに控える赤髪と髭の男、カーリが答えた。
 「どちらでもございません、王よ。あれはグウィディオンと、その息子でございます」
 「かつてグルヒルの友として、ルヴァインの国に参った男だな。」
遠い記憶を呼びおこすように、王は呟いた。「このイオナの地で多くの兵たちが倒れたとき、その先頭にいた男だ。剣の音は、いささかも衰えてはおらぬようだ。」
 「あの男は、私が相手いたしましょう。王よ」
熟練のつわものは言い、剣を携え、手綱をとった。
 「ではわしは、この右腕の償いを貰いにゆくとしよう」
スタルノ王の右腕には、失われたそれのかわりに、銀の腕が嵌めこまれていた。ルヴァインの呪術師たちの作り上げたもので、生きている人間の腕のように使うことが出来た。この時スタルノは、それゆえに、「銀の腕の王」と呼ばれていた。彼はしっかと剣を握り、鏡のように磨き上げられた盾を持ち、味方の軍を荒らしまわる若者に立ち向かった。
 「楽師よ、わしを覚えておるか」
スェウは馬の足を止めさせた。
 「ええ、覚えております。ローディンの子、スタルノ王よ」
 「そなたが、このように赤き戦の調べをも奏でられると、あの時に知っておったなら。わしは右腕のみならず、多くの腕を失ったぞ。だが、今ここで永遠に、その悪しき歌は仕舞いになるのだ」
 「お試しになりますか、王よ。ですがその前に、ひとつだけお聞かせ願いたい」
 「何をだ」
 「あなたはこの国を手に入れたら、我が友人らをどうされます。四つの地方の王たちと流離う歌い手たち、またダヴェドの国と、彼方なる青きモール・リッドの島々を」
スタルノは笑い、しれたこと、と声を張り上げた。「わしに従う者は生かしてやろう。従わぬものはすべて首をはね、祭壇に捧げて嵐の神の贄とするのだ。幾多の血が流されようとも、また、乙女たちの嘆きの声がどれほど深かろうとも。」
 「そうですか。では私は、友らを守らねばなりません」
スェウは剣を胸に当て、それからスタルノ王に向けた。「剣よ。我が腕となり、この国を守らせよ」
 スタルノは力強く、腕太く、また、敗北を知らぬ男だった。戦の神に愛された戦士だった。その爛々と燃える目の輝きを見た物は平伏し、剣を交えて無傷でいられた者はいまだかつて、居なかった。
 スェウは二度、三度と剣を交えるうち、まともに撃ちあっては勝ち目のないことを悟った。いかに強い力を持てども、二倍はいる体格の男が頭上から打ち下ろす剣を、まともに受けては体が持たなかった。彼は馬首を巡らせ、すばやく避けた。雨で出来たぬかるみも、馬たちの踏み砕いた大地も、類まれなる名馬の前には平らな地面も同じことだった。
 「逃げてばかりで、まるで小鳥のようだな!」
スタルノは嘲りの声を上げた。「盾もなく、兜もない。そのような美しい服を着て戦場に出るとは、まるで女のようではないか。」
 「重たい鉄を着ては、鳥は空を飛べませぬ」
スェウは歌うように言い、距離を置きながら腰に手を滑らせ短剣を抜いた。ダヴェドの地で、金の大猪イスバサデンの牙から削り上げた品だった。
 両手を手綱から離し、鞍の上に足の力だけでしがみつきながら、彼はヌウィブレを全力で駆けさせた。向かってくると知ったスタルノは、笑いながら盾を構え、突撃を受け流しながら致命傷となる一撃を打ちおろそうと構えていた。
 だが、若者は剣を振るわなかった。その代わりに、すれ違い様にスタルノの馬具の革紐を切り裂いたのだ。
 「なんと」
馬具が外れ、王は地面に投げ出された。背の荷物を失った馬は驚いて走り出し、戦場の土埃の中に姿を消した。泥水の中で、スタルノはもがき、しかし尚も盾を翳し、用心深く攻撃に備えている。スェウの放った矢は、盾に阻まれて戦士の胸には届かなかった。
 「やりおるな。だが、これでどうだ」
引き返してくるスェウの馬に向かって、王は石礫を投げつけた。それがあまりに激しかったので、ヌウィブレは足を乱し、ために、両手を離していたスェウは地面に振り落とされてしまった。何とか体を打つことは避けられたものの、まだ態勢を整えぬうちに、スタルノ王が襲いかかってきたる
 「スェウ殿!」
そこへ、ペンダランが駆けつけた。スェウとグウィディオンが拓いた道の先端に、ようやく追いつくことが出来たのだ。
 「手出しは無用です、ペンダラン殿。ここはお任せください。」
 「しかし、スェウ殿」
言いかけて、ペンダランは止めた。すぐそばではグウィディオンも戦っている。尋常ならざる、人並み外れた働き振りだった。彼らの足手まといとなることを恐れたのだ。
 「神が、祝福をくだされるよう。」
胸に十字を切り、ダヴェドの家臣なる男は去った。

 ルヴァインの兵たちは、次第に海のほうへ圧されつつあった。昨夜までの嵐で波が荒れ狂い、沖合で繋がれた船は木の葉のように乱れている。スタルノ王の連れてきた悪しき呪術師たちの呪いの歌は、どこからともなく聞こえてくる、別の歌に打ち消されていた。それはケルニュウのそぞろなる民の歌う歌、大地を祝福し、光を呼ぶ声だった。
 赤髭のカーリと剣をあわせていたグウィディオンは、その声を聞きつけて、にやりとした。
 「見よ、雲が追い払われてゆく。」
 「戦場に風が吹いたゆえに」
と、カーリは答えた。「再び、そなたと相まみえることになろうとは思わなんだぞ。この年になって、あれから二十年近く過ぎたというのに」
 「お互い、遠い日のことだな。我らが共にグルヒルの側に座を並べ、ともに盃を交わしたのは」
剣は高らかな音を立て、草に点々と血を降らせた。互角に見えた。グウィディオンは額から目尻にかけてを切り裂かれ、カーリのほうは胸の血をにじませている。だが、傷はカーリのほうが深かった。呼吸は次第に浅くなり、指先は冷えかかっている。
 グウィディオンの、力強い一撃を打ち返しながら、腕太き男は言った。
 「せめて貴様の片腕だけでも奪えたなら、王にも、我が弟にも顔向けが出来たものを。」
それが、カーリの発した最期の言葉だった。次の瞬間、グウィディオンの剣は男の胸を刺し貫き、続きの言葉は、迸る赤い血潮に飲まれて流れ落ちた。
 濡れた草の上に身を横たえた、かつての戦友を見下ろして、影のような男は呟いた。
 「去りゆく者に祝福を。バルズたちは、戦場に仆れた勇敢な男の歌を高々と歌い上げよう。栄光とともに」
振り返ると、スェウはまだ、スタルノ王と向き合っていた。盾は砕かれ、マントは切り裂かれ、二人はともに傷ついていた。しかしスェウは、いまだ息が上がっていない。あまりの戦いの激しさに、誰も、近づくことすら出来なかった。
  スエウは右手に剣を、左手に短剣を持っていた。両腕はよく防いだ。金の髪は額にはりつき、汗と血に汚れてはいても、なお瞳は輝きを失わず、口元には笑みをたたえていた。猛き剣のスタルノは、どっしりと両腕に大剣を構えていた。鎧はあちこち切り裂かれ、盾もなく、血が滴り落ちていた。
 「そろそろ終わりにせねばならぬな。我が兵たちはみな逃げ去り、我が片腕なるカーリも倒れたようだ。」
 「そうですね」
若者は答え、つ、と流れるように王の懐に飛び込んだ。そして避ける隙もあらばこそ、短剣が、猪の牙がその胸に突き立てられた。スタルノは剣を振るったが、スェウを捉えることは出来ず、肘で彼の肩をしたたかに打ち据えただけだった。若者は地面に倒れ、いくつもの悲鳴が上がったが、王ももはや膝をつき、心臓に届いた致命傷から刃を引きぬくのに精一杯だった。
 「これで、そなたらは、ルヴァインの二人の王を殺したことになる」
近づいてくるグウィディオンを見上げ、苦しい息の下からスタルノは言った。「災いからは逃れられぬ。貴殿ら自らが蒔いた種だ。再び我が国の者どもはこの地を目指すだろう。イオナとダヴェドはともに攻め滅ぼされ、それが貴殿ら親子に対する報いとなろう。」
 「夜の闇は深けれど、いずれ朝は必ずやってくる」
そう言って、グウィディオンはスタルノ王が瞳を閉じるまで待っていた。「眠られよ。そしてグルヒルに、我が友なりしかつての王に、挨拶されるがよい」

 スェウは、駆けつけたペンダラン・ダヴェドに助け起こされた。
 「すぐに手当を。」
 「大丈夫です。手を貸してください、馬は?」
ヌウィブレが側に控えていた。馬に乗るとすぐ、彼は戦況を尋ねた。
 「ルヴァインの兵たちは、我が王が海へと追い詰めています。波が高く、泳いで逃げることも船に乗ることも出来ません。みな溺れてしまうでしょう」
 「エレリのほうは」
 「さて。ここからでは見えません」
 「鴉が舞っているな」
グウィディオンが呟いた。「胸騒ぎがする。あれはケンヴィルの手にあるものだ」
 「私も行きます。」
止める隙もあらばこそ、彼らは再び馬上の人となった。今度はグウィディオンが先を走り、その少し後を遅れてスェウの馬が駆け抜ける。ルヴァインの旗はみな引き下ろされ、平原の彼方には青と白のイオナの旗だけがひらめいた。それを目にした人々は、戦場の半分がイオナの手に戻ったことを知る。

 その頃、エレリとリドランの軍勢はともにカエルディフの南方にあり、背後に山をいただく麓にて、激しく切り結んでいる最中だった。

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