【天羊の章 5】


 夜明け近く、物音に気づいてムトノジュメトは目を覚ました。いつのまにか寝台にうつぶせて眠りに落ちていたらしい。芯を浸した脂は既に受け皿の底のほうにしか残っていない。明かりを吹き消すと、焦げたような匂いと脂の匂いが入り混じる。廊下に出ると、ちょうど階段を上がってきたサナクトと目が合った。
 「まだ、起きていたのかい」
 「いえ、目が覚めて――」
拭き拭けの中庭から、夜の気配が足元に滑り込んでくる。ムトノジュメトの視線から、彼女の言いたいことを察したサナクトは、小さくため息をついて近づいていった。
 「ラーネフェルは戻れないよ。これを預かっていてほしい、と託された」
差し出した両手の上に、犬を象った灰色のすべらかな石が置かれる。それとともに、犬の背に開けられた小さな穴を通す皮ひもが、少女の手首に垂れた。
 「お兄さんは、どこへ?」
 「川向こうへ、反乱を収めに」
 「…一人で?」
サナクトは、困ったような顔をする。
 「もちろん兵を連れて行ったさ。心配はいらない、相手は山賊みたいなものだ、人数もいないし」
 「でも、一人なんでしょう」
灰色の山犬、セドは傍らにいない。ムトノジュメトは、両手の中の石を握り締めた。「…無事だといいけれど」
 「あいつは強い。貴女のことは我が家で責任を持って預かっている、さあ、少しは寝みなさい。体を壊してしまうよ」
促され、部屋に戻ってからも不安は消えず、寝台に横になっても眠ることが出来なかった。瞼の裏でどうしても、消えようとしている灰色の犬とラーネフェルの姿とが重なってしまうのだ。


 薄灰色の空の下、夜が、明けようとしている。
 早くから目を覚ました町人は、次々と川を渡ってゆくおびただしい数の兵を見ただろう。舟は、町のある東岸と西岸を何度も往復しては、兵と兵糧とを運ぶ。その様子は、まるで川の上に橋がかけられたかのようだった。
 「まるで、これから戦争でも始まるみたいだな」
呟いて、ラーネフェルは小さく笑った。足元には、これまで寄り添ってきてくれたあの犬は居ない。彼の言葉に反応する者はいない。ただ、側を行軍してゆく兵が微かに顔を上げただけ。
 用意された輿には説得役として同行する大臣の一人を乗せ、ラーネフェル自身は兵たちとともに徒歩で歩んでいた。目指すは西の谷の奥。貴族や歴代の王たちの墓所のある谷からは外れた、荒野へと続く道となっている谷の崖の上に、離反した三将軍たちの立てこもる砦はある。東の地平に太陽が昇り始める頃、その砦は、行く手の空に赤く浮かび上がってきた。きらりと光るのは武器の輝きか。遠目にも、人が動いているのが見える。
 「どうやら、こちらに気づいたようだ」
ちらと輿の上を見上げると、腹の出た大臣は、青い顔でふうふうと汗を拭いていた。暑いせいではない。緊張のためだ。娘婿が離反した三将軍のうちの一人になる大臣で、自らの首をかけて説得のために乗り出してきたのだ。おまけに、その太った体では行軍の速度に差し支えるからと輿に担ぎ上げられ、ラーネフェルを見下ろす場所にいる。説得に失敗すれば、その場で殺されると思っているに違いなかった。
 一行は、谷の入り口に指しかかろうとしている。間もなく矢の届く範囲に入る。
 「お前たち、盾の準備はいいな。もしもの時は、大臣殿を守れ」
ラーネフェルが声をかけると、輿のまわりの兵たちが胸の前に盾を掲げる。
 「し、しかし、わしなどより、もっと守るべき御方が」 
 「ご心配なく。こちらは自分で守れますよ」
ラーネフェルも盾は持っている。砦の入り口からこちらを伺っている見張りの兵たちは、弓を手にしてはいるものの、構えてはいない。攻撃しろとの指示は受けていないようだ。十分に近づいたところで、ラーネフェルは兵たちの歩みを止めさせ、谷の出入り口を囲むように整列させた。逃げ道を塞ぐためだ。
 大臣は、輿の上に立ち上がると、丸っこい両腕を翳しながら、精一杯声を張り上げた。
 「砦に立てこもる将軍たちに告ぐ! わしは、大臣パセルである。説得の大任仰せつかりここにある。大神たちに祝福されし太陽の御子なる御方はかく仰せなる。武器を捨てて投降せよ、さすれば貴殿らの命まではとらず、家族の身も保障しよう、と!」
声は谷を形作る岩に反響し、砦まで響き渡る。崖上の砦で人影が動き、白い頭布をつけた顔が幾つか、ちらちらと見え隠れしている。三将軍たちだな、とラーネフェルは思った。あの様子では、こんなに早く兵が押し寄せてくることも、パセルが説得に赴くことも予想していなかったに違いない。
 (兄上の読みは正しいかもしれないな)
心の中で呟きながら、ラーネフェルは盾ごしに砦の様子を注意深く見守っていた。
 やがて、一人のひょろっとした若者が、意を決したように崖の端に立った。
 「大臣殿は欺かれておいでである。太陽の御子はいずこにおられるや? 我ら王陛下に忠誠を誓う者なり、偽りの玉座には従えぬ!」
あらかじめ定めてあったかのごとく一気にまくしたてると、胸を張り、せめてすこしでも上背を大きく見せようとする。
 「おお、なんと。傲岸不遜な…あやつめ」
額に手を当てながら、パセルは輿の上に座り込む。白い衣は汗で斑に染まり、目じりの化粧が流れて、泣いているような顔になってしまっている。その様子から、いま崖の上にあるのが件の娘婿だということはうかがいしれた。
 「故無き反逆は許されぬ。王位継承を認めぬだと? 貴様は、自分が何を言っているのか分かっているのか!」
 「承知。古よりの慣わしに従えば、後継者なくして王身罷りし際、未亡人となりし正妃存命ならば新たに夫を娶り玉座を継がせよ、とある。」
 「…ムトノジュメトのことか?」
ラーネフェルは、思わず口に出して言った。振り返らぬまま、背後にある都のことを思う。パセルはもはやなりふり構わず、まるで駄々をこねる息子をどやしつけるような形相になっていた。
 「ばか者、まだ婚礼の儀は済んでおらん。姫君の兄がここにおるというのに、何を言っておる! 一体だれからそんな口上を教わった?! 一体だれを姫の婿に迎えるつもりだ、えっ。まさかお前自身、うちの娘を離縁して王にでもなるつもりか!」
 「いやっ、違… 私はですね、ただ…」
 「ええい。こんな馬鹿者と分かっていたら、娘をお前なんぞにくれてやらなかった! お前などこちらから離縁じゃ、願い下げじゃ! 二度と娘に近づくな!」
 「お、お義父さん…」
先ほどまでの威勢はとこへやら、崖の上の若者は見る間にしぼんでゆく。仲間たちが後ろから引っ張って何やら囁いている。この様子では、まともに兵を指揮して戦うなど出来そうも無い。この反乱はやはり、誰かに指示された形だけ、実行ありきのものなのだ。
 だとしたら――
 一体誰が――。

 その時だ。
 ラーネフェルのすぐ目の前を何かが過ぎった。
 「ぐはっ」
小さくうめいて、輿の上の体がよろめく。重量をもった体が崩れ、腰を担いでいた侍従たちを押しつぶし、傍らの兵士も何人か巻き添えにする。
 「大臣殿――」
砂の上に転がった体を包む白い衣に滲み出す、赤い染み。駆け寄ったラーネフェルは、わき腹に突き立っている矢を見た。
 「敵襲だ! 盾を!」
兵たちが、あわてて盾を翳す。
 「どこだ?!」
 「いたぞ、あそこだ!」
何時からそこに居たのか。畑の草を掻き分けるようにして逃げてゆく黒っぽい後ろ姿が見えた。ばらばらと何人かの兵が追いかけてゆく。まさか、砦に注意を引かれている間に奇襲をかけてくるとは。ラーネフェルは、砦を睨んだ。だが、そこにはもう、三将軍の姿はない。
 「ぐぬぬ、もはやこれまで…」
わき腹を押さえながら、パセルは喘いだ。汗でびっしょりだ。
 「大臣殿、傷は浅い。お気を確かに」
 「どうか、わしのことは気にせず、あの馬鹿めを…。あんな男に娘をやったとは、わし最大の不覚。この身をもって贖おうぞ」
別の方向からも声が上がった。隊列の後方のほうだ。畑に隠れていたのは、一人ではなかったらしい。この季節、畑は背丈を一杯に伸ばした麦に覆われている。隠れようと思えば不可能では無い。そして、今いる場所の背後は川べりまでずっと、豊かな緑あふれる畑ばかりなのだ。
 「――散らばるな! 伏兵は追わなくていい。谷まで前進しろ!」
ラーネフェルは声を張り上げる。「畑から距離を取れ。説得に応じないなら致し方ない。砦を制圧する、ただし将軍たちの命は奪うな」
畑の中を黒い影が動き回っている。姿は見せず、こちらを翻弄するかのように、距離を置きながらときおり矢を放つ。盾を掲げながら、ラーネフェルはその数を数えていた。一体何が目的だろう。数は圧倒的にこちらが多く、砦は頭上にあるとはいえ多方向から攻めればひとたまりもない。こんなことをしても、時間稼ぎにもならない。そもそも、最初から勝つ気などない、茶番のような反乱だ。
 風にざわりと、何かの気配が入り混じった。
 とっさに振り返ったラーネフェルの目の前に、兵士が一人、立っている。何だと問おうとした次の瞬間、その手に鈍いものが光った。――


 * * * * * *


 表のざわめきに気づいて、ムトノジュメトは顔を上げた。武器のこすれあう音と、言い争うような声。外ではない。階下の、玄関のほうからだ。
 「何をするんです。ここが誰の屋敷か、分かっているのですか?」
朝の空気はぴんと張り詰め、少し肌寒い。声を張り上げているのはメリエトで、やがてフネフェルの低い声が入り混じった。
 「朝から騒々しい。誰の指図だ、これは」
 「お下がりください、宰相殿のご命令で先王の王妃様をお連れに上がりました」
 「王妃? 誰のことだね」
玄関には武装した兵が二人、立っている。見えているのは二人だが、おそらくその後ろにも何人もいるのだろう。でなければ、夜じゅう屋敷を守るために立っていてくれた衛兵たちが押しのけられるわけがない。
 そう、その兵は、屋敷を守るために遣された警護の兵たちとは、明らかにいでたちが違っていた。
 肩に手が置かれた。思わず声を上げそうになりながら振り返ると、口元に手を当てたサナクトが立っている。隠れていろ、というようにムトノジュメトを柱の影に押しやり、玄関の様子を伺う。
 「宰相アクトィ殿の要望でも、あの子を渡すわけにはいかんな。一体なんの理由で我が家の客人を連れていこうというのか」
 「いいえ、元は養父アメンエムハト殿からの申し立てです、養い子がかどわかされたと。フネフェル殿、あなたは婦女監禁の罪状で告訴されております」
 「その訴えは無効だ。未婚の子女の親権は、血縁となる父、もしくはその兄弟が持つ。養父の権利は兄を代行するものに過ぎない」
サナクトは声を張り上げ、つかつかと玄関へ歩いてゆく。兵が、サナクトのほうを見た。
 「彼女には存命の実の兄がいる。その兄が、彼女の身を我々に託したのだ。つまらぬ言いがかりはやめて、お引取り願おう」
 「そうはいきません。これは命令なのです」
兵が腰に帯びた剣に手をやると同時に、後ろから、控えていた何人もの兵たちが槍を手に広間に土足で踏み込んでくる。メリエトが悲鳴を上げた。 
 「何をするの! あなたたち、人の家に勝手に…」 
 「…アクトィの差し金だな」
フネフェルは、低く呟く。「すべて貴様らの謀というわけか。ラーネフェルにも何か仕掛けるつもりだな」
 「邪魔立てするものは何者であれ捕縛せよ、との許可が出ております」
槍先を突きつけられ、フネフェルは妻を片腕に抱きながら壁際へと追い詰められていく。サナクトは、広間から奥の廊下へ通じる道の真ん中に立ちふさがった。ムトノジュメトは柱の影で、震えながらその背中を見つめている。
 「退け」
 「それは出来ない」
にやりと不適に笑った若者の頬に、強烈な一撃が振り下ろされる。口の端が切れ、赤いものが伝う。だが、彼は動かなかった。
 「…行け!」
両手を広げ、振り返らずに叫ぶ。はっとして、ムトノジュメトは両手を握り締めた。
 「早く!」
 『ムトノジュメト!』
腕にからみついていた蛇が爛々と輝く赤い目で見つめてくる。息を飲み込み、少女は窓に飛びついた。ひっかかった衣の裾が破れるのも構わず、裏通りへ飛び出す。
 「どこだ? 奥にいるはずだ――」
 「逃げた――」
 「まだ遠くへは――」
 「――探せ!」
背後から、追い立てるように声が聞こえてくる。衣をたくしあげ、長い髪を振り乱しながら彼女は生まれて初めて全速力で走った。ただならぬ様子に、すれ違った荷運びが驚いてロバごと振り返る。
 まだ朝の早い時間で、通りに人はほとんどいない。開いている店もない。
 『どこへ? ムトノジュメト』
 「大神殿よ、決まってるでしょう」
早くも息は上がっている。後ろから、兵が追いかけてくる足音が響く。ムトノジュメトは、心の中で祈った。足よ、動いて、もっと早く。
 参道の向こうに、天の柱に挟まれた大門が見えてきた。心臓が張り裂けそうだ。ちょうど、門の脇にある住み込みの神官たちの通用門が開かれて、朝の掃除をしようと当番神官が出てくるのが見えた。
 「通して!」
 「えっ? あ、わっ」
駆け抜けるムトノジュメトを驚いた顔で見送った当番神官は、振り返ったとき、参道の上をものすごい形相で追ってくる武器を携えた兵士たちに気づいて仰天した。
 「あわわわっ」
慌てて門の中に飛び込んで、内側から閂をかける。
 「貴様! こら、開けろ!」
 「こ、こここは聖域ですっ。武器を持ってそんな勢いで立ち入ってよい場所ではありませんぞ!」
 「ええい、今の娘に用があるのだ。さっさと開けろ! これは命令だぞ!」
門を叩いて怒鳴る兵士たちの声が響き渡る中を、ムトノジュメトはセドの祠堂を目指していた。足がもつれ、何度も座り込みそうになりながら。箒を手にした庭掃除の当番が、不審な顔で見ている。どこかで見た顔だな、と思いながら通り過ぎる者もいる。声をかけてこないのは、ただならぬ雰囲気のせいか、それとも、こんな時間に聖域の中にいるのは同職の神官だけだと思っているからなのか。
 するすると、白蛇が少女の肩の上に首をもたげた。
 『嫌な匂いです。血ですね、これは…』
 「わかるの? イアーレト」
 『ええ。ここまで近づけばね。まさか大神殿の中で、聖域が穢されようとは』
耳元で、囁き声が聞こえるような気がした。ムト神殿に暮らしていた頃、イアーレトと出会う前に何度も聞いたあの声だ。あの時は何を言っているのか分からなかった声が、今は頭の中で、次第にはっきりとした言葉になってゆくのがわかる。
 厚い壁の内側、本神殿を離れて参道からも外れた人気のない一角。アメン神殿の巨大な柱にさえぎられたそこには、まだ朝の光は届いていない。滅多に人の来ないはずの祠堂入り口の枯れた草に、はっきりとした踏み跡がつけられているのが分かった。ムトノジュメトは一瞬だけ足を止め、何かを引きずったような跡を視線で辿った。
 セドの祠堂の入り口は、以前と同じく開かれたままになっていた。
 違っていたのは、その中にうごめく人影があることだ。血なまぐさい気配は、離れているうちから分かった。

 ――血の穢れをもって神を呪いし者あり、そは大罪なり。
 
 「何をしているの?」
蹲るようにして祭壇に向かっていた男は、肉付きの良い顔をゆがめて弾かれるように振り替えった。ぽっちゃりとした指は血に染まり、肩からかけた白い衣の裾はどす黒く汚れている。足元には、腹を割かれた野良犬の躯が転がっている。
 「ム、ムトノジュメト。何故ここに」
 「答えて。何をしていたの?」
それは、養父アメンエムハトだった。人に見られたくない場面を見られ、滑稽なほどうろたえる男を、少女は、冷たい瞳で見下ろしていた。よりにもよって、アメンの大神官自身が。よりにもよって、自分の養父だった男が。
 「邪神を――む、無効化する儀式だ。そう、これはれっきとした儀式なのだ。お前が見るようなものではない。さ、さあ…ここは穢れている。お前は戻りなさい――」
 「私を馬鹿にしないで」
血にまみれた手でムトノジュメトの肩をつかもうとしたとき、男は、指に焼けるような痛みが走るのを感じてうめき声を上げた。光を背に、暗い祠堂の中を睨みつける目は炎のように赤く燃え、守護の蛇と同化したかのよう。
 「ここは神の庭、この祠堂は父祖の守護神のもの。大神官、貴方は神々の怒りに触れた。この声が聞こえないの? それは大罪よ。人の成してはならない四十二の罪の中で最も重い」
 『ムトノジュメト、奴らが来ましたよ』
蛇が囁く。砂利を踏む足音が近づいて来る。宰相の兵士たちが追ってきたのだ。少女は、血で穢された祠堂の中を見回した。壁に描かれた灰色の犬の姿はどれも傷つけられ、血で目と鼻を潰されている。これが神の力を奪う呪詛だとすれば、どうすればいい? 血をふき取る時間も、像を刻みなおす時間もない。どうすれば、セドを解放できる?
 「いたぞ、あそこだ!」
声がして、足音が近づいて来る。振り返って、ムトノジュメトは胸元に手をやる。――その指が、何かに触れた。革紐…
 するりと腕から蛇が落ち、金色に輝いた。
 『ここは私が。思い知らせてやりましょう、蛇の怒りに触れた者がどうなるのかを』
 「ええ、頼んだわ」
手の中には、唯一つ残った灰色の石の犬がある。それは子供用のお守りで、小さく、粗雑な造りのあまりにも心もとない寄り代ではあったが。
 (お願いよ、セド。私はあなたを祝福し、祈る。)
石を両手で握り締めながら、彼女はかつて祭壇のあった場所に膝まづいた。
 (どうか戻ってきて。私たちのために、もう一度道を切り拓いて。)
額が床につけられ、黒髪が血に染まる石の上に垂れる。焼けるような感覚に襲われ呻きながら手を伸ばそうとした兵士たちは、暗がりの中に、少女の傍らに、ゆっくりと首をもたげる灰色の犬の姿を見る。
 「ひっ」
大人ほどの大きさもある巨大な犬は、輝く目であたりを睥睨し、赤い舌を垂らしながら牙を向く。そして、一声。天に向かって吠え立てるとともに、風となって消えていった。


前へTOP次へ