第一章/彷徨える水辺-1


 水は生ぬるく、光を反射しながら、空と大地の間を黒く流れてゆく。
 川辺の草が揺れる。谷から谷へと、風が吹きぬけてゆくのだ。ほとんど停滞しているかのようなゆったりとした川の流れに波が生まれ、そこに魚が飛び跳ねた波紋が重なって広がってゆく。水に映る空の青と緑とが溶け合って揺れた。彼は、木陰に座って、そんな水の流れを眺めているのが好きだった。いつまで見て居ても、飽きが来ない。
 季節によって水位を変えつつも、決して枯れることない流れ。父の父の、そのまた父の遠い昔から今日まで、ただの一度も、一日たりとも欠かすことなく在り続けるもの。それは、途方もないことのように彼には思われた。人の一生をはるかに越える時間。学校で習った、"永遠"というもの。自分は、いつかここから消えてしまう。けれど時だけは、――"永遠"だけは、絶えることがないという…。
 チチ、と小さな声がして、すぐ側に小鳥が舞い降りてきて、少年を見てちょっと首をかしげ、すぐにまた飛び立ってゆく。彼はそれを視線で追った。小さな翼を忙しなく動かしながら鳥の飛んでゆく先は、川向こうの光に照らされた葦の茂みだ。小さく微笑んで、彼は足元の緑の草の葉を撫でた。
 さあっと強い風が吹いて草が沸き立ち、シェヘブカイの頭上でナツメヤシの葉が大きく揺れた。木漏れ日の鋭い光が視界を一瞬、金色に染め、彼は眩しさに思わず手を翳した。

 「シェヘブカイ!」

振り返ると、家の前の道で父が手を振っている。
 「そろそろ行かないと、遅れるぞ」
 「あ。はい!」
慌てて立ち上がり、尻を払って彼は元気良く駆け出す。朝の光、鳥の声。毎朝、父や兄と仕事に出かける。向かう先は村からそう遠くはない川べりの丘の上。そこには今、王の命により「永遠の家」が建てられようとしているのだった。


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